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第三十四話 狼とヒト 交わるは想いと拳

ルルゥの一撃を受けた夢の体が数メートル後ずさる。だが、それだけであった。

「こんなもんかよ!?」

心臓という弱点の上を撃ち抜かれ、フェリオスの体を数瞬の間止めるに過ぎなかった。でも、ルルゥとしてはそれだけで十分である。そして、打撃と一緒に打ち込まれた魔術が発動する。

(あとは、任せましたよ・・・・夢)

落ちそうになる意識をギリギリの所で繋ぎとめる。自分の打ち込んだ魔術の効果を確認するまでは倒れるわけにはいかない。

そして、魔術は発動する。


最初は単なる霧であった。それはルルゥによって撃ち抜かれたフェリオスの体から段々と染み出し、フェリオスの眼前へ濃く集まり始める。そして、フェリオスが叫ぶ。ルルゥが呼びとめる。その存在を認めるかのように。


それは、(理性)であった。本能(フェリオス)は犬歯を剥きだし吠え、(理性)は、静かに告げる。

「これで、当事者同士の問題だ。あとは、単純に理性(オレ)本能(オマエ)どっちの意思が強いかってことだ」

神であるルルゥと同等の存在である本能(フェリオス)を前にしても今の夢は負ける気がしなかった。


夢の背中を見ながらルルゥは思う。

なぜ、自分はこんなにも安心するのだろうと。

状況は変わっていない。ただの人間である夢が【神喰らい】に勝てる見込みなんてこれっぽっちも無いはずなのに。

でも、夢ならやってくれる気がするのだ。

だから、自分はその背中をもうひと押しする。

告げるは言葉、されど、此処は我が神域なり。それは叶えられる。純粋な想いに答えるように。

「限定貸与、神格へと我が騎士を導かん。」


背後のルルゥの詠唱を聞いた瞬間、夢の体を膨大な神気が包み込む。もし、夢が本当の体を持っていたとしたらその神気に飲まれ四散していただろう。だが、今の夢は魔術により体を得たのであり肉体としての制限は皆無に等しい状態であった。渦巻く神気が、ルルゥの想いが、そして夢の決意が本能(フェリオス)を倒すために力となる。

フェリオスとて、黙って夢の強化を見ている訳が無い。まだ、渦巻く神気の塊りに向かってそのフェリオスがフェリオスたる所以の【神喰らい】の力をぶつける。

ただの神気、自分の力なら十分喰えるはずだと確信して。

神喰らいの力が目の前の神気を貪ろうと顎を広げた瞬間、渦巻く神気から

速度(ファイ)(カンムル)

フェリオスの視界から夢の姿が消えた。空振りした力が神殿の床を削る。

「どこへいきやがった!!」

その瞬間玉座の方から

「どこへも行かないさ、フェリオス(お前)を倒すまでは。」

玉座に満身創痍のルルゥを降ろし、静かにされど堂々と夢が降りてくる。夢が行った事は簡単だ。魔術による大規模身体強化を行っただけ。体の制限つまり筋肉という制限がない今の夢は理論上、肉体の限界を超えた速度を得る事が出来る。


相手は肉体という檻に縛られるただ優れた牙を持つ狼だ。恐れる必要も、おびえる必要も無い。

さぁ、思い出させてあげよう。その力が生まれた理由を。


玉座へと続く階段を下りてくる夢の体がかききえる。そしてフェリオスの目の前へと現れ拳を振う。それを持ち前の反応速度をもって迎撃した。フェリオスの【神喰らい】と夢が支配する神気がぶつかり拮抗する。そして、両者が弾け飛ぶ。


「クソッタレ!なぜクエナイ!?」

「お前に教える必要は無い!」

夢からしたら簡単である。夢の神気を支配する力とフェリオスの【神喰らい】の力が拮抗しただけだ。夢がこうして膨大な神気を得ても遠距離魔術を使わないのはそこが重要だからだ。魔術というのは術者の意思で砲弾のように撃ちだす事が出来る。だが、手を離れた魔術はただ飛ぶという命令が入力されただけに過ぎない。それを喰らう事は簡単なのだろう。だからこその、接近戦である。夢が支配出来るのは己の手の届く範囲の神気のみである。それを有効にかつ、フェリオスの力を防ぐにはどれだけ適性が無かろうと、無理やりにでもその土俵でやるしかない。


フェリオスとてただやられるだけではない。最初は戸惑いもしたが、そこは歴戦の猛者である。すぐに迎撃へとうつる。相手はただのド素人。神の時代から戦ってきた自分には経験も技術も足元にすら届かない。そして、相手の支配よりも自分の喰らうという意思が上回れば相手の力を削ぐ事が出来る。

なら、もっと、モット、獣に、本能に、忠実になればイイ。ホラ、喰らえ、今夜はとっびきりのご馳走になりそうだ。


最初は押していた夢だが、徐々に押され始める。本当なら手も足も出ないほどの強敵だ。経験も力も技術も勝っている要素などないのだから。案の定、フェイントの入った蹴りが夢の体に突き刺さり、吹き飛ばされる。そして、その瞬間、フェリオスが飛びかかる。それを夢は転がるように避ける。避けたすぐ脇をガキンと刃が噛み合わさった。今や、フェリオスの体を纏う【神喰らい】の力は狼の姿形であり、フェリオス自身の前も血走り始めている。

夢は心の中で

(あぁ、ヤバいな・・・これは。)


本能と理性どちらが強いと言われればそれは本能であろう。なぜなら、生存的な欲求に直結しているからだ。とくに暴力という面で見れば本能の方が理性より優れているのは当たり前である。ボクシング、剣道、柔道なんであれ相手をルールがあるうえで倒した時でも人は喜びを歓喜を覚えるからだ。プロのボクサーなら試合が終わった後も体が昂ぶっているらしい。だけども、誰かを守るために力を使うなら理性は必須である。確かに力は何かを壊すモノであるが、また何かを守る力でもあるのだから。人が力を得たのも最初は敵から身を守るためだったのだから。


更に夢は速度を上げる。

速度(ファイ)(セピト)

夢の連打がフェリオスの体を捉え始める。夢の肉体と言う檻に囚われるフェリオスの防御が追い付かないのだ。

「クソッタレガァァァ!」

フェリオスの体を包んでいた【神喰らい】の力が規模を広げる。夢の神気を喰らう事は出来ずとも侵入してきた瞬間の夢は捉える事が出来るからだ。連打の攻防の中で夢は問う。


お前が最初に力が欲しいと思った理由はなんなのかと。

ただ神を殺したかったからだと答える。


神を殺したいと思ったのはどうしてだと。

憎んでいたからだと。


なぜ、憎んだのかと問われ

ただそこに神が居たからだと答えた。


本当に、本当にそれが理由なのかと。

俺は、オレハ、―――らの命を弄ぶアイツらが


その時、フェリオスの記憶の奥に蘇る。仲間が、笑いあっていた仲間達がヤツらの気まぐれでゲームのように酷く、残酷に殺されていく情景が。そして、それを止められない無力な自分が。天に向かって吠えるだけの自分が。その記憶を再び記憶の底に沈める為に

雄叫びをあげる。

「ダマリヤガッレェェェッェェェ!!」

その瞬間、爆発的にフェリオスの力が広がる。夢もその力に圧されるように玉座へと飛ばされる。

「俺はアイツラが憎かった!ただそれだけだ!!お前に遠慮する必要はねぇ。テメェもアイツらも一緒に消えちまえ!!」

膨大なまでの【神喰らい】の力がフェリオスから発せられる。今の速度なら避けられるかもしれない。でも、後ろにはルルゥが居る。避ければ、ルルゥに当たる。当たれば、ルルゥは消えるだろう。

世界は不本意だ。避けたくても避けれない状況を生み出してくれやがる。それでも夢は、人は

誰かを守る時、それが一番人が輝く時でもあると夢は信じている。

だから、一歩も引かず身構える。これを最後の一撃にする為に。


そして、フェリオスが最初に神を葬った力を解き放つ。

「消え去れぇェェ!!グレイプニル!!」

神と同等の夢であるならば、当たれば必殺である。そして、夢の後ろにはルルゥが居る。必殺必中の神殺しの槍が飛ぶ。


眼前に迫るそれを冷静に見つめながら、夢は静かに呟く。

腕力開放(ガン・バード)

夢の気力はこの世界の人並かそれ以下である。そして、武術の腕はルルゥにすら届かない。夢が上回っているものと言えば、魔術の才能と武術に対する憧れだけかもしれない。だからこそ、夢は魔術とルルゥが教え叩きこんだ技を融合させる。

「深海に届く一条の光。それは我が拳の一撃なり!」

その瞬間、世界は、夢の眼前は青く、ただ蒼く染まり

そして、基本に忠実に拳を前へと突き出す。


「魔拳〈深海砕き〉」


蒼く染まった空間すべてに夢の打撃が打ち込まれる。それは、フェリオス自身そして、フェリオスのグレイプニルに。

両者の力は拮抗し、そして夢の側へと傾く。その傾きは、他者を守る為の決意なのか。それとも、その姿に昔の自分を思い出したせいなのか。


夢の打撃を受けながらフェリオスは思った。

俺も最初は仲間を守るために神を殺そうと思ったのだと。


宙に飛ばされながら思い出す。

神を殺し、天上へと上がった自分を封印した神々を。

殺そうとした神々を押さえつけ、封印という手段を取った神々を。

そして、自分がもう一度その神を殺さなかった事に安堵した。

これで自分の役目は終わりだと、目を瞑ろうとしたその瞬間、この体の持ち主が


「感傷に浸ってるとこ悪いんだけど、お前に消えられたら俺が困る。」


フェリオスは、こいつも自分以上に対外な奴だと思った。


えー一ヶ月くらいあいてすいません!!

仕事がー仕事がー年末がー

追われに追われまくってました。

今年多分、最後の更新になると思います。読んでくださった方に良いお年が訪れる事を。

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