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その九 大救出作戦! 芸術作品は最強で最終兵器かも⁉

 その次の日の朝であった。

 ミミコは最近、学校生活に違和感を覚えていた。

 なぜか、クラスの子に比べて、昼休みに遊んでいる子や図書室にいる子が多い気がする。小学校の時から通っているのに、見覚えのない子や見たことない先生が数えきれないほど増えている気がする。

 最初は転校生かなと思った。市が街にいる孤児たちを受け入れているらしいし、見覚えがない子たちがたくさんいても不思議ではない気がする。しかし、それならば転校生の紹介名簿に顔写真が載っているはず。しかし、彼らの写真はそこにはなかった。

 そしてなにより、見覚えのない子たちからは、明らかに普通の子たちとは雰囲気が違っていた。あまりにも雰囲気が暗すぎる。孤児だとしても、あれではまるで、抜け殻のようだ。まるで、恐怖を感じすぎてそれ以上の感覚が欠如してしまったような子供たち。

 決意したミミコは、気になっていたあの留学生の少年に話しかけた時のように、その見覚えのない転校生かもしれない子の一人に話しかけようと思った。

 その女の子は、いつも通り巨大な図書室の監視カメラにも映らないような中二階の隅っこで、ただ本棚を見上げていた。

「ね、ねえ」

 その娘はビクッとしてミミコの方を見た。

「えっと……だ、大丈夫?」

「あ、ひっかかったな?」

 今度はミミコの方がビクっとして振り返った。

 そこには、見慣れない先生の一人がいた。彼女は怪しい笑みを浮かべて二人を見て、紫色の煙に包まれた。と思ったら煙が晴れ、あっという間に恥ずかしいくらい露出度の高い格好をした耳の長い美女という、ダークエルフの本来の姿を現したのだった。

「な、なんです⁉」

「こういうおとなしい子供を気に掛ける人格を持った者は、基本的に善人だ。そう言う人間の鏡のような善人の負の感情は相反してすさまじいパワーを持つという。そう言ういい子ちゃんを釣るために、さらった子供を泳がせていたが、まあ、こんなにうまくいくとは思わなかったわ」

 そう誰かに説明したくて堪らなかった彼女は、自慢げに自分が考えて実行していた作戦を話すと、愉快そうに笑ってゲホゲホと苦しそうにむせた。

「だ、大丈夫ですか?」

「うっさい! お前も負の感情エネルギーの源にしてやる!」

 そう言うと、ダークエルフは回収しに来た女の子と一緒にミミコも連れ去ろうと、気持ち悪くクネクネと綺麗な手の指を動かし始めた。

 その怪しい姿を見てミミコは怖くなり、今も放心状態の女の子の手を掴んで走り出した。

 こんな時に限って、広い図書館に誰もいない。もしかしたら、あのへんな女の人が……と考えると、余計に怖くなったので、考えずに図書館から出ようとした。中二階から螺旋階段を駆け下りて、机が並ぶ広場を駆けて出口を目指したが……⁉ 

「たら~っ!」

「ひゃっ⁉」

 ダークエルフが瞬間移動で突然目の前に現れたので思わず床におしりをついてしまった。

「フフフフフ、怖いか、怖かろう。あるロボットから奪った機能を元に作ったマシンで、登録した場所の範囲内ならどこへでも移動できるのだ。すなわち、この図書館の中にいる限り、お前はあたしから逃げられない」

「い、イヤ……」

 ミミコは腰が抜けるほど怖がりながらも、しっかりと女の子を抱きしめて庇っていた。

 もうだめ、終わりだ。噂のインド人の少年に憧れて、人助けをしたいと思っても、所詮はまねごと。自分には人助けなんて無理なんだ。

「フフフ、良い負の感情だ……これならもっとボスに……」

「まてっ!」

「誰だ、お前は⁉」

 ミミコとダークエルフが、声の聞こえた螺旋階段でつながっている中二階を見上げると、日曜の朝にやっていそうな女児向けアニメに出てきそうなキャラクターの仮面をつけた少年がいた。

「心優しき乙女と罪のない子供を助けに来た男、シルフ!」

「……シルフ⁉」と、ダークエルフは真っ青になった。「街中にあの忌まわしい絵を描いていたのはお前か⁉」

「そのとおりだ! それ、刮目せよ!」

 すると、シルフは新しく描いた魔法少女のポスターを広げてダークエルフに見せた。

「うわっ⁉ 何をする⁉」

 ダークエルフはつい頭を抱え込みそうになったが、すぐそばに人質になりうる少女が二人もいることに気がついた。二人に手を伸ばそうとしたその瞬間、二人は別の何かに連れ去られてしまった。

「きゃああああっ⁉」

 思わず悲鳴を上げてしまう。ミミコと女の子を持ち上げたのは、触手であった。しかし、その触手はミミコが心配したような卑猥なことはせず、シルフの向かい側の安全な中二階に降ろしてくれた。

「大丈夫?」

「ひうっ⁉」

 触手の正体は見たこともないような生命体で、今度は恐竜人間の姿に変わってしまった。思わずたじろいでしまう。

「だ、大丈夫。僕は彼の味方だ」

「ほ、ほんと?」

「ああ。さあ、出口に行こう。彼女は僕が運ぶ」

「う、うん」

 その頃、シルフはダークエルフにポスターを見せつけて頭を抱えさせていた。

「さあ、見ろ、見てろよ……」

 そのまま柵にポスターを張り付け、ノサウたちに追いついた。


 その頃、学校中のコピー機が動き出していた。先生たちが何だと思って見てみると、突然コピー機が大量の魔法少女のイラストを印刷し始めたのだ! 

「な、なんだ⁉」

 それだけではない、電源につながったコンピュータや液晶黒板などのモニターの全てに魔法少女の画像が写された。

「げ、嘘だろ⁉」

 それを見てしまった教師や職員に化けていたダークエルフたちは驚き、焦り、恐怖したせいで集中力が切れ、魔法を解いてしまった。そして、全員がとは言えないが健全な少年少女たちにその異界的で美しい正体をばらしてしまった。

 その姿を見て、ある者は恥ずかしがり、ある者は良いものを見たと思って一生の思い出にしようとした。

 何といっても一番困惑したのはダークエルフたちであった。なかには仲間割れをし始める者たちまでいた……。

「うわああああああ、特殊な火星人の血液を元に作った魔法の効果が解けてしまった!」

「なんでやられた途端に、お前ら新人は種明かししちゃうんだよ⁉」

「おい、マジかよ!」と、シルフを探していたいじめっ子は新たな標的を発見した。「うひょ~! 二人のうちどちらかのケツ片方だけでいいから引っ叩かせてくれ! そうすればお互い最高だぜ⁉」

「やっぱり親分の方も、ケツのほうがいいよな!」

「はぁ⁉ 何だかんだでオッパイとか言いながらさ! 同士と思ってたのに!」

「うるせえ!」

「な、なんだ、エロガキども! うわああああ、そんなギラギラした目で見るな!」

 ダークエルフたちは思いがけず駆けだした。瞬間移動装置を作動させようとするが、どこからか妨害が入っているようで作動しない! 

「ど、どうなっているんだ⁉ おい、どういうことだ⁉」

「アタイが知るか! つか上司にむかってなんだ⁉」

そんな彼女たちをウハウハな様子で追いかける我らが代表、悪童チーム。

「お~い、待ってくれ!」

「いやあああああ、アタイたちが何悪いことしたのよ~!」

 

 そして、学校中を走り回るセキとフラッグ。

「セキ、フラッグ、どうだ?」と、スクリプトがセキに取り付けた通信機能で話しかける。

「こちら、セキとフラッグ! お前のハッキングのおかげですごいことになってるぞ!」

「ああ、どこもかしこも魔法少女だらけ!」

 二人が捜索しているのは、逃げ惑うダークエルフたちが向かうところ。その場所に行方不明になった誘拐された子たちがいると踏んでいた。

 すると、取っ組み合いながら逃げ惑う二人組のダークエルフを発見した。

「お、あいつらは⁉」

「よし、行ってみよう!」

 ついて行くと、彼女たちは行き止まりの壁に突っ込んで行って、見えなくなった。

「駅につながってそう!」と、フラッグはシルフがくれた本の内容を思い出した。

「なんだ、それ?」

「……気にしないで」

「二人とも」と、スクリプトの声がセキから聞こえた。「その先には確かに空間がある。ホログラムで壁を映し出しているみたいだ。さっきの二人と、下の階層に大勢の生命反応がある。きっと、その下だ」

「……わかった、行ってくる!」と、フラッグは立体映像の壁に突撃しようとした。

「おい、待った!」

「おい、待ったってスクリプトが言ってるぞ!」

「止めるな! あそこには弟や妹も同然の子たちがいるんだ! 一刻も早く……」

「あせるな、もう来たから」

 スクリプトが通信でセキを通じて言うと、シルフとノサウが合流してきた。

「シルフ、ノサウ⁉ あの子たちは⁉ 他の手下たちも……」

「心配ない、大丈夫だ」


「ひえええええ……」

 シルフとおもにノサウの触手に捕まった他のダークエルフたちは校庭に集められ、魔法少女のイラストや彫刻に囲まれて身動きを取れなくしてあった。

 学校に溶け込まされて、ミミコのような子供を狙って泳がされていた少年少女たちの方はシルフとノサウに救出された。アニメキャラの仮面をつけた謎のヒーローということになっているシルフに頼まれたり、異常事態に気づいた先生や職員たちによって、体育館に広げられたマットや布団に寝かせられて、彼らはしっかりと見守られていた。

 危うく自分もその仲に入れられるところだったミミコは、自分が救おうとした女の子のそばにいた。

「一体、何がどうなっているんでしょうか?」

「わかりません……」

 教職員たちの困惑の声も聞こえてくる。

 すると、大量の救急車が大きなサイレンを鳴らして、念のために子供たちを病院に搬送しようとやってきた。全ての救急車がやってきた後も、別の種類のサイレンが学校の外から聞こえてくる。

「おい、街中大変だ!」と、シルフのクラスの担任が知らせに来た。「警察官たちが警察に捕まっている! 街中大騒ぎで、道という道が通行止めだ」

「うわ、鬱病から復帰した途端これかよ」と、スクリプトのクラス担任が言った。「そんじゃあさ、巻き込まれたら危ないから、医者先生たちにはここで子供たちの様子を見てもらいましょう」

「そ、そうですね。にしても……え、どういうことです?」

「さ、さあ……とりあえず、他の生徒たちの人数を確認してもっと安全な所に……」

「それなのですけど、人数が多いのですよ。何か見たことない子たちが多いと思ったら……」

「……すまない」と、理事長先生が言った。

「え、何を言っているのですか? 我々全員の責任ですよ。いつのまにかこんなことになっているのに気づけなかったなんて……」

「ある日、警察署長と、あの校庭にいるような女性たちがやってきたんだ」と、学長は苦しそうに話し始めた。「気がつくと、私はいつの間にか、見慣れない子や先生たちの記録、校舎の改装の記録を偽造していた。何回そのことを誰かに相談しようとしたか。相談しようとすると、頭が痛くなってくるんだ。そして、痛みのたびに、自分が何をしようとしていたか忘れてしまう……」

「……理事長先生……」

「そうだ」と、いつもワルガキ三人の説教を任されている体育教師も言った。「気がついたら、何か忘れている時がおれにもあった。ぽっかりと何かが」

 シルフたちの行動によるものなのか、魔法少女によってダークエルフたちの力が弱まっているからなのか、教師たちに掛けられた呪いが解け始めていた。

 みんな、違和感に気づいて報告しようとしたら、ダークエルフが現れて、署長とダークエルフが作った薬品をかけられて記憶を改ざんされていたのであった。

 数々の忌まわしい記憶がよみがえってくる。

「……ああ、思い出してきたぞ! ……教師失格だ!」

 ミミコは教職員たちの話を聞いて、困惑した。先生たちのせいではないと言いたかったが、子供の言葉など訊いている暇はないだろうと思い、言いに行こうか迷ってしまった。

「あ、あの」と、子供たちの様子を見に行こうとした先生に言った。

「え? どうしたの?」と、落ち込んでいた、シルフの説教を担当した女性教師は振り向いた。

「し、仕方ないと思います。先生たちは、悪くないです。頑張っていたと思います」

「あ……」その言葉を聞くと、先生は泣きそうになったが、今はその時ではないと思ってこらえた。「あ、ありがとう。その子のこと、少し見ていてあげて」

「は、はい!」

 ミミコのその返事を聞くと、先生は笑顔で歩いて行った。が、しばらくすると、嬉し涙を流しながら歩き始めて、ミミコは驚いて心配してしまった。

 一体、この街では何が起こっているのだ? そして、自分たちを救ってくれたあの子と謎の生物たちは? しかし、今は彼らに頼るしかない気がした。今自分にできるのは、この女の子をはじめとした、眠っている子供たちを見守っているだけ。

「誰か知らないけど、頑張って……!」


「よし、行くぞ」

 シルフたちはホログラムの壁に突入した。すると、すぐそこは階段で転びそうになった。

「大丈夫か? もう少しで地図のデータが手に入りそうなんだが……」

「大丈夫。あとは助けるだけだよ」

 と、フラッグが急ぐ。それにみんなは思わずついて行ってしまう。

「おい待て、みんな、こっちだ!」と、地図をダウンロードしてもらったセキが言った。

「侵入者対策のために、少し入り組んでる。気をつけろ」と、スクリプトも通信で言う。

「フラッグ」と、シルフは言った。「焦る気持ちはわかるけど、君まで危険な目にあったらたまらないからさ。落ち着いてくれ」

「……うん」

 フラッグは落ち着きを取り戻した。

 入り組んだ暗い道を、セキについて行きながら慎重に歩いて行く。

「待った!」と、シルフが妙な壁に気づいた。「なんかスプリンクラーみたいなのがついてるぞ! 毒ガスか?」

「ああ、そうみたいだ」と、スクリプトが言った。「ちょっと待ってろ」

 少しもしないうちに、壁についたスプリンクラーが火花を散らして破壊された。

「うお、すごい!」と、セキは思わず言った。

 しかし、それだけだは終わらなかった。入り組んだいつかの迷宮のいたるところから、ビリビリとショートするような音が響いてきた。

「これで、いくつかのトラップは破壊した。だけど、気をつけてくれ」

「おお、ありがとう、スクリプト」と、シルフは感動していった。

その道中、スクリプトがハッキングで破壊してくれたトラップの残骸をいくつか見た。壁に取り付けられたロボットアームを持つ機関銃、火炎放射器、自動ボウガン、単純だが確実な鉄格子、斧、巨大な鉄球、禍々しいトラップの残骸が散らばっている迷路を進んでいくと、ついに明かりが見えた。

「もしかして……」

「ああ、そこだ」

 フラッグもシルフたちも慎重に明かりが見える部屋をのぞく。

 そこは、野球場くらいの広場で、電子機器に繋がれたいくつものカプセルの中に子供たちが何人も収容されていた。ここで悪夢を見させられ、負の感情エネルギーを生産させられていたのだ。さらには、学校という子供たちの様々な感情が入り混じった場所。そこに渦巻く上質な負の感情も手に入れようとしたのだろう。

 そして、奥ではトラップを破壊されて敵に侵入されたことにも気づかずに、大きなツボをせっせとどこかに運んでいる二人のエルフが見えた。

「ど、どうすれば……」と、フラッグは気持ちを押さえて指示を仰ぐ。

「よし、オレとノサウであの二人を何とかする。セキは機械に接続して、スクリプトはみんなを解放するプログラムやハッキングを頼む。フラッグはこれを持ってて」

 そう言って渡したのは自分でかぶっていた魔法少女の仮面であった。

「もしものときにはそれを被ってセキを守ってくれ。そして、解放された子供たちを外に出してくれ」

「わ、わかった」しかし、この精巧な手作りの仮面は恥ずかしい。

「よし、行くぞ!」

 ダークエルフが少しでも多く負の感情エネルギーを外に運び出そうと、巨大エレベーターにツボを乗せていると……⁉ 

「うおおおおおっ!」

「うわあああああ⁉」

 魔法少女のイラストを突き出してやってくる少年と火星人がやってきた! 

「こんなところまでやってきたのか⁉」

「先輩、誰かが子供たちを解放しようとしてる!」

「ええ⁉ つか、罠はどうしたんだよ! もういい! やむを得ん! アタイはそいつをやる! おまえはこのツボを使え!」

「え、だけど……」

「いいから!」

 上司に言われると、後輩ダークエルフはツボの中にナイフを入れた。すると、ツボの中がガタガタと震えだし、後輩エルフも驚いてツボを落としてしまった。

 その中から、負の感情を込められた、全身が刃物でできた、見ただけでも切り裂かれそうな化物が卵から羽化するかのように現れた。

「なはははは!」と、後輩は化物を生み出したことを誇らしく思った。

「笑ってないで、エレベーターに乗ってツボを運べ!」

「ちっ!」

「舌打ちすんな!」

 刃物の化物がシルフとノサウの前ににじり寄って来る! 

「こいつは僕に任せて、君はエレベーターに乗って!」

「よし、わかった!」

 剛腕の種族に変身したノサウが前に出て、襲い掛かってきた刃物の化物を食い止める。その隙に、シルフは走り出し、地上に発進した巨大エレベーターの隙間にサッと滑り込んだ。

「うわ! 何だよ、お前!」と、後輩ダークエルフは思わず叫んだ。

「あれ? もう一人は? ……しまった!」

 その頃、スクリプトはセキを通じてみんなを解放しようとしていた。

「スクリプト、まだか? このままじゃ、オイラは参戦できねぇよ!」

「この量のプログラムを打ち込むには強力なハードディスクでもあるお前を介さなければならないんだ。それに、ここだけは強固で瞬時に新たなファイヤーウォールが張られる。そのたびに俺が直接破らないといけないんだ」

「……よ、よくわからないけど、頑張って!」と、フラッグも言った。

「頑張ったところでお前らには何にもできはしない!」

 その声が聞こえた方を見ると、拳をかち合わせている先輩ダークエルフが見えた。

「お、おい! 今は来るなよ!」と、セキも思わず言う。

「ここは任せろ!」

 そう言うと、フラッグはパチンコを取り出してダークエルフに向かって鉛球を放った。その鉛球は彼女の脳天に当たったが……⁉ 

「いててて……」

「あれ、ガラス瓶くらいならぶっ壊れたのに……」

「本気で殺す気かよ!」と、セキはフラッグの言葉に恐怖した。

「この、何しやがる!」

 と、怒るダークエルフの額には傷どころか痣や痕さえなく痛みも感じなかった。しかし、屈辱は感じるようでものすごく怒っていた。

「アタイは痛めつけられるのが嫌いなんだ! アタイを痛めつけていいのはボスだけだ!」

「な、なんなのあいつ……」

「おい、さっきのお面素直につけろよ!」と、セキは怒鳴った。

「え、え⁉ しょうがない! くらえ!」

 そう言ってフラッグはシルフから渡された魔法少女の仮面を被った。

「うわあっ⁉ ふざけんな!」

 パチンコの子どももロボットにも、ダークエルフの力をわからせてやりたかったのに、彼女は恐怖のあまり土下座するようにうずくまってしまった。

 その様子を見ると、ダークエルフがお面を被ったフラッグの姿が恥ずかしくて目を覆っているように思えて、フラッグの方もうずくまりたくなった。

「……うううっ」

「そのままおとなしくしてて!」

「……クソ! こんな所で負けるか、逆ギレパワー!」

 と、叫んで、ダークエルフはフラッグの顔を見ないように飛び掛かって押し倒した。

「おい、大丈夫⁉」と、セキは叫んだ。

 フラッグとダークエルフは取っ組み合いをしていた。殴っても蹴ってもこちらが痛い。ダークエルフの体は頑丈だった。そして、その頑丈な拳でフラッグは殴られてしまい、気を失いそうになった。

「フラッグ!」と、セキはその場をすぐにでも離れたかったが、そうしたら子供たちを助けられない。「この! スクリプト! もっと早くできないのか!」

「そしたら、お前が壊れちまうだろ! どうしたんだ! 何があったんだ!」

「フラッグがやられたんだ!」

「その通り!」セキの背後には、髪がボサボサになったダークエルフがいた。「お前らが何をしようと、子供たちを助けることなどできない!」

 そう言った彼女の後頭部に、パチンコの玉があてられた。怒って後ろを向くと、蘇生したフラッグがいた。

「この! まだ生きてたんか!」そう言って、怒りのあまりフラッグにもう突進していった。

 フラッグはそんな彼女をさほど通用しないパチンコと気合で向かい撃った。


 その時、シルフも負の感情が入ったツボを乗せて上がっていくエレベーターの中で、後輩ダークエルフに魔法少女を見せつけていた。

「おい、これをしまってほしかったらお前らのボスのところに案内しろ!」

「ひいっ! エッチなことされるのは良いけどそれだけはイヤ!」

「……⁉」さすがのシルフも思わず引いた。「お前のボスどんだけ慕われてんだよ!」

「あ、ちなみに最近は目隠しされるのにハマってる。こんな感じで……」

「見せなくていいよ!」

 しかし、彼女はどこからか目隠しを取り出して目を覆って顔を赤らめた。

「ぐへへへへ、興奮してきちゃった……」

「ひえ……何よ、この女……」

「……あ、そうだ!」

「なんだよ⁉」

「こうすればその絵も見ないですむ! くらえ!」

 そう言って彼女はトンチンカンな方向に殴りかかった。しかし、その先にシルフはいない。

「ハハハハ、笑える!」

 しかし、笑っている場合ではなかった。彼女の殴りかかった先にはツボがあり、それに彼女のパンチが当たってツボが倒れ、中身がこぼれそうになった! シルフは思わず女々しい悲鳴を上げてそれを防いだ。

「おい、危ないな! なにすんだよ! エレベーターをバケモンにする気か!」

「いい手ごたえだ! 次いっちゃうぞ! 二つの意味で!」

「頼む、やめろ!」

 シルフの泣きそうな声も聴かず、彼女はツボを殴るのをやめない! シルフにはかすりもしなかったが、皮肉なことに危険物が入っているツボには必ず当たる。そのたびにシルフは決して軽くないツボを支えた。

「おい、ふざけんな!」

 ついに怒ったシルフは目隠しダークエルフに飛び掛かった。

 その二人と危険物が乗るエレベーターを地上で待っているのは、本部にツボを運ぶトラックを運転する担当のダークエルフであった。

 簡単に上質な負の感情を集められる場所にして、エネルギー源の子どもたちを収容していた学校が大変なことになっているのも知らない彼女は、いつもよりツボが運ばれてくるのが遅いことに気づいていた。しかし、別に報告することでもないだろうと、爪を見て暇をつぶしていた。

 すると、やっと荷物と最近変な性癖に目覚めたらしい後輩を積んだエレベーターが上がってきた。そして、いつもと違うその光景にギョッとした。何故ならそこには興奮状態の後輩とそれに覆いかぶさる美少年がいたからだ! 

「……アタシも混ぜて」

「ちがうから、どっか行って!」

 と、言ってシルフは魔法少女のイラストを見せた。すると、ドライバーダークエルフはうずくまってしまった。

 後輩エルフを拘束してドライバーエルフの前にある壁にイラストを張ると、シルフはトラックに飛び乗った。そこにあるトランシーバーでスクリプトの周波数に合わせる。

「こちら、シルフ! どうぞ!」

 しかし、その返事に出たのは『ホーム』にいた、スクリプトを出迎えた少女だった。

「もしもし?」

「ああ、シルフだ。地下室にいるスクリプトに代わってくれない⁉」

「わかった」

 そう言ってテクテクと地下室に歩いて行くと、スクリプトはスーパーコンピュータのキーボードを高速で叩きながら、次々と発生してしまう、子供たちを閉じ込めるシステムを守るファイヤーウォールを突破していた。

「シルフからもしもし」と、少女はスクリプトにトランシーバーを掲げた。

「スクリプト、こちらシルフ」

「ま、待てって!」

 その時、セキは自分の体からいくつものカプセルに凄まじい量の情報が伝達していくのを感じていた。人間で言えば、熱中症のような感覚。凄まじく体が暑い。いわゆるオーバーヒートをしそうであった。

「おい」と、セキは言った。「スクリプト、容赦するな。もっと早くしろ……!」

「だから、お前が死ぬかもって言ってるだろ!」

「いいからやれ! オイラは大丈夫だ」

 その声で、スクリプトはセキの覚悟をくみ取った。

「……頑張れ、セキ」

「お前もな、やれ!」

 スクリプトは全力を出した。恐ろしいスピードでファイヤーウォールを突破していく。そのたびに、セキは燃えだしそうな感覚、マグマに落ちたような気分になった。

「この! はなせ!」

 ダークエルフは飛び掛かったまま離さないフラッグを引きはがそうと何回も殴った。その痛みに、フラッグは痣をつくりながら耐えた。

「お前が諦めるまで、離さん!」

 そう言って、シルフの仮面をつけて、さらに力を込めてダークエルフを逃がすまいとした。

「こ、この!」と、ダークエルフはひるんだ。

 その頃、少女は鬼神の如き様子のスクリプトにトランシーバーを渡そうとしていた。

「シルフから……」

「ああ、待ってろ、みんな! 俺は安全な所でコソコソとキーボード叩いてるだけだ! その分みんなを助ける! 戦いに行けなかった分までな!」

 その言葉を聞いて、仲間たちはスクリプトのことを信頼した。そして、励ましたくなった。

「が、頑張れ、スクリプト! オイラも耐える!」

「がんばれ!」

 通信からセキとフラッグの気持ちを込めた声援が聞こえる。

「がんばれ!」と、トランシーバーを持った少女も言う。そのトランシーバーからも声が聞こえる。

「ぶちかませ、スクリプト。お前は最高の親友で、みんなを救うスーパーヒーローだ!」

 声援を聞き、さらに加速させて、手が止まった。あまりに働かし過ぎたせいで手が震えている。そして、エンターキーを押した。最後のファーヤーウォールが突破され、スクリプトのプログラムを邪魔するものはなくなり、そのプログラムは機械の動きを止めていく。


 カプセルが敷き詰められた地下室で、警報音が鳴り響く。その次に、カシューっと音を鳴らしながら、カプセルの蓋が全て開かれた! 

 機械に接続し、プログラムを押し流していたセキは倒れそうになったが、すぐにダークエルフの元にむかって、彼女の頭に全体重を乗せて気絶させた。

「うがっ! ギャフッ……」しかし、やはり無傷であった。

うって変わってボロボロのフラッグは、気絶したダークエルフを離し、倒れそうになったセキを受け止めた。ものすごく熱い。いわば、使いすぎて熱くなっている携帯ゲーム機やスマートフォンのよう。

「ど、どうしよう……せ、セキ!」

「へへへ、頑張ったな、フラッグ」

「……き、君こそ」


 その頃、スクリプトは震える手でキーボードを押そうとする。それを、少女が柔らかい手で補助し、一緒にキーを打ってくれる。そして、最後にエンター。


 支えていたセキの体が少しずつ普通の温度になっていった。冷却機能を作動させるプログラムであった。

「うわっ⁉ わ⁉ お、生きてる⁉」

「よ、よかった……」と、フラッグは泣いて喜んだ。

「フラッグ?」

 周りを見ると、目覚めた少年少女たちが不安そうな表情をして周りに来てくれた。

「み、みんな……よかった。さあ、ここを出る……」

 すると、ドカーンと何かが壊れる音が聞こえた。そちらを見ると、四本の剛腕怪獣が金属の塊を叩き潰して平たくし、そこに封印をするように魔法少女のイラストを張っていた。すると、その金属の塊から、幽霊が成仏するかのように、浄化されるように負の感情エネルギーが抜けていった。

「……あ、僕は味方だよ?」

 その様子を見て、セキとフラッグは思わず笑ってしまった。あまりにも最強すぎる。

「あの子はノサウ。こっちはセキ。そして、ここにはいないけど、シルフとスクリプト。みんながあなたたちを救ってくれたのよ」

「あと、あんたもだ」と、セキが言った。

「……あ、ありがとう、フラッグ! セキ! ノサウ!」

 みんなは解放された喜びと感謝の言葉を言った。なかには悪夢から解放されて泣いて喜んでいたり、ボロボロな様子のフラッグの姿を見て泣いている子たちもいた。

 フラッグも泣きそうになったがまた我慢した。


「あっれ、あの二人どこ行ったんだかな……」

「親分、もういいでしょ」

「学校のみんなまでどこか行っちゃったしな。だけど、あのケツはやっぱり惜しかったな」

 すると背後にあったホログラムの壁から、解放された少年少女たちが走って出てきた。驚いて思わず悪童たちも走り出してしまい、彼らが追いかけられているみたいになってしまった。道案内してくれていると勘違いした子供たちもそのままついて行ってしまう。

「なんなんだよ、一体!」

「いっぱい悪いことするからだよ!」

「みんなもケツの方が良いってことだよ!」

「うるせえぞ!」

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