王都軍から魔王軍へ転職
「二日酔いって……ノンデモ=ノマレルナ これで3回目だぞ」
主人公――エクセル=シフトは、朝提出された欠勤理由書を見て頭を抱えていた
人間国・王都軍本部 雑務課
兵のシフトを管理するだけの部署
この世界では――
MPは2日寝なければ回復しない
魔王軍は連勤続きのブラックだが
人間軍は物量に任せた休日天国でダラけ切っていた
――
「今日って……魔王軍への威圧行進だったよな」
棚から休暇申請用紙を引き抜き、出勤可能人数を再計算する
出た数値は……
「ゼロ……ゼロ!? お盆で予備も全員帰省!?」
【予備兵を常に5人は用意】――それが基本中の基本
有給申請を誰が審査したかって? そりゃもちろん、あの上司だ
「サボル=カントク……あんたか……」
あの人が勤務のときは、みんなして有給申請にくる
「適当に全部通す」からだ
俺が管理を効率化しようとして「申請と照会を1マス方眼紙で」
と提案したときは「仕事増やすな!」と却下された
全部通せよ
「いや、今は足りない一人をどうするかだ」
しばらく考え込む
「……俺が行くか」
幸い今日は森の外周を回るだけの散歩みたいなもんだ
名義だけノンデモのカードを使えばバレないだろう
装備庫から予備用の鎧を引っ張り出し、胸に団員カードを差し込む
――
「……あれ 詰んだかも」
エクセル=シフトは魔人の目の前に立っていた
――
「全軍出発」
王都軍は最少人数で出発した
シキカン=ヤヤ=ムイテルが号令をかけ進み出す
とは言っても森の近くをグルっと回るだけだ
王都は休日ムード、こんな日に戦闘などしたくない
そう言ってフラグを立てていると
「敵襲ーーーッ!」
先頭の方から悲鳴が上がる。
「魔人クラス1体 森に潜伏していた模様 」
魔人は魔物の上位存在で、全軍居ても勝てるか分からない
前に居た兵士がジリジリと下がり隊列が崩れそうになる
「慌てるな!今日は転移スキル持ちが居る!転移準備」
魔人は強いがテリトリーから出ない、街まで来る事は建国以来無かった
とりあえず撤退して今日は立て直そう
足元に巨大な魔法陣が現れ、兵たちはタイムカードを打刻して光に包まれていく――
『エラー1人 団員カードと本人が一致しません』
1人を除いて
――
「やばい……詰んだ……」
頭の中で何がいけなかったのかを考える
・二日酔いが居なければ?
・王都軍に入らなければ
いや、全ては人員管理できてないのがいけない
「1マス方眼紙が使えれば【シフト表】が発動するのにっ……」
「お前 いマ シフトと言っタカ?」
声をかけられハッと顔を上げる
『えっ 魔人に話しかけられた 何で?』
怯えながら目線を合わすと、あちらは戸惑いの表情をしている
『あれっ?思ったより俺死ななそうかも』
再び魔人が口を開く
「シフトと言ったかと聞いてるのだが」
さっきよりもハッキリと人間語で発音された
「はい 【シフト表】は私のスキルです 使ってないですけど」
魔人がニヤっと笑う
『あっ 大丈夫とか勘違いだったかも 死ぬわ』
「お前を魔王様の所へ連れて行く 来い」
予想外の言葉に「は?」という言葉が口から出たが
魔人は俺を肩に担ぎ、そのまま空へと舞い上がった――俺は気絶した
――こうして
1マス方眼紙でスキル【シフト表】を使う俺は
魔王軍に無断転職しシフト調整を死ぬ気でやる
まさかそれが世界平和になるなんて
この時の俺は知る由もなかった