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第三十六話 お伽噺のような現実で

ルルゥの後に続いてリヴァニウスの所へ行くと、球体の水が浮かぶ場所だった。

その水に映し出されているのはある都市の姿である。その都市の名は、『城塞都市ルーラン』。巖真達が拠点としていた都市でもある。

「この都市がどうかしたのか?」

それに対して、水神がルルゥに説明させる。

「先程、現状を確認してきました。現状から言いますと、ほとんどの兵士が戦える状況ではなくよく今日まで持ちこたえたと言わざるを得ない状態です。」

「うん?この都市は何かと戦っているのか?」

その問いにルルゥが、水球に浮かぶ都市から離れた一角をクローズアップした。そこに映るのは魔獣、魔物、といった生物達の姿が有り得ないほど映っていた。水神が

「闇夜の行軍が始まったのだ」

「!!」

その言葉は知っている。ここに来てから知った知識だ。《闇夜の行軍》とは、侵色戦争(ラグナロク)前の前哨戦みたいなもので黒の神から白の神への宣戦布告の儀式として捉えられているらしい。だが、本にはあくまで両軍痛み分け程度に終わるものであり目の前の都市のように一方的な展開にはならないはずである。

「闇夜の行軍は、そこまで一方的な展開にならないんじゃないのか?」

「そうです。通常なら闇夜の行軍が始まる前に。偵察という名の魔物や魔獣がうろつくので察知する事は容易なはずなのですが・・・」

ルルゥにもなぜこんな状況になったのかまではわからないらしい。

「この都市の状況はわかった。でも、俺に見せてどうしたいんだ?」

夢からすれば他人事である。他人がどーなろうと知った事じゃないというのが本音だ。

「これを見てあなたはどうしますか?助けますか?それとも、見捨てますか?」

そう言いながら、ルルゥが今度は都市の一部を拡大する。そこに映っていたのは前の世界の友人たちの巖真達の姿であった。

「我の見立てではあと一日の猶予がある。それまでにどうするか決める事だ」

そう言って水神はいなくなる。

夢が見つめる先には水面に映る巖真達の今の姿であった。




今の巖真の心をしめるのはなぜこんな事になったのかという憤りや、焦燥である。3日前までは平和だったのにと。

今から3日前に信藤達が王都へと旅立ちその護衛として騎士団がついていった。そして、事件は次の日の朝に起こった。いつも通りに起床し調べ物をしようと準備をしていた時、突然都市全体に警鐘が響き渡った。警鐘自体がなるのは珍しくは無い。都市の傍に魔物や魔獣が出たらなる手筈だからだ。だが、今日はいつも以上に長い。それが意味する事は1つ。非常事態がおこったということである。咄嗟に、部屋にあった自分の盾と剣をもって宿から飛び出す。その眼前に映ったのは逃げ惑う住民たちの姿だ。その住民たちの誰もが口にする。

「闇夜の行軍が始まったっ、逃げろ、早く早く、進めよ、早く!!」

その姿には大人も子供も関係なく、我先に逃げるだけの人間達であった。それもその筈だ。闇夜の行軍の始まる1日(・・)前に住民たちは地下の避難所に移動しているはずなのだから。

宿から出てきた巖真の傍に、植田や井戸といった《組合(ギルド)》に参加していた仲間が集まって来た。植田が

「巖真、状況は最悪だ。都市の正面に魔物や魔獣が見たことも無いほどにいるぜ。アレを相手にあるのははっきり言ってムリだ」

「そうか、分かった。俺達も逃げよう。なぁ、刈田はどこ?」

井戸が「私が起きた時にはもう居なかったよ」と言う。

今日は、巖真と刈田が調べ物をする日である。もしかしたら先に図書館へと行ったのかもしれない。

「植田、皆の荷物をまとめておいてくれ。俺は刈田を探してくるよ。植田、極力兵士に見つからないように頼むな。」

その時、門の方で大きな音がした。もしかしたら門が突破されたのかもしれない。

「荷物もまとめたら、裏門に行ってくれ!俺は刈田を探して合流する!!」

そう言い放ち駆けだす。図書館の位置は、ここより門に近い場所である。

人の波に逆らいながら図書館へと向かう。その巖真の胸によぎるのは不安と焦燥だ。

(どけ、どけ!邪魔だ!!お前ら!!!)

先程植田に、兵士に見つかるなといった事はすでに頭から消えていた。『稀人』としての能力を全開に路地から建物の屋根へと上がり、最短距離を疾走する。図書館へと近づけば近づくほどに悲鳴や怒号が大きくなっていく。それに駆られるように巖真はスピードを上げる。

思う事は1つ。

間にあえと。


そして、図書館へと辿りついた。そして、目の前に見えたのは今まさに殺されようとしている刈田の姿であった。今ここから刈田の元へと駆け出したとしても俺の刃が魔物に届く前に、魔物のもつ刃が刈田を殺す方が速いはずだ。頭で分かっていたとしても心が否定する。

「やめろぉぉぉっっ!!」


自分の元へと走る巖真の姿に刈田も気付いた。でも、それ以上に自分の置かれている状況は絶望的であった。

大好きな人が自分を助ける為に外聞とかを殴り捨ててくれている事が嬉しかった。でも、現実はお伽噺のようにHappyじゃなくて、自分は1秒後には死ぬんだろう。だから、今この一瞬の喜びを伝えたいと思った。


刈田はこっちの姿に気付いたようだった。そして浮かべたのは悲しげな微笑であった。もう、全て分かっているようで、自分が一秒後に死ぬというのに巖真に対して微笑(ほほえ)んだのだ。まるで

頑張ってくれてありがとうと伝えかのように。

そこから先は、スローモーションのようだった。魔物の刃が刈田の心臓へと突き立とうとした時、声が聞こえた。


【汝、力を欲するか、代償を払う覚悟があるならば我、汝に力を与えよう】

代償?それがどうした!守りたい物が守れるなら何だってくれてやる!

【この先、血に濡れた道だとしても突き進む覚悟があるか!】

この手が、この全身が血に塗れようとも俺は守りたいものが守れるならば突き進む!

【契約は成った。我が言葉に続け】

「我は契約を結ぶ、守るべき物を守るために。我が名は【クリスハイト】、この手が赤く染まろうとも、我が道を進む!」

その瞬間、剣をもつ右手に紋章が浮かび上がった。そして、その力に促されるように剣を振った。


刈田は、死を覚悟していた。巖真は遠すぎて間に合わないとわかっていたからだ。でも、その死が何時まで経っても訪れなかった。おそるおそる目を開けてみると目の前には首がない魔物の姿と、その先に、光る剣と輝く盾を持った巖真の姿だった。

現実は、お伽噺よりも残酷で、でもそれ以上に素敵な結末を与えてくれたと思った。


久々の投稿となります。友人から、逃げてるんじゃねぇと言われて

確かに逃げてると思ってしまいました。もっと本気で書いていきたいと思います。

今回も読んでくださいありがとうございました。拙い作品でありますが、これからも読んでいただけたらと思います。

巖真君、キャラ違うかなぁ....

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