第六話 人は皆、力を求めるのか
こちらの世界に来て初めて深く眠ったのかもしれない。深く深く、睡魔に誘われるように底へと沈んでいく。また、声が聞こえる。
「お前は、此処で何をなす?」
何時も聞こえる声が高圧的な女の声だとしたら、こちらは落ち着いた男性の声だと想像させる。こちらの世界に来て、何度か聞いた言葉。此処で何をなす?そんなもの、知るか。俺なんて所詮ちっぽけな人間にすぎない。そんな俺ができる事なんてたかが知れている。目に見えるもの全てを救えなかったあの時から俺は、夢を捨てた。現実で、理想を追い求めるのはバカのすることだ。理想を実現出来る奴なんて、一握りの天才くらいなものだ。凡人の俺が出来ることなど、死ぬその時まで自分の命を燃やし続けることしかない。その生に意味など無い。ただ、無駄に浪費していくだけの存在だ。社会というルール、常識という戒め、凡人は型に押し込められ、歯車として、ただ回すだけ。天才の礎として。
「もう一度、問おう。お前は、此処で何を成したい?」
夢を
夢を求めていいのなら
この命
燃やし尽くそうとも
構わない
俺は
此処で
俺が俺である為に
俺の心の赴くままに
時には人を助け
時には世間を騒がし
自由に
何にも縛られず
生きてみたい。
その瞬間、目が覚めた。というのは語弊があるかもしれない。体は眠っている。意識だけが覚醒したというべきか。俺は、水の中を漂っていた。目の前に八の双眸が見つめる中を。先ほどの声はこいつが発していたものらしい。
「汝らの宿命。世界の謎はどうするのだ?背けば、汝の命など我らの前では塵にも等しいぞ」
俺は、俺のやり方で謎を解く。解き方が決まっている謎はこの世に存在しえないはすだ。道先が決められている旅ほどつまらないモノはないだろう?
「今居る、友を、仲間を敵に回すことになろうとも構わないというのか?」
俺が、俺である為なら孤独だろうと構わない。理解など、誰にも求めていやしない。俺がただ満足したいだけなんだ。友に刺されようとも、それは俺の罪と言うだけだ。俺が俺である為の代償でしかない。
「「何が立ちはだかろうとも止まりはしないと?」
何が、立ちはだかろうとも止まらない。停滞することに意味はない。
「その命、無残に散ろうが構わない?」
この命、無残に散ろうとも構わない。俺は、自由に生きてみたいだけなんだ。
「ならば、その覚悟、その心、我に見してみよ!我が力の一端で汝の定められし宿命を、鎖を喰いちぎって見せよ!!」
その瞬間、八の双眸が蒼く光り輝く。途端に、体の中に自分ではない何かが怒濤の勢いで流れ込んでくる。
「我が力、その一端すら使えぬようでは、汝の運命から逃れぬことは出来ぬ!」
体が、心がミシミシと軋みを上げる。膨大な力の奔流に全てを持って行かれそうだ。
俺は!
俺でしかない!!!!!!!!
バチンッ!と電流が流れた様に飛び起きる。目の前には、昨日と変わらない石畳の部屋が広がっていた。手に、激痛が走りそちらに目を向けてみると左手の甲にブレスレットの宝石に描かれていた紋様が浮かび上がっていた。
(あの、ブレスレットはどこにいった?)思考の渦へと沈みそうな所で声がかかる。
「大丈夫??うなされているようだったけど・・・」
目の前に、志波さんがいた。よっぽどうなされていたのか心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫、少し、悪い夢を見ただけだから」
それでも、心配そうに口を開きかけたのを先に言葉を発することで押しとどめる。
「食料の分配についてどうなったの?」
なおも、何か言いたそうだったが質問に答えてくれた。
「平等に、全部のグループに行き渡ったよ」
と指を指して俺達のグループの食料が置いてあるところを示してくれる。周りも見る限り特に不満も出なかったようだ。
志波さんに心配してくれてありがとうと言い残し、信藤さん達が話し合っている場へと足を向ける。近づくにつれ話し合っている内容が途切れ途切れに聞こえてきた。大まかに言うと、どうやって運ぶのかということらしい。グループ全部の食料となると1人で運べるものではない。近づいてくる俺に気付いたのか巖真が
「起きたのか?もう少し、寝ていた方がいいんじゃないか?」
「気分的にはもう少し寝ていたいけど、今の現状を打破できる案があるのを黙ってるのは卑怯かなと」
話し合いをしていた全ての目がこちらに向く。分かりやすく、今知っている限りのことを簡単に伝える。
「このポーチってそんな凄いものだったのか!!」と信藤さん。
実際に、ポーチの中から騎乗槍を取り出してみると納得したようだ。
「この食料も1人1人に配って各個人ごとに管理させれば、もし何かあってはぐれたとしても平気だし、管理するのも楽だと思うんだけど」
巖真も、信藤さんも特に反対する必要はないと判断したのか、集まっていた男たちを使ってグループ内で、ポーチの使い方と食料の配布を始めた。指示を出している信藤さんにしか聞こえないように小声で
「この部屋を出るべきだと思うんですが・・・」と切り出すと、向こうも思っていたのか
「誰にも言っていないが、巖真と相談して明日の朝にはこの部屋を出ようと思っている」と教えてくれた。ついでに、すでに寝ているから今日の見張り役も買って出ておいた。助かると信藤さんに言われたが、年上の人から言われるとなんとも言えない気持ちである。それを、ごまかすように自分の食料を取りに行くのであった。
皆で、久々の食事を堪能しほとんどの人が寝付く中、夢は1人寝ずの番をしていた。食料、武器がそろっている今の段階でほかのグループが襲ってくる可能性も考えられるからだ。夢自身、昼間寝てしまうと夜寝れなくなる体質であるため、どうせ起きているならということで今夜の見張りに名乗り出た。だが、ただひたすら自分たちのグループ全体が見渡せる位置で起きているのは苦痛でしかなかない。こういう時こそ、思考の渦へと沈みたいのだが昼間見たあの夢が頭からこびり付いて離れない。ふと、そうえば左手に変な紋様が浮き上がっていたのを思い出し、ローブに隠すようにしていた左手を掲げてマジマジと観察してみる。
(やっぱり、あのブレスレットについていた紋様だよな。)
特に、体調に変化があるわけではなく、今の状態じゃ何が何だがまったくわからない。だが、他の人に知られれば何かが起きることは必至だ。
(とりあえず、他の人に知られないように注意しないと。何か、グローブみたいなのがあればいいんだけど)
ずぅっと、ローブで隠し通せるわけがないのは百も承知で、皆が起きたら衣裳部屋に何か使えそうなものがないか確認するつもりだ。夢が、左手の紋様と自分の中にある記号とを照らし合わせ何か得られないか考えているとすぐ傍で声がした。
「水瀬君、何してるの?」
その声に、反応するようにあわてて手をローブの中にしまう。
「志波さん、どうしたの?まだ、起きるのには早いんじゃない?」
なんか、寝付けなくてと言いながら夢の隣に腰を下ろす。そのまま、無言で時が過ぎていく。夢自身、何か話題になるものはないか必死に頭を巡らしている時、志波さんが
「このまま、帰れないのかな・・・」
とポツリとこぼす。夢からするとこの非日常が楽しいとは言わないが、あの退屈な日常に帰りたいとも思わない。だから、素直に
「どうなんだろう?帰れないかもしれないね」
志波さんが、その言葉を聞いてこちらに顔を向ける。その顔には、絶望、落胆、様々な感情が混ざり合い今にも泣き出しそうな雰囲気だが、だからこそ、夢は次の言葉を志波さんの目を見ながら言う。
「でも、帰れないと決まったわけじゃない。あの声がいう可能性を示せっていうのなら帰れる可能性もあると思うんだ。もし、志波さんが帰りたいと思うなら俺が手伝ってあげる」
と自信満々に言い放つ。それを聞いた志波さんの顔に少し、明るさが戻る。目元を拭いながら「そうだよね。帰れないって決まったわけじゃないもんね」
「そうだよ!俺たちはまだこの部屋しか知らないんだもん。ここが、どこで、どういう場所なのかとか知ってからでも遅くないと思うんだ。志波さんは、すぐに1人で悩んで、その悩みを抱えたまま落ち込んじゃうんだからさ、今みたいに俺とか、俺以外にも此処にはみんな居るんだから相談すればいいんじゃないかな?」
うん、そうだよね・・・と言って無言で時が少し過ぎる。
「やっぱり、水瀬君って落ち着いてるよね」
とこちらを見ながら志波さんが言う。
「そうかな?俺はただ、達観してるだけなんだと思うよ?自分の名前が夢なのに現実主義者だからさ」
「ううん、なんだかんだ言って色々提案したり行動してるもん。普通じゃ出来ないよ」
「色々、無駄な空想ばかりしてきたせいかも。でも、実際に動いたのは信藤さんとか巖真だよ。俺は言っただけ。ただの臆病者なのさ。」
と無駄に、明るく聞こえるように努める。どれが、本音か分からなくするために。それを、聞いた志波さんが見定めるようにしながらも、フッと口元を緩め、
そうかもね・・・と呟く。
そこは否定するところじゃないの!?と返せば、ただ笑うだけだった。話しているうちに眠くなってきたのか欠伸が出始めた。
「そろそろ、もう一度寝たほうがいいんじゃない?昨日よりも大変な今日が始まるんだからさ。俺はここでもう少し、見張りしてるから安心して寝てよ」
じゃ、お言葉に甘えてと聞こえた瞬間、肩に重みが来た。えっ!?と思いながら右側を向くとすでに寝息を立て始めている志波さんの姿があった。
仕方ないなと思いながらも、そのままの姿勢で寝ずの番を続ける夢であった
今回も読んでくださりありがとうございます!拙い文章で申し訳ない(>_<)
次の話から本編となります!やっと・・・ていう感じですね^^;
最初のダンジョンなのに、ここまでかかるとは自分でも驚きです(*_*;
では、次の話でまた会えることを信じて!
感想など、なんでもくださいな~待ってます^^