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Seasons / シーズンズ

9. 飼

作者: 高橋知秋

 大学生の頃サークルの関係で知り合った、FとKとOって奴がいて。俺とその三人、っていうメンツがいちばんよく遊んでた顔ぶれなんですよね。いつもその四人でいたわけではないんですけど…まあ…いつメンというか…仲良しグループみたいなもんです。Fと俺だけで遊ぶ、とか、KとOと俺でご飯行く、みたいなのも多かったです。遊ぶ時に自然と一緒になるし、共通の友達も多い、みたいな、そんな感じ。


 それで大学三年の夏休みだったんですけど…急にKと連絡が取れなくなって。

 そんな長い期間じゃなくて…五日かそこらだったと思うんですけど。でもいつもはLINEとかで連絡入れると割とすぐに返事が来るタイプの奴だったんで、やっぱりそれなりに不安にはなったんですよ。最初の一、二日は体調でも悪いんかなーって思ってたんですけど、流石に三日目になると何かあったんかな?って思うようになって。それでFとかOとか共通の知り合いに訊いてみたら、誰も連絡取れなくなってて。ただ、既読は付いてたんですよね。だから倒れたとかじゃないっぽいな、ってのは分かってたんですけど、全く返信がなかったんで…。

 それでFとOと「そろそろKの家とか行ってみた方が良いんじゃねえか?」みたいな話をし始めた頃になって、Kからその4人で作ったグループに「なんか心配かけてごめんな!」ってLINEが来たんです。そうだぞ、心配したんだぞー!みたいな返信を入れたら、悪い、ごめんな、ちょっと用事があって忙しかったり体調良くなかったりして連絡返すタイミングなくて…みたいなこと言ってて。でもちょっとKの様子が気になったんで、明日久々に飲みにでも行こうぜ、って誘いを入れたんです。そしたら、いいね、って感じの返事が来て。ただその時Oは実家に帰省してたんで、俺とFとKの三人で飲むことになったんですけど。


 それで次の日、いつも行ってた居酒屋の前で待ち合わせして、会って。…まあ、連絡付かなかったつっても一週間かそこらですからね。特に何の変化もなかったです。そんな数日でガリガリにやつれてたらそれこそ異常ですし。Fがふざけて「変わったなぁ~!」って言ったら「どこがじゃ!」ってツッコんだりしてて。普通に元気そうでその時は安心したんですよね。

 で、店の中入って、とりあえずビール頼んで乾杯して。お通しの漬物をつまみながら、それとなく何で連絡が取れなくなったのかを訊いてみたんです。でもなんか…答えがLINEで訊いた時と殆ど一緒で。用事があって忙しかった、あと体調も良くなかった、だから連絡するタイミングを逃しちゃって、みたいな。体調が悪い、って言っても、どこがどう具合が悪かった、みたいな具体的な話が出て来ないんですよ。大丈夫?って聞いても、そんな大したことじゃないから、みたいな感じに濁されちゃって。

「こんなに酒飲んでる奴が大丈夫じゃないわけないだろー!」

 とか言ってビールをあおって笑ってるんで、俺とFも調子を合わせて、まあそうだな!みたいな返事をしながら一緒に笑ったんですけど、俺たちは内心(いやこの質問ってそういうんじゃないんだけどな…)って感じで。別にKの察しが良くないとか、人の言葉の機微が分からないとか、そういうわけじゃないんですよ。むしろKってそのいつものメンツの中では気が利く方の人間だったんですよね。だから余計に…その…具体的な部分をあえて避けてる感じ?が気になったというか。


 それでちょっとしたらKがトイレに立ったんで、Fと二人で喋ったんです。

「どう思う?」

 みたいな、そんな感じで訊いたら、Fが

「…わかんないけど、なんか…探られたくないのかな?」

 って言ったんで、ああ、もしかしたらそうかもしれないね、と。こちらとしてはまあ気になるっちゃあ気になるんだけど、本人があまり話したがらないんだったら無理に話させてもしょうがないというか、そういうことをしたいわけじゃないよね、という話になって。例えば家族絡みでトラブルがあったとか、そういうセンシティブな話だったら…あまり聞き出すのもアレじゃないですか。だから、俺たちも変に追及するのはやめようと。そんな感じで結論を出したところで、ちょうどKが戻ってきて…。


 さっきそういう風に決めたんで、ずっと適当な…くだらない世間話をしてたんですよ。人の悪口とか、バイト先に来た変な客とか、先輩の恋愛事情とか、そういうたわいもない…まあ普通に飲みの席でやるような会話ですよね。特に変なこともなく、楽しく過ごしてたんですけど。

 酒が良い感じに回って気持ちよくなってきて、あ~三人ともこれ結構酔ってきたかな、ってなった辺りだから…一時間か二時間経った辺りだったのかなあ。話題が途切れた瞬間にKが

「そういえば俺、ペットみたいなやつを飼い始めたの」

 って言い出して。

 俺もFも、そうなんだ~!みたいなリアクションをした一瞬後に(ん?)ってなって。なんというか…言い回しが変でしょう。「ペット”みたいなの”」って…普通にペットじゃないの?っていう。

「えっ、ペット…ペットみたいなの、って何?」

 ってFが訊いたら、

「いや、俺としてもよくわかんないんだけどね…」

 って言って、話を始めて。


 Kが言うには…最初はそれは黒い、丸い…なんか…毛玉みたいなものだったと。確か「テニスボールよりちょっと大きいぐらい」って言ってましたね。とにかく、黒い丸い、毛の塊のようなものがまずあって。全然動かないけど、でもそれは普通の生き物と同じだから、日光が当たるところに出して、たまに霧吹きをかけてやる必要がある。そういうふうに世話をしていると、オタマジャクシみたいに、ああ、これが腕で、これが足だな、みたいなふうに分かるものが少しずつ生えてくる。それで、最初はただの小さい丸い塊だったそれが、今ではもうけっこう生き物っぽい形になってきている。しかも成長が早い。たった数日の間にただの丸い塊から生き物っぽい形のものになっている。それを観察するのが楽しい。

 …細かいところまでは覚えてないんですけど、だいたいこういう話でした。


 …ドン引きですよ。俺もFも。だって…全く意味わかんないじゃないですか。ちょっと…友達が急に目の前でわけわかんないことを言い出したんで、軽いパニック状態みたいになってました。よく覚えてるのは…話を聞いてる途中でつまんでた唐揚げの味が、急に分かんなくなって。とにかく心を落ち着かせるために口の中に入れてみるんですけど、頭がパニクってるので…感覚としての味は確かに舌で感じ取ってるんだけど、その味が頭に入ってこなくなる感じというか。その変な感覚はやけに印象に残ってます。

 あまりのことに途中三回ぐらい

「え、それ夢の話?」

 って聞いてみたんですけど、

「違う違う」

 って…お前は何を聞いてるんだ、みたいな態度で返されて。…いや、それ夢であって欲しかったなあ、って内心思いましたけど。

 しかも…数日前って、ちょうど連絡取れなくなってたときじゃないですか。え、やっぱり何かあったの?って思って。それでFが

「じゃあさ、その黒い…なんか…塊みたいなの?それは…誰かに貰ったの?」

 って訊いたら

「いや、貰ったとかじゃないんだよねえ」

 って言うんで、

「え、じゃあ拾ったとか?」

 って聞いても

「拾ったってのも…ちょっと違うかなあ」

 みたいな感じで全く要領を得なくて。…しかもその受け答えを、やけにニヤニヤした顔で…なんかのろけ話みたいなトーンで言うんで、余計混乱して。

 一気に酔いが覚めましたよ。何かが明らかに起こってるわけですから。しかも、恐らくあまり良くないことが…目の前で起こってるっていう。


 そしたらFがちょっとトイレ行ってくるわ、って席を立って。おいおいこの状況でサシはきついぞ、と思ったんですけど、仕方ないんで内心そわそわしながら適当な世間話をしてたら、しばらくしてスマホに連絡が入って。パッて見てみたら、Fから

「この後K抜きで俺の家に行こう、Kの気を悪くしないようにいったん別れてから集合」

 ってLINEが入ってました。すぐ「了解」って打って。

 それでFがトイレから戻ってきて、割とすぐ解散する流れになったのかな。たしかFが「俺ちょっと明日用事入っちゃったから」みたいなことを言って、自然な流れで解散するように話を持って行った記憶がありますね。その後、店の前で一回解散して、で、Fの家の前で待ち合わせて。


 それでFの家で二人で飲んだんですけど…まあ飲みってのは名目というか。もう…「Kをどうするか?」って言うのを話し合う会ですよね、実質。一応缶ビールを開けたんですけど全然口付けなかったんで、最後のほうは炭酸が抜けてて。炭酸が抜けたビールってこんな感じなんだ!みたいな会話をしたのを覚えてます。


 まずあのKが言っていた毛玉の話が何なのか、って話になったんですけど。でもやっぱり意味が分からな過ぎて、結局「もしかしたら幻覚とかその類なんじゃないか」という話に落ち着いたんじゃないかな…そこに関してはどういう結論を出したのか覚えてないんですよ、悩み過ぎて。いろいろ説は出たんですよね。変な宗教にハマっちゃったんじゃないか、とか、悩みがあっておかしくなっちゃったんじゃないか、とか…。最後の方とかだんだん話し過ぎておかしくなって、Fが「もしかしたらあの話は何かの暗号で、俺たちに何かしらのSOSを送ってるんじゃないか?」という話をし始めて、すぐ我に返って「流石に小説とか漫画の読み過ぎだ」ってなったりもして。

 それで…もうそこは考えても仕方がない、とにかくKがおかしくなっちゃってるのは確定事項っぽいから、これからどうする?って話になって。なにぶんそんな変になっちゃった人の応対なんて経験したことがないんですよ。当たり前っちゃあ当たり前なんですけど。とにかく困った。

 まあ…例えばその黒い毛玉みたいなものを無理矢理渡して来たとか、売りつけてきたとかでもないので、結局「あいつなにか疲れてるんだろうな」って話になって。これからわりと積極的にみんなで集まるようにして、その原因がわかったらゆくゆくは相談など乗ってやろう、変なものに騙されてるようだったら叱ろう、みたいな結論になりました。


 その…一週間後ぐらいだったかな。俺とFとKと、あと帰省から帰ってきたOの四人、つまりいつものメンツ全員で集まって遊ぶことになって…実はそのKと連絡が取れなくなる前ぐらいは俺とKとOとその友達、とかKとFとOだけ、みたいな変則的な集まり方が多かったんですよ。だからその四人だけで集まるのは結構久々になる…はず…だったんですけど。


 その日は…昼過ぎぐらいにOの家の近所にある公園に待ち合わせることになってました。それで、俺が行った時には既にFとOが待ってて。


 実はOには事前にLINEであらかたの事情を説明していたんです。三人でグループ通話を繋いで、これからKをどうするか、みたいな話も一回しました。まあ結論はFと俺だけで話したときと一緒だったんですけど…。ただ、なんかOは妙にやる気があって。通話の時に「俺たちは友達としてKのことを全力で支えなきゃいけない」「もし悪い奴に騙されてKがそうなってるんだったら俺はそいつらを許さない」みたいなことを言ってたんですよね。こいつこんな熱いとこあったんだなあって、ちょっと意外に思いました。

 なんで、その日もOは「Kは大丈夫なのか」みたいな心配する内容の話をずっとしていて。俺とFもそれに引っ張られるようなかたちで、多少おかしなこと言ってても変に指摘して刺激しないようにしよう、とか、本当に騙されたりしていてマズそうであれば別の友達にも相談しよう、みたいな、そういうシリアスな話題をずっと話してました。

 それでしばらくしたらKから「もうすぐ着くよ」って内容のLINEが来たんで、じゃあこの話は切り上げるか、ってなって。まともに会話もせずに、何とも言えない気持ちでKを待ってたんですけど、不意にOが

「おい、あれ…なんだ?」

 って…震え声を出して。どうしたんだろう?って思ってOの方を見たら、若干怯えたような表情で前の方を指差してるんですよ。え?と思ってその指を差してる方を見たら。


 Kがこっちに向かって歩いてきてたんです。その様子からして、俺たちのことにはまだ気づいてないみたいで。

 服装は普通でした。見てすぐに、前もあのTシャツ着てたな、って思ったのを覚えてます。それでたぶんリュックを背負ってて…、ってところまで見て、気付きました。

 …なんか持ってる。

 結構距離があったんで、それが最初何なのか分からなかったんですよ。なんかけっこうデカいもん持ってるな、って思って。目を凝らして見てたんです。ちょっとづつ近付いてきて、それが何なのか不意に分かりました。


 頭と胴体と手足があって、これは人の形だ、と分かる…真っ黒なぬいぐるみのような何か…でした。なんて言うんですかね?顔…目とか口とかもなくて、すごい抽象的な形なんだけど、これは頭で、これが胴体で、これが腕で、これが足だ、ああ、これって人を象ってるんだ、ってすぐ分かる形をしてる…棒人間とかが近いのかなあ。上手く言えないんですけど。

 しかもその…ぬいぐるみみたいなやつが結構な大きさで。位置としては…Kは胸の下ぐらいの位置でその何かを抱えてるんですけど、それの脚の先はKの膝ぐらいのところにあって。Kは身長が確か一七六とかあったんで、そこから割り出すと…そうですねえ、一桁台の年齢の子供の身長ぐらいの大きさはあったと思います。

 で、それがなんか…手作り感が無くて。ちゃんと工場で作られたぬいぐるみの感じというか。ちょっとマニアックな感じの雑貨屋さんでこういうものが売ってたんだよ、って言われたら納得できる感じだったんですよ。そこも不思議で。


 なんというか、茫然としちゃって。俺もFもOも絶句してて…(え?えっ?何これ、えっ?)って感じでしたね。暫く何も出来なくて、ただ変なものを抱えながら歩いているKを見てました。そうしてるうちに、Kが…ちょくちょく頭を下げてなんかやってることに気付いて。

 …あいつ、話しかけてたんです。その黒いぬいぐるみみたいな何かに。抱いてる犬に話しかける人、いるじゃないですか。ああいう感じで。

 それを見て妙に冷静に(ああ、だから俺らに気付いてなかったのか)って思った、その時でした。

 急に全身に恐怖が走る感覚があって。本当に…電気が走ったみたいにビビッと恐怖が体の中を走り抜けて、頭だけじゃなくて全身の筋肉とか神経までが、”怖く”なったような…そんな感覚でした。

 なんだ?なんで怖いんだ?何がこんな怖いんだ?って必死になって考えて、わかったんです。


 …俺、Kが抱えてる、どう見ても変なぬいぐるみにしか見えないあれを、”生きているもの”として認識してる。

 いや、違う。あれは”生きてる”。


 その瞬間、気付いたらその場から走って逃げだしてて。もう恐怖で頭が真っ白になってて、ここから逃げなきゃ、みたいなことを考える前に走り出してたんです。で、ふと周りを見たらFとOも同じように走ってて。頭の片隅であれ?なんでだろう?とも思ったんですけど、とにかく今はそれどころじゃない、ここから一刻も早く離れたい、っていう気持ちが強くて。とにかく体力の消耗とかも考えずに、ただひたすら走ってた記憶しかないです。


 気付いたら、三人ともOの家の床にへたり込んでました。息苦しい上に汗だくで、胸の辺りがすげえ痛くて。公園からめちゃくちゃに走ってOの家に駆け込んだ、ってことが何となくわかってくるまでに二分ぐらいかかったのかな。やっと呼吸が整い始めた辺りで、Fが

「あれなんだあ?」

 って言って。俺とOが、

「俺にはわからん…」

 とか

「知らねーよ…」

 って返した後に、Fが

「すごいなんか変な話なんだけどさ、俺あれ見たとき、なんか…ああいう話聞いたからなんだろうけど、うわ、生きてる!って思っちゃってさ…」

 って言うんですよ。そしたらOが急にグイって起き上がって

「俺も思った!」

 ってすげえでかい声で言ったんです。それで俺も思わず起き上がって

「俺も思った!」

 って全く同じことを言って。それでもう全員「ウワー!」ってなって。


 …なったはいいんですけど、すぐに「で、Kをどうする?」って話になって。俺たちが逃げたことにたぶん気付いてないから、まだ公園で待ってるよな、っていう。ただ、あの黒いぬいぐるみみたいな何かを見て、三人とも「生きてる」と思ったって事実が、もうみんなどうしようもなく怖くなってきちゃって。あれを抱えたKと一日一緒にいるってのは、悪いけど無理だよな…っていう。

 それでOが代表して、ちょっと急に用事が出来ちゃって、あとの二人もなんか集まれないみたいだから延期する、ごめんな、みたいな返信を書いたんです。それで俺とFもグループにごめんな、って感じのメッセージを送って。

 正直、ちょっと無理があるかなあ?とも思ったんですけれど、でももうみんなすっかり意気消沈しちゃって、それ以上やりようがなかった。Oも「どうにかしたいけど、もうどうすればいいかわからん…」みたいなことを言ってて。でも正直これはKに悪いよなあ、どうする?みたいな話をまたしてたら、みんなのスマートフォンが、一瞬間をおいて二回連続で鳴って。あ、Kがグループに返信を投げてきたんだ、ってなって。それでスマートフォンをまだ持ってたOがその返信を確認したんですけれど、

「うわあああああ!」

 みたいな声を出して、スマートフォンを投げ出したんですよ。え、何?何?どうした?って訊いたら

「お前らも見ろ!」

 って…なんか若干怒ってるような感じで言ってて。えー?ってなりながらLINEを確認したら。


 まあ予想通りKからの返信だったんですけど。まず、「いいよ!」とだけ返事が来てたんです。で、その下には写真があって。


 さっきまでいた公園に花壇があって。そこのベンチに、あの真っ黒な人型の何かが座らされている写真でした。なんというか、ペットの犬とか、自分の子供とかを撮ってる…みたいな感じの写真で…。


 …スーッて体温が下がりましたね。うわ、「血の気が引く」ってこれか!って思って。全員絶句してる中で、Oが

「…もうどうしようもねえよ…」

 ってぼそっと呟いたのが、もう…本当に怖くてたまらなくて。


 それで…その日はもう何をする気にもなれなくて。

 三人とも「変な返信を見たくないから」ってスマートフォンを機内モードにして、酒を飲みながらOが持ってるいろんなDVDをボケーっと見てました。ただ…何を見たのかは殆ど覚えてないんですよ。とにかく、何もしたくなくてそういうことをしてる、という感じでした。あまり会話もしなかったですね。とにかく何をするのも嫌だった。途中お腹が空いたから三人でコンビニに行って、カップ麺を買って食べて。そのまま夜になったから、またコンビニに行って適当な弁当を買って、それ食べながら酒を飲んで、テレビを見て。

 一人で家に帰ったら悶々と考えちゃうだろうと思ったし、そもそも家に帰る気力もなかったから、そのまま三人で雑魚寝して。


 それで朝起きて、三人で恐る恐る機内モードを解除したんですけど、もう新しい返信は来てなくて。一瞬安心したんですけど、Oが

「おい、Kがいねえぞ」

 って…。

 Kが俺たちのグループから抜けてたんです。


 それからKは本当に音信不通になっちゃって。Oは「冷静に考えたらあれは悪かったな」と思って個人的に色々メッセージを送ってみたらしいんですけど、もう既読すら付かなかったみたいで。

 結局、夏休みが明けたらKは大学からいなくなってました。

 Kの知り合いのなかで俺とも仲がいい人とか、面識がある人とかに話を聞いたんですけど、「地元に戻らなきゃいけない」というような話をされた人は何人かいたみたいです。でも結局その連絡を受け取った人たちも、やっぱりその直後ぐらいからKと連絡が取れなくなったらしくて、詳しい理由は分かりませんでした。

 ただ、Kのその人たちに対する連絡もある時期から急にそっけない内容になっちゃった、って話を聞いたときに、(もしかしてあの黒い何かに熱中したせいなのか?)って思って、すごいゾッとしたのを覚えてます。

 そのあと風の噂で「地元から親が連れ戻しに来たらしい」というような話も聞いたんですけど、それが本当かどうかもわかりません。


 先月ぐらいに、久々に俺とFとOで飲んだ時に、珍しくこの話になったんですよ。この話をすることは今まで…なんとなく避けてたんで。

 その時にOが、

「Kの中で、友達の俺たちよりもあの黒い人形の方が大事になったってことに、俺はものすごい悔しさを感じる」

 って言ってたのが…なんか…忘れられないんですよね。

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