異世界に飛ばされてレストランを始めてみた
「もうそろそろこの店ともお別れか」
世の中に未知の感染症がやってきて、俺の店にも影響が出てしまった。そして、とうとう休業にまで追いこまれてしまった。今日は店の最終日。営業時間も終わりに近づいていた時、1人の客が入ってきた。客は席に着くと、メニューも見ずに俺の方を向いて言った。
「ここの1番のおすすめを頼む」
「おすすめですか? かしこまりました」
そして俺は厨房に向かった。この店のおすすめはナポリタンだ。それをさっきの客に出した。
「これがここのおすすめかい?」
「はい。私にとって思い入れの強いメニューでして。明日からはここも休業してしまうので」
「おや、それは気の毒に。でしたらいい案がございます」
いつの間にかナポリタンを食べてしまった客は、そう言うと立ち上がった。
「ひとまず私とともに来てもらいましょう」
「えっ・・・」
そう言われて目の前が真っ暗になった。それからどれくらい時間がたっただろう。俺が目を覚ますと、少し向こうにあの客が立っていた。
「ここはどこだ! 俺の店は・・・」
「ここは日本とは異なる世界。そして、あなたの店はここですよ」
「あんた何者だ。俺をどうする気だ」
「私はただの客ですよ。あなたには今日からここで働いてもらいます。そして料理を作って下さい」
「は?」
俺がぽかんとしていると、客の男が目の前にやってきた。
「ただし、相手は人間ではありません」
「人間じゃない?」
「妖怪、お化け、化け物などなどですが、皆腹をすかせて待っております」
そして男が人差し指を立てる。
「1つ条件があります。皆の口に合わなければ、即あなたを食べてもらいます。断ってもいいですが、命の保証は出来ませんね」
「なっ・・・」
「さて、どうしますか?」
「・・・わかった。やるよ、やりますよ。命の保証がないならやるしかないだろ!」
「よかった。では、こちらからどうぞ」
そう言って、男は裏口から俺を厨房まで案内した。厨房はきれいに整えられていて、材料もそろっていた。
「ここの食材は日本のものと同じだな。これなら何か作れそうだ」
俺が食材を見ていると、ホールの方から声が聞こえてきた。
「腹が減ったー!」
「飯はまだなのか!」
「早く出せー!」
いろんな声が聞こえてきた。まずい、このままじゃ俺が喰われてしまう。
「どうすれば・・・」
俺が戸惑っていると、男がぽんっと肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ。あなたがあの時出してくれたおすすめを出したらどうですか?」
「おすすめ?」
そうだ。この客に出したのはナポリタンだ。この食材なら作れる!
「ありがとう! 作ってみるよ」
俺が料理を開始して少し経った頃、男が話しかけてきた。
「この料理は思い入れがあると聞きましたが、何か理由があるのですか?」
「あぁ。これは、小さい頃亡くなった母さんがよく作ってくれた料理なんだ。だから、俺もよく作るようになってな」
「ほぅ・・・」
男は顎に手を持っていき、何か考えこんでいた。ちょっと気になったけど、俺は料理を続けた。
「ふぅ、やっと出来上がった!」
「お疲れ様です。では、皆の所に持っていきましょう」
ホールに行くと、見たことない化け物たちがうようよいた。急いで持っていって早く戻ろう。なんとか全部運び終わった。
「なんだこの飯は?」
「なんかうねうねしてるぞ」
「食べれるのか?」
化け物たちはざわついていた。どうしよう、ナポリタン見たことないのかな・・・。俺が心配そうにカウンターから見ていると、1人の子どもがナポリタンを食べた。
「うまい!」
そう言って、子どもはバクバクと食べ始めた。それに続いて周りの化け物たちも食べ始めた。
「確かにうまいな、これ!」
「俺にももっとくれー!」
「私も食べたいわ」
どうやら化け物たちの口に合ったらしい。よかった、これで食べられる心配はなくなったな。ふぅーと胸をなでおろしていると、あの男がやってきた。
「上出来ですね。これからもこの者たちの腹を満たして下さいね」
「あぁ、わかったよ。その前にナポリタンのおかわりを作らなきゃな」
俺は急いで厨房に戻った。
「本当はこの者たちのえさを探してたんですが、別の意味でいい人材が見つかりましたよ。頑張って下さいね・・・」
男が小さい声で何か言ったが、俺には聞こえなかった。休業まで追いこまれた俺の店は別の所にかわって、料理を作る日々はまだまだ続きそうだ。