第三一話 宮殿に住まうは
地面を全て覆うように雪が降り積もり、所々に氷で出来た木や岩が見受けられた。先程までいた水神の神域とは雰囲気も神気さえ様変わりしている。だが、その世界は美しいと言えた。氷だけで出来た静謐なる世界。触れる者全てを拒絶し、尚も触れようとするならその、息吹を持って凍りつく。その危うさが一段と夢の心に美しいと思わせていた。
「先に行きますよ」
ルルゥが声をかけ、目的地を知っているのか確かな足取りで歩きだす。夢も自分の思考から浮き上がり、ルルゥの後を追うように歩きだした。
「なぁ、ここは水神の神域じゃないよな?」
それに対してルルゥは前を向きながら答えた。
「ここは、氷の神域。ここでは何人であろうとも其の者の息吹の前では凍りつくであろう。」
ルルゥの独白ともいえる言葉が氷の神域へと溶けていく。これ以上話す事は無いとも言うように歩調を速め先へと進んでいく。しばらくの間、2人の雪を踏みしめる音だけが神域に鳴り響いた。
そして、ルルゥが止まり指をさした。その先には氷で出来た宮殿があった。夢が宮殿を見上げたのを確認し、また歩き出す。宮殿の中へと歩を進める夢とルルゥ。宮殿の中にも誰も居ない。ここまで歩いてくる間に見かけた者は誰も居なかった。その時、夢の頭の中にルルゥの独白が蘇る。
「ここは、氷の神域。ここでは何人であろうとも彼の者の息吹の前では凍りつくであろう。」
もしかして、あの氷で出来た物体は何かの生物であったのか、この宮殿にもどこか別の場所で誰かが凍りついているのかもしれない。そして、次は・・・・
夢が自らの思考に嵌っている間に宮殿でいう所では謁見の間にあたる部屋に辿りついた。目の前に王座がある。なら、そこにいるのはこの神域の主である者がいるはずだ。その姿を見ようと目線を上げた。だが、
玉座には《まだ》誰も居なかった。
そして、ルルゥが喋り出す。
「ここは氷の神域。水の神域に隠されし、違う神の領域。ここでは、水の神と言えど手出しは出来ぬ。」
まるで何かの詔であるかのように紡ぎながら玉座へと歩いていく。
「彼の者の息吹は絶対零度、何人であろうとも逃がしはしない。触れれば永劫なる眠りを授けるであろう。」
玉座へと近づいていくルルゥの姿を見つめ続ける夢。そのルルゥの醸し出す雰囲気にのまれていた。そう、最初に出会った時にのまれかけた水神の雰囲気に似ていたと気付いたのは後の事だった。そして、ルルゥが玉座につき最後の言葉を紡ぐ。
「其の名は、氷の女神『シヴァリー』」
その瞬間、ルルゥの姿が変化する。氷の息吹に包まれ変わって行く。髪の色は藍から透き通るような水色へ、服装は、和装へと。そして頭の上に王冠を。その姿は美しく、その美貌に惑わされ近づけばその息吹を持って凍りつく。絶対零度の女神の姿があった。
そう、この神域の主はルルゥであってルルゥでは無い。今、目の前にいる氷の女神である。
そして、ルルゥの声で
「さぁ、あなたの変化を見極めましょう。もし、過ぎた力ならばここで永遠に一緒に居ましょうね」
その笑顔と共に紡ぎだされた言葉に夢は戦慄した。自分の中の黒い感情を知られたくは無い。知られればどうなるのかが分からない。
もし、知られて、軽蔑されて、あの目で見られたら俺はどうなる?
夢の葛藤を余所に、事態は進む。
「逃げようともしても無駄です。ここは神域。統べるべき神の世界。その一言はどんな事でも再現される完璧なる世界。さぁ、あなたの変異の結果を見せなさい。」
左目が氷の女神の言葉によって疼く。黒い感情を出せと脈動する。それを押さえつけようとする夢に対して、この世界の主は
「出しなさい!変異の結果を!!」
その瞬間、夢の抵抗はこの世界のある時の力を借りた黒い感情に喰い破られた。
PV6万突破ー! なんか嬉しいです。(笑)
今日も読んでくださりありがとうございました。感想で指摘された事を中心に書いて見てるのですが難しいです・・・下手ですいません。
では、また次回お会いできる事を祈ってノシ