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その七 大脱出⁉ 巨大迷宮からさらば!

「おい、今度はなんだ!」と、スクリプトは思わず悪態をついた。

「とりあえず、逃げた方がいいんじゃないか⁉」

 セキが言う間に、その爆発音を引き起こした奴らが部屋にどっと流れ込んできた。彼らは地下迷宮に入れられた怪獣や怪人ではなく、普通の人間、それものそのはず、防弾チョッキに機関銃、ヘルメットにゴーグルという武装した、犯罪組織や立てこもり現場に突入するような警官隊であったのだ。

 セキは彼らを見ると驚きのあまりショートしたように黙り込んでしまった。

「おとなしくしろ! ウロボロス市警だ!」と、叫びながら奴らは突撃してきた。

「うお、ガチの突撃部隊なんて初めて見た」と、シルフは感心して言った。

「感心してる場合か! それよりも、俺達を救出しに来たってわけでもないようだぞ」

「その通りだ!」というと、警官隊たちを何とか押しのけて合法ロリ警察署長がやってきた。

「げ、警察を腐敗させた元凶にして女性の社会進出を妨げるウーマン!」と、シルフは言った。

「その通りだ!」と、警察署長は悪びれもなく大笑いしたが、みんなは黙っていた。

「……笑え!」

 そう言われると、汚職警官たちは大笑いした。命令通り笑ったのか、署長の態度がおかしくて笑ったのか、それとも弱者たちに力と権力を振りかざしているのが楽しくて笑っているのかは、各人それぞれであった。

「一体、何しに来たんだ⁉ まさか、オレたちの存在を危険視して閉じ込めるだけでは飽き足らず、殺しに来たのか⁉」

 シルフのその言葉を聞くと、汚職警察署長とその手下は黙ってしまった。何でそこまで詳しく話せるのだと言った感じであった。

「マジか、図星かよ⁉」

「……あ~……まあ、そう言うことだ! というわけで、一斉に……」

「ねえ、みんな!」と、ノサウが叫んだ。

「なんだ、いい所なのに! ……げ、なんだ、お前。気持ちわ……」

 と、署長が地団太を踏み、ノサウを見て吐きそうな顔になったところを狙って、シルフが日本刀を抜いて署長の腕を掴んで首に刃を突き立てた! 

 その所業には、人質にされている警察署長はもちろん、部下の汚職警官たち、仲間のスクリプトたちも驚いていた。

「おい、おれのことはいい! ……まて、やっぱ死にたくない。動くんじゃないぞ!」

「だそうだ」と、シルフは言った。「こんなことしたくなかったけど、こいつをやられてただでさえ汚いことやっている汚職警官人生をさらにひどいことにしたくなかったら、出口まで案内しろ」

「そうだ」と、セキが急に調子に乗り始めた。「こいつはマジでヤバいぞ、この迷宮にも平気で落書きするしな、ここにいたバケモンたちも粉みじんだ。あとな、こいつの親父さんはすごい偉い軍人でな、ここにいる奴らの誰かをやっちゃってももみ消せるんだぜ」

「え、お前にそのこと話したっけ?」

「え、お前の親父さんって本当に軍人なの?」

「おい、やべえよ、どうする?」と、武装した警官たちはどうすればいいか困惑し始めた。

「いや、それよりもっとヤバいかもしれない」と、スクリプトが言った。

ノサウが叫んだ後何か聞こえてくるかもしれないと思って耳を澄ませてみたら、地面の奥底から何かがやってくるような感覚がしたのだ。それは、座禅をしたときにみたビジョンと同じような感覚であった。

「うん、僕も足音みたいなのが聞こえてきたんだ。今も聞こえる、ここに向かってきてる」

 ノサウは確かめるために手を地面に置いて言った。迷宮の地下から大軍が走ってきている足音が聞こえ、床からは振動を感じる。

「うそだ!」と、人質に取られている警察署長は言った。「ハッタリに決まっている! か弱い女の子人質に取ってイキッてんじゃねぇ!」

「もうすでにこっちにも分があるのに、ハッタリする必要ないだろ! 早く逃げた方がいい! 全員やられるかもしれん!」

「うわ、来るよ!」

 すると、シルフたちがいる広場の前の廊下を、先頭に、二つ目の階層で倒れていたはずの大きなゴブリン、その次から大勢の化物たちが通り過ぎていった。なかにはシルフたちが倒した者たちもいたが、ほとんど見たことない怪物たちであった。今まで通ってきた迷宮の中にあんなにもたくさんの化物たちがいたと思うと、心底驚いた。

 その中の一人であるゴブリンを、スクリプトが捕まえて訊いた。

「何があった⁉」

「にげろ! ダークネスだ! 憑りつかれるぞ!」

 そう言うと、スクリプトの手を振り払って逃げて行ってしまった。

「お、おい、化物たちが迷宮の外に出ちまうだろ! どうしてくれるんだ!」

「彼らは、何かから逃げているみたいだ」と、ノサウが言った。

「俺たちも逃げた方が良い。シルフは署長を連れて前に出て、警官隊は後ろを警戒するんだ」

「了解!」「了解!」「了~」ポンッ! 「解! ! ! ! ! ! !」

「歌舞伎かよ! つか、なんでそいつの言うこと聞いてんだ!」

 騒ぐ署長の言うことを無視し、少年たちと警官隊はひとまず休戦し、迷宮からの脱出を目指した。駆け足で歩き、怪物たちと共に迷宮の出口に向かった。

 後方の警官隊が、何か妙な事に気がついた。さっきより迷宮の中が暗い気がするのだ。まるで、影が動いているかのようであった。その蠢く暗闇の向こうを見ると、目を赤く光らせ、黒い影のようなものに覆われた怪獣たちがいた。

「逃げろ!」

「みんな! 駆け足だ! 走れ!」

 少年たちと警官たちは走った。蠢く生き物のような闇と、それが操る化物たちに捕まったらどうなるかわからない。恐らく、あの生きた闇の眷属になってしまうのだろう。

 警官隊は自分の身に危険がせまったら迷わず銃を抜いた。スクリプトもチャクラムを回して敵の首を斬り、ノサウも触手や剛腕でバッタバッタと迫りくる闇の眷属たちを倒していった。

そして、シルフは人質に署長を抱えながら、迫りくるダークネスと呼ばれる怪物の正体と弱点にたどり着いていた。

 それは、最初からいたのだ。自分たちがいた地下迷宮の最下層の暗闇。あれ全てがダークネスという魔物だったのだ。それならば、なぜ自分たちは襲われなかったのか? 出口を見つけさせるためだ。そして、やつは出口を見つけた。出口を見つけさせるために泳がせていたが、もう用済みとなったシルフたちは眷属にするしか利用方法はない。だが、そこまで頭が回るだろうかとも考えた。そして、あんな力を持ちながらなぜ今になって迷宮から出てこようと思ったのだろうか? 

「そうか、あれがムカついたんだ! あれに対する怒りのエネルギーでパワーアップした! だけど、やつはなぜ怒りを感じるのか? 弱点だからだ、先に眷属にした奴らを使ってあれを壊させて、ここに到達してきたんだ! あ、だけど、あいつ、壊しやがった、全く! なら壊しきれないくらいもっといいモノを作ってやる!」

「さっきから何言ってんだ!」

「署長、発射!」

「うわ、何すんだ⁉ ギャッ⁉」

 すると、シルフは小さな署長を外へ投げて脱出させ、その次に迷宮の外に出た。外は、ウロボロスシティの廃墟群で、逃げ出した化物たちが息を切らして倒れていた。

 そして、飛び出したシルフは作業を始めた。

「もうすぐだ! 走れ!」

 スクリプトの声で、ノサウとセキ、警官隊、スクリプト、生きた闇の一部を斬って帰ってきたチャクラムが、迷宮の入り口から廃墟群へ飛び出した。

 そして、迷宮からは悪しき闇の魔物がのっそりとはい出てきた。巨大な人の形をした、ヘビがのたうち回っているかのような表面をした、どす黒くて不気味な、生きた闇そのもの。迷宮深くに封印されていた怪物が姿を現したのだ! 

「おい、なんだ、あれ!」と、セキは思わず叫んだ。

「あれがダークネスだ! 一番最初に生まれたけど危険すぎて封印されたんだよ!」と、ビックスパイダーが怒ったように言った。

「おい、俺たちを迷宮に閉じ込めた時、穴を開けてただろ! あれはできないのか?」と、スクリプトは署長に訊いた。

「できたらやっとるわい! つか、あんなでっかいの、閉じ込めた所ですぐに出ちまうだろ!」

「日の光だ~! ! ! ! ! ! !」と、ダークネスは闇のくせに日光に感動して叫んだ。「閉じ込められた時はどうなるかと思って魔力が弱りかけたが、火星人の恐怖心のおかげでここまで来られた。と思いきや、変なガキどもは来るわ、またあれがあったんだからな! だが、苦しい過程を経てたどり着いた自由は気分がいい!」

「え、僕が一人で不安になっていた気持ちを、利用したの?」と、ノサウは茫然として訊いた。

「そのとおりだ。お前のせいだ! お前の仲間が危険な目にあったはな!」

「いや、元々閉じ込められるようなことしたお前が悪いだろ」と、セキがボソッと言った。

「黙れ、鉄くずが! 最初に殺してやる!」

「おい、ダークネス!」

 シルフの声が聞こえた方を見ると、そこにはいくつもの魔法少女たちがいた。ありとあらゆる壁、廃墟、さらには岩や瓦礫を削ってオブジェまで作られていた。どれも精巧に美しく、そして可愛く作られていて、警官隊たちもこりゃすごいと見惚れていた。

「おい、まさか、貴様が作ったのか! 迷宮に描かれていたあいつらも!」

「ああ、そうだ。迷宮一つ分だったら怒りで耐えられたかもしれないけど、この街にはまだまだ彼女たちがいるし出来もいいんだ。何だったら今ここでいくらでも増やすこともできる。それ、見ろ! 今までで一番よくできたオブジェだ!」

 そう言うと、シルフは中でも一番できの良い魔法少女のオブジェを持ち上げて、巨大な闇の怪物に見せつけながら歩み寄った。

「おい、やめろ!」

「おら、迷宮で反省しろ! あと、他の魔物どもも開放してやれ!」

 シルフはそのままオブジェを迷宮の出口においた。すると、ダークネスは力を失い、外にウヨウヨと出てきた眷属たちも開放されてバタバタと気絶していった。ダークネスが迷宮に完全に入ったことを確認すると、シルフは扉を閉めようとした。

「おい、おとなしくする! だからそのオブジェをどけてくれ!」

「気が向いたらな」

 そして、シルフは迷宮の扉を閉めた。ダークネスはこれであのオブジェや他の魔法少女を見なくて済むと思った。が、安心したのも束の間、閉じられた扉にも魔法少女が描かれていたのだ! 

「ぎゃあああああああ! ふざけんな、あの……」


 こうして、少年と仲間たち、失敗作として幽閉された生物兵器たち、そして、悪の合法ロリ署長が率いる汚職警官隊たちはなんとか迷宮から脱出することに成功した。

「みんな、大丈夫か?」と、恐怖は知っているが疲れは知らないセキが訊いて回った。「誰か、欠けているところがあったら言ってくれ。また突入して助けに行こう。……オイラは行かないけど」

 ノサウは四本腕の種族に変身して、迷宮の扉を建物の残骸で封印していた。そして、念のために魔物たちを弱める力があるとわかった、シルフの作品を周りに置いておいた。

「これで、ひとまず大丈夫かな」

「おい、そこに置くな! だるくなるだろ!」と、チェーンソー怪人が怒鳴った。

「ああ、ごめん。だけど、君が見えないところに移ってよ。どかすわけにはいかないんだ」

「なんだと……!」

 怒って周りも気にせずにチェーンソーを振り回しそうなので、ノサウは魔法少女のオブジェを持ち上げた。

「げっ! クソ、火星人のくせに……」

 シルフとスクリプトはまだ地面に突っ伏している巨大化したゴブリンに寄り掛かっているロリ署長と話していた。

「なあ、わかっただろ」シルフはかがんで、相手に目線を合わせて言った。「あんな恐ろしいやつを作るさらに恐ろしい奴に、あんたは加担していたんだ。いい加減罪を認めろよ。あと、オレらに謝れ」

「その罪滅ぼしのためにも、あの迷宮の黒幕であるあんたのボスを逮捕してくれ。警察官としても責務を果たすんだ。そうすれば……」

「ふん、そのあとはどうなるんだよ!」と、署長は偉そうに言った。「化物たちに加担しました、おとなしく罪を償いますって刑務所に入れってか?」

「そうだ、当たり前だろ!」と、スクリプトは思わず怒鳴った。「だけど、ボスを告発すれば、その罪もいくらか減刑されるかもしれないじゃないか」

「ああん⁉ 何言ってるんだ⁉ 宇宙人みたいなやつらと取引したんだぞ! ただで済むわけないだろ! もしかしたらエリアナンタラカンタラってところに入れられるかもしれない!」

「……じゃあ、ボスを捕まえたのはあんたの手柄ってことにすればいいじゃないか。俺たちに対してやった罪もなかったことにしていい。ボスとは最初からつながりはなかった。つながりがあったと当局にばれても、スパイしていただけだって言うんだ。そうすれば、あんたは悪者たちを捕まえたヒーローだし……」

「はぁ、ヒーローっ⁉」と、合法ロリ署長は怒鳴った。「ヒーローになんてなりたくなかったんだ! 万人にペコペコ頭下げる恩着せがましい偽善者になんてなりたくない! それだったら、おれは自分に正直に生きてやるぜ!」

 そう言うと、彼女は立ち上がって歩いて行ってしまった。

「は⁉」シルフは怒鳴った。「このまま何もしないのか⁉ 悪者のままでいいのかよ⁉」

「うるさい、終わりだ、あとはお前らの勝手しろ!」

 署長が前を向くと、弱みを握って部下にした汚職警官たちがシルフの作品を見てニコニコとしていた。その様子を見ると、無性に腹が立ってきた。

「おい、何してんだ、お前ら! 帰るぞ!」

 そう言われると、警官隊は自分たちより小さい上司にペコペコとついて行った。

「おい、お前ら! 逃げていいのか⁉」シルフは叫んだ。「この街が何なのかわからん危険な奴らに征服されて、人々が苦しめられるかもしれないんだぞ! たくさん悪い事をしてきたり、悪い事をするために生み出された人生の中で、少しでもいいことしようとは思わないのか⁉」

 そう言われると、怪物たちは振り向いた。

「おい、お前ら」と、合法ロリ署長は怪物たちに行った。「こっちに来れば、ただで飯食い放題で遊び放題、あのへんな芸術作品もないぞ」

「マジかよ⁉ 行こうぜ!」

「お、おい、お前ら⁉」

 シルフの声も聴かず、合法ロリ署長は警官隊と怪物たちを連れて行ってしまった。

「馬鹿! アホ! 人でなし! 一人くらい善行に目覚めろよ!」

「誰も目覚めねぇよ!」と、封印した迷宮の中からダークネスが言った。

「うるさい!」

 そう怒鳴ると、疲れ切ったシルフは地面にしりもちをついた。

 三人の仲間も、シルフの隣に座った。とにかく、四人は疲れていた。

 機械のセキも精神的に疲れていた。今は何も考えたくない。しかし、シルフに何か言ってやらねばならない気がした。

「……さっきの演説は、少し感情的だったけど、的は射てたぞ」

「……ありがとう、セキ」

「で、これからどうしようか?」と、ノサウは訊いた。

「……オレは戦う。敵の全貌も見えてないけど。だけど、レーザーアイは負の感情を集めているって言ってたし、それを使って作られていたのも、あいつらだと思う」

「巨大蜘蛛に、チェーンソー怪人にゴブリンたちか」

「おれも忘れんな!」

「黙ってろダークネス!」と、シルフは怒鳴った。

「奴らを使って、一体どうする気だったんだろうか? まあ、悪いことには変わりないだろうけど」

「まず、あいつらの材料になっていたと思う、負の感情をどうやって集めたかだ。もしかしたら、人を苦しめて集めているのかもしれない」

「じゃあ、今でもあの小さい女の人を従えていた人が、誰かを苦しめているかもしれないってこと?」と、ノサウは恐る恐る訊いた。

「だろうな」と、シルフは立ち上がった。「黒幕は迷宮で戦ったやつらよりも強力で恐ろしい奴らに違いない。だが、オレは戦う」

「……僕も戦う。この才能が役に立つんだ。できることはやるさ」

「……ほかにやることもないし。人工知能の力を見せてやるか」

 スクリプトは、自分に何ができるかわからなかった。勝算はない。敵がどんな存在かわからない。しかし、親友によれば人々を苦しめているらしいではないか。親友を信じて、自分ができることをやるしかないだろう。

「スクリプト、いや、ジョン・ボーグヘルムはどう思う?」

「俺も戦うさ」と、立ち上がった。「俺もヒーローになる。シルフ、アレクサンダー・シャイニング」

 二人は力強く握手をした。

「え、どういうこと?」

 セキは二人の本名を知らなかった。

 廃墟群にいる奇妙なヒーローチームを、夕日が照らしていた。

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