第6話
異世界人を皆殺しにした俺は、エリシアがいる魔界王国の病院(があった跡地)に帰っていた。
既に日は落ちており、周囲は闇に包まれている。そんな中でも視界には全く支障が無かった。どうやら魔人というのは視力も大幅に強化されているらしい。
「帰ったぞ」
「帰ったぞ、じゃないヨ! 病院を元に戻さず何処をほっつき歩いてたんだヨ!」
俺を迎えたのは、医者の怒声だった。俺のせいで病院が跡形も無く消えているのだから、怒るのも無理はない。
「悪いな。ちょっと遊んできた」
「このゴミ虫! 今すぐ病院を戻さなかったらお前の嫁を質に入れるよ!?」
殺気立った目で睨み付けてくる医者に、俺は肩をすくめて答えた。
「まあ、落ち着けって」
「落ち着けるか! お前のせいでうちの病院が無くなったんだから!」
「分かった分かった。じゃあ、元に戻すわ」
俺は適当に返事をしながら指をパチンと鳴らすと、一瞬にして病院は綺麗に元通りになった。その光景を見た医者は目を大きく見開き、唖然としていた。
「……は」
「これで文句無いだろ? じゃあ、またな」
俺はそれだけ言うと、踵を返して立ち去ろうとする。しかし、背後から医者の怒鳴り声が聞こえてきたため、渋々立ち止まって振り向いた。
「おい待てヨ! まだ治療費を貰ってないヨ!」
「治療費? それは、さっきエリシアが銀行から下ろした金がたんまりあるだろ?」
俺はエリシアの方に視線を送る。彼女は、銀行から下ろしたカネを大事そうに抱えていた。
「あ。その事なんだけど、魔界王国では真人王国の通貨は使えないって言われて……」
「マジで?」
エリシアの言葉を聞いて、俺は思わず聞き返すと、彼女はこくりと頷いた。
「今まで、パーティーの金銭管理は仲間がしていたから気付かなかった」
「じゃあ、エリシアの銀行口座にある大金は、この国では使えないのか?」
「そうヨ」
マジかよ。最悪だな。
だが、これはある意味良い機会だ。
「こうなったら、俺がカネを稼ぐしかないな」
「アルファ……」
「任せろよ、エリシア。たったの1000万シルバーぽっち、すぐに稼いでみせるさ」
そう言って、俺はニヤリと笑った。
*****
医者を説得(もう一度病院を転移させるぞと脅す)してエリシアを連れ出すことに成功した俺は、彼女と共に以前赴いた冒険者ギルドへと向かった。
相変わらず、ギルド内には屈強な冒険者達が屯しており、酒やギャンブルに興じている奴らもいる。
魔界王国なので、魔族ばかりだ。獣人やエルフ、ドワーフなどの亜人が殆どで、中にはリザードマンらしき者もいる。……見たところ、人間は1人も居ないようだ。
だが、そんな連中は俺たちの顔を見た途端にギョッとした表情を浮かべて距離を取り始めた。
「……何だ? あいつら」
不思議に思い首を傾げるも、今はそれどころではないので無視して受付へと向かう。そこで俺は、ギルド職員の女性に声をかけた。
「おい。冒険者登録したいんだが」
「ひゃんっ!」
突然の声に驚いたのか、彼女は可愛らしい声を出し、身体をビクリと跳ねさせた。だがすぐに気を取り直すと、頬を紅潮させながら頭を下げる。
「ど、どうも! 受付嬢のカリンと申しますっ!」
……以前、対応してもらった受付嬢ではなかった。
黒髪のボブカットに赤いリボンを付けたエルフの少女。年齢は十代前半くらいだろうか? 非常に可愛らしい顔立ちをしているが、今は緊張しているのかガチガチに硬直していた。心なしか、身体も震えているように見える。
(……何でこんなビビってんだ?)
不思議に思いながらも、俺は言葉を続けた。
「──えっと、とりあえず登録したいんだけど」
「は、はい! それではまずこちらの書類に記入してください!」
彼女はそう言って、一枚の書類を差し出した。
……意味の分からない言語で書かれて、全く読めない。
おそらく、魔界王国の文字だろう。とりあえず、エリシアに翻訳してもらおうか。
「エリシア、この書類って読めるか?」
俺が尋ねると、彼女はこくりと頷きながら答えた。
「うん」
「読んで。というか、代わりに書いて」
「わかった」
エリシアが書類に目を通していくと、必要記入事項に次々とペンを走らせていく。そして、ものの数分で書き終えると、受付嬢のカリンに書類を手渡した。彼女がそれを受け取ると、恐る恐るといった様子で問いかけてくる。
「あ……あのぅ……本当に冒険者登録をなさるんですか……?」
「あぁ」
俺は短く答えると、早速手続きを進めてもらうことにした。
カリンはおずおずといった様子で、エリシアが記入した書類に目を通していく。すると、徐々に彼女の顔色が青ざめていった。
カリンは震える手で、書類の一部を指差す。
「あ……あの……こ、これ……。貴方の親族の記入欄に、『エリシア・グランツフォード』と書いてあるんですけど……。こ、この名前って……確か、真人王国の『勇者』と同じ名前じゃないですか? い、一体どういうことなんですかぁ!?」
カリンは涙目になりながら訴えてきた。どうやら、エリシアが勇者であるという事を知っているらしい。
「エリシア、もしかして有名人?」
「一応、勇者として魔界王国では有名。……まあ、悪い意味でだけど。王国軍を壊滅したり、重要施設を破壊したり、魔王と戦ったこともあるわよ」
「へぇー」
エリシアの言葉に、俺は思わず感心した。流石は勇者様、大活躍していらっしゃるようだ。
「な……何でそんな人がここに……? 貴方は、一体誰なんですかぁ?」
カリンが恐る恐るといった様子で尋ねると、俺は肩を竦めて答えた。
「婚約者だ」
「びえぇえええぇぇっ!!」
カリンは驚きのあまり、大声を上げて泣き始めてしまった。周囲の冒険者達が何事かとこちらを見る中、彼女は奥の方へ走り去っていく。
「お、おい! 手続きをしてくれよっ!」
「……前途多難ね」
俺が叫ぶと、エリシアが溜め息混じりに呟いた。
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