第三十三話 想いよ、届け
1つのお伽噺がここにある。
昔々、私達人間がまだ居なかった頃、それは神々と動物達の楽園だったそうな。神々は動物を創り、時に戦わせ、時に壊していたそうだ。そう、動物とは神々に取ってのオモチャであった。だけど、そこに一匹の狼が居た。創った神にさえ忘れた存在の狼であった。その狼は毎晩、毎晩、天上の月に向かって吠え続けていたそうだ。それは、神々たちへの怒りだったかもしれぬし、悪戯に創られ壊され忘れられる悲しみの声だったかもしれぬ。だが、天上の神々はそれを見て笑ったそうだ。
弱い奴ほどよく吠えると。
そう、神々とって動物など所詮、暇をつぶす為の道具でしかなかった。その狼を創った神でさえ、
目障りな奴め、壊してしまえと。
この時、この狼の命は終わった。動物が神に勝てるわけもなくただ、天上から降りてきた神に壊される。そして次の日、天の月に吠えていた狼の元に神が舞い降りた。その命を壊す為に。
普通の動物なら神が目の前に居るだけで気絶していまう弱い存在である。だけども、その狼は気絶もせず、堂々と神の目を見返したそうだ。その態度が更に神を苛立させた。そして、さっさと壊してしまおうと手を振り上げた時、
神は自分の手が無い事に気がついた。
周囲を見てもどこにもない。ただ、目の前に居る狼の顎が動いていた。神は混乱した。神である自分が理解できない現象があるはずがないと。そう思っていたその時、声がした。
あるはずがないなんて事があるはずがないだろう?
その声は目の前に居る狼から発せられていた。そして、自分の目線が、狼を見下ろしていたはずの目線がいつの間にか狼と同じになっていた。そう、足もすでに喰われたのだ。
その事に気がついて目の前の狼に目を戻した時、眼前に広がるのは漆黒の闇とそこに煌めく白い牙だけであった。
そして狼は神を喰らった。この狼は待っていたのだ。天に吠える自分を壊しに来る神を。そして、その神を喰らうつもりだったのだ。
狼は神の力を得て、天上へと上がった。そして、多くの神々を喰らったそうだ。最後は上位の神々と死闘を繰り広げ封印されたそうだ。その顛末を聞いた主神は、動物をいたずらに創り壊す事を禁じた。そして、その狼はいまもどこかで眠っている。またその牙で神を喰らう為に。
神々はその狼の事を
〈神喰らいの魔狼〉
と呼んだ。
今、夢の体から滲むように湧き出ている力が神色戦争前に神界を震わせた
事件を起こした力だ。その力は神気、魔力、気力あらゆるものを喰らう力である。そして、その力に食べられた神は『死』という結果が待っている。神々は基本不死である。だからこそ、その力を恐れた神々は全力を持ってして封印したはずである。
「なぜ『神殺しの魔狼』がここに!?」
それに対して夢の体を乗っ取ったフェリオスが、肩をすくめながら
「さぁ、知れねぇよ。目が覚めたら〈コイツ〉の中に居たんだし」
自分の胸を差して答える。
「それよりお前『転生』したのか、前のお前も綺麗だったが今のお前も中々だ」
夢の顔で気色悪い笑みを浮かべる。
(前の氷の女神を知っている!!記憶もあるって事ですか!!)
目の前のフェリオスは上位の、それこそ白や青の神々が危険と判断し封印したほどの力である。自身の神域とはいえど倒せるかは微妙だ。でも、倒さなくてはならない。なぜなら、自分が起したのだから。その後始末位は自分でつけないと夢に顔が立たないと思った。覚悟を決め、ルルゥはフェリオスとなった夢と相対する。
「神域装具〈セルス・マティオ〉」
ルルゥの声に従うように神域の源たる神気が集まる。そして、ルルゥのいやシヴァリーの手を覆う篭手となった。
「いきなり神域装具とは。本気じゃねぇか」
それでも余裕な態度は崩さない。だが、次の瞬間
「前のお前にも〈ソレ〉でやられたぜ。だから、リベンジでもしとくとするか!!」
フェリオスが一気に肉薄し、右の抜き手を放つ。
それを、右手でずらす。すらしたと同時に左手の月を打ち込む。そして、
「吹き飛びなさい、〈氷爆〉」
左手からシヴァリーの魔力が放出され、夢の体を吹き飛ばす。だが、夢は空中で体勢を立て直し、何も起こっていないかのように着地する。
(やはり、今程度じゃダメージにすらなりませんね)
それでもこうしてフェリオスの力を削っていくしか自分が勝てる見込みは生まれないだろう。
負けるわけにはいかない。なぜなら、夢とのこれからがかかっているからだ。
フェリオスとしては、あの程度どうってこともない。ただ、吹き飛ばされただけだ。だから
「そんなもんかよ!!?」
更に、獰猛に氷の女神へと襲いかかる。
ただ、ひたすら前の獲物を喰らう為だけに。
己の欲望満たすだけの為に。
執拗に、獰猛に、そのフェリオスたる力を目の前の女神に振う。
昔の事など忘れたかのように。その力の生まれた理由を忘れてしまったかのように。
夢は自分の中からその映像を見ていた。自分がルルゥを殴り、笑う姿を。
ソレを見て吐き気がした。自分は確かに道端の人を殴りたいと殺したいと思った。それが可笑しいという事なのかもしれない。だけども、その可笑しくなった心でさえ、守りたい人には手を出しはしなかった。それが、俺の誇りであったはずだ。それを信念としていたはずだ。だったら今の状況は何だ!?俺の黒い感情に俺の信念は負けるのか!?
否
断じて拒否だ!
俺は、俺である為に。
黒い感情になど負けはしない!!
すでに何十手いや、何百手と打ち合った。こっちは神域装具に全力で神気を注いだ状態で、自分の全力で戦っている。だけども、相手には余裕すら感じる。そう、徐々に追い詰められてきている。最初の頃に比べれば確実にキレが落ちているのが自分で分かっているのから。だけど、相手は止めを刺そうとしない。それは手加減をされている事と言う事だ。それが、何故か夢はお前に救えないと言われた気がした。それが悔しかった。だが、
突如フェリオスの攻撃が止んだ。
「おい、今良い所なんだから邪魔すんな、お前」
頭に手を当て、何かを押さえつけようとする。
(今ならいけるはずです!!)
その隙を見逃さず、動きの止まったフェリオスにルルゥは肉薄していく。
肉薄しながら短く詠唱する。
この想いを届かせるために。夢の可能性をフェリオスに渡さない為に。
「時に想いは現実になる」
そして、夢の心臓を撃ち抜いた。
「永遠なる邂逅!!」
現実で彼女と別れたりイロイロあって遅れました。すみません。
でも、お気に入りしてくれている人が居る限り更新は続けていきます!
みなさんも、冬で風とかにはお気を付けを。
秋はどこへ・・・・