第十九話 臆病な自分と真反対の親友
相手の攻撃で飛ばされ、水面に叩きつけられた事で意識が覚醒した。相手は、先ほどまで夢が居た位置から動いていない。意識が飛んでいたのはほんの一瞬だったのだろう。
「ッゥ!!」
攻撃をまともに受けた両手には、細い線のような痣が何本も残っていた。腕の服は肘から先が無くなっている。もし、直撃していたら腕、悪ければ上半身が服と同じ運命を辿っていたのかもしれないと思うとゾッとする。相手の女性も、体から燐光を漂わせながら驚いているらしい。自分の攻撃を防げるとは思っていなかったのだろう。
「よく防ぎましたね。さすがは、あの方の『紋章』を宿すことだけはあるということなのでしょうか」
「いや、俺自身何で防げたのか分かっていないんだけどな」
少しでも、会話をして長引かせなければ防いだ腕を動かすことはできそうにない。
「さっきまでが本気じゃなかったとはな・・・1%位はあった俺の勝ち目は無くなったなぁ、これで。だから、死ぬ前に1つ教えて貰ってもいいか?」
眉をひそめながらも相手の女性が
「なんでしょう?」
「さっきの攻撃は、ソレなのか?」
言いながら、夢が指で女性の髪を指す。
「よく、お分かりですね。その通りですよ」
「やっぱり、そうか。ありがとな。そんなに綺麗な髪で殺されるならマシか・・」
女性の髪は、この世では現わせれないような色である。一本一本は透き通るような青さであるのに関わらず、集まる事で水の中に差し込む光のような綺麗さになっている。
「ありがとうございます。私の方からも1つ覗ってもいいですか?」
会話を望む夢となっては、断る理由は無い。1つ、了承の意味で頷きを返す。
「なぜ、あの時掌底で攻撃したのですか?あれは、私を守るためですか?」
嘘をつく事をためらわせるような真剣な眼差しで問いかけてきた。
(まいったな・・・女性だからってここはうそをついた方がいいのだろうけど・・)
「ただ、単純に自分の手の為だよ。殴る事に慣れてない拳で人を殴ると壊す可能性が高かったからさ。掌底はその分、手を壊すリスクが少なかったから掌底にしただけさ。」
「そうですか、ありがとうございました」
これで会話を打ち切るためか、女性が構えを見せる。それに応えるように夢も構える。
「なぁ、名前って何ていうんだ?」
「私の名前は、ルルゥ・ジン。公に使える『魔霊』であり、あなたを殺す名前です!」
名乗りと共に女性が一気に肉薄する。今までとは違い、手、足に加え髪の毛を用いた攻撃まで加わって来ている。特に髪の毛の攻撃は、打撃と言うよりは切れ味のいい刃そのものである。新しく戦い始めて数分しか経っていない間に夢の体にはすでに幾つもの裂傷が刻まれている。このままだとジリ貧になると思いながらも、相手の攻撃を避け、防ぐだけで精一杯である。
(こうなったら、一瞬でも離れないとヤバい!!)
思いっきり相手に殴りかかるつもりで、足を踏み出す。だが、夢自身には攻撃する意思は無く、踏み出した足で水面を思いっきり踏み抜き、水を巻きあげる。
「なっっ!?」
突然の水しぶきに、一瞬だけルルゥの体が硬直する。その隙に、夢は間合いを離す。
「なかなか、往生際が悪いですね。」
「往生際が悪いって酷いな。誰だって、死ぬために生きてるわけじゃないだろ?」
「確かに、その通りかもしれませんが世の中には避けれない運命というものがあるのです。このように。」
場の空気が一瞬で変わった。
【わが名において命ず。水よ、我が意に答え我が敵を絡めとる鎖とならん。水よ、その力を持って我が敵を撃ち飛ばす腕とならん】
ルルゥの発している声に呼応するかのように、夢の周りの水が蠢き始める。ヤバイと思い、飛びのこうとした瞬間、足を水に掴まれる。
「なんだ!?これ!!」
通常じゃ有り得ない。水が人の身を掴みあげ、数十メートルの高さまで持ちあげるのは。常識からはかけ離れた景色である。そして、ルルゥの詠唱に合わせるように、その身を震わせる。
【術式:アクアス・ウィップ】
詠唱の完了と共に、夢の体全身へと巻きついた水がはるか離れた水面へと夢を叩きつけるように加速する。
ドッパァン!と水面が叩き割れ、夢の体は水中へと投げ出された。叩きつけられた衝撃で肺の中の空気はすでに吐き出されていた。痛みもあるはずだが、すでに脳が痛みのシグナルを消してしまっている。ただ、ひたすら底へと自分の体が沈んでいく。漠然とこれが死ぬって事なのかと冷静に考えている自分に苦笑が漏れた。
(死ぬって案外静かなものだな・・・)
死が近づいたことで、走馬灯のように思い出がよみがえる。地元の親友や友達と遊びまくった日々。何度も告白しようとして出来なった情けない自分。1人暮らしをするようになって出会った人達との思い出。それが、一瞬で頭の中を駆け巡る。これで死ぬんだなと思った、その瞬間、トラウマが蘇る。いじめられていた友達を助ける事が出来なかった自分。3年以上付き合ってきた友達を助けられなかった自分。自分が孤立する事を恐れて動けなかった自分。それでも一緒に居てくれた友達と、何時でも自分を貫いた親友。その姿を追い求めながら行動できない自分の弱さ。年を重ねても、周りの評価を気にして行動していた自分。そんな自分に嫌気がさしていた。自分の思ったように動ける親友が羨ましかった。地元を離れれば、アイツの元から離れれば何か、変わると思っていた。だが、結局は人の目を気にして生きてきた。アイツのようにはなれなった。結局俺は、ただの臆病者だと思い知らされた。こっちの世界に来て今度こそ、変わろうと思った。その為の力もあった。誰にも何も言われないで生きていると思ったのに、ここで終わりになるとはな・・・
《本当に、お前の力はそんなものなのか?ただ、目の前に突き付けられた壁から逃げているだけじゃないのか?今までがそうだったように楽な方へと逃げているだけだろ?本当にそれでいいのか?》
俺だって、終わりたくはない!死にたいわけじゃない!!ただ・・・
《ただ・・なんだ?力ならお前のすぐ傍にある。心を開け、受け止めろ、この世界に常識は無い。あるのは目の前にある現実だけだ。目を閉ざすな。目を見開け。活路は目を背けぬ者にしか現れぬ!!》
心の中に、何かがあった。それは、いつも理屈をこねて逃げていた自分の感情だったのかもしれない。人前には決して出さない自分の中の感情。押しとどめていたものが、一気に心の中を埋め尽くす。言われた通り、目を開く。そして、水面めがけて一気に浮上する。
前の話を読み返して、下手な文章に落ち込みました。色々な作品を読んでみんな書き方上手いなぁと思う今日この頃です。ほんとうにこの作品を読んでくれる方に感謝してます。