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第三話 私、そう推理しました



 温かい。

 気付けば窓から陽の光が差し込んでいて、朝のあの独特の肌寒さが顔に張り付いていた。


 無意識に、あのモフモフを求めてしまうのは人間の性というやつなのだろう。

 きっと私じゃなくってもすぐそばにモフモフがあれば撫でたくなるのが普通なのでは?


「ってあれ、この触り心地……?」


 おかしい。

 私の求めるあのモフモフがない。確かに私のお腹の当たりで丸まって寝ていたはずなのに、あの狐ちゃんのモフモフが見つからない。


 私が寝ている間に逃げてしまったのか? 恐らくは夜行性であろうことを考えれば、そうであってもおかしくはない。

 おかしくはないのだが、ある事前情報を持っていたからこそ違うのだと理解できてしまう。


 手を伸ばせばちょいモフはあるのだが、触り心地は勿論のことそれ以上にその大きさが全く違っているじゃないですか。


 私のしたいことを拒むかのような。ゴワゴワとした手触りの藁を少しだけ持ち上げてみる。


「んみゅぅ……」


「“変身”してる……!」


 薄茶の髪からぴょこぴょこと動くケモ耳を確認。尻尾の存在も確認。

 だがその姿は狐であるとは到底言えないようなものになっていた。


 ピピピッ! ケモナレベル3を検知!


「まずい……これはかなりマズい状況だよ……!」


 何故かって? そんなの撫でたい欲を抑えられないからに決まってるでしょうに。

 まぁ抑える気なんて最初っからないんだけどね。


 耳……はちょっと怖いから、まずは頭から。

 髪というより、まだ体毛に近い触り心地。ケモノらしい素晴らしいモフモフは健在であり、昨夜と比べても甲乙つけがたいものがある。


 いや、どっちの方がいいとかはなくって。

 どっちかが良くてどっちかが悪いというよりも、私の好みになっちゃうんだけどって話。


「ん~んぅ……」


「可愛いねぇ」


 人間らしさという点ではそのシルエットくらいのもの。

 顔立ちはまだケモノらしさが残り、足は確認できないが手も人のものではなく狐っぽい。

 ただ、腕の部分や太ももの部分など所々は人間のような肌が見えていて。


 最高ですかおい。


 でも、いつまでもこうしていたいけど私にはまだ理性というものが残っているのだ、ふはは。

 一度手を止め、彼女……彼かもしれない狐さんの起床を促す形で再び動かしていく。

 程々にして、いつでも中断できるくらいには冷静であれという、父譲りの部分がこの時ばかりは正常に働いてくれたおかげなのかもしれない。


「……お母さん……?」


「あっ、いや、私お母さんじゃないですぅ。えと、残念でしたぁ~」


 クソっ! しまった! 今度は父譲りの人見知りが正常に働いてしまったばっかりに、なんか気持ち悪いことを口走ってしまった……!

 相手を怖がらせないように。怪しい人じゃないですよと、陽気な人格を演じようとして冗談交じりに言葉を選んだ結果がこれだ。全部が全部逆効果だろうと思うわけですよ、はい。


 口に出してしまってから遅れて選択ミスに気付いてしまうのがいつもの私。絶対もっと良い言葉あったでしょ。

 普段の経験から学べない唯一の課題が憎くて憎くてたまらない。


「え、えへへ。お母さんじゃなかったかぁ。でも、お母さんみたいに優しい感じがします、落ち着きます……」


「いやこの状況でまた寝るとかどういう思考回路してるのこの子」


 どうやら私以上に頭のおかしな子であったらしい。

 身体を丸めるだけでは飽き足らず、なんと私の身体に抱き着いてきたではありませんか。たまりませんな、えへ。


 まぁ今更だけど、突然に出会った見知らぬ人間と夜一緒のベットで寝るような子がまともであるはずがないんだけどね……。


 ほいほいと誰かについていくような性格は、この世界では別に大したことない一般に分類されるのか?

 ベースが人間ではなく動物の方であれば、ありえない話でもない気がしてくる。群れで行動している的な、そんな感じでここら一帯はこの子の安全圏なのかもしれない。


「ねえ、ちょっと……起きてくれない?」


「んぁ~……?」


 少し強引に、身体を引き剥がしながら声をかけてようやく起きてくれる。

 大きな伸びと欠伸をするその行動は、なんら人間と変わらないようであった。まぁ、態勢は狐そのものではあるのだが。


 そんな姿もとても可愛らしいが、待て。待つのだ我が腕よ。今はまだナデナデの時ではない……!


「……あの、寝起きで悪いんだけど、ちょっと聞いてもいい?」


「はいっ。いいです、よ……ってなんですかこれはぁぁぁぁああ!?!?!」


「ぎゃぁぁあああ!? ごめんごめんごめんなさいぃ! いやこれは一緒のベットに入ってただけというかただ寝ていただけと言いますか……っ!」


 自身の身体を見て相当に驚いているらしい。そりゃそうだろう。自分は服も着ておらず、目の前には誰とも知らない人がいるのだから。

 目が覚めて脳が覚醒してきたからこそ、余計にこの状況に混乱してしまっているのだろうと思われる。私、そう推理しました。


「なんですかこの身体はっ!? ミツキ、いつの間に大きくなってたのですか!?」


 推理って、難しいんですね。どうやら驚いていた点は、服を着ていないことでもなく私がいることでもなかったらしいです。

 え、変身するのが当たり前って思ってたけど違うの? 経典を思い出すに珍しいことでもなかった気がするんですけど?


「お、落ち着いてミツキちゃん。私もよく分かんないし、あわ。慌てていても何も解決しないっていうか……っ」


「う、嬉し過ぎますぅ!!!」


「へ?」


「もしかしなくても“ご主人様”のおかげなんですねっ!」


 いやいやいやいやちょっと待て。

 何を言っているんだこの子は……?

 

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