第8話
受付カウンターにいたエルフの少女が、驚いたように目を見開く。
「えっ……? ええぇーっ!?」
彼女は俺とエリシアを交互に見ながら、困惑の声を上げた。その様子を、周囲の客や従業員達が何事かと眺めているが、彼女はそれどころではないといった様子で叫び続ける。
「あ、あのっ! 今、私の目の前に突然現れたように見えたんですけど、気のせいですかねっ!?」
「いや、気のせいじゃないぞ」
俺が答えると、少女は困惑した表情を浮かべて固まった。そして数秒後──。
「──はあぁっ!? いやいやいやいや!! そんな訳ないじゃないですか! 何言ってるんですかあなた!?」
彼女は叫び声を上げると、カウンターから飛び出して俺の目の前まで近づいてきた。そして、まるで不審者を見るような目で睨み付けてくる。
「ど……どこから入ってきたんですかっ!?」
「こう……テレポートで」
「テレポートぉっ!?」
俺が答えると、少女は訝しむような表情を浮かべて更に顔を近づける。
「そんな魔法聞いたことないんですけど……本当にテレポートしてきたんですかぁ……?」
「あぁ。別に信じろとは言わないよ。ただ──」
俺は一呼吸置いてから続けた。
「──この宿屋に泊まるから、部屋に案内してくれ」
俺がそう告げると、彼女はポカンと口を開けたまま固まった。数秒後──ハッと我に返ったかのように動き出すと、慌てて口を開く。
「え、えーっと……? あの……お客様という事で宜しいんですね?」
「あぁ。そうだ」
俺が肯定すると、彼女はホッとしたような表情を浮かべた。そして、すぐに営業スマイルを浮かべると、丁寧にお辞儀をする。
「かしこまりました! それでは、お部屋をご用意しますので少々お待ちくださいませ!」
そう言って踵を返すと、受付の奥へと消えていった。俺は周囲を見回してからソファに腰掛ける。エリシアも隣に座ると、無言でこちらを見つめてきた。
「……どうした?」
「別に」
彼女は素っ気なく答えると、そっぽを向くように視線を逸らす。何か言いたい事があるのかと思い、俺は彼女に問いかける事にした。
「エリシアは、この宿屋によく泊まっていたようだな。どうしてだ?」
「記憶を読み取れるなら、聞かなくてもわかるんじゃないの?」
「んー……まあ、確かにそうなんだが。でも一応説明してくれ」
「別にいいけど」
エリシアは短く答えると、そのまま黙り込んでしまった。そして、たっぷり数十秒ほど沈黙が続いたところで──。
「……この宿屋、個室にシャワーがついててお風呂に入れるのよね。だからよく利用してたの」
彼女はポツリと呟くように言った後、それきり口を閉ざしてしまった。どうやらこれ以上話すつもりはないらしい。俺は肩を竦めてから話題を変えることにした。
「そう言えば、さっきの宿屋の娘、魔界王国の冒険者ギルドに居た受付嬢と似てないか? カリンとかいう名前の」
俺が問いかけると、エリシアは少し考えるような素振りを見せてから口を開いた。
「あぁ……そう言えばそうね。同じエルフだし、妙にテンションが高いところとか、特にそっくりだわ」
「もしかして、身内だったのかね?」
「どうかしら? 真人王国にも魔界王国にもエルフは多いし、他人の空似かも」
エリシアが答えると、ちょうど宿屋の少女が戻ってきたところだった。彼女はトレーの上に載せた鍵を手にしている。
「お待たせしました! お部屋の方は2階の一番奥の部屋となっております!」
そう言って、彼女は俺たちの前に鍵を差し出すと笑顔を浮かべた。俺はそれを受け取ると、少女に話しかける。
「なあ。お前、もしかして生き別れの姉妹が居たりする?」
「えぇえええぇぇぇっ!?」
彼女は大声を上げた後、慌てた様子で周囲を見回した。そして──。
「そ、そんなわけないじゃないですか! あは、あはははは……」
引き攣った笑みを浮かべながら答えると、逃げるように走り去っていってしまった。その様子を見ていたエリシアが呆れた表情を浮かべる。
「何よ急に」
「いや何となく気になって」
まさかと思い尋ねてみたが、流石にそんな事は無かったか。
俺は内心で溜め息をつくと、宿屋の階段を上がって2階へと向かった。
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