裏11話◆ノラ
ずっと私は不幸だと勘違いしていた。
守られていれば良かったのに、不幸だと勘違いしている私は幸せになるために行動を起こして地獄を見たのだ。
――――――
この世界には四人の「さいきょう」が存在している。「最強」のダイヤ。「最凶」のクローバー。「最狂」のスペード。そして、私が「最恐」のハート。
そんな私は通称――姫と呼ばれていた。
ある日、私はとある王国の妃になった。
しかし、妃だからと、政治には参加させて貰えなかった。その国は貧しかったため、執事や侍女などは存在しておらず、普通の庶民と同じ生活を送る羽目になる。
家事をこなす日々。余暇はしっかりしているものの、これでは私は何のために生きているのか分からなかった。
私は単なるマスコットで、まるで人形のような存在。不満だけが募っていった。
私には私に対する悪意をもたない人間を魅了することができる。魅了された人間は私の意のままに操れる。
初めは庶民を一人ずつ魅了。その後、半数を超える勢力に変わった。
民は私の味方。私を政治から遠ざける夫である国王に反乱を起こし、追放した。晴れて私は女王様として国のトップに君臨することができたのだ。
日が経つに連れて、私が国政から遠ざけられていた理由が分かった。
隣国とのいがみ合い、貧しい国内。私は王としての対応に追われた。しかし、度重なる重責に耐えきれず投げ出してしまった。
その結果――国民にその負担を送ることになる。誰も私を許してはくれない。
私は無知で馬鹿だった。だけど、それで許されていたのは妃とて、政権から遠ざけられた力を持たぬ者だったからだ。
だけど、今は違う。無知は誰かに責務を送る蔑まれるもの。そうなったのは私が力を手に入れてしまったからである。
自分の意思を押し殺して、傀儡される人形のように過ごせばこんなことにならなかった。
世界は狂っていて、それに対応しなきゃならない。責任から逃げることは許されない。
もはや民は私に敵意を示していて、能力が効かなかった。
私が国王を追放したように、私は国民により追放され、居場所を失った。
贅沢な暮らしになれていた私にとって地獄の日々を過ごした。
魅了の能力があるからこそ、本物の最悪には陥らない。それでも、私は常に最悪な現状だと思っていた。
そこに現れる一人の女――ペルバ。
彼女の力によって、私は猫に変えられてしまった。
◆
吾輩は猫である。ハートの姫である。
私はペルバの眷属として無理やり連れて行かれる存在になった。さらに、幾年経った後に最悪な契約までさせられる。
ペルバの息子に孫ができたのを皮切りにその計画が進んでいた。その孫であるコハを【姫】に変えたことで契約が行われることになった。
私は半人前な【姫】であるコハを一人前になるまで使い魔として見守る。そして、コハが一人前になった時、命と引替えに、能力をコハに渡す。
つまり、子守りをして、最後は死ね、というとんでもない契約だった。
が、猫である私に拒否権はなく、無理やり契約させられてしまった。
猫であるが故に本能が猫っぽい行動を無理やりさせる。それでも意識はあるし、コハを守る体でなら自由に動き回ることができた。
私は初め、コハのことが嫌いだった。あのペルバの孫だ。好きになれる訳がない。しかし、時間が経つと共に、ペルバの汚い心を継いでいない純粋な心だと気づき始めた。私はその子のために死んでもいいかなと思いはじめていた。
コハの両親が死に、一年後にフィリップへとやって来た。
じゃがいもと連呼している男に飛びかかったり、白熊に追われそうなコハが屋上に逃げられるように鍵を開けたりしてサポートをしていった。
コハが旅から戻り、ピーちゃんを人間に戻すと目標を決めていた。
私はペルバはろくでもない奴だが、その仲間であるルバリも同じくろくでもない奴ということを知っていた。
もしルバリの力を借りるのならば中途半端な気持ちで行けば利用されて地獄を味あわせられるだけだ。――私みたいに。
そこでティアラの宝石をそれぞれの場所に隠し、コハを試すことにした。
黄色の宝石。ミカンがパフェになって食われて死んだので、喫茶店に置いた。
緑色の宝石。ペルバからラメルは彼女の自宅で母と共に自殺したと聞かされたので、空き巣に置いた。
赤色の宝石。普通にゴミ箱に変わったメリカがいた。彼女は「嫌だ」「汚い」「ベトっとする」「誰か助けて」「気持ち悪い」「殺して」なんて愚痴を連呼している。そんなことを言った所で、誰も彼女の姿に気づかずにゴミ箱として一生を終えるのだ。コハ繋がりでペルバに関わってしまったのが運の関だ。
白色の宝石はアロが拾うようにした。
最後、コハに夢の中へと誘い。コハの夢の中で私はあれこれフィールドを造成した。
コハの深層心理が阻む中、私の所まで来れるかどうか。コハは私の意に反してそれを突破した。
そして、私は舞踏場に場を変えて、コハに最後の問をかけた。その問いに彼女は誠心誠意、返答した。もしかしたら、コハなら悪意に打ち勝てるかも知れない。
海の中の景色は、私のお気に入りの景色だった。
目の前にいるコハに全てを託すことにした。
そして、このまま世界から消えることを悟った。
◆
この世で最も美しいものは儚く散る瞬間にこそ存在する。永遠の美などは存在しない。
絶望に消える運命にて、最後に抗う逆向にこそ美しさが存在するのだと思う。儚さこそが可憐で、麗しく、可愛く、とても美しい。コハは私のことをみとれる程に美しいと教えてくれた。それだけで何故だろう生きた心地がした。
甘い口付けとともに、渡した『最恐』のハートの力。コハは知らずの内に『人を魅了し、操る力』を完全に会得することになる。悪意は人間にしか効果はない。だから、人外とされる者は抗う手段がない。
この力は上手く扱えば強いものとなり、下手に扱えば自分の心をどん底に落とすものになる。私はコハに幸あれと願った。
段々と遠ざかっていく。
幸せにね――コハ。
さよなら――。
私は泡の中へと消えていった。




