第十七話 水面に揺れるその向こう側に
一歩ずつ、丘を下っていく。今の夢には特にどこかへ行かなければならないという目的があるわけでもない。空を見上げるとすでに日は真上から少し傾いているようだった。
「さて、これからどうするか・・・」
独り言をつぶやく。1人暮らしをするようになってから本当に独り言が多くなったとしみじみ思う。
(ここにいても始まらないし、草原のど真ん中で野宿ってのも危険だよな)
そう思い、周りを見てみても目に入るのは草原と右側に茂る森しかない。町や村がある雰囲気が一欠けらも感じられない風景だった。
(やっぱり、森に行くしかないかな。なんか気になるし)
丘の上から見たときからずうっと気になっていた森。ただなんとなく気になる程度だったが丘から下り、近づいてみるとまるでそこに行く事が決まっているかのように気になる。見る限りはただのうっすらとした森でしかないのだが。その森がなぜここまで自分を掻き立てるのかは分からない。
(悩んでいてもしょうがない。とりあえず、行ってみるか)
夢は、基本大雑把であり悩むくらいなら行動するし、面倒だと思えば投げ出したりもする。元の世界では付き合うこと自体が面倒になり別れた事すらある男である。それから、好き嫌いや恋というもの自体を考えるのが嫌になっている。今は関係ないことだが。
とりあえずの進路を決めた夢は森の方向へと草原を突き進む。
(やっぱり、こっちにきて体力やらが上がってるよな。元の世界じゃ確実にもうヘバってるな)
専門学校に入ってから体の体型を保つために走ったり、筋トレはしていたがここまで体力があるとは思えなかった。あの『気』のおかげもあるかもしれないが、確実に身体能力は上方修正がかかっている。
(ゲームとかでおなじみにの異世界人の力とかねぇ)
自分の力が上がっている事はこれから生きていく上で大きなアドバンテージになるが、向こうとこちらの世界での基準がわからない為、素直に喜んでいいのかは微妙なとこである。向こうの世界には居なかったモンスターや、『気』の力についてもまだ知らない事ばかりである。
(森を一通り調べたら、どっかの村か、町で調べモンするしかないな。あと、言葉が通じるかも不安だな)
普通なら通じるわけがない。未来の地球とかなら話は別かもしれないが、所詮世界から見たら小さな国でしかない日本語が通じる確率はものすごく低いであろう。あの声が勝手に言語を入れ替えてたりしたら話は別だが、居あっまで会話して来たのは同じ世界からの住人であるため、こちらで言葉が通じるという保証があるわけではない。
色々考えているうちに、森と草原の境界線まで辿りつく。森を構成している木は向こうの世界とほぼ同じような感じだ。ここまで歩いてきた草原も向こうの世界とあまり変わりは無かった。
(植物に関しては、似通っている点が多いな。だが、生物に関してはまだ何とも言えないところか)
今まであった動物と言えば、オオカミやコウモリみたいなやつらである。おとなしい動物が居るのか、それともすべて凶暴なのかを決めるにはサンプルが少なすぎる。
似通っている点が多いと言っても、全て同じだとは限らない。その為、フードを被りなおしなるべく皮膚が木や草と接触しないようにだけは努める。
(こんな所でカブレたら、最悪だな・・・)
そう思いながらも森の奥へと踏み入って行く。
踏み入って思うのは、そこまで気が密集してなく歩きやすいがとても周りが静かであるということ。自分以外の生物がいないのではないかと思うほどに、自分の足が草を踏みしめる音以外聞こえないのだ。
(普通の森なら、もっと色々な音がしていいはずだと思うんだけどな)
疑問に思いながらも、森の奥へと足を進めていく。空に浮かんでいた太陽も傾き、森の木々の影が深くなり始めてきた。それでも、まるで何かに引きつけられるように歩みを止めない夢。ひたすら、森の中心部へと足を進めていく。
(日が沈むと、歩きにくくなるよな・・・今日は、ここまでにして野宿する場所を探すべきか?)
周りに誰かが居る訳でもなく、質問しても答えを出すのは結局自分である。奥へと歩きながら、結局今日はいけるところまで行く事にする夢である。更に30分以上歩いたところで遂に日が沈む。周りを暗闇が包み込むが、頭上には輝く2つの月がある。
(おお!?月が2つか!ここだけは元の世界と違うなぁ・・やっぱり異世界なんだよな。ここは)
月が2つあるおかげかそれほど暗くない。これならペースは落ちるだろうが奥へと進む事ができそうである。月下の下、黙々とこの森のどこかへと進んでいく。そして、何時間、はたまた数十分かもしれないが時間を忘れ始めるほど歩いていたら目の前に突然開けた空間に出た。
そこにあったのは、小さいとはいえないが大きいとも言えない池であった。月明かりに照らされ水面が煌めいていた。この森がこの光景を守っていると言えるほどに幻想的な風景である。夢も元の世界でこんな綺麗で幻想的なものは見ることはできないと思った。
(綺麗だな・・・今日はここで野宿と行きますかね)
池の傍で野宿の準備を始める夢。準備と言っても寝る位置を探すだけなのだが。外気温もそこまで寒いわけではないので、そのまま寝ても大丈夫だと決めつける。ポーチから保存食を出し、齧りつきながら池を眺めていると、その池が何かおかしいことに気付いた。
(うん?池に映っている月が1つしかない・・・?)
池と空を交互に見比べるが、やはり池に映っている月は一つしかない。池が間違っているのか、それとも空に浮かんでいる月が間違っているのか、それを確かめるべく池の縁まで歩いていく。池のふちに辿りつき、改めて池に浮かぶ月を見つめる。その時、左手の紋様が淡く光を発した。それに呼応するかのように池の水面がざわつき始め、池に映っていた月の形が徐々に変わって行く。そして、夢の左手と同じような紋様になった。夢をここまで呼んだのはこれだったのかもしれない。
(八つの双眸を持つ者もそのうち会えると言っていたがこれなのか?)
ベタといえば、ベタだが本当にそうなのか?という疑問は残る。だが、今の夢自身には何にも手がかりがないのは事実である。だから、紋様のある左手を池に浮かぶ紋様へと近づける。もう少しで、紋様と紋様が触れ合おうとしたとき何かの力に引っ張られるように池の紋様へと身体ごと落ちていく。そして、水面に浮かぶ紋様にと身体が触れ合ったと思った瞬間に意識が遠のいていった。
あとに残ったのは、僅かな波紋に揺れる池の水面と空から照らす月の光だけであった。
ちょっと、短かったかもしれません。次の事を考えるとここで切るべきかなと思いました。こういうパートの描写がとても難しいと改めて感じさせられました(>_<)自分の力のなさを痛感です^^;
この作品を読んでくださる皆様には本当に感謝です<(_ _)>これからもよろしくお願いします^^次回の後書きにてまた会いましょう。それではまたノシ
評価してくださったり、お気に入りしてくださる方には本当に感謝してます。ありがとうございますm(__)m