第一五話 この時を一生忘れない
力を使い果たし、倒れた夢はまたあの場所に居た。目の前にはいつも通り八つの双眸が浮かんでいた。
(また、ここか・・・・)
「今日は少ないぞ!?」
八つの双眸がうんざりしている夢の態度に慌てて答える。
(で?用は何よ?)
疲れているため、口調がぞんざいである。怒りすら滲み出ているかもしれない。だが、そんな事を気にする気持ちはこれっぽちも無いのである。
「ゴホン、お前は力を得1つの運命からは逃れる事が出来た。今の仲間とは共に歩まぬ運命を手に入れた。それは、すぐに分るだろう。お前が進む運命はこれから先全てお前次第となる。今の友と剣を向けあうだろう。お前は、ソレを覚悟しなければならない。運命はすでに回っている。違う道を選ぼうとも終着点は皆同じなのだから」
(だから、どうした?俺は俺のやりたいようにやるさ。今の友に剣を向けられようともそれは俺の結果だ。終着点が同じというのならやりたいようにやらせてもらうさ)
その返事に満足したのか八つの双眸が静かに頷いたように見える。そして、最後に
「じきに会う事になるはずだが、それまでに死ぬなよ?」
死ぬ気はねぇよと思ったときには、いつもの目が覚める感触がしていた。
目を開けてみると、そこは階段の踊り場のような所だった。左手にあの部屋の出口が見える。正面には上へと続く階段が伸びていた。グループの皆は、夢が居る踊り場の1つ上の踊り場にいるらしい。
(ま。あんな姿見せたらこうなるわな)
1人納得する。あの部屋からここまで運んで貰えただけ有難いというものであろう。ふと、右手が動かない事に気づく。
(骨とか、やっちまったか?)
と思い、目を右手に向ける。そして、目の前の状況の意味が分らなかった。目の前には巖真、植田、植田の彼女ともう1人居た。なんとなく、植田の傷を治したからここに居るんだろうと思ったが、最後の1人の体勢が意味不明だった。最後の1人は志波さんなんだが、その志波さんが夢の右手を体に抱え込むようにして寝ているのである。極まっているのか、動かそうとしてもピクリとも動かない。ゴーレムとの戦闘で力を使いきっている夢ではどんなに頑張っても外せそうにはない。右手が掴まれているせいでほとんど痺れていて感覚が無いのが悔やまれる。感覚があれば、天国のような感触に包まれているのであろうから。
(もどれぇぇぇ!!俺の感覚!!)
植田を治した時のように、いやそれ以上に頑張るが右手の感覚は返って来そうにない。
(こんな、おいしいイベントを逃すというのか!?俺は!!)
数十分、あの手この手で外そうとしてみたがビクとのせず遂に諦めた。皆が起きるまで自分も寝ようと二度寝に入るが
(寝れない・・・・あの野郎が邪魔してるのか・・・・?)
先ほども出てきた八つの双眸を持つ者に恨みを増やすが、だからといって寝れるわけでもない。仕方なく、隣で腕を完璧に極めている志波さんの寝顔をじっくりと観察する。
(肌白いな~。すべすべしてそう・・・触っても大丈夫だよな・・)
ホッぺをプニプニする。うんっと少し寝苦しそうだ。夢は
(おぉぉ!やわらけぇぇぇぇ!!)
と内心、喝采を上げる。これ以上やると起きそうだったので、プニプニするのを止める。
(なんで、女性って柔らかいんだろ・・・不思議だ)
夢は、女性の柔らかさこそ世界の七不思議の1つだと常々思っていたりする。そして、また寝顔観賞に映る。しばらく寝顔観賞していると志波さんの目が開く。
「おはよう、志波さん」
まだ寝ぼけているのか、ぼーっとしている。そして、寒い日に温かい布団を求めるように更に夢の体と自分の体をくっ付ける。今や、2人の視界には相手の顔しか映っていない。その状態で
「おはよう、夢君」
軽く微笑みながら朝の挨拶を返してくれる。夢は顔に出さないように微笑み返す。内心は心にズッキューンと撃ち抜かれ悶えているのだが。
「でも、なんで夢君がこんなに近いんだろう?夢君だけに夢なのかな??」
まだ寝ぼけているのか今の状況を夢だと思っているらしい。そして、夢と現実を確認するためか夢の右手を自分の右手でロックしたまま左手で夢の頬をペチペチと叩く。
「あれぇ?暖かい??なんで・・・・・?」
夢の頬をペチペチと叩きながら考える。そして、夢の目の前で熟れたリンゴのように一気に顔を赤くする。
「きゃぁぁぁっぁぁぁぁっっ!!?」
叫びながら飛び起きた。おかげで右手のロックが外れた。志波さんは少し離れた位置で女の子座りをしながら紅い頬に手を当てている。いまいち、現状が掴めないようだ。志波さんに助け舟を出すべく夢が口を開く。
「おはよう、志波さん。起きたら何故か右手が志波さんに極められていて動けなかったんだ。ごめん。そんなに驚くんだったら無理矢理にでも離れておけば良かったね」
苦笑しながら、先ほどの状況を説明する。説明を受けて幾分落ち着いてきて頬の紅みも消えてきている。
「こっちこそ、驚いてごめん。昨日、手を握ったまま寝ちゃったみたい」
志波さんの話によると、ゴーレムとの戦いで力を使い果たし倒れた夢を傷が治って意識を取り戻した植田がここまで運んでくれたらしい。巖真の気遣いでほかのグールプの人達とは離れた位置に移動させたとのこと。巖真、ナイス仕事と思いながら更にそのまま志波さんの話を聞く。あれから結構経っても起きないから心配になって手を握っていてそのまま寝てしまったとのこと。
(人の体温ってなんか気持ちいいもんなー)
と思うし、寝てしまうのも仕方ない。説明を一通り聞いたあと、まだ、謝ってくる志波さんに爆弾を投下する。
「そんなに謝らなくていいよ。こっちも良いもの見られたし」
その言葉に謝り続けていた志波さんが反応する。
「良いもの?」
顔には、まさかっと言う思いが浮かび上がる。そして、夢の次の一言で爆弾が爆発する。
「志波さんの寝顔って可愛いよね。あと、ほっぺも柔らかかった」
「やっぱり、寝顔見たの!?忘れて!!お願いだから!!!」
志波さんがジリジリと近寄ってくる。
「え?なんで??すっごい可愛かったよ」
満面の笑みで夢が答えると遂に顔をさっきよりも紅くした志波さんが夢の襟を掴みながら揺する。
「お願いだから忘れてっ!!」
ガクガク揺すられるが、そんなのを気にした様子も無く夢が一言
「ムリ♪」
と放つ。更に揺する速度が上がり、志波さんが何か言い始める。その声を聞いて植田や巖真が起き始めた。
また、騒がしい一日が始まった。でも、この1日は夢が自分の力で掴み取った掛け替えのない1日である。
やっと、序章完結!というかプロローグと序章って同じ意味じゃ!?って思う今日この頃です。
今回は、何もない平凡な一日です。でも、前の世界じゃ味わないほどの意味のある一日となっている予定です。(読者の皆さま方にそう思ってもらえたらと思います。思ってもらえなかったらそれは自分の文章力の無さだと思います)
今回も読んでいただきありがとうございます。未熟な作品ですが読んでくれる方が居るのは本当にありがたいです<(_ _)>お気に入りや、評価してくださった方々、感謝してます。モチベーションがガンガン上がっております(笑)現金な自分ですw
では、ここらへんで次回の後書きにてお会いしましょう^^感想、意見、誤字指摘など待ってます~ノシ