裏12話◆ペルバ
ここまで読んだあなたはこの物語の真相を理解してきたんじゃないかしら?
主要キャラ十二名のオムニバス形式の物語。ついに十二人目の真相に入ったわ。
ここでは主要キャラのオムニバス形式最後のキャラとして、あたしの……ペルバの過去をお伝えしようかしら。
◆◆
伝説の三人『三杖士』はそれぞれ初めからそう呼ばれていた訳ではない。それぞれが猛威を振るうような偉業を成した結果、そのように呼ばれるようになったのだ。
伝説の一人シリウスは仲間のセルバンと共に数々の剣士を倒し、最終的に彼は『最強』と呼ばれたダイヤに打ち勝つ。それが伝説と呼ばれる偉業となった。
伝説の一人ルバリは当時猛威を奮い、世界から危険視されていた巨悪アスモを部下の命を犠牲にしながらも、アスモの弱体化に成功し、彼、いいえ、その日からは彼女による被害を最小限にしたという偉業を成した。
では、残りの伝説の一人ペルバは?
あたしはクーデターを起こした挙句に悪政を強いて全国民から反感を受けて追放された『最恐』の名で知られたハートを討ち取ったことで、それが偉業となった。
厳密には殺してはおらず、魔法で猫にしただけである。
それぞれ出自は違うものの、世界で台頭したあたしらが『三杖士』と呼ばれる頃には、それなりの仲になっていた。
息子も産まれた。
幸先の良い人生であった。
今より二十年そこら前の話である。
シリウスは歳を理由に引退を宣言した。それをキッカケにあたしらも引退をすることにした。
これからは次世代に託す番。
あたしは未来に希望を託そうと思っていた。
◆
孫が産まれた。可愛い可愛い孫だ。コハという女の子だ。
息子に力を継がせたかったが、力を受け継がせることができなかった。あれやこれやと強くなる方法を画策しても無駄だった。運命の悪戯なのか、いくら本人が望んだ所で肉体が受け継ぐ素体でなければ意味がない。言わば、出来損ないの体。
それでも、あたしは息子を溺愛していた。
息子に力を受け継がせられないなら、もはや他の誰かに託すしかない。
しかし、あたしの力は特殊で簡単に受け継がれるものではない。
【変化杖】
――触れたもしくは触れていた対象の存在を任意の存在に変える。生き物から無機物まで何でも変えられる。
この力を受け継ぐ人間を作ることに力を入れた。
この『三杖士』という地位を利用して、世界各国の優秀な科学技術者チームに協力を依頼。あのバアルも協力してくれた。
あたしの能力は、無機物でも別の物に変えられる。が、他人に付与する時、付与された人間がこの能力を使用する場合は"人間を何か別のものに変える"までしか付与できない。
そこで開発したのが【しりとり変身ゲーム】である。そのゲームのルールに下記の文面がある。
一、このゲームの終了は以下に記す方法でのみとする。
・鬼を含めた全ての参加者の中から「力を継ぐ器」となる者が誕生した時。
・ゲームマスターが能力を解除した時。
ここに、あたしがこのゲームをする意義が込められている。そう――「力を継ぐ器」を見つけたいのだ。
鬼となった人が何人もの人を変化させた時、もしくは逃げる側が捕まった時、器としての肉体が発現する可能性がある。あたしはその器の人間が現れるのを待ち続けているのだ。
ちなみにゲーム方式なのは、プロジェクトチームの意向だ。でなければ、人々は希望を失い、変化が活発に行われなくなると考えたからだ。
あたしは今も尚、器の人間が出来上がるのを待ち続けているし、被写街となったフィリップでは今もゲームは続いている。
◆
それとは別に力を受け継ぎたい人がいた。
孫だ――。
息子にはどうしても受け継げなかったので、孫にはどうしても力を与えて上げたかった。
コハはあたしの能力を引き継げる器ではなかった。
だけど、別の力を譲渡できる可能性は見い出せた。
コハは女の子。――姫になれる。
あたしが目をつけたのは、昔、猫に変えた際に使い魔として傍に置いていたハートの姫だ。彼女は『最恐』と呼ばれたハートの能力がある。男の息子には無理だったが、コハなら可能な譲渡方法があった。
早速、コハに魔法を使って【姫】に変えた。すぐにコハとノラとの間に契約を発動させた。ノラはコハが一人前の姫になるまで御守りする使命を与え、一人前になった時、全ての力をコハに引き渡すという契約だった。ちなみに、この引き渡すという契約を履行する際、ノラの命は尽きてしまうことは重々理解していた。そもそも大切で可愛いコハに力を与えられらならノラの命などどうでも良かった。
しかし、誤算があった。
その様子を息子の嫁に見られていたみたいなのだ。
「今日の事は全てコハに伝えます。もうあなたの悪事は見過ごせません!」
本当に憎い女だ。
血も繋がっていないあの女はあたしは好きでも何でもない。それどころか憎いとすら思ってしまう。ただ、今までは息子の事を考えると下手に手出しはできなかった。
しかし、もう背水の陣に陥ったあたしは、この女を殺るしかなかった。事故にでもあったことにしよう。殺すのに躊躇う気持ちはなかった。彼女が外出した頃に私も外出する。
石を拾って投げる。その石をトラックに変化させた。そのトラックが奴を襲う。
――はずだった。
あの女を庇うように飛び出て、押し出して、代わりに轢かれたのは私の大切な息子だった。
息子は一瞬にして息を引き取ってしまった。
許せなかった。そして、息子が亡くなった今、あの女を生かす理由を思いつけなくなっていた。遠慮なく殺す。
砂利を投げた。その砂利を棘に変えて、女のいる場所を棘の針山にした。先程よりも発動が遅くなる攻撃をしたのは、さっきのトラックの攻撃よりももっといたぶるためだ。
赤い血が滴る。
「おい。大丈夫か。」
隣のおじさんにこの様子を見られてしまった。この状況をコハに伝えようとしている。開きっぱなしのドアの先で据え置きの電話で学校へと連絡するおじさん。
そんなことさせてはいけない。
私は急いで扉を鯨に変えた。巨大な鯨がおじさんを家諸共破壊する。あまりにも大きすぎて息子の自宅すら半壊させてしまった。
おじさんが最後に伝えた「バア」の言葉。そこから犯人が「おばあちゃん」だと気付かれたら一巻の終わりだ。コハに嫌われてしまう。それは避けたい。絶対にコハに嫌われてはならない。
それだけじゃない。あたしの裏の姿を知ったら、コハは心に深刻なダメージを受けてしまう。もしかしたら立ち直れないかも知れない。コハに知られてしまうこと。それだけは絶対に避けなければいけない。そう――絶対に。
トラックも棘も鯨も血も何もかも小石に変えて何事も無かったことにできる。それに私は瞬く間に行動を起こして、そこから離れたので見てる人もいない。長年の戦闘経験から人の視線はどこからも感知していないので確かだろう。その後は、これを後から知ったという設定で過ごして行こう。本当は半壊した家も直して完全犯罪みたいにしたいが、修復の能力ではないのであたしにはできない。仕方ないと諦めるしかなかった。
◆
あたしはコハを引き取った。一年間はコハの願いを聞いて、近くに借りた家で過ごした。
そして、フィリップの街へと戻った。【しりとり変身ゲーム】の舞台であり、流石にこれ以上離れる訳にはいかなかったのだ。
ここは普通の人間には危険が及ぶ街。しかし、コハは【姫】なので被害の対象外。なので、コハが巻き込まれるリスクは低いと考えた。それでも心配で、ノラの力を借りて色々と根回しをしていった。
あたしが近くにいなければ、突然襲う敵には対処できない。そこでノラに対応を任せたのだ。ピンチの時にノラが何とかしてくれるはず。
それに加えて、コハにあたしの本当の姿を知られてはいけない。
アデイルはコハに危険性を及ばせ、秘密をバラす危険性がある。しかし、本体は遠くの地バアルの拠点にあるので、下手にコハの元から離れられないあたしには対処し切れない。
ミカンはコハに秘密をバラす可能性があったので【パフェ】にして消した。
アロは頼りがいがあり、コハを守ってくれそうなので、頼りにした。
旅で街を出たコハ。
ようやくアデイルを始末できる。ついでにコハに意地悪をするメリカも始末する。アデイルは【岩】にして、メリカは【ゴミ箱】にして生き地獄を味わせることにした。
バアルも秘密をバラす可能性があるので裏で警戒していたが、バアルは何とあの日の「バア」の言葉を「おばあちゃん」ではなく「バァスト」などという存在しない自然災害だと言い、帰宅の際に別働隊ベルフェゴールに山に火薬を置いて爆破させることで「バァスト」を実演して見せた。
恐ろしく馬鹿げた物だけど、コハは「バァスト」という自然災害を信じてくれた。あたしへのヒントを遠ざけてくれた。あたしはバアルに感謝した。
コハはピーちゃんを人間に戻すことを強く心に決めた。それを否定する訳にはいかない。だけど、それで秘密がバレる訳にはいかない。
あたしはコハがいない時、ピーちゃんに強く脅しをかけた。そして、ピーちゃんが人間に戻った際に「お家に帰りたい。早く家で過ごしたい」と身震いしながらも、秘密をバラすことなく帰宅した。
また、その日にコハは姫として一人前になった。コハとノラの一体化が始まった。ノラの死と引き換えにコハは確かな力を手に入れた。
それでも――コハは人外を人間に戻せるようなさらなる力を求めて魔法少女になりたがった。
それに加えて、ノラとピーちゃんに会いたがった。ノラは死んだが、どこかで生きていると伝えた。ピーちゃんは生きているので、ばったりと会って秘密をバラされたら困る。つまり、彼は不安の種だった。
◆
「ふーん、考えがあるってそういうことね。」
「コハちゃんは旅で出会った子から魔法少女になるためには"大切なもの"を引き換えにしなきゃいけないと思い込んでいるわ。まー、大抵それは合ってるし、下手に嘘ついてもバレるもの。」
表向きはあたしからのプレゼントが大切なものとして認識されたことにする。
しかし、裏では――。
あたしはとある男の子の前へと現れた。その子はコハからピーちゃんと呼ばれていた人物だ。
あたしは杖を当てて【宝石】と言う。
彼は無色透明な宝石に変わった。
小石を宝箱に変えて、その中にピーちゃん、こと宝石を入れる。
魔法少女の儀式の時、コハは何も知ることなく宝石となったピーちゃんをハンマーで打ち壊した。
これで秘密をバラす可能性がある不安の種が減った。ついでに、コハは魔法少女となった。
しかし、新たな不安の種が現れる。
旧友のルバリだ。彼女の悪い癖で、魔法少女に「表」の印をつけ、自身に「裏」の印をつけ、一方が幸運になれば不幸になり、不幸になれば幸運になる契約を結ぶ。それをコハにつけて、不幸にさせようとしていたら、いくら友達であろうと許せない。
「あんた、相変わらずアレやってるんだろ? コハちゃんは『表』なのかい?」
それに対して「もちろんよ」と返される。不安的中だ。しかし、その時にコハに聞かれそうになったので、後日改めて聞くことにした。
――。
別日。とある場所。
あたしとルバリで密会していた。
「いくらアンタだろうと、コハちゃんを不幸にするなら許さないよ。」
「安心なさい。あたしはあの子を不幸にする画策は取らないわ。行動しない。約束するわ。」
「ほんと?」
「ええ。誓うわ。だって、あたしが何かしてもしなくても、あの子は何れ不幸のどん底に堕ちるわ。沢山、不幸になった人達を見ていた私よ。自信があるの。」
ルバリの目は揺るぐことは無かった。
「もしあの子が不幸になることがなくても、あたしは何もしない。どうせどん底に落ちた『表』のついた魔法少女は沢山いるの。あの子一人がどれだけ幸運になろうと、沢山の母数があるためにあたしには何の影響もないから。」
「分かったわ。これは約束よ。」
「契約でもいいわよ。」
あたし達の密会は終わった。
コハが不幸に堕ちると予測されたが、それは単なる賭け事であって絶対ではない。あたしはコハが幸せで居続けることに賭けしたのだった。
どうか、コハちゃんが幸せになりますように――。
◆◆
これがあたし……ペルバの真相ね。
次の十三話は物語の語られざる結末を伝えるわ。
どれだけ残酷なエンドを迎えようとも、あなたはもう読むしかないんじゃない? だって、どうしようもない程に気になっているでしょう?
なぜなら、あなたにはもう――化けの花が咲いているのだから。




