第七話 一歩を踏み出す勇気こそ 〈序章〉
「うんっ」
久々に、きちんと寝た気がする。昨日、夢君と話しててそのまま寝ちゃったんだっけ・・と昨日のことを思い出しながら、目を開ける。もう、すでに何人か起きだしているのか所々で声がする。
「志波さん、起きた?」
私が起きたことに気付いたのか夢君が声をかけてくれる。
「おはよう~」
本当は、寝てすぐの顔とか見られたくないんだけど、仕方ないと割り切る。しばらく、ぼーっと頭が回り始めるのを待つのがいつもの私。今日も、頭が動き出すまで夢君と他愛のない話をしていたんだけど、会話の途中で自分が足元に敷いているものに気付く。夢君の白いローブだった。今、あらためて見てみると夢君はローブを着ていない。慌てて、夢君にローブを返す。
「ごめんっ。敷いてたのに気付かなかった。本当にごめんなさい」
「別にそんなに気にすることじゃないよ。破れたりしたわけじゃないんだしさ」
と渡されたローブを羽織りながら答えてくれる。夢君は、あんまり服とかに頓着しない性格なのを思い出した。1年の頃は黒を好んで着てたのに2年になってから白い服ばかり着るようにいつのまになっていた。何があったのか聞きたいけど聞くことが出来なかった。夢君は、ある程度は踏み込ましてくれたり話してくれるけど、一定のラインより奥には誰も踏み込ませない。いつもはぐらかしてると思う。いつかは越えてみたいけど今はこの関係に満足してる。
「本当に気にしてない?」
念を押してみる。すぐに
「気にしてないって。それより、信藤さん達から何か連絡があるらしいから行こうよ」
そういって、志波さんの背中を押すように促す。
「朝からなんだろうね?」
「う~ん、俺にもわかんないよ」
「へぇ~、水瀬君にも分からないことあるんだ??」
「それは、いっぱいあるよ。俺の知ってることなんて、ほんと一握りの分野のことぐらいだし」と苦笑しながら答える。
みんなが集まっているところに志波さんと一緒に歩いていく。今日は、色々と忙しくなるはずなのだから。
やはり、信藤さんからの話は今日、この部屋から出て外に行くという話であった。グループ内から反対の声も上がる。
「出なくてもいいんじゃないか?まだ食料もあるんだし」
何人かそうだそうだと声が上がるが
「食料があるうちはいいかもしれない。だけど、いつかは無くなるだろう?その時、結局外に出るなら今のうちに外に出ておいたほうがいいんじゃないのか?」
「そのうち、救助が来るかもしれない!そうだろ?」
「来るかもしれないし、来ないかもしれない。どちらにしろ今現在、何も外からのアプローチは無い訳だ」
「そうだけど・・・」
更に、質問する声を遮るように
「言っておくが、強制ではない。残るも出るのも個人次第だ。俺と巖真は外に出るつもりだ」
横にいる巖真も頷く。
「強制ではない。外に何が居るのか、あるのか分からない。自分の意思ではっきりしてくれ。くれぐれも、他人に流されるなよ。出たい奴だけが出ればいい」
そう言い切り、出る人は30分後くらいに扉の前に集まるようにと締めくくった。周りを眺めてみると、いくつかのグループは俺たちよりも早くに外に出ているのか姿が見えなかった。
「水瀬君は、外に行くの?」
傍にいた志波さんから聞かれる。
「うん、もとから外に行くつもりだったからね。俺が出るからって合わせないほうがいいよ。俺は、信藤さんが外に出るって言わなくても外に出るつもりだったからさ」
「それって、1人でも?」
「もちろん、自分の事に他人を巻き込めないからさ」
志波さんと会話をしていると、坂根さんや狭川さんがこちらにやってくる。その姿を見た夢はじゃあと言い残し、志波さんの傍から離れる。それを、少し寂しそうに見送る志波さんであった。
志波さんから離れ、衣服が置いてあった隠し部屋に向かう。手を保護するグローブか何かが無いのか探しに来た。入ってみると、奪い合いが起きた時の凄まじさを床や壁に散らばる衣服が語っていた。それらを見ながらクローゼットや箪笥の引き出しなど1つ1つ確認しながら奥へと向かう。その途中、何故か開かない引き出しもあったが一番奥に目当ての品などが入っている引き出しを見つけた。何個か取り出された後はあったがいくつかは残っており、その中から手に合うものを探し出し、ポーチに幾つか仕舞い1つだけ手に付けた。
(特に、違和感は感じないな)
手を握ったり、開いたりしながら具合を確かめる。ついでに、下着類も発見したので幾つか拝借しグループへと戻る。
戻る中で、開かなかった引き出しの中身についてもしかしたら・・・と思い志波さんに小声で声をかける。
「志波さん、着替えなんだけど・・下着とかってあった?」
あまり、周りに聞こえてほしくないので本当に小さな声で話す。
「えっ!?下着?無かったけど」
水瀬君ってそういう人だったの的な視線をビシビシ感じるが訳を話す。理由を聞いて納得したのか。女子何人かで行ってみるとのこと。終わったら、巖真とかにも下着の件を伝えたいので、女子が回収出来たら連絡してもらうようにして、その場を離れる。
大体、信藤さんが言っていた位の時間にこの部屋唯一の扉の前に移動する。すでに、植田やその彼女、巖真、信藤さん、狭川さん、坂根さん、志波さんなど総勢8名の人たちが居た。自分も含めれば、10名近い大所帯だ。
(結構いるなーって言っても学校の時からグループの人たちばっかりだけど)
植田が軽く手を挙げて挨拶をしてくる。俺も手を挙げて返す。まだ、出発する様子が無かったのでポーチから騎乗槍を取り出し、ローブの上から背中に固定する。ローブで隠れるように腰にも短剣を2本腰の後ろ辺りで交差するように装備した。今気になることは、外に出た人達が一度も戻っていないことと、あの声が言う限り自分の可能性とやらを見せつけないといけないことの2つだ。この扉の向こうに何が待っているのか少し、ワクワクしている。
「そろそろ、時間だ。行こう」
信藤さんが言う。何人か残ることを選択した人も今見る限り居ると思う。革新をおそれては何も産まないというのに。停滞は、ただ堕ちていくだけだというのに。
信藤さんに率いられるように、巖真、植田と続く。夢は最後尾だ。扉の前で止まり、信藤さんが
「この先、何があるかわからない。死ぬ危険性だってあると思う。それでも、行く奴だけついて来てくれ」
そう言い、率先して扉を開け外に出ていく。巖真は無言で後に続き、狭川さんや坂根さん達も出ていく。植田と彼女が目を見つめあいながら、何かしている。
(早くいけよ。オマエラ。後ろから蹴飛ばしてやろうか・・・キサマ)
殺気が伝わったのか、こちら側を植田振り向いたがその時には目を外すように避けた。首を傾げながらも彼女と一緒に扉をくぐって行った。残ったのは俺と志波さんだけ。
「ねぇ、水瀬君。信藤さんの言うように死ぬこともあるのかな・・・」
「死ぬことだってあるかもしれない。でも、それは向こうだって気付かなかっただけで死ぬ可能性はあったはずさ。それが、目に見えるようになっただけだよ」
「そっか・・・」
「でも、信藤さん達は誰かを見捨てるようなことはしないんじゃないかな?俺とは違って」
「水瀬君だって、しないでしょ?」
「どうだろうね?俺は臆病だから逃げるかも」
「じゃぁ、逃げるときは私も一緒に連れてって」
こちらを見ながら志波さんが言うが、その目を見る自信は無かった。でも、
「志波さん位なら逃がしてあげる。みんな全部を守れなくても手の届く範囲なら守って見せるから」
「うん!お願いね。夢君なら出来ると思う。いつも落ち着いてるし」
「落ち着いてるんじゃなくて、達観してるの。そこ、間違えないように!」
最後はいつものやり取りをしながら一緒に扉をくぐりぬける。
扉をくぐり抜けたその先に広がっていたのは、地下のはずなのに異様な光景だった。通路いっぱい土がひかれ、草が生い茂っていた。簡単に言うと野原のような感じである。先に来ていた信藤さん達と合流してみるとやはり信藤さん達も戸惑っているようだった。出てきたはずの扉も跡形もなく、どこかに消えていた。
そのころ、この集団を見つめているものが居た。
「ふむ、外に出てお前らは何を成す?見極めさせてもらう」
その声は、あの声にそっくりであった。その目は夢たちをまるで品定めするかのように険しかった。
やっと、本編へと進みました~長かった!書き出してみると本当に長かったです。このペースだと最初のダンジョンで20話いきそーですね^^;
もっと描写とかを減らすべきなんでしょうか?う~ん、どうしよう。
今回も読んでくれた方に最大の感謝を!拙い作品ではありますが頑張って行きますのでよろしくお願いします<(_ _)>
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