第二回 劫火
**五十年。** 世界暦四十九年のあの吹雪の中での慌ただしい出陣から、世界暦九十九年の晩秋まで、まるまる五十年が過ぎた。
五十年。それは、意気盛んな帝王の鬢に、決して解けることのない霜雪を染めるには十分な歳月だった。五十年、それはまた、いかなる豪壮な志をも消し尽くすにはあまりにも長い悪夢の時間でもあった。戦争は、朕が当初決死の覚悟(あるいは無邪気)で描いたような、雷鳴の如き勢いで敵の巣窟を薙ぎ払う「電撃戦」ではなかった。それは、十万大山の外縁に広がる果てしない山々、暗鬱な密林、毒沼と瘴気の中で繰り返される膠着状態、文字通り肉を挽き骨を砕くような血みどろの消耗戦へと変貌した。
戦争初期、人族の組織力と数におけるわずかな優位性、そして朕が前線に坐陣し元婴期の頂点の力で無理やりこじ開けた突破口により、軍は確かに進展を見せた。我々は十万大山の最外縁にある牛妖の小規模な哨戒所や前哨部落をいくつか駆逐し、牛妖の重要な玄関口と呼ばれる「黒石峡谷」にすら一時迫った。勝利の報が帝京に届くと、朝廷と世間の疑念の声はかすかに押さえ込まれた。
しかし、その好機は長くは続かなかった。戦線が真正に鬱蒼たる山岳地帯へと伸び、牛妖が骨の髄まで熟知した地形を利用して凶暴な反撃を開始すると、人族の弱点が無残に露呈した。
「報せ―――!陛下!左翼先鋒営が…『号風澗』にて壊滅!牛妖が両側の崖壁から巨石を落とし、それに…それに毒煙まで!三千の兄弟たち…全員…全滅でございます!」伝令兵は全身血まみれで、転げるようにして中軍本陣に飛び込んできた。泥、血のり、そして極限の恐怖が入り混じった顔、声はかすれて調子を失っていた。
朕は粗末な砂盤に向かって凝思していたが、それを聞いて猛然と顔を上げた。暴虐な霊力が制御不能に漏れ出し、砂盤の一角を粉砕した!「無能者!斥候は何をしていた!」怒りが胸腔を灼く。元婴期の膨大な神識が一瞬にして号風澗の方向へと飛んだ。しかし「見えた」のは、濁った毒煙に包まれ、辺り一面に散乱する手足や巨石の轢き潰し痕の修羅場、そして遠くの山林で響く牛妖の荒々しい咆哮と大地を踏み鳴らす重い足音だけだった。奴らは速く現れ、さらに速く消えた。まるで血の匂いを嗅ぎつけては闇に消える豺狼の群れのようだ。
「陛下、お怒りをお鎮めください!」傍らにいた老将、鎮南侯が、土気色の顔で言った。鎧には刀傷と暗褐色の血糊がこびりついている。「牛妖は…戦いをしているようには見えません!奴らは…狩りをしているのです!一石一木、一渓流、一つの毒瘴林までも利用して!我々の重弩は密林では展開すらままなりません!刀剣が奴らの体に当たっても、皮一枚すらなかなか破れぬ!兄弟たちは…あまりにも無残に死んでいきました…」この半生を戦場で過ごしてきた老将の声に、初めて抑えきれない悲愴と無力感が滲んでいた。
これが現実だった。凡人士兵が握る精鉄の長矛は、牛妖の低級体修に匹敵する頑丈な厚皮に刺さっても、せいぜい白い跡を残すか、かろうじて皮を破るのが関の山で、致命傷を与えることはできなかった。一方、牛妖の狂暴な力は、石臼ほどの岩を軽々と掴んで投げつければ、数名の装甲兵を肉塊に叩き潰す。奴らの突撃は、制御不能の重戦車の如く、人族が丹念に布陣した盾の壁を容易に粉砕した。
装備の差はさらに絶望的だった。矮人族による良質な武器の独占は磐石で、我々は自らに頼るしかなかった。軍器監では昼夜を分かたず作業が続き、工匠たちは目を充血させ、炉火の傍で倒れては起き上がった。造り出された刀剣は使えるが、切れ味と強靭さは不足していた。重弩は威力はそこそこだが、あまりにも鈍重で、起伏の激しい山林での輸送と設置は困難を極め、牛妖の投石や奇襲の格好の的となった。発射される対装甲用の矢は、製造コストが高く数も限られており、山野を埋め尽くす牛妖の群れを前にすれば焼け石に水だった。
より深い窮地は、「道」の抑圧にあった。朕は元婴期の頂点、人族随一の存在ではあったが、牛妖部族にも強者がいないわけではなかった!奴らには体系だった修仙法門はないが、生まれ持った強横な肉体と古の血脈に源を発する図騰の力を有していた。朕は幾度となく牛妖部族の大酋長「蛮山」に釘付けにされた。あの化物は普通の牛妖の倍はあり、全身を岩石のように粗い角質が覆い、その力は一撃で小山を崩すほどだ。奴は咆哮し、全身に狂暴な黄土色の図騰の光を迸らせ、朕の飛剣の連続突きや霊力の爆撃を真正面から受け止め、まるで不死身の洪荒の巨獣の如く、朕を高端戦力のレベルに縛り付け、下方で苦戦する軍を支援する隙を与えなかった。
戦争は底なしの穴となった。帝国の財政はとっくに枯渇していた。増税は繰り返され、重い労役が民間の息の根を止めていた。帝京の繁華は色褪せ、市井は寂れ、流民が増え続けた。朝廷では、反対の声は決して止むことはなく、初期の激烈な諫言から、より巧妙で、より頑固なサボタージュや妨害へと変わった。帝国全体を、前線の数十万の大軍を、そして朕がこの冷たい玉座に座り続けることを支えていたのは、刻一刻と近づき、朕の魂の奥深くで弔鐘のように鳴り響く時間の刻印――世界暦百年――ただそれだけだった。
「陛下、北境三郡…またも民変が勃発しました…今回は抗糧で…」内侍の声は蚊の鳴くほど小さく、絶望的な震えを帯びていた。泥の飛沫が付いた緊急の上奏文を差し出した。
朕は受け取る力さえなく、ただ疲れ切って手を振った。民変か?当然の成り行きだ。朕の視線は、陣幕の厚い布を透かし、夕闇の中で巨大な怪獣の背骨のように連なる十万大山に向かった。五十年、想像を絶する代償を払いながら、人族軍はなおも十万大山の外縁域に釘付けにされ、一歩も前進できない。牛妖の真の核心たる祖地までの距離は、依然として天の川のように遠い。そして時間は…あの悪夢のような百年の期まで、残り一年を切っていた!
深く重い、ほとんど朕を飲み込まんばかりの無力感が心臓を掴んだ。まさか…人族の力を傾け、帝国の命運を賭け、千古の罵名を背負った果てが…徒労に過ぎないというのか?無数の将兵と民衆を、意味もなくこの鬱蒼たる山々に葬り、定められた破滅にほんの少しの血色を添えただけというのか?
いや!朕は納得せぬ!
狂気じみた執念が魂の奥底から爆発し、全ての疲労と絶望を圧し退けた。元婴期の頂点の霊力が、長らく沈黙していた丹田の気海の中で、まるで万年も抑え込まれた火山のように、顧みることなく猛烈に回転し、圧縮し、衝撃し始めた!壁?桎梏?この破滅的な絶望の前では、全てが朕のために破れよ!
世界暦九十九年、晩秋。
朕は単身、十万大山で最も危険な区域――「葬龍淵」と呼ばれる絶地へと深く分け入った。ここには年中消えることのない劇毒の瘴気が立ち込め、空間構造は異常に脆く、恐るべき空間の裂け目が音もなく現れては消える。元婴期の修士の神識ですら完全には捉えきれない。地底深くには、上古の龍族が滅びた後に残された狂暴な殺気と混乱した地火霊脈が残っていると伝わる。ここは生命の禁断の地であり、牛妖部族さえもめったに足を踏み入れない絶域だった。
だが、ここにはまた、混乱しつつも膨大な天地の霊気が充満していた!あの狂暴な地火、あの劇毒の瘴気、空間の裂け目から漏れ出す混乱したエネルギー…これらは普通の修士にとっては致命毒だが、窮地に追い詰められ、最も狂暴な方法で化神期の関門を突破せんとする元婴期の頂点にとっては、おそらく…唯一の生路だった!朕はこの極限の圧力を必要としていた。この混乱したエネルギーの嵐を必要としていた。体内に残された最後の一筋の潜在能力を、強引に搾り出し、点火するために!
「吼―――!」
非人的な咆哮が朕の喉の奥から炸裂した。轟音と狂暴な霊力が混じり合い、周囲の粘り気のある墨緑色の毒瘴を一瞬で数十丈も吹き飛ばした。朕は葬龍淵の中心、むき出しの暗赤色の溶岩を流す巨大な黒岩の上空に浮かんだ。下方は、泡を立たせ、硫黄の悪臭と死の気配を放つ溶岩湖。頭上は、歪み変化し、時折暗い裂け目が走る不気味な空。
体内では、元婴はすでに限界まで膨張し、全身が金色に輝き、小さな両手は狂ったように印を結び、津波のように体内に流れ込む混乱したエネルギー――灼熱の地火、陰冷な瘴気、空間を引き裂く乱流…これらの狂暴な異種エネルギーが猛烈に衝撃し、朕の経脈、丹田、はたまた神魂さえも引き裂いた!激痛!無数の焼けた鋼刀が体内で掻き回されるかのようであり、また無形の巨腕が朕の魂を肉体から無理やり引き剥がそうとするかのようだった!
「足りぬ!まだ足りぬ!」朕の両目は血のように赤く、七つの穴(両目、両耳、両鼻、口)から金色の血液が滲み始め、狂人の如き形相だった。意念を極限まで駆り立て、もはや何の防御もせず、むしろ全身の竅穴を自ら開き放ち、底なしの闇穴のように、葬龍淵内のあらゆる狂暴なエネルギーを、さらに猛烈に貪り食い始めた!
「ガシャッ!」魂の奥底から響くような、くっきりとした崩れる音がした!
崩壊ではない!破繭だ!
元婴をがっちりと拘束し、その質的変化を阻んでいた無形の桎梏が、この内外からの攻撃、乾坤一擲の極限の圧力の下で、ついに…裂け目を生じた!
ヴォォォン―――!
天地に巨大な鐘の音が鳴り響いたかのようだった!朕を中心に、言葉では言い表せない玄妙な波動が猛然と拡散した!葬龍淵内の狂暴なエネルギーの乱流が、この瞬間、無形の大いなる手に撫でられ、整えられたかのように!沸騰する溶岩湖は一瞬で鏡のように平らになり、上方の歪んだ空を映し出した。猛威を振るう毒瘴は調教された大蛇のように、大人しく周囲を渦巻いた。きらめく空間の裂け目さえも、凍りついたかのように動かなくなった。
朕の体内で、限界まで膨張し、ひび割れだらけの元婴が、突如として太陽よりも烈しく、より純粋な金色の神光を爆発させた!光の中、元婴の形態は天地がひっくり返るほどの変化を始めた。その顔立ちはより鮮明になり、衆生を見下ろすような無情の威厳を帯びた。その体躯はもはや純粋なエネルギー体ではなく、微細な、あたかも瑠璃神金で鋳造されたかのような実質感を凝結し始めた!浩瀚で磅礴たる、元婴期をはるかに超越した生命次元の威圧が、無形の津波のように、葬龍淵全体を席巻した!
**化神期!**
成功した!当世ただ一人の化神!
力!かつてない力の感覚が身体の隅々に満ちあふれ、挙手投足の間に天地の法則を引き起こせそうな気がした。神識は水銀が地に流れるように、元婴期を十倍も超える広大な範囲を一瞬で覆い、葬龍淵内の塵一粒の震えまでもが鮮明に感知できた。体内の霊力は質的飛躍を遂げ、精純で凝練し、大海の如く浩瀚で、天地の根源に触れる一抹の神性を帯びていた。
しかし、狂喜は一瞬に過ぎなかった。より巨大で、より重い圧力が、冷たい枷のように、この生まれたばかりの化神の体躯に瞬間的にかかった。突破の代償は大きく、経脈は烈火で焼かれたように微細な裂傷だらけとなり、神魂も強引な異種エネルギーの摂取のため針で刺すような痛みが走った。より差し迫っていたのは――時間だ!あの百年の期まで、残り一年!そして朕は、相も変わらず蛮山という忌々しい牛妖の酋長に十万大山の外縁に釘付けにされていた!牛妖の核心祖地までの距離は、依然として天堑の如くだった!
「蛮山…」朕は虚空に立ち、幾重にも連なる山々を透かして、冷たく牛妖の祖地の方向を睨みつけた。新たに生まれた化神の威圧が風雲を動かした。「お前の死期は、来た。」
世界暦百年、初春。
厳冬の寒気はまだ十万大山の峰々から完全には消え去らず、肌を刺すような山風が顔を打ちつけると、なおも刃物で切られるような痛みを帯びていた。人族前線の本営、中軍主陣の中では、外の寒風よりも一層殺伐として重苦しい空気が漂っていた。巨大な砂盤が陣内の大半を占め、そこには敵味方の情勢を示す色とりどりの小さな旗がびっしりと刺さり、入り組んで十万大山の外縁域を埋め尽くしていた。五十年の血戦、無数の命を代償に払いながら、人族軍の触手はなおも、暗赤色でマークされた牛妖の核心域とされる危険地帯に真正に食い込むことはできていなかった。
朕、幽爽、当世ただ一人の化神境、玄黒の龍紋の帝袍を纏い、砂盤の前に背を向けて立つ。化神突破がもたらした力の感覚はなお血脈に奔流していたが、今、心は万丈の氷窟に沈んだかのように重い。時間!頭の上に吊るされた刃が落ちるまで、おそらくあと数刻?数日?その無形の、刻一刻と迫りくる窒息感は、いかなる牛妖の咆哮よりも絶望的だった。
「陛下、」鎮南侯の声は嗄れ、重い疲労感と隠しきれない…無気力がにじんでいた。この老将の背中は五年前よりさらに丸まり、鎧の刀傷も深くなっている。「各部隊…陛下の御意の通り、防衛線を縮小し、現状の要害を固めております。ただ…」彼は一呼吸置き、濁った老眼で朕の無表情な横顔を一瞥し、結局口を開いた。「軍中の士気は…低くございます。兵糧も…あと一月分しかございません。陛下、攻勢を…一旦緩められては?将兵たちに…息をつく暇を?」
緩める?朕は心中で冷笑した。天が崩れ落ちようとしているのに、まだ一月もあると?世界暦百年!あの悪夢の中で血に染まった年が、すでに来ているのだ!今この時に!
言いようのない焦燥感と冷たい暴虐が朕の心頭に渦巻いた。この五十年の血戦、数十万の将兵が異郷に埋もれ、帝国の国力が尽き果て、ついに…ただの徒労だったというのか?朕がこの目で滅世の災禍が定められた通りに訪れるのを見届けるためだけだったというのか?
この死の静けさ、息詰まる絶望感が全てを飲み込もうとするまさにその刹那――
**ヴゥン!**
何の前触れもなく!抗いがたく、理解を絶し、想像を超えた浩瀚たる意志が、突如として降臨した!
それは外界から来たのではない。朕の魂の最深部から直接爆発したのだ!沈黙すること億万年の宇宙の渦が、ある瞬間に点火されたかのように!朕の意識は瞬間的に肉体から引き剥がされ、巨大で抗しがたい力に包まれて、上へ!上へ!陣幕の天井を突き破り、鉛色の雲を突き破り、烈風吹きすさぶ高空を突き破り、ひたすらに上へ!上へ!
視界は無限に高まり、拡大した。眼下には、鬱蒼とした十万大山が微縮模型のように広がる。遠くには、人族、精霊族、矮人族、獣人族の広大な領域が色とりどりのパッチワークのように。さらに彼方には、果てしない大海、瞬く星辰…世界の輪郭が、感覚を超越した方法で、朕の「視界」に鮮明に刻み込まれた!朕はこの巨大な球体の一部となったかのようで、その地脈の鼓動、海洋の呼吸、森林の囁き、億万の生命が集まって形成される、微かでありながら浩瀚たる生命の気配を感じ取れた!
同時に、言い表せない悲愴、怒り、そして…稚拙な焦りの感情が、潮のように朕の意識に流れ込んできた。それは人間の感情ではない。より宏大で、より根源的で、生まれたばかりで未熟でありながら滅亡の危機に直面する、慌てふためいた無力感を帯びていた。
**天道!**
この言葉が、朕の炸裂した意識の中で雷鳴のように轟いた!あれだ!悪夢の中で朕に警告を与えながら、何も変えられなかった世界の意志だ!それは全知全能の神霊ではなく、揺り籠の中で異界の豺狼に遭遇したばかりの…嬰児に近い!
浩瀚で磅礴たる、一切の不純物を含まない本源の力が、この果てしない「視界」の深奥から、悲愴に満ちた世界意志の核心から、天の川が逆流するかのように奔流し、空間の距離を無視して、直接朕の身体に注ぎ込まれた!
**ゴゴゴゴゴゴォン―――!**
朕の身体、ようやく安定したばかりの化神の体躯が、この想像を絶する本源の力の奔流に洗われると、干上がった大地が慈雨を貪り吸収するかのようだった!化神初期…化神中期…化神後期…化神頂点!
境界の壁はこの力の前で、薄紙のように脆かった!
突破!再突破!
化神の上は?煉虚だ!
丹田の内で、ようやくわずかな実質感を凝練し、神性の金光を放っていた化神の体躯が、浩瀚たる本源の灌注の下、再び天地を覆すような変貌を遂げた!それはもはや単一の実体ではなく、分化し、虚化し始め、周囲の虚空に溶け込もうとするかのようだった!化神の「実」が、煉虚の「虚」へと転化し始めた!空間を掌握し、虚実を見極める玄妙な悟りが、烙印のように朕の神魂に刻まれた!挙手投足の間に、虚空の力を引き起こせそうであり、自身の存在も虚実不定となり、物質とエネルギーの狭間に漂うようになった!
**煉虚境!**
これは朕自身が苦修して得たものではなかった。天道の意志が自らの百年分の本源を代償に、強引に引き上げたのだ!力の感覚は前代未聞で、手を振るだけで山を移し海を埋め、虚空を引き裂けそうだった!しかしそれに伴い、境界は激しく揺らぎ浮ついていた!体内に新たに生まれた煉虚の力は、手綱を外された荒馬の如く、狂暴に奔騰し、このレベルの力にまだ完全には適応していない経脈と神魂を衝撃し、引き裂かれるような激痛をもたらした。力の上昇は爆発的だったが、基礎は流砂の上に築かれたかのようだった。
天道本源の力の灌注は突然止んだ。朕を包んでいた宏大な意志は、潮が引くように急速に退き、ただ一つの冷たく、鮮明で、疑いを許さない思念を、烙印のように朕の魂の深くに刻み残した:
**【天行者よ。災禍は始まれり。これを阻止せよ。救い…この世界を。】**
朕の意識は猛然と身体へと引き戻された!
**ドン!**
足元の堅い黒曜石の地面が、朕の立つ場所を中心に、蜘蛛の巣状の裂け目が数丈に渡って一瞬で広がった!化神をはるかに超え、空間さえも微かに歪み波動する恐怖の威圧が、制御不能に朕を中心に轟然と爆発した!
「ドスン!」「ドスン!」陣内の全ての将領たち、元婴初期の鎮南侯すら含め、この突然の、神霊降臨にも似た威圧の下で、一切の抵抗もできず、瞬時に全員が両膝を地面に叩きつけられ、押さえつけられ、頭さえ上げられなかった!彼らの顔には極限の驚愕と茫然が溢れ、何が起こったのか全く理解できていない様子だった。
朕は猛然と顔を上げた。双眸の中には、金色の神光がまだ完全には収まっておらず、瞳孔の奥に虚空の生滅の光景が一瞬走った。煉虚境の神識は、無形の天網のように、瞬く間に十万大山全体を覆い、さらに外へ急速に広がっていった!もはや斥候も、待つ必要もない!
「ギャアアア―――!!!」
「ウオオオオオ!!!」
「殺せ!殺せ!皆殺しにしろ!!!」
極限の狂気、苦痛、嗜血、混乱に満ちた絶叫の波が、無数の焼けた鋼針のように、一瞬で朕の煉虚境の神識感知網に突き刺さった!源は、十万大山の最深部、牛妖部族の祖霊祭壇がある核心域だった!
一幅一幅の血生臭く、歪み、人間の想像を超えた光景が、神識を通じて直接朕の脳裏に投影された:
祖霊祭壇の上に、かつて聳え立っていた、古で威厳ある巨大な牛頭の図騰石柱が、今やその表面を蠢き流れる、生きたもののような紫黒色の粘稠な物質に覆われていた!石柱自体が激しく震え、苦痛の呻きを上げ、裂け目から穢れた黒気が噴き出していた!
祭壇の周囲では、何万もの牛妖が、老若男女を問わず、普通の妖衆であろうと強力な戦士であろうと、朕と何年も渡って戦いを繰り広げてきた大酋長蛮山すら含めて!奴らはまるで無形の糸で操られる操り人形のように、身体を不自然な角度で歪め、目は膿と血、そして混乱の光を流す穴窟と化していた!奴らはもはや敵味方の区別もなく、理性もなく、ただ原始的な殺戮と喰らう本能だけを残していた!
蛮山、かつて山岳のように雄壮だったその姿は、今や半身を狂ったように増殖する肉塊に覆われ、残った片目には混乱の紫光がきらめいていた。奴は自らの巨大な図騰の石柱を振り回し、周囲のあらゆるものを狂ったように叩きつけていた!かつて忠実だった護衛は奴に易々(やすやす)と引き裂かれ、弱い幼獣は踏み潰されて肉片と化した!祖霊の聖地全体が、巨大な、自滅的な狂乱の屠殺場と化していた!汚れた血と肉片が古の地面を塗り固め、刺鼻な生臭さと混乱したエネルギーの波動が、遠く離れていても朕の魂の深みで吐き気と動悸を引き起こした!
奴らは…狂った!完全に!
朕の神識が祖霊の汚染を感知し、牛妖が狂乱に陥ったのと全く同時刻!
**ドン!ドン!ドン!**
数道の強大な気配が、闇夜の灯台のように、突如として十万大山の異なる方向から天を衝いて立ち上がった!一つは月華のように清冷で、自然の律動を帯びている。一つは山岳のように重厚で、大地の脈動を内包している。一つは雷霆のように狂暴で、原始的な野性に満ちている。
彼らの気配は、例外なく、驚愕と厳粛を帯びていた。
まさか…朕一人だけが同じ悪夢を見ていたわけではないのか?精霊族、矮人族、獣人族…彼らそれぞれの指導者たちもまた、無数の夜、あの異界の邪神の囁きと天道の絶望的な警告に苛まれていたというのか?
「報せ―――!!!」
声を張り裂かんばかりの絶叫が遠くから近づき、全身血まみれで鎧は破れ、顔には極限の恐怖が残る人族の斥候が、転がるようにして中軍本陣の幕を突き破った。彼は陣内の跪く光景すら見えていなかった。ただ朕の方向を向き、最後の力を振り絞って叫んだ:
「陛…陛下!狂いました!皆狂いました!牛妖…牛妖が共喰いしています!見るもの全てを殺しています!まるで…狂った犬のようです!祖地…祖地のあたりは…血の海です!怪物の咆哮だらけです!!」そう叫び終えると、彼は全ての生気を使い果たしたかのように、目を白黒させてその場で昏倒した。
陣内は死の静けさに包まれた。荒い息遣いと、将軍たちの度を越した驚きで抑えきれない歯のガチガチという音だけが響く。鎮南侯は必死に頭を上げた。泥、血のり、そして世界観が崩壊した茫然が入り混じった顔で、朕を見つめ、唇を震わせたが、一言も発せずにいた。
朕は祖地の方向へ向けていた視線をゆっくりと引き戻した。その目は万載の玄氷のように冷たく、驚きも怒りもなく、宿命を見透かし、全てが決着したことへの無関心だけがあった。体内では煉虚境の霊力がなおも奔騰し、激痛をもたらしていたが、それ以上に痛んだのは、心に重くのしかかる、言葉に尽くせない不条理と悲涼だった。
五十年の血戦、数十万の将兵が異郷に埋もれ、帝国の国力が尽き果て、千古の罵名を背負い…求めたものは何だったのか?求めたものは、つまるところ今日、朕の目で奴らの狂気を証しし、それから…奴ら自らが作り出した穢れ血生臭い屠殺場の始末をすることだったのか?
朕は手を上げた。動作は速くはなかったが、虚空を掌握する玄妙な律動を帯びていた。指先が指し示すのは、砂盤上で最も深い暗赤色に染められた牛妖の祖地核心域だった。
「勅命を伝えよ。」声は平静で波風立たなかったが、冷たい鉄塊が将軍一人一人の心臓に落ちるようであり、煉虚境の威圧の無形の重みを帯びていた。「四族連合軍、即時出撃せよ。」
「目標は、十万大山の核心、妖族の祖霊の地。」
「殲滅せよ。」
「見るがままの妖族を、形態を問わず、狂乱の有無を問わず…」
朕の声は一瞬途切れた。視線は砂盤上で他の猴妖、鰐妖、狼妖の部落を象徴する区域を掠めた。天道の警告が魂の深くで反響する――災禍は始まった!妖族の祖霊は汚染され、妖族全体が…汚染源となる!災禍の担い手となる!
「…全ての妖族を、一人残らず。」
「根絶やしにせよ!」
冷たい命令が、最後の弔鐘のように、死の静けさに包まれた本陣の中に響き渡った。
命令は無形の嵐のように、瞬く間に前線全体を駆け抜け、特殊な伝訊法陣を通じて、すでにそれぞれの方向に密かに集結していた精霊族、矮人族、獣人族の軍にも同時に伝わった。歓声も、出陣を鼓舞する熱狂もなかった。ただ死の静けさのような粛殺の空気と、言い表せない重苦しさだけが漂っていた。
四族連合軍、この五十年の血で染まった確執と猜疑の中で一度も真に肩を並べて戦ったことのない力が、初めて、そしておそらく最後となる、共通の目標――絶滅――のために、十万大山の核心域へと足を踏み入れた。
道は予想外に「開け」ていた。天険に依りて層をなして防衛する牛妖の戦士の姿はなかった。道中で目にしたのは、衝撃的な地獄絵図だった。踏み潰されて泥と化した屍骸、嶙峋とした怪石に噴きかかった紫黒色の汚血、折れた図騰柱、そして…さらに多くのかたちを歪め、互いに喰らい合って残ったのは手足の欠片や骨だけという狂乱した妖屍だった。空気には濃厚な、血生臭さと内臓の悪臭、そして奇妙な甘ったるい腐敗臭が混ざった毒瘴が立ち込め、炼気期の修士でさえ目眩を感じるほどだった。
「ウッ…」若い精霊族の弓兵が思わずうつむいて吐き気を催したが、傍らの古兵が必死に引き止めた。
「気をつけろ!あの汚れた血には近づくな!それに…あの肉塊にもな!」矮人族の盾陣の指揮官が声を枯らして叫んだ。矮人戦士の分厚い盾には、紫黒色の汚血が付着し、ジジッという微かな音を立てて鋼鉄の表面をゆっくりと蝕んでいた。
獣人族の狼騎兵は砕けた山道を疾走し、巨狼が不安そうに唸りながら、道端でまだ微かに痙攣し、余分な眼球や口器を生やした肉塊を避けた。
組織的な抵抗には一度も遭遇しなかった。ただ散発的に、もはや元の姿を全く留めていない「何か」が、蛆虫のように屍の山から蠢き出て、意味不明の唸り声を上げ、生者に襲いかかるだけだった。それらの動きは歪んでいたが、力は驚異的に大きく、首を刎ねられても爪で掻きむしり、身体を断ち切られると、切断面から嫌悪感を催す肉芽の触手が狂ったように増殖した。
「浄化せよ!」精霊族の長老が月長石を嵌めた法杖を高く掲げ、清冷な月華を降り注いだ。その光が歪んだ肉塊を照らすと、焼けた鉄を肉に押し当てるようなジジッという音と鼻を刺す白煙が上がり、肉塊は哀号を上げながら急速に黒焦げに炭化した。
「燃やせ!火油を使え!焼き尽くせ!」人族の将校が鋭く命じた。携帯の火油壺が力いっぱい投げ込まれ、烈火が天を衝き、蠢く血肉の怪物と穢れた屍骸を呑み込んだ。空気にはさらに吐き気を催す焦げ臭さが広がった。
進撃の速度は想像を超えて速かった。わずか数日で、連合軍は四本の焼けた刃のように、全く阻害されることなく十万大山の最深部へと突き刺さり、妖族が世代に渡り聖地と崇めてきた核心の谷間――祖霊祭壇の在処へと到達した。
眼前の光景は、それを目にした全ての者、数々の戦いを潜り抜けてきた各族の精鋭たちすらも、足の裏から天霊蓋まで凍りつく寒気を走らせた。
巨大な環状の谷間の中央に、かつて聳えていた、百丈もの高さの牛頭図騰石柱があった。今やそれは見る影もなかった。太い石柱の表面は、生きたもののように蠢き流れる紫黒色の粘稠な物質に厚く覆われ、無数の歪んだ肉塊と歯を並べた吸盤口が開閉していた。石柱の頂上、祖霊の意志を象徴する巨大な牛頭の石像の、両眼の位置には二つの絶え間なく回転する、底知れぬ暗紫色の渦が現れ、魂すら凍りつく邪悪な気配と混乱した精神波動を放っていた。粘稠な黒気が実体化した鎖のように渦から垂れ下がり、下の祭壇の周囲に山積みされた、最早原型を留めない妖屍へと繋がっていた。谷間全体が、粘稠で、甘ったるい腐敗臭を放つ紫黒色の「泥沼」に覆われ、その上には様々な手足の欠片、内臓、絶えず膨らんでは破裂する膿疱が浮かんでいた。
祭壇の周囲は、最後の狂乱の渦だった。数千頭の最も歪み、最も巨大化した牛妖(あるいは、かつて牛妖だったもの)が、分厚い角質の甲殻に覆われ、甲殻の隙間からは絶えず揺れる触手が生え、中には余分な頭部を生やした者もいれば、四肢が巨大な鋏や骨の刃へと異形化した者もいた。奴らは互いに噛みつき、喰らい合い、踏みつけ、汚血と肉片が飛び散り、苦痛、憤怒、そして純粋な破壊欲が入り混じった耳を劈く咆哮を上げていた。一撃一撃が山を崩し地を裂くほどの力を帯び、地面に巨大な穴を穿ち、同類の残骸を粉塵へと轟かせた。
奴らこそが、この狂乱の饗宴の最後にして最強の「掃除屋」だった。
「陣を整えよ!遠距離攻撃!目標――祭壇周囲の全ての動くもの!無差別に叩け!」朕の冷たい声が霊力に乗り、混乱した戦場上空に鮮明に響き渡った。煉虚境の疑いを許さぬ威圧を帯びて。
**ヴゥン―――!ギィィッ―――!**
人族の陣中では、数が限られ、重くてかさばる重装破甲弩が力いっぱい引き絞られ、冷たい光を放つ鋼鉄の弩矢がその血肉の地獄へと向けられた。精霊族の月華箭陣が清冷な光を放ち、矮人族の符文火砲が充填を始め、低い唸りを上げた。獣人族のシャーマンが皮張りの戦鼓を叩き、狂暴な嗜血の光輪が狼騎兵たちを包んだ。
「放て!」
号令と共に、破壊の奔流が吐き出された!
**ドゴォン!ドゴォン!ドゴォン!**
**シュッシュッシュッ―――!**
**ウォオオオオ―――!**
燃え盛る火油壺が黒煙を引きずりながら怪物の密集地に叩き込まれ、天を衝く炎を爆発させた!腕ほどの太さの破甲弩矢が空気を引き裂き、数頭の巨大な牛魔の甲殻を易々と貫通し、血と肉片の塊を飛散させた!雨のように降り注ぐ精霊族の矢は、浄化の月華の力を帯びて怪物体内に突き刺さり、激しいエネルギー灼焼を引き起こした!矮人族の符文火砲が灼熱のエネルギー光球を放ち、怪物の群れの中で炸裂し、血風肉雨を巻き起こした!獣人族の狼騎兵は赤い奔流の如く側面から混乱した怪物の縁へと激突し、鋭利な湾刀が頑丈な甲殻を斬りつけて、目映い火花を散らした!
戦闘、あるいは狂乱の残滓に対する掃討戦は、瞬く間に白熱化した。戦術も陣形もなく、ただ純粋な火力の投射と野蛮な衝突だけがあった。怪物の咆哮、武器の激突、エネルギーの爆発、瀕死の悲鳴…それらが混ざり合い、残酷な死の交響曲を奏でた。
朕は戦場の上空に浮かび、煉虚境の威圧が無形の領域のように下方を覆った。体内を奔る力はなお不安定で、虚空の力を引き出すたびに経脈が引き裂かれるような痛みが走った。朕は軽々しく手を出さなかった。視線は混乱した戦場を透かし、あの汚染され、絶え間なく邪悪な波動を放つ祖霊図騰柱へと釘付けにされた。あの絶えず回転する暗紫色の渦の眼も、無限の穢れと殺戮を透かして、冷たく朕を「見つめ」ているかのようだった。
「幽爽陛下!」清泉の如き声が戦場の喧騒を貫き、精霊族の月華の法杖を掲げた長老が、純粋な光に包まれ、下方に漂う穢れの気を凌ぎながら、朕の傍らに浮かんだ。その表情は極めて険しかった。「あの祭壇…は汚染の核です!下で死ぬ血肉と狂気を吸収し、力を増しています!これを破壊しなければ!さもなくば、この汚染は拡散します!」
「フン!言われんでも分かっておる!」雷鳴のような怒号が響いた。矮人族の山丘の王が巨大な符文石像鬼に乗って飛来し、手にした符文戦槌が邪悪を祓う灼熱の光を放っていた。「あの化物は見ただけで邪悪だ!俺が叩き壊してやる!」
「危ない!」獣人族の大酋長が翼を広げた巨大な双足飛竜に乗ってかすめ、手にした巨大な骨刃を祭壇に向けた。「あの上の気配…俺の血筋すら震え上がる!何かが俺たちを見ているぞ!」
その言葉が終わらぬうちに!
**ヴゥゥゥゥン―――!!!**
祖霊図騰柱の頂上で、あの暗紫色の渦の眼が突如として眩い光を爆発させた!下方の全ての狂乱した怪物を合わせたよりも百倍も恐ろしい邪悪な意志が、無形の津波のように、猛然と戦場全体へと押し寄せてきた!混乱、狂気、嗜血、絶望…数々の負の感情が実体化した尖針の如く、全ての生ける者の意識に突き刺さった!
「ウガアッ!」「やめろ!」「殺せ!皆殺しにしろ!」戦場の縁では、一部の修為の低い四族の戦士たちの両目が瞬時に混乱の紫光に満たされ、人間とは思えぬ唸り声を上げて、武器を翻し、狂ったように傍らにいる仲間を斬りつけ始めた!
「心神を固守せよ!」朕が鋭く喝した。煉虚境の神識の力が轟然と爆発し、無形の精神障壁を形成し、辛うじてその邪悪な意志の衝撃の一部を相殺し、核心域の大半の軍隊を守った。しかし縁辺部は、すでに新たな混乱に陥っていた。
同時に、祭壇の下の粘稠な紫黒色の泥沼が激しく沸騰した!無数の巨大な、汚れた血、砕けた骨、腐肉、そして狂気の思念が凝結した巨手が、泥沼から猛然と伸び上がり、空気を引き裂く唸りを上げて、空中の我々を掴み取ろうと襲いかかった!どの巨手にも、苦痛に呻き叫ぶ無数の顔と、狂ったように回転する眼球がびっしりと埋め込まれていた!
「退け!」矮人山丘の王が怒号し、符文戦槌が眩いばかりの金剛の光を爆発させて、掴みかかる一つの巨手を叩きつけた!ドゴォン!と轟音が響き、巨手は血肉を飛散させて砕けたが、飛び散った汚血と肉片が生き物のように彼の符文の鎧に付着し、狂ったように蝕み、ジジッという音を立てた!彼の乗る石像鬼は苦痛の悲鳴を上げ、翼をもう一つの巨手にかすめられ、一瞬で大きく腐蝕された!
精霊族の長老が法杖を振るい、月華が巨大な光の刃に凝結して斬り落ち、一つの巨手を両断した。しかし、斬り裂かれた穢れた物質が半空で炸裂し、無数の紫黒色の毒雨となって降り注いだ!
獣人大酋長の骨刃が巨手に斬りつけたが、金属同士がぶつかるような音を上げ、深い裂け目を残すだけで、一瞬では斬り落とせなかった!
煉虚境の力が体内で咆哮し、経脈の激痛は冷たい殺意に押さえ込まれた。朕は一歩踏み出し、身体が瞬時に虚ろ(うつろ)になり、周囲の動揺する空間に溶け込んだかのようだった。再び姿を現した時、朕はすでに数百丈の距離を一瞬で超え、狂ったように蠢き滔天の邪気を放つ祖霊図騰柱の真ん前の虚空に立っていた!
あの暗紫色の渦の眼が、目前に迫る!冷たく、混乱し、全ての生命への本質的な悪意に満ちている!無数の低く響く、冒涜的な、魂すら崩壊させる囁きが、億万の毒虫のように、直接朕の脳裏に這い込んできた!
「邪穢!誅殺すべし!」
朕は指を合わせて剣の形とし、体内の狂暴で不安定な煉虚境の霊力を強引に圧縮、導引し、かろうじて悟った一抹の虚空真意を混ぜ合わせ、あの巨大な牛頭の石像に向かって、虚空を指さした!
「破!」
天を揺るがすような大音響はなかった。ただ、空間そのものが突き破られたような鈍い「ブスッ」という音だけがした。
指先の前方で、虚空が石を投げ込まれた水面のように、突然内側へ陥没、歪んだ!一本の漆黒で細長い、縁に不安定な銀芒がきらめく空間裂痕が、音もなく生成され、死神の牙の如く瞬間的に伸び、図騰柱の頂上にある、狂乱して回転する暗紫色の渦の眼のど真ん中へと突き刺さった!
**ジジジジジ―――!**
焼けた烙鉄を氷水に突き刺すかのようだった!聴覚の限界を超えた耳障りな鋭い音が猛然と爆発した!巨大な渦の眼は激しく震え、歪んだ!無数の紫黒色の、粘稠な石油のような穢れた物質が、砕けた眼球の破片と混乱した精神の流れと混ざり合い、空間裂痕に突き刺された傷口から猛烈に噴き出した!
**ゴオオオオオオオア―――!!!**
非人、非獣、極限の苦痛、激怒、そして何か神聖を冒涜された怒りに満ちた咆哮が、図騰柱から発せられたわけではない。それはあたかも、暗紫色の渦が繋がる、知られざる異界の深淵から直接響いてきたかのようだった!祖霊祭壇全体が、下の粘稠な血肉の泥沼と共に、激しく震動し始めた!
空間裂痕の力は引き続き引き裂き、湮滅した!巨大な渦の眼は、傷口を中心に、内側へ崩壊、潰散し始めた!図騰柱の表面を覆っていた紫黒色の生体物質は、背骨を抜かれたように瞬時に活性を失い、大きく剥がれ落ち、溶解し、悪臭を放つ黒煙へと化した!
**成功した!**
しかし、その渦の眼が完全に崩壊し尽くそうとするまさにその刹那!
言い表せない、朕の煉虚境の理解を超越した冷たい意志が、宇宙の深淵の極寒の体現の如く、今まさに断たれんとする繋がりに沿って、あの異界の深淵から猛然と「一瞥」してきた!
**ゴゴゴゴゴゴォン―――!**
朕の脳は億万の氷の錐で貫かれたかのようだった!魂は脆い瑠璃のように、瞬時にひび割れだらけになった!眼前の全ての光景――崩れ落ちる祭壇、混乱する戦場、殺し合う軍隊――が消え去った!残ったのは永遠の、全てを飲み込む闇、そしてその闇の中にゆっくりと開かれる、無関心で絶望的な…巨大な眼だけだった!
**ペッ!**
熱い金色の血液が抑えきれずに噴き出した!空間裂痕を強引に操った反動と、異界の邪神本体からの、たとえほんの僅かな意志の衝撃であっても、内外からの攻撃によって、朕のようやく上昇し、もともと不安定だった煉虚境の修為は瞬間的に激しく揺らぎ、金槌で叩かれた磁器のように、崩壊の瀬戸際に追いやられた!身体は制御を失い、半空から墜落した!
「陛下!」「陛下をお守りせよ!」
下から、鎮南侯と数人の人族将軍の驚愕と絶望に満ちた絶叫が聞こえた。
両足が祭壇の下の、まだ汚血で完全には覆われていない黒い岩の上に重く落ちた。岩は瞬時に粉塵となった。朕は片膝をつき、手で地を支え、激しく息を切らした。金色の血液が絶え間なく口角から溢れ、穢れた地面に滴り落ち、ジジッという微かな音を立てた。見上げると、祖霊図騰柱の頂上で、あの暗紫色の渦の眼は完全に消え失せ、ただ一つの巨大な、縁に空間湮滅の気配を残す漆黒の穴だけが残っていた。柱体を覆っていた穢れた物質は潮が引くように剥がれ落ち、その下にはひび割れが走り、死の静けさに灰白した古の石肌が現れた。
祭壇の周囲にいた、最後に残った、最強の歪んだ怪物たちは、祖霊の汚染源が破壊された瞬間、力を源泉から奪われたかのように動作が一瞬止まり、さらに混乱し絶望的な悲鳴を上げたが、すぐに隙を突いた四族連合軍の狂暴な攻撃に完全に飲み込まれ、引き裂かれた!
谷間での戦闘は、祖霊図騰柱の崩壊と最強の怪物たちの倒壊に伴い、急速に終盤へと向かった。残った、取るに足らない狂乱の妖物は分断包囲され、四族の精鋭たちの掃討の下で、烈陽の下の雪のように消えていった。
最後の一匹、三つの頭を持ち骨の刃を振り回す巨大な狼妖が矮人族の符文火砲で肉片の雨と化し、精霊族の浄化の月華が最後の一掬いの蠢く穢れた肉泥を完全に蒸発させた時、天を震わす殺し合いの声、怪物の咆哮、エネルギーの爆発音…は潮が引くように急速に静まり返った。
**死の静けさ。**
息詰まるような、濃厚な血の匂いと焦げた悪臭が混ざった死の静けさが、谷間全体を覆った。
夕陽の残光は、いつの間にか西の空を染め上げ、このようやく最終的な掃討を終えた修羅場に、粘稠な暗赤色の光を塗りつけていた。折れた図騰柱の残骸は巨獣の枯骨の如く、血塗れの空を指していた。地面は、踏むと吐き気を催すほど厚い、汚血、肉片、骨の欠片、灰が混ざり合った泥濘だった。焦げた跡、巨大な穴、武器の斬りつけた溝…が、先ほどの掃討の凄惨さを無言で物語っていた。
四族の戦士たちは、屍山血河の中に黙って立っていた。人族の甲冑は紫黒色の汚れにまみれ、精霊族の銀甲は輝きを失い、矮人族の符文鎧は凹みと腐食の斑点だらけ、獣人族の体毛は血の塊で固まっていた。彼らは武器に寄りかかり、激しく息を切らし、顔には勝利の喜びはなく、極限の疲労、無気力、そして…理解の範疇を超えた恐怖の光景を目の当たりにした後の、払拭できない茫然と深い恐怖だけがあった。
これが…勝利なのか?無数の同胞の血と、この眼前の地獄絵図を代償に得た…勝利?
朕はゆっくりと身体を起こした。煉虚境の修為は体内でなおも渦巻き不安定で、息づかいの度に激痛が走った。あの精血の消耗と魂が受けた衝撃は、消し難い傷跡を残した。朕は一歩一歩、粘稠な汚血と残骸を踏みしめ、崩れ落ちた祖霊祭壇へと歩を進めた。足元では、歯の浮くようなプッツリという音がした。
ついに、朕は祭壇の最高所に立ち、空間裂痕に貫かれた図騰柱の巨大な基壇の傍らに立った。見渡す限り、血で洗われた谷間が一望のもとに広がる。四族の旗印が、屍骸と硝煙の上に黙って立っていた。
その時、宏大で、冷たく、一切の感情の揺らぎもなく、しかしあたかも直接魂の深くに響き渡る声が、九天の上からの雷霆の如く、轟然と降臨した:
**【天行者よ。此れは救いの始まり、終わりにあらず。】**
**【穢れの源は暫し消えたれど、災禍の輪は回り始めたり。】**
**【百年の期、再び臨まんとす。】**
**【汝…は砥礪前行されよ。】**
天道の意志だ!その声には、朕の犠牲や、この屍山血河に対する一片の憐憫も感じられない。ただ冷たい宣告と重い期待だけがあった。
救いの始まり?朕はうつむき、足元の、四族連合軍と朕自らの手で作り出した、妖族の血で完全に染め抜かれた焦土を見た。十万大山、かつて妖族が繁栄し子孫を育んだ祖地は、今や果てしない死の静けさと濃厚な血の匂いだけを残している。四族の軍隊は、蟻のようにこの巨大な墳墓に散らばっている。
これが…第一歩なのか?一つの種族の絶滅を代償にした第一歩?
巨大な、冷たい不条理感と言い表せない疲労が、谷間に漂う毒瘴のように、瞬間的に朕を飲み込んだ。五十年の血戦、国運を尽くし、千古の罵名を背負い、ついに自らが演出し目撃した徹底的な種族絶滅…が、ただ次の百年のカウントダウンの始まりと引き換えだったのか?ただ天道の口から軽々しく語られた「救いの始まり」だったのか?
夕陽は血のように、重く朕の肩にのしかかっていた。風が、祭壇の上に残った灰と血の匂いを巻き上げ、嗚咽をあげながら、ようやく静まり返ったこの巨大な墳墓の上を吹き抜けていった。