幕間:リネットの計算日誌
「ちっ、今回はあんまり儲けにならなかったわねぇ…」
夢見の里に夜が深まり、周囲は静寂に包まれている。私は、食堂の地下室で押収した薬師の帳簿を前に、唸っていた。不正に吸い上げた金は確かにあったが、これまでの案件と比べると、どうも割に合わない。ガルドの壊した壁の修理代まで考えたら、むしろ赤字かもしれない。
「まったく、殿下も殿下だわ。あんな回りくどい方法で、わざわざ人様の夢だか希望だかを吸い上げるなんて。直接金儲けすればいいのに、回りくどいことをするから、こうやって足がつくのよ。」
ブツブツと独り言をこぼしながら、私は帳簿に目を通す。そこには、村人から「夢」を抽出する魔導具の購入費、そしてそれを「薬膳料理」として提供するための薬草の仕入れ値が細かく記されていた。そして、それ以上に、夢を奪われた村人たちが、いかに無気力で、しかし幸せそうに「夢を食べる薬膳料理」に金を払っていたかの記録が、詳細に綴られている。
最初は、ただの儲け話だとしか思っていなかった。
「夢見の里で、誰もが幸せな夢を見られる奇跡の薬膳料理が流行っている」という噂を聞きつけ、何か金になる情報はないかと足を運んだのだ。だが、村に着いた途端、殿下が例の如く「心が寂しい匂いがする」だの「なんにも楽しくない味がする」だのと騒ぎ出したものだから、付き合わされた形になった。
あの薬師の男の顔は、いかにも胡散臭かった。金の歯と指輪だらけの手。ああいうタイプは、確実に裏がある。だから、殿下が「美味しい匂い」を嗅ぎつけた時、すぐに便乗して情報を探り始めた。金になりそうだったからだ。
しかし、地下室の光景を見た時には、さすがの私も眉をひそめた。
ベッドに横たわり、頭に奇妙な装置をつけられ、生気を吸い取られている村人たち。彼らの寝顔は幸せそうだが、日中の彼らの目は、死んだ魚のようだった。夢を奪われ、希望を失い、ただ言われるがままに働く人形。
「こんなやり方で儲けるなんて、最低ね。」
思わず口をついて出た言葉に、自分自身が驚いた。金が絡めば、たいていのことは割り切れるはずなのに。だが、人の「夢」や「希望」を奪うという行為は、私にとっての「金」とは、また別の次元の話だった。
「美味しいものは、心を豊かにして、希望を与えてくれるものなのに!こんな風に夢を奪うなんて、全然美味しくない!」
殿下が、あの薬師の男にそう言い放った時、私の胸に、何かがカチリと音を立ててはまった気がした。
殿下の言葉は、いつも食べ物と結びついているから、最初は理解に苦しむことが多い。しかし、その「美味しくない」という基準は、常に「不自然なもの」「人の心を傷つけるもの」「本来あるべき姿ではないもの」を指している。
彼女の**食べ物への執着**は、単なる食いしん坊ではない。純粋な心で、世界の歪みを見抜き、正そうとする、確固たる**正義感**の表れなのだ。
ガルドは、相変わらず無口だったが、あの過剰な破壊力は今回も健在だった。彼の拳は、悪の象徴である魔導具を粉砕し、悪党どもを一瞬で無力化する。余計な言葉は不要。彼の行動一つ一つが、殿下の「世直し」を力強く支えている。
リアナは、胃薬を片手に、今回も冷静に事態を分析していた。彼女の知識と判断力は、常に殿下の一歩先を行く。そして、あの「顔芸」も、もはやこの旅には欠かせない。殿下の暴走を止められない悔しさと、それでも彼女を支えようとする忠誠心が、あの表情に凝縮されている。
セレネは、優雅に、そして神秘的に動く。
精霊の声を聞き、真の希望が宿る泉を見つけ出した彼女の力は、計り知れない。夜の小動物たちを使って敵を足止めするという、あのなんとも言えないコミカルな攻撃も、彼女の魅力の一つだ。
ポヨは、今回は「夢操作用薬草」とやらを舐めたらしい。
彼の無邪気さと、危険を顧みない行動は、時として心臓に悪いが、結果的に真実の解明に繋がる。彼の持つ**幸運**は、もはや殿下本人に匹敵する、いや、それ以上かもしれない。
泉のほとりで、村人たちがキラキラと輝く光の粒子を浴び、希望を取り戻していく姿を見た時、私も少しだけ、胸が温かくなった気がした。彼らの瞳に再び宿った輝きは、何よりも雄弁だった。
「まったく、今回は手間ばかりかかって、あまり金にはならなかったわねぇ。でも、まあ、これでいいんじゃない?たまには、金にならない仕事も悪くないわ。」
再び独り言をこぼし、私は帳簿を閉じた。
金は大事だ。それは揺るぎない事実。だが、それ以上に大切なものがあることを、この旅は私に教えてくれている気がする。
「さあて、明日はどこへ行くのかしらね。また何か面倒なことに巻き込まれるのは目に見えているけど…ま、それも悪くないか。」
私は、小さく笑い、空を見上げた。夜空には満月が輝き、希望に満ちた村の歌声が、静かに響いていた。
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この物語は、水戸黄門を愛する転生王女サクラと、彼女に振り回されつつも支える個性豊かな仲間たちの、のほほん痛快な世直しコメディです。
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