第13話
「よう、エリシア。実はさっき、神族の女に襲われてよ。ベッドに連れ込まれそうになったから背骨をへし折った後、ボコボコにしてやったぜ。まあ、色々あってアルマっていう上司的な奴がやってきて、女を連れて逃げていった。で、そのせいで宿屋が半壊しちまったんだけど、どうしたらいいと思う?」
「──あのね。私がシャワーを浴びている間に、どれだけ事件に巻き込まれたのよ」
エリシアは呆れたように嘆息すると、濡れた髪をタオルで拭った。
今、俺たちがいるのはエリシアが借りている宿屋の個室。但し、俺が壁をぶち破ったせいで部屋の半分が吹き飛んでしまっている。
「それで? 神族ってどういうことなの?」
エリシアは怪訝そうな表情でこちらに問いかけてきた。まあ、当然の反応だろう。いきなり『神族に襲われた』なんて言われたら驚くに決まっているからな。
俺は、エリシアに先程までの経緯を簡単に話した。
会話を聞きながら、エリシアはタオルを頭に乗せたままベッドに腰掛け、黙ってこちらを見つめてくる。
そして、俺が話し終えると同時に口を開いた。
「そう……そんな事があったのね」
そう言ってエリシアは深い溜め息を漏らした。その表情からは疲労の色が窺える。どうやら、相当疲れているようだな──無理もないか。何せ、今日だけでも色んな出来事があったからな。
借金を背負うわ、異世界人が敵になるわ、挙句の果てには神族まで出てくる始末だ。まあ、ほぼ俺のせいなんだけどな。
エリシアは視線を落とすと、小さく呟く。
「あのね……アルファ」
「ん? 何だ?」
「とりあえず、宿屋の修理費は私が立て替えておくわ。真人王国なら私の貯金が使えるし。──でも、これからは街の建物を破壊するのは禁止ね。いくら余裕があるとはいえ、お金がどれだけ有っても足りないわ」
「反省する」
俺は素直に頭を下げた。
確かに、宿屋の弁償は俺がやらなきゃいけない問題だ。エリシアの言う通り、今後はもう少し自重しないといけないだろう。
そんな事を考えていると──不意にエリシアがベッドから立ち上がり、俺の傍に近づいてきた。彼女の吸い込まれるような美しい瞳が間近に迫り、思わずドキッとした。
しばらくの間静寂が続いた後──エリシアはゆっくりと口を開く。
「心配させないでね」
そう言って微笑む彼女の表情は穏やかで、とても優しかった。
俺はその笑顔を見て、胸が高鳴るのを感じた。
「エリシア……」
「さあ、まずは宿屋のオーナーに会いに行きましょう。貴方が宿家を壊しての件について話し合わないとね」
そう言ってエリシアは俺の手を取ると歩き出す。俺は引っ張られる形で彼女に続いた。──だが、どうにも納得がいかず、思わず立ち止まってしまう。すると、エリシアは俺の顔を覗き込みながら問いかけてきた。
「どうしたの?」
「いや……それだけなのか? 他に何か言うべきことがあるんじゃないか?」
俺が問い掛けると──エリシアは少し考える素振りを見せた後で口を開く。
「特に無いわ」
彼女はあっさりと言い切った。そして、そのまま言葉を続ける。
「でもそうね──強いて言うなら、貴方が無事で良かった。これだけね」
エリシアはそう言って微笑むと、再び俺の手を取り歩き出したのだった──……。
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