第四話 対立は激化する
浅いまどろみの中、あの声が鳴り響く。
「世界の謎を解き明かせ。己の全てを賭け、世界に挑め。お前はここで何を成す?」
意識が次第に浮上していき、目が覚める。身を起こし、寝癖を抑えつけながら髪を整えていると、昨日と同様に植田が声をかけてくる。
「お前、よく寝るよな」
何が悲しくて、2回連続で寝て起きた直ぐに男のむさ苦しい顔を見なければならないのか。それともこれがいわゆるフラグというやつなのか。俺は至ってノーマルです。
「おはようさん。それより、腹が減ったな・・・」
人間の三大欲求である睡眠欲が満たされれば、おのずと食欲を満たしたくなる。かといってここには食べられるようなものは目に入らない。
「確かにな。昨日の晩から何も食べていないわけだし」
このままでは、餓死するしかないのかもしれない。そうすれば自然とあの扉の向こうに出る羽目になるであろう。それか、禁忌を犯すかだ。
昨日と同様に、グループ内でまとまりながら今後どうするか話し合いが行われているらしい。俺は寝ていた為、はなから話し合いの人数に数えられては居なかった。ひたすら、会話を聞き息を潜める。昨日のうちに開けた穴が誰かに見つかるのをひたすら待ち続ける。
いつの間にか、また眠っていたらしい。起きてみると、丁度昨日の穴が見つかったところだった。この部屋に残っていた人数の大半が穴の傍に集まっている。様子を見に向かって見ると、誰も穴を通って奥にはいかないようだ。それもそのはず、穴の外から覗いても真っ暗な空間が広がるだけ。中に入らなければあの燭台に灯が灯ることはないらしい。なんだかんだガヤガヤしているうちに誰かが、穴をもっと大きくしてみればという結論に至り、男が何人かで作業を始めた。そして、穴が広がり作業をしていた男たちが中に入り、
「おお!!」
と感嘆の声が上がった瞬間外で窺っていた人達も雪崩のように、中に飛び込んでいく。そこから先は怒号や悲鳴が木霊する戦場とかした。あらゆる所で、「それはオレのだ」「やめてぇ!それは私の!」など声が聞こえる。奪い取った戦利品を持ち外に出てくる奴もすでにチラホラ見受けられる。その大部分が西洋の鎧を持っていた。ある程度、時間がたつと目ぼしい物は無くなったのか潮が引くように皆、自分達のグループへと戻る。そこで、奪い取った戦利品を見せびらかしたり、早速着こんでいる者もいるようだ。
(人間なんて、所詮こんなものだよね。人に見せることで優越感を得るか)
人が居なくなった衣裳部屋に夢は踏み込んでいく。やはり、西洋系の鎧は一つもないがコートやチュニックといったものは幾つか残っている。それらの中でまだ使えそうなものを何点か回収してとりあえず、巖真グループの元へ戻る。
「遅かったな。何か手に入ったのか?」
植田に声をかけられる。それに対して手に持っている物で返答とした。
「おいおい。そんなの何の役に立つんだよ?」
「う~ん、柔は剛を制す?かな」
意味分かんねぇと言わんばかりに顔をしかめられた。
いや、本当に柔は剛を制すからね!と思うが口には出さない。巖真グループでも、西洋の鎧を男子の分は確保してこれたようだ。もし、これが最初から置いてあったら争いが確実に起きたであろう。夢はというとグループ内の女子に残り物であるローブやチュニックを配りながら、「寝るときに着れば、体がすこしでも楽だから」
と声をかけて渡す。渡しながらグループ内を移動していると
「水瀬君も、あの中にいたんだ・・・」
と声がかかる。
「うん、まぁね。っていっても誰も居なくなってからだけど」
と苦笑しながら志波さんに返答する。さりげなく、ポーチから昨日のうちに取っておいたローブ類を出しながら志波さん達の周辺で何も得ることが出来なかった人たちに渡していく。
「はい、志波さんも」
といって、深緑色のローブを渡す。
「ありがとう。でも、いいの?」
「うん、別にローブばっかりあっても仕方ないし。坂根さんも、どうぞ」
坂根さんもありがとうと言って紺色のローブを受け取る。配るものを配り終えたので、このグループの舵取りをしている巖真や信藤さんがいる辺りに足を向ける。着いてみると、早速西洋の鎧を着ようと悪戦苦闘している植田の姿があったが無視して、信藤さんに声をかける。
「信藤さん、少し提案なんですがいいですか?」
「お?水瀬。なんだ?」
「あういう部屋がまだこの広間にはあるんじゃないですか?」
「う~ん、水瀬もそう思うか?」
「ええ、調べてみる価値はあると思いますけど」
「そうか、巖真と同じ意見か。男達何人かで手分けして調べてみることにするか」
そういうと、早速、狭川さんと小川さん(おがわ)を呼ぶ。小川さんは、すでに三十路を越えて、落ち着きのある男性である。集まったのを確認すると
「巖真や、水瀬から意見があったんだがこの広間を調べてみることにした。先ほどのような部屋がまだあるかもしれないしな。ということで、3人一組で調査に当たってもらう。班分けは、
オレ、狭川、小川の高年齢組と巖真、植田、水瀬の若者組でいく。」
確かに、信藤さん達は年齢が高いがそこまで卑屈にならなくてもと思う。口には出さないけど。
「早速だが、行動を開始してくれ。同じように動き始めたところもあるようだし、くれぐれも1人にはならないことだ。ケガだけはするなよ。」
全員の顔を見渡し、信藤さんが最後の言葉をことさら強調する。そして、信藤さん達は、扉の反対側の壁を、俺達は衣裳部屋とは逆の壁を調べることにした。歩きながら植田が、
「調べるって言ったってどうすりゃいいんだ?」
「壁を触ったり、音で判断すればいいんだよ」
と巖真が答えるので俺も頷いておく。
「それ以外に方法があるのかな?植ちゃん??」
ニヤニヤしながらからかうと巖真も
「まー西洋の鎧の着方も知らないようだから、仕方ないかもね」
更に、追い討ちをかける。
「うるせぇ!」
「なぜ、俺に殴ってくる!?俺より、巖真君の方がひどいこと言ってるだろ!!」
「黙れぇ!ゴラァ!巖真にしたら何されるかわからねぇだろうが。」
(確かに・・・・)
と思うが、声には出さない。あの柔和な笑みの下に何が潜んでいるかわからないからだ。なんだかんだ、しながらも目的の壁にたどりつく。ここからはひたすら地味な作業だ。3人でひたすら壁を
ゴツゴツ・・・
したり、
サワサワ・・・
触ってみたり、あいつら何をしてるんだみたいな目で見られているが気にしていけない。気にしたら負けだ!
夢もさりげなく昨日のうちに見つけておいた所に誘導しているが、あくまで自然を装う。それが、功をそうし植田が
ゴツゴツ・・・コツ
音の変わる位置を見つけた。小さな声で巖真と夢を呼ぶ。
「ここから音が変わる。」
巖真も実際に試してみて、確認を取ると
「もう少し、この辺りを探してみよう。1つだけじゃないかもしれない。」
植田と一緒に頷き合いながら、周辺を探し始める。間も無くして、巖真に呼ばれる。
「ここからも音が違う。どうする?信藤さん達を呼ぶか?」
「呼んだ方がよくないか?」
と植田が言うが
「いや、ここは俺達だけで突き破るべきだ。周りをよく見てみろ」
そう言われて、周囲を見渡す植田と巖真。見てみると、近いとはいえないが同じように壁を調べているグループがいくつも見える。
「なら、どっちの壁を壊す?」
植田と一緒に悩む。植田はポーズかもしれないが。
「丁度、最初に見つけたのが防具部屋と対面に位置してるから、もしかしたら武器があるかもしれない。あくまで推測だけど」
「確かに、そう言われて見ると丁度向き合う形だな。植田は他に何かあるか?」
「いや・・・特にない」
3人で相談するフリをしながら、最初にみつけた所まで移動する。移動する最中に、小声で夢が、
「もし、武器だったら長物と軽いもの両方取り出すようにした方がいいと思う。振れなかった時困るし。あと、なるべく早く出ないとさっきみたいに人混みに押しつぶされて、下手したら武器が刺さるかもしれない」
「確かに・・・な」
植田はその場面を想像したらしかった。巖真も無言でうなずく。そのまま、最初に見つけた壁の前まで移動し、アイコンタントで一気に壁にタックルをお見舞いする。
バギャン!!
すさまじい音共に壁が粉々に砕け飛ぶ。すかさず中に入ると、そこにはやはり所狭しと武器が並べられている。それを見た巖真が、
「串刺しになりたくなかったら、目当てのものだけ取ってすばやく離脱しろ!」
植田がおう!と返事をしながら、大剣などの長物を中心に回収していく。巖真は長者と軽いものを平均的に取っているようだ。夢はというと、1本だけ騎乗槍を拝借し、あとは片手で扱えそうな剣と短剣を回収する。騎乗槍は巖真達の眼を盗んでポーチに押し込む。本当に何でも収納できるらしい。このポーチ。
新しい部屋が見つかったことがバレタのか入口の方が慌ただしくなる。その音を聞いた巖真が
「そろそろ、出るぞ。十分回収した。速く、出るぞ!!」
と大声を上げ、入口から出ていく。植田も後を追うように出る。
「水瀬!速くしないと串刺しになるぞ」
「ああ、分かってる!先に行け!!もう、出る」
部屋を出ようとした時、ふと目に留まる物があった。それは、金色のリングに蒼色の宝石がついたブレスレットだった。
(これ、なんだ?)
植田が、外で
「速くしろ!そろそろ、やばいぞ」
と切羽詰まった声で外に出てくるように夢を呼ぶ。夢は、咄嗟にブレスレットをつかみ、ポーチに押し込んで外へと出る。
あと1話くらい続きそうです。速く本編に移りたいところなんですが、申し訳ないです<(_ _)>
読んでくださった方、ありがとうです^^これkらもよろしくお願いします。
感想、誤字等、色々待ってます~ノシ