第十二話 「気」を覚え、自らの力と成す
昨日のうちに、一日当たり一部屋のペースで進むことが決まったのか、グループは朝から移動を開始した。夢は、相変わらずグループの一歩後ろを歩いていた。何回か敵と遭遇したらしいが先頭に居る植田と巖真が瞬殺しているらしく、特に慌てることもなく通路をひたすら真っ直ぐ進んでいる。
(やっぱり、この力使えると強くなるんだなぁ・・)
としみじみ思いながらゆっくりと後ろから夢はついていく。ある程度進んだところでグループの足が止まった。先頭が新しい部屋を見つけたらしい。先頭の男子達が武器を抜くのを見て女子たちも武器を抜く。皆、武器の扱い方が様になってきた気がする。そして、左右を巖真と植田に挟まれた信藤さんが見つけた部屋に飛び込む。すぐさま、
「おおお!!」
と驚きの声が上がった。植田が
「みんなも早く来いよ!」
と呼ぶ。特に何かが居るような部屋ではなかったらしい。グループの皆が駆け足に部屋に飛び込んでいくのを見ながらも、夢は、自分のペースで見つけた部屋に入る。そこには、真ん中に噴水があり、周りを芝が生い茂った部屋だった。部屋のあちこちに何かが入っている箱があるが特に嫌な感じはしない。ゲームでいう所のボーナスステージみたいなものかもしれない。噴水の水も綺麗で、水の補給も可能のように思える。皆が、部屋に入ったのをどこかで見ていたのか、丁度いいタイミングであの声が部屋に響く。
「よく、ここまで辿りついた。次の試練で最後となる。己の可能性を全て出し、自らの道を掴み取るのだ。最後の試練を突破するのは難しいかもしれない。だが、皆の力を合わせれば越えられるはずだ。この部屋で英気を養い、次の試練に挑むといい」
それっきり何も言ってこなくなった。グループのあちこちで「次で最後だってよ!」「出られるんだ」「辛かったね」とすでに、次の試練も乗り越えられるものとして捉えているらしい。あの声が言うのを信じるなら次の試練は今までとは一味違うというのに。それを、信藤さんも感じ取ったのか巖真と植田に何か話している。何か、作戦でも立てているのかもしれない。夢は、今まで通り意見を求められない限り、干渉するつもりは無かった。特に、することも無くブラブラと部屋を散策してみる。部屋のあちこちにあった箱の中には、食料や、服、防具といった
ものが詰まっていた。そのうちの1つに長物の武器が詰まっている箱を見つけた。夢は、騎乗槍の細いのを使っているが、これは高校時代の部活で扱ったことのある武器に一番形状が近いためである。その為、何か無いかな~と漁ってみると目当ての物があった。それは、青龍偃月刀ある。槍が突く事を目的としているなら、こちらは斬ることを主体としている。早速それを取り出し、実際に振ったり感触を確かめる。
(丁度良い重さかな。これも持っていこう)
ポーチに青龍偃月刀も収納する。このポーチも結構どころか半端なく凄い代物だと思う。グループの皆も、それぞれ新しい武器や防具の取り換えなどをしている。女性陣はまったりとお喋りに興じていた。皆が、大体落ち着いた頃を見計らって信藤さんが
「巖真や植田が習得したこの力を皆も使えた方がいいと思う。あの声の言っていることが本当なら次の試練は誰かにまかせっきりという事は出来ないかもしれない。最低でも自分の身は守れた方がいいはずだ」
皆も、ここまで来る過程で植田と巖真が飛躍的に強くなっているのを目の当りにしている。その技術を覚えることに反対を唱えるものは誰一人として居なかった。
「よし、それじゃ早速巖真と植田に講師を頼むとする。各々、頑張ってくれ」
信藤さんが下がり、植田と巖真が講師役として皆の前で説明する。それを夢は
(お~がんばれ~)
自分も教えられるはずだが、植田と巖真の様子を見て特にすることはないと判断したのか無責任に傍観することにした。久々に、張りつめていた空気から解放され、芝生の上に寝転びながら皆の練習する声を子守唄に、まどろみへと沈んでいく。
「なぁ、毎回思うんだが昼寝するとお前と出会うのか?」
「そ、そういうな。お前に話しかけれるのがこの時しかないのだ。」
「まーいいけどさ。で、なんか用があるんだろ?」
「うむ。次の試練心してかかれ。そして、そこでお前は大きな選択を迫られるだろう。1つは、何かを守るために孤高へと至る道、もう1つは、何かを失うが、仲間を得る道。その、どちらかを選ぶ事になる。悔いのない選択をすることだ。」
「悔いのない・・ね。今まで、選択して来た事で悔いのない選択なんて出来た試しがない。もっと、具体的に何が起こるか教えてくれてもいいんじゃないか?」
「我にも我の都合がある。覚えとけ、次の試練生半可なもので無い。」
「わかったよ。お前には聞きたい事ばかりあるからな」
体が、目覚めようとしているのだろう。徐々に周りの景色が白く薄くなっていく。消える瞬間、少し、知識を与えてやろうと声が聞こえた。
目を覚ますと、グループの人達はまだ、訓練を続けていた。そこまで長い間眠っていたわけではないらしい。最後に聞こえた言葉は何だったのか気になるが、特に変化は無い。
(あいつ、デマいいやがったか・・・?)
と思いながらも身を起こす。
「あ!夢君。起きたんだ!!このやり方教えてくれない?」
と志波さんと坂根さんが近づいてくる。
「巖真君と植田は?」
講師役として決まっている2人がいるのだから、そちらを優先すべくだろう。自分が教えたからといってデシャバレば良い顔をしないものも居るはずだ。
「やっぱり、男子の方に付きっきりって感じなんだよね。だから、女子の方は割と放置気味なの」
と志波さん。隣で坂根さんもコクコクと同意している。遠くでその様子をグループの女子の人達がジィーっと覗っている。
「う~ん、俺自身よくわかってないけど、それでもいいなら教えるよ」
「うん!全然おーけーだよ。私たちだって覚えれれば儲けもんって感じだし」
「じゃ、教えて見せましょう。この力の真髄を!!」
ちょっと、おどけた様子で引き受ける。それを聞いた志波さんが遠くで覗っていた女子の人達に手を振って集め始める。
(あれ~?こういう展開??2人に教えるだけかと思ったんだけど)
すでに、周りを女子に半包囲されている。今から逃げるという選択肢を選んだら、なんか危険な香りがする。女子の前で、少し顔を赤らめながらも教え始める。
「まず、大事なのは自分の覚悟や思いがそのまま力として左右されるってこと。出来るだけ、強くその覚悟や思いを心に浮かべる事。男子みたいに立ちながらじゃなくても出来るから、自分のペースでゆっくりその思いを形にしていくことが大事」
夢としては、人に教える事は嫌いというよりは好きである。女子の前で緊張しながらも少しづつ丁寧に手ほどきしていく。O型であるためか、身振りや擬音が多くなるがそのおかげで硬くない雰囲気で終始指導する事が出来た。
丸一日、力の使い方の訓練に充てたおかげで男子のほとんどは一応だが使えるようになった。巖真や植田、信藤さんに関しては武器に力を込めれるようにすらなっていた。みんなで相談した結果、この力を「気」という名前にしたらしい。女子も、何人か「気」を感じれるようにはなったが、まだ扱えるという段階でない。その為、最後の試練には男子のみで戦い、特に巖真と植田、信藤さんの3人を主軸に置く戦いにするようだ。夢はというと、特に何も言われていない為、適当に動こうかなと思っていたりする。そして、最後の試練に向けて皆、英気を養うため早めの就寝となった。
始めに、毎日更新できずすいません<(_ _)>最低でも3日に一回程度のペースでは更新したいと考えています。リアル(これってネトゲーの言葉何ですか?)が忙しくなっているので、毎日更新は出来ないかもしれません。ご了承ください。
今回も読んでいただきありがとうございます。次回にて、最初のダンジョンは終わり!となるはずです。未熟な作品ではありますが、これからもよろしくお願いします(^^)/