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第15話

 影の正体は猫モドキだった。よく見ると俺が倒した個体より、ふた回りは大きいようだ。

 猫モドキは素早く俺の背後に回り込むと、首に腕を回してくる──。


「んっ?」


 突然首を絞められて驚く俺に、猫モドキはニヤリと笑ってみせた。

 勝ち誇ったように笑みを浮かべた猫モドキはより一層腕に力を込めた。


「……まさか背後を取られるとはな。でも──軽い」


 俺がそう言うと、猫モドキの腕を強引に引き剥がすして──そのまま腹に拳を叩き込んだ。


「グボォッ!?」


 呻き声を上げて吹っ飛ぶ猫モドキに向かって、さらに追撃を加えるべく走り出したのだが──そこでエリシアの声が聞こえてきた。


「アルファ! 後ろよ!」


 その言葉を聞き、反射的に振り返ろうとするも──その前に何かが俺の背中を直撃した。

 感触からして、おそらく矢のようなものだろう。俺は、視線を上に向けると──そこには複数の猫型魔物たちがいた。

 どうやら、猫モドキの数は一体二体ではない──そして今、その魔物たちが俺に向かって攻撃してきたというわけだ。

 俺は背中の矢を一旦無視して、拳を突き出す。拳に魔力の風を纏わせ、それが暴風となって猫モドキたちに襲い掛かる。

 ──だが、その攻撃はあっさりと避けられてしまう。猫モドキたちは、ニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。


「くそ、完全に舐めてやがるな……」

「──ねえ、アルファ。貴方、もしかして手加減している?」

「まあな。ほら、昨日約束しただろ。建物を壊さないようにするって」

「…………あ。そっか」


 エリシアは、鳩が豆鉄砲を食らったような表情で納得する。

 そう。彼女とのの約束がある以上。このダンジョンを破壊するほどの高火力技は使えない。


「──こうなりゃ仕方ない。今のまま戦っても勝ち目は無さそうだからな」


 広範囲高火力の技がダメでも、……それならそれで戦い方はあるというものだ。

 俺は、拳を収めると猫モドキを睨みつけた。すると、向こうも同じように俺に鋭い視線を向けてくる……!

 そして、奴らがニヤリと笑うと──猫モドキたちは一斉に走り出した。


「向かってくるなら好都合だ。──来いっ!」


 俺はすぐに身構えると迎撃態勢を取る。

 そして──そのまま殴りかかる猫モドキに対してカウンターを仕掛ける。が、猫モドキもそれを予測していたようだ。俺の拳を躱さずに、自らの腕のしなりで『受け流す』と──その腕を掴んで背負い投げをしてきたのだ。


「おいおい、芸達者だな!」


 地面に叩きつけられそうになりながらも、すぐさま魔法を行使して攻撃。

 至近距離から爆熱の衝撃波を全方位に放ち、背負い投げを仕掛けてきた猫モドキを一瞬で黒焦げにする。


(……よし。壁や床に目立った傷痕無し。成功だ!)


 俺はニヤリと笑うと地面を蹴り、一気に加速する──そしてそのまま猫モドキに向かって飛びかかった。俺の動きに反応できなかったのか、奴らは驚愕で目を見開く。

 ──だが、もう遅い。俺は思いっきり猫モドキの身体を抱え上げると──地面に叩きつけた。


「グギャアッ!!」


 その調子でもう一体、また一体と倒していく。

 何度も倒したことでコツが掴めてきたのか、その後も我武者羅に拳を振るい続けた結果──気が付けば最後の一体を倒したようだ。

 周囲には動かなくなった魔物たちの死体が散らばっている。……少々張り切りすぎたせいで、かなりグロテスクなことになっている。正直言って気持ち悪すぎる光景だな。まあ、俺のせいなんだけどな……。

 俺はエリシアの方を振り向くと、彼女に声を掛けた。


「大丈夫か? 怪我はないか?」


 俺がそう問いかけると──彼女は小さく微笑んで返してきた。


「誰に向かって言ってるの? 大丈夫よ」


 そう言って微笑む彼女の姿を見て、思わず笑みを浮かべる俺であった……が──次の瞬間には背後から粘りつくような気味の悪い感覚に襲われる。


(なんだ……?)


 突然訪れた異様な空気感に戸惑っていると──不意にエリシアが声を上げた。


「アルファ、伏せてっ!!」


 それと同時に激しい爆音と共に何かが天井を突き破ってきた。

 咄嗟に飛び退いた俺の目の前に現れたのは──全身を炎に包まれた巨大な鳥のような怪物だった。

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