第二十八話 好奇心とその代償
夢の「実験」が行われた時、夢とは異なる〈位相〉にいるはずのルルゥにもその衝撃はやってきた。突然の出来事であったとしてもルルゥは冷静に対応していく。
「リヴァニウス様、先ほど下層の神域から干渉を確認しました。」
〈こちらでも確認できている。丁度、アイツがいる神域からだな。それと、干渉と呼べる程柔なものでもないぞ〉
ルルゥは干渉されたあたりへ急いで向いながらも、首を傾げる。下層から上層へと干渉されたこと自体が有り得ないといえる事であるのにそれ以上に何かあるというのであろうか。訝しげにしているルルゥにリヴァニウスが
〈上層の『神気』が流れ込んでいるのだ〉
それを聞いたルルゥもさすがに同様は隠せない。
「本当ですか!?それは」
『神気』とは、字のごとく神の気、簡単にいえば神の持つ独特なエネルギーの事である。神域であればどの階層にも存在するが
「水の〈使徒〉といえど、今のアイツには上層の神気は毒でしかないはずです!!」
〈それは、俺とてわかっている。こっちで神気については対処する。お前は、アイツを助けて来い。今、死なれては意味が無い〉
水神リヴァニウスが対処するならば、すぐに流出は納まるであろうが、それまでに夢が上層の神気に耐えれるかは分からない。唯の人間であれば、上の濃い神気に触れただけで発狂あるいは人間的な死を迎える羽目になる。リヴァニウスとの契約をしているとはいえ、|夢〈アイツ〉が人間で有る事には変わりはない。
上層から下層の神域への移動は簡単である。ただ下に降りようと思えばいいだけだからだ。夢が生活している場所へと走りながら尚も
「どこまで、干渉されたのですか。」
〈穴をあけられたのは第2層までだ。〉
第二層!?それ以上上は水神リヴァニウスの本体がある神域しかない。更に、夢の元へと至る速度は上がって行く。
「一体、原因は何なのですか。」
〈単純に、力による干渉だな。膨大な力が一気に膨れ上がり行き場を失った力が逃げようとした結果だろう〉
「それを行ったのは・・・・」
〈当然、アイツだ〉
すでに、ルルゥの速度は走るというより駆けている。
〈本当に、アイツは面白いな〉
リヴァニウスの声に笑みが含まれているのが感じられた。が、ルルゥからすれば上層の神域へと干渉するほどの力の爆心地にいた夢はどうなっているのか。生きていたとしても弱った状態でどれほどの神気に耐え得る事が出来るのか。ルルゥには夢はほぼ死んでいる、あるいはそれに等しい状態になると思った。
そして、夢が生活している場所へ辿りついたルルゥガ見たのは有るはずの小屋が後形も無く破壊されその破片が辺りに飛び散っていた。力の爆心地となった水面は今もなお起こる力の反動により抉れた状態だ。その周囲を高濃度の神気が汚染している。
『魔霊』である自分ならば耐えれるレベルだが、神域にきて日が浅い夢なら軽く死ねるレベルの濃さである。その中に、夢は居た。
夢の姿を見つけた瞬間、ルルゥはすぐさま駆けより夢の体を抱き起こしその場を離脱する。それは、リヴァニウスの命令だったとかそんな次元ではなく、ただ夢が倒れていたから思わず助けた感じであった。その場を離れたが、すでにこの階層の神域は上層の神気が流れ込み過ぎている。
(これなら、1つ上の階層の方がまだマシなはず。)
通常は水神に伺いを立てる場合なのだが、この時はそれを無視して独断で上へと移動する。上の神域に移動した時、夢の意識が戻った。
「あ・・・・ルルゥ・・だよな?すまん、失敗した。」
たった、それだけの言葉を言いだすのでさえ苦しそうに悶える。今この場で何が失敗したのか聞いている暇は無い。
「生きているなら、自分を見失わないようにしてください。あなたは唯のヒトという事を忘れないようにするんですよ。いいですか?」
「あぁ・・・?分かった。俺がヒトなんて当たり前だろ。」
今、何ていったのだろう?ちゃんと、私の耳には今人と聞こえたのだろうか?こうは聞こえなかったか?ヒトと。
「意識を保ちなさい!飲み込まれてはいけません!!あなたが・・・・」
それ以上、先を夢は聞けなかった。なぜなら、意識が暗闇へと落ちていったからだ。
意識の落ちた夢の体のあちこちからガキン、ボキンと骨が変形、あるいは砕ける音がする。
はじまったのだ。
神気にあてられた人はヒトでは無い。
神気にあてられた身体が、人から違う何かへと変貌しようとしている。ココから先は夢が、夢の心がどれだけ自分を、ヒトだと、自分は人間であると、思っているにかかっている。もし、夢の心が魔であるならば、夢の体は魔獣になるだろう。
ルルゥは夢が魔獣になった時の為に、自分の手で夢を殺す為に、準備を始める。
心のどこかで、魔獣になってほしくはないと思えども、人は欲を持ち、成長する。その欲がどれだけ醜くあろうとも。常にその欲の為に他者を犠牲にすることもルルゥはよく知っている。だから、夢が魔獣へとなるのであれば
自分がこの手で葬りさろうと。
そして、その存在を忘れずいようと。
思い、想い、それを力に魔術を発動させていく。
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どこまでいけるか!?
今回も読んでくださいありがとっすー