第三十七話 現実にウソはない
ご飯時に読む事は避けた方がいいと思います・・・
僕は見た
その光を
光を携える騎士を
騎士は光に照らされ道を往く
その光を阻む事は何人にも出来ず
自らの意思を光りとし、彼の騎士は道を往く
~従軍史家 ザイル ハーハニスト~
刈田を助け出した巖真は、植田達と合流地点へと急いだ。図書館で見た光景を伝えなければならない。そう、すでにこの街から逃げる手段は無いという事を。
「植田!!無事だったか・・・良かった」
合流地点には朝見た時は居なかった志和や他の仲間達も集まっていた。駆け寄ってくる巖真に
「あぁ、勿論――ってお前、それは?」
植田が指すのは勿論、巖真の【クリスハイト】の剣と盾の事だろう。
「これか?とりあえず後で話す。それよりも大事な事がある」
植田としては、その力が何なのか気になったが話を進める為に巖真の次の言葉を待つ。
「門がすべて閉じられていた」
「おい・・・ウソだろ・・・・」
この都市の門は東西南北に1つずつある訳だが、その全ての門が閉じている。それが意味する事は
「出れないってことか?」
植田のその言葉に巖真が頷く。仲間達の顔に絶望が浮かびあがっていく。
この都市の門は、普通ならあるはずの通用口というものが存在しない。すべて門を通らなければ出れない風に作られているからだ。門さえ突破されなければ鉄壁ともいえる防御だろうが、今回はそれが仇となっている。
「門を開けるには、人数が足りない・・・か」
「あぁ、だから後は 戦うか、この都市を逃げ続けるだけ逃げるだけしかないと思う」
ここに居る誰もが分かっていた。逃げたとしてもこの都市が陥落してしまえば逃げ切れる訳がないと。だったら
「戦うしかないだろう?」
と巖真が言えば、植田が
「そりゃそうだ。逃げるなんて性に合わないしな」と笑う。
井戸も刈田も頷いている。その顔には、怯えや恐怖という物は無かった。ここまで自分達を引っ張ってきてくれた彼らを信じていればいいだけ。好きな人を信じる事に迷いなんて無かった。
まとまりかけていた雰囲気を破るように志和の声が響く。
「待って!!本当に魔物と戦うの!??」
志和の目は大きく見開かれ、体はガタガタと震えていた。その姿はこの雰囲気を壊した事よりも、もっと違う何かに怯えているようであった。巖真が志和を落ちつけるように静かな声音で
「大丈夫だって、俺も植田もいる。俺達の後ろに居れば大丈夫だから・・・ね?」
志和だって、巖真や植田の事は信頼している。この都市に来るまでだって自分達を守るために傷ついていてくれたからだ。それでも、植田達と合流する前にみた光景が忘れられなかった。
ソレを見たのはたまたまだった。見たかったわけじゃない。
あの鐘が鳴り響いた時、志和も植田達と合流する為に走っていた。路地裏から路地裏へと人混みをなるべく避けるように走っていた。そして、たまたま路地裏から次の路地裏に飛び込もうと大通りに出た時だった。
そこに居たのは親子だった。子供が転んでしまったのだろう。それを助け起こし避難しようとしていた親子だった。その光景だったら、ここに来るまでだって何度も見た。でも、その親子だけは違った。子供の後ろにはすでに魔物が迫っていたのだ。
魔物の名は『グレイグウルフ』魔物としては下級である。一匹程度であれば、兵士が1人いれば余裕で勝てる強さである。だから、志和も助けようと飛び出そうと思った。志和もここに来るまで魔獣と何度も戦闘をしていたし、下級の魔物位なら倒せるだろうと思っていた。だが、ここで誤算があった。まず、魔獣と魔物で大きく違う点がある。魔獣はもとの世界の動物をベースに強くした感じであるが、魔物は、魔獣に比べ外見が醜悪であること。そして、命を喰らう事に異常なほどに執着する事。
そして志和が飛び出そうとしたその時、魔物の口が四つに裂けた。その口の中には全てを覆い尽くすように歯が生えていた。その瞬間、思わず足が止まってしまった。そして、次の瞬間には、逃げる子供を背中側から四肢で押さえつける魔物姿。そして、
魔物はその四つの口で泣き叫ぶ子供の首から肩に噛みつき
更に
見せつけるように
喰いちぎった。
その瞬間、迸る母親の絶叫と吹き上げる紅い血
喰いちぎる力が強かったのか首だけになった子供が自分の足元に転がって来た。
魔物は子供だけでは、満足せず絶叫を上げる母親へと躍りかかる。志和は、もうここに居られなかった。元の世界でも、今までこっちの世界でも自分の目の前で人が死んだ事なんて無かった。だから、その場から逃げだした。その時、魔物に喰われる瞬間の母親と目があった。その目が
「なんで、助けてくれなかったの?」
と訴えかけている気がした。その目から逃げるように路地裏に飛び込み、今まで以上に走る。
植田達との合流よりも今は只、あの場所から逃げ出したかった。
自分が悪い訳じゃない
アレはどうしようもなかった
アレは私のせいじゃない
そう自分に言い聞かせても、あの光景は頭から離れない。吹きあがる血と絶叫。そして虚ろな眼が訴えてくる。
「なんで助けてくれなかったの?」と。
その光景を思い出したのか、志和はその場に蹲り耳をふさいでしまう。巖真や植田が何を言っても動こうとはしなかった。巖真はその姿をみて
「しょうがない。戦う奴だけでやろう。ここからは強制もしない、来たくない人は来なくてもいい。でも、一緒に来てくれるなら俺は皆を守るためにこの力を使おう!」
その言葉と共に剣を掲げる。それに合わせるように植田は自らの拳を、他の仲間達も各々の武器を掲げる。巖真が
「我らを守れ、【光の加護】!!」
巖真の剣が光輝き、仲間達に加護を与える。
敵には死を、味方には生を。
我ら、一条の光となりて戦場を照らさん。
そして、光の騎士とその仲間達は死地へと向かう。
その先に活路がある事を信じて。
今回は、ある意味異世界とかでいったら起こるんじゃないかと思います。実際、だれしもが現実でそういう場面に遭遇する訳じゃないですし。
文才が欲しいと思いました。
お気に入り。評価してくださった方ありがとうございます。
作者は、ポイントに一喜一憂する小心者ですので^^;
今回も読んでくださり。ありがとうございました!ノシ