第一話 ご先祖様からの贈り物
毛に覆われた者達の世界。
獣ではなく、ケモノ。
人の姿を借り、人と同じように暮らすその異様な風景。
夜になれば月光よろしく星々の明かりを瞳に反射させ跋扈するケモノ達。
出鱈目な、荒い声とともに朝日を迎えるケモノ達。
玉のようにまあるくて、雪のようにとびきりの真っ白な毛をしたケモノ達。
見つかればこちらは獲物。
捕食者ではなく被食者としての、あの胸を締め付けられるような感覚は忘れられない。
どうしてこうなったのか。
どうして私だけが姿が違うのか。元いた世界には帰ることができないのか。
呑み込まれるように毛の塊で囲まれたとしても、それでも私は諦めなかった。
あぁ、撫で心地が最高だ。
いつまでもこうして、モフモフを撫で回していたい。
獣もいいが、やっぱり私は人が好きなのだろう。
獣ではなくケモノ。人のように手足があり、ほんのちょっと耳や尻尾が違っていて。人なんだけど、獣の要素がちょっぴり混じってるくらいが丁度良い。
帰りたいなぁ。とは思っていても、まだいいかなとも思う私がいて。
いっそのことこっちの世界で暮らして……なんて。そんな風に考えて。
まぁでも、こんな風に本を残している時点でお察しだろう。
私は帰ってきた。あの、夢のような世界と別れ、こうして戻ってきてしまったのだ。
時間切れ、というやつなのだろう。与えられた時間がなくなってしまっただけ。そう思う事にした。
もし、もしもいつかまた。
私が、私の子達がケモノの世界に迷い込んだのなら。
恐れることはないよ。
その心の欲望のまま素直に生きればいい。
後悔する前に、自分のやりたいことを見つけるんだよ。
あぁ□□□った。あっ□□世□のこ□□□□け□ね。
□□最□に魔□□□名乗□てる馬□□□い全□□元凶□□うと□い。□□名□□□□を話□□□力して□□る□□□さ。
家訓
モフモフは正義
「~~っ! っぱモフモフは正義だよねぇ~!」
読んでいたのは代々我が家に伝わる一つの本。
少し分かりにくい……もとい下手くそな絵が描かれている、絵本みたいなもの。
内容はケモノばっかりの世界で冒険をしたってお話。
あえて書いてないのか、覚えてなかったのか。所々で微妙にぼかされてたり話が飛んでいたり。
お母さんが言うには私のご先祖様が書いたってことらしいんだけど、実話なのかな?
だとしたらめっちゃ羨ましくない? ワンちゃんとかネコちゃんだけじゃなくって、熊とか鳥とか馬とかの……獣人? 的な人達に会ったってことでしょ?
ご先祖様は“ケモノ”って表現してるけど。
不思議なのは小っちゃくなったり大きくなったりするんだって! 詳しく書かれてないから何とも言えないけど、変身? しちゃうってことなのかな?
ほら、こことか同じ人の比較みたいな絵があるし。
短期間で成長する、みたいなことは書かれてないからやっぱ変身する感じだと思うんだけどなぁ。
お母さん的には個体差って解釈らしいけど。
お父さんはあんまり興味ないみたい。弟もそんな感じ。
家の家系は皆ケモナーで、まぁ多分世間一般的にはちょっと変な家族なんだと思う。
それの起源というか元凶というか、私からしたらお師匠様みたいな人なんだけど今まさに読んでたこの本を書いてくれたご先祖様が原因だと思うんだけどね。
嗜好は遺伝するのか。
なんて論文の良い研究対象になるような気がしなくもない。
将来もし大学にいくんなら私自身が書いても良いのかもしれない。うん。
『ケモナー遺伝子大列伝』的なタイトルとか、いかにもっぽくてすっごく良いかも。
「はっ! もしかしなくてもプーペル平和ケモナー賞が新たに追加されるきかっけに……!」
「こーら、美桜ってばまた変なこと考えて」
「いてっ」
「もうすぐご飯だからね。脳みそ綺麗にしてから降りてきな~」
お姉ちゃんってばすぐ叩くんだから。
私、ケモナーなんて知りません。勝手に巻き込まないでください。って雰囲気出してるけど、私知ってるんだからね。
夜な夜なケモノのイラスト漁りながらぬいぐるみ抱いてスンスンハーハーしてるの。
バレてないと思ったら大間違いなんだからね! 寝たふりするこっちの身にもなって欲しいもんだ。
あーあ。私もご先祖様みたいに不思議な体験してみたいなぁ……。
流石に徹夜して読み返してたから……ちょっと、眠い……
ご飯、今日は何かなぁ…………卵焼きとか、いいかも……
狐さんみたいな色の卵焼き、好きなんだよねぇ…………