1話
全3話。残り2話は12時と17時に自動投稿します。
元々は長編予定でしたが、プロット未完成と体調不良が原因で断念。
詳しい話は活動報告で述べます。
「優菜さん、唯奈さん……どっちでもいいので、俺と付き合ってください!」
「「ごめんなさい」」
とある男子が最低な告白の仕方をしているところ目撃してしまった。
さすがにどっちでもいいからはないだろうと俺、雨宮進は考えていた。
如月優菜に如月唯奈。
彼女らは所謂学園のマドンナだ。それが二人もいる。何故二人もマドンナがいるのかというと、彼女らは双子なのだ。
つまり容姿が瓜二つの美女が二人も居ることになる。だから男子どもはこう思うわけだ、『如月姉妹のどっちでもいいからどちらかと付き合いたい』と。
いくらなんでもそれは――
「あーっ、雨宮、悪いんだ。告白盗み聞きしていたでしょ?」
思考に集中しすぎた。彼女らの接近を感知できなかった。
悪気はなかったにせよ、告白場面を目撃してしまったという事実は変わらない。
「ごめん、理由はどうであれ告白現場に居合わせたのは事実だ。すまなかった」
「いいですよ、そんなにかしこまらなくても。唯奈、そんなに雨宮くんの事をいじめないの」
「だってさぁ、私たちだって思うところがあるわけで……」
思うところというのは俺が盗み聞きしたということよりかは、どちらかというと男子の告白の仕方のことを指しているように思える。
毎回あんな酷い告白をされたら嫌気が差すだろう。
美人に生まれても後悔するような出来事が日々起こるなんて、この世の中は簡単には出来ていないなと思う。
「雨宮くん。その、男子目線から見て今の告白とか、私たちとか……率直にでいいのでどう思うか教えてもらえませんか?」
とは言われても答えようにも判断材料が少なすぎる。持っている情報と言えば他の男子と同程度だ。
学園一の美少女が二人、文武両道……そんなところかな?
「正直あの告白は酷いとは思う。告白って一人の相手を好きになって初めてするものじゃないのか? なのに見た目が似ているからってどっちでもいいっていうのは個人の尊厳とかを無視しているようで、好みじゃない」
その言葉を聞いた彼女らは耳打ちし合う。
何を話しているのか分からないが、俺に聞かれると困るような内容なのだろう。それなら俺も無理やり聞くような真似はしない。
程なくして彼女らの内緒話は終わったようだった。
「ねぇ、雨宮。雨宮は私たちのこと、どう思う?」
「どうって……まず今まで接点がなかったじゃないか。知らない人たちだからよく分からない。……って俺、めっちゃ失礼なこと言っているな」
彼女らは数秒間俺を凝視したあと、二人はお互いに視線を交差し合った。
次の瞬間、彼女らは急にハイタッチをした。
「唯奈、聞きましたか!? さっきの言葉の数々! ようやくまともに会話ができそうな男子が私たちの前に現れましたよ!?」
「本当だよ、優菜! 今までちょっと会話した男子は数日もしないうちに急に告白してきたけど、雨宮なら普通に会話できそう!」
相当ストレスが溜まっていたんだろうな。彼女らはついに『ちょっと会話した男子が告白してくる現象』から解放されようとしていて、嬉々として二人して喜びを分かち合っていた。
彼女らが求めていたのは下心を持たない男子だ。だとすると俺はその役目を果たしている間のみ彼女らの警戒心を解くことができる。
要約すると俺もそう簡単に彼女らに惚れるなよってことだ。
なんにせよ、用件はもうなさそうだしこの場を離れることとしよう。
「じゃあ俺は帰る。悪いな、如月さんたち。変なタイミングでこの場に居合わせてしまって」
「そんなことはないですよ。また明日からよろしくお願いします。雨宮さん」
「じゃあ、またね、雨宮」
そんな出来事もありつつ、この日は帰宅した。
◇◇◇
翌日登校中に正門を通り抜けようとしたところで誰かが近寄ってきた。
「おはよっ! 雨宮」
「ああ、おはよう。如月さん」
彼女は俺の前へ行ったかと思うと、くるりとその場で身を翻す。
男子たちも大変だな。こんなにかわいい子に話しかけられて、挙動まで可愛いとなれば好きになる気持ちも分からんでもない。
だからといって昨日の告白は流石に酷いにもほどがあるが……。
「名前呼びでいいよ? じゃないと姉妹二人が揃ったとき呼び方で困るでしょ。――ちなみに私は如月姉妹のどちらでしょうか?」
「妹の唯奈さんでしょ。話し方で分かるよ」
「――本当ですか? どうしましょう? 私は唯奈だったのかしら?」
「混乱するからやめてほしいな。見分けられるほど仲がいいわけじゃないし」
俺が彼女らを区別できるのは髪型と口調のおかげだ。それらを入れ替えられた場合、俺は二人を見分けることができない。
しかし姉の優菜さんの姿が見当たらない。いつも彼女らは一緒に行動している。
今日に限ってバラバラに行動しているとは考えにくい。……どこに居るんだ?
俺はあちこちに視線を送る。
「ああ、優菜を探している? 優菜ならあそこにいるよ」
流石双子の絆。一瞬で姉のことを探し当てた。
~~~
ああ、どうしましょう!?
雨宮さんとお話しできる関係になりましたけど、私、そもそも男性にそこまで耐性がないのです。
だから今こうして隠れています。……でも妹の唯奈に見つかったらしく、雨宮くんと唯奈がこちらに向かってきます。
「おはよう、如月さん」
「おはようございます、雨宮さん」
私、普通に挨拶できていましたよね? ちょっと緊張しました。
雨宮さんは私と挨拶した後、靴を履き替えてそのまま教室へと向かいました。
「――雨宮。男子なのにほんっとうに私たちに興味がないんだね。不思議な人」
私たちにとっては一風変わった方に見えますが、本来異性というのはあちらの方が普通なのではないですかね?
たぶんですけど、いちいち異性を異性としてすぐに意識する方が変わっているのです。
でないと、まだ初恋すら訪れていない私たちの恋心に異常があるということになります。
「優菜、私はちょいちょい雨宮と接触を図るけど、優菜はどうする? 男性、ちょっと苦手でしょ?」
「はい。でも雨宮さんなら――」
雨宮さんなら、仲良くなれそうな気がします。