第二十二話 上手くいく事ばかりではない
ガシッと頭を机に打ちつける音が響いた。夢が机に突っ伏したせいだ。
「まだまだ、勉強を始めて5時間しか経っていませんよ?」
ルルゥが冷静に突っ込みを入れる。
(もう、5時間も勉強してるだろが!まさか、こっちの世界に来てまで勉強する羽目になるとは思わなかった・・・)
「いや、確かに5時間しか勉強してないけど、覚えることが多すぎて・・・」
夢が、今勉強しているのはこの世界の歴史、言語に始まり魔術の基礎と幅広い分野に及んでいる。夢自身は、元の世界で頭が悪いほうではなかったが、いきなり短時間にここまで濃い密度での勉強はしたことがなかった。そのためいささか、へばっているのである。それをみたルルゥが、
「仕方ありませんね。15分間休憩しましょう。」
それを聞いた夢は、ガバッと起き上がりルルゥを見上げながら
「本当か!?やっと、この地獄から解き放たれるのか!?」
「地獄とは失礼ですね。覚えるべきことはまだまだ沢山あるのですよ?」
それを聞いた瞬間、夢の顔には絶望という名の影が差すがルルゥは気にした様子もなく
「休憩のあとは、今までの確認と実技に移りますから。」
と更に追い討ちをかける。それを聞いた夢は愕然としながらも今までとったノートを見直す。
「魔術の発言には3段階の工程がある。まず初めにどの位の規模、威力などを決める「」想像」次に、それを元に世界を改変するための【魔律】・・・」
夢がきちんと復習しているのを確認しルルゥを一旦主に報告するためその場を離れる。一人、残された夢は復習をしながらも今の状況を振り返る。
(まず、今いるこの場所はあいつの神域であること。)
夢が今勉強を行ったり、寝たりしている所は水神の神域の中でも中程度の位相に存在する場所らしい。ルルゥと戦った神域はここよりも上層の位相に存在する場所とのことだ。あまり位相が下に行き過ぎると一般人の中でもごくたまに見ることができる人が居るらしい。特に、英雄神は相手の神域を覗くことも可能であるとのこと。あまり、上位の位相はその神の紋章を持って居たとしても長く居ると気がふれたりすることもあるそうだ。まがりなりも神の領域と言ったところか。
(そして、この空間は外の世界よりも時間の進みが遅いということ。)
まるで、竜玉を集める某漫画にも出てくる「○○と時の部屋」みたいな効果だが、あくまで外の1時間が中では3時間程度になるくらいだ。それでも外の人の3倍の時間を生きることになる。これもある程度、その神域の最上神なら制御できるらしい。まだ、この神域で他の神を見たことがないが。最上神はこの神域から外に出ることが出来ないという事もルルゥが教えてくれた。水神を奉っている場所ならば、条件がそろえば顕現できるらしいが今の現状だと水神を奉っている場所は皆無らしい。俺は、負け組みについているのかもしれない。
(他にも神域には色々な効果があるらしいが、教えてくれなかったな)
夢自身が、感じているのは体力、気力が外の世界より回復しやすいと感じている。普通ならば、ルルゥとの戦闘のように魔力や体力を使い果たした場合もっと回復に時間がかかるらしい。基本、魔力や気力というものはゼロになるまで使い切らないほうが回復は早くなるとのこと。ルルゥから言わせると
「魔力をゼロになるまで使い切るのはただのバカか阿呆です」
もの凄い冷徹な眼差しで起きたときに言われた。ものすごく冷たかったね!アレは!!
勉強をしている間にも自分の中に存在する魔力が回復していくのが感じられた。外の世界では魔術を使ったことがあるわけではないので、なんとも言えないが回復するスピードは早く感じた。神域には、外の世界よりも魔力の親和性が高く、魔術の練習にはもってこいとのことだ。ルルゥとの戦闘で使った魔術みたいに膨大な魔力で世界を改変できるのも神域だからだったらしい。少し、自分が魔術に関して天才だと思っていたのに・・。俺の自尊心は大いに傷つけられたよ!
「復習は終わりましたか?」
「あ~~一応ね。」
「一応ですか・・・」
ジトっとした目で見つめられる。顔立ちが整っているだけに少しドキッとしてしまうわけが無い。中身は冷徹な魔霊だ。騙されてはイケナイ。
「大丈夫、大丈夫!これでも、元の世界では頭は良い方だったし任せてくださいな」
「本当ですか?では、早速魔術の基本元素は?」
「魔術の基本元素は、火、水、風、土、そして光、闇でしょ?」
「正解です。特異属性は?」
「特異属性は、創造、圧縮、etcでしょ?」
「その通りです。特異属性は個人の素質に左右されるため見付かっていないものが多くあるでしょう」
「なかなかのもんだと思うんだけど、どうよ?」
「確かに記憶することに関しては、マシですね。でも、これで終わりではないですよ?」
(うげっ!まだ続くのか・・・)
それから、ルルゥが問題を出し夢が答えるという一問一答式のテストが約1時間あれから続いた。
「では、実技に移りましょう。場所を変えますよ。」
すでに、ルルゥとのテストで憔悴しきっている夢に慈悲もなく告げる。
「りょ~かい。ついていくよ。」
ルルゥの後に続いて勉強を行っていた部屋を出る。
「実技といってもする事は簡単です。想像した事を思い浮かべ、思いつくままに言葉を創り、その言葉に魔力を乗せ、魔律となし世界を改変する。ただそれだけです。」
「随分抽象的な説明だな。決まった言葉とかは無いのか?」
「正確には決まった言葉なんて無いのです。考えてください。あなたが想像する現象と私が想像した現象が一致すると思いますか?形状、大きさ、威力、それらが各個人で変わるのは当たり前の事。ですから、自分が思う言葉で世界に語りかけるのが一番効果が高いと言われているのです。」
確かに言われてみれば、例えば炎の槍で想像したのならば、日本式の槍かもしれないし、西洋で用いられる騎乗槍かもしれない。騎乗槍はランスって呼んだ方が自分としてはしっくり来る。その場合、想像していた魔術に威力などにマイナスがかかるのかもしれない。
「想像した事を魔律に変え、世界を自分の想像に造りかえるのが魔術って訳か。」
「その通りです。ですが、世界は全ての者に対して平等であります。威力、規模が大きくなれば魔律に使う魔力を増やさなければなりません。この時、魔律に使われている魔力が足りなかったらどうなると思いますか?」
「普通に考えるなら魔術の威力、規模の減少だろうな」
「通常ならば、そうなのです。ですが、時に周りの生命力といったものを使い発現してしまうのです。」
「それって、可笑しくないか?魔術は使用した者の魔力を媒介にして現象を起こすのが定義だったはずだが?」
「原則としてはその通りです。ですが、時に、思いが強すぎる場合は周りを巻き込み発現してしまうのです。復讐心や怒りといったものは時に事故を忘れさせ、周りを巻きこんでしまいます。魔術を使うならば常に冷静であれ、己を見失うな。それが術師としての守るべき事です。過ぎた思いは、周りと自分を滅ぼす。この事を忘れないでください。」
ルルゥがいつものよりも真剣に話す。
「「わかった。肝に命じとく。」
夢もそれに対して神妙に頷く。
「では、そろそろ実技に入りましょう」
コクリと夢が頷いたのを確認し、ルルゥが魔律を唱える。
【水弾よ、撃ち抜け】【術式:アクアス・ブレッド】
ルルゥの詠唱に合わせて、足元にあった水が弾丸を形成し、10mほど離れた所にある標的へと殺到していく。標的の頭、胸と急所ばかりを正確に撃ち抜く。
「おお~~」
まばらながらもパチパチと拍手を送る。
「とりあえず、今の感じで標的を撃ち抜いて見てください。」
「了解~。想像し、言葉に魔力を乗せ、世界を改変する・・・・」
ぶつぶつ言いながら集中を始める夢。その姿を一歩後ろから観察するルルゥ。
【水よ、穿て!!】
夢の魔律に合わせ、水が形を作る。ルルゥの水の弾丸よりも稚拙でただ水が筒状に集まっているだけに過ぎない。だが、それでも標的に真っ直ぐ飛んでいきぶち当たる。そう、まさにぶち当たっただけである。標的の表面には傷一つ無かった。
夢の後ろで落胆している雰囲気が感じれたが、夢は気付かないようにして
「あれれ?可笑しいな??」
と顔に汗を浮かべながらもう一度同じように詠唱するが結果は変わらなかった。
「練習あるのみですね・・・。」
そう、言い残しルルゥは去って行った。
ただ1人残された、夢の背中が少し悲しげであった。
久しぶりの更新で申し訳ありません。引っ越しやらの準備に追われています^^;
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