おまえは容疑者だ
実験室の床にミシェルは伏せる。
相手に完全平伏し、謝罪する。
所謂、土下座だ。
「ゆ、許してッ!勘弁して!」
そんなミシェルに三人は呆れ果てていた。
ベルソートは実験室の床を踏んだ瞬間に発動した『前後不覚に陥る』術式を受けたのもあり、未だに目の焦点が合っていない。
続いて、サマレスも同様にその催眠を受けてはいたがベルソートほどではなく、だがしかし少女が仕掛けた物と知って驚愕している。
そして最後に。
「君の意地が悪すぎるんだぞ」
「あたしはこれで生き抜いてきたの」
「ちゃんと目を合わせて話すんだ。いつまで床に頭をこすり付けてるんだ?」
「〜〜〜んのッ、腹立つ駄犬っスねぇ!?」
細見の青年イグルは、いつものことと受け流している。
努めてミシェルを諌めようと立ち回っているつもりだが、直截で空気を読まない物言いがさらにミシェルの怒りの炎に薪をくべている。
本人に自覚が無いこともなお質が悪い。
サマレスはこほん、と咳払いを一つ。
ベルソートが贔屓目無しに称賛し、厚遇する才能の塊の意外な姿に拍子抜けしつつも、すぐに平時の教師としての顔を作った。
様子の変化と緊張感に、ミシェルの顔が強張る。
「改めて聞くが、名前は?」
「…………ミシェル・エンテント」
不貞腐れ気味にミシェルが応えた。
「入学は既にニ週間前だ。どうして授業を欠席しているんだ?」
「『言語誘導』の実験で、ちょっと新発見があったんでのめり込んじゃったり…………というか入学?」
「入学通知がそちらに届いているはずだ」
「ちょうど材料に紙が欲しかったんで、手当たり次第に使って…………えと、あははは」
指をもじもじさせて少女は苦笑する。
ミシェル・エンテント。
大魔法使いをして天才と言わしめる催眠魔法の使い手である。
その外見からは予想もできない評価だ。
くすんだ金色の髪は手入れを怠っている所為で毛先が自由に跳ね回り、深い青の目の下には青黒い隈が濃く滲んでいる。
健康とは言い難い白い肌と、乾いた唇。
ローブはもはやいつから着ているのか、近くにいるだけで薬品臭が漂う。
「でも、あたしが何で魔法学園なんかに?」
「ヌシを弟子にしたときに言ったじゃろう」
ベルソートの弟子となったとき。
そのことを思い出してミシェルの顔が引き攣る。
戦争で焼け落ちた廃墟の街で暮らしていたミシェルは、強盗や物乞いを繰り返して日々を生き延びていた。
ある日、自分を襲う暴漢に対して手を振ると、相手が驚くほど大人しくなった手応えを繰り返していく内に、仕草を媒介として相手を惑わす魔法が使えるという事に自覚を持った。
それを続けていると、やがて自分の下に人が集い、自分を神と崇めて物を貢ぎ始めた。
豊かになる生活に調子に乗ったミシェルだったが、旅行中だったベルソートとその弟子が遭遇して魔法の悪用が露見し、捕縛された。
散々抵抗はしたが、逃げると雷が降ったり突然目の前に断崖絶壁が現れたりと、悉く追い詰められた。
三日三晩の壮絶な逃走劇の末、捕縛されたミシェルは人を一瞬で塵にする魔力の塊を頭上に待機させた状態で塵に脅迫されたのである。
『ヌシが魔法使いか?』
『ひひひひ人違いっス!』
『良ければワシの弟子にならんか?ならなければ、ヌシを国に売り渡すか灰にするんじゃが』
『よろしくッス、このクソ師匠!』
最悪な師弟関係の成立。
今でもあの日の出来事を悪夢としてミシェルはベッドの上で思い出す。
最悪の過去を回想して、しかしミシェルは目的の情報が見つからず眉をひそませる。
「でも魔法学園の話は無かったような……?」
「あ、すまん。多分、昔の別の弟子との記憶と混同してたわぃ」
「じゃあ、あたしは勘違いで学園に放り込まれたワケっスか」
ベルソートが呵々大笑するのを、ミシェルはこめかみに青筋を立てて睨む。
手にしているのは実験器具だが、今にもそれが凶器に変わろうとしており、後ろから手を握ってイグルが制止していた。
「冗談はさておき、ミシェルよ」
「冗談かよ、次言ったら昇天させるっス」
「ヌシとは数年の付き合いじゃが、ワシ以外とまともな人間関係を築いたかのぅ?」
「故郷じゃトモダチは沢山いたっス」
「それは信者じゃろうが!?」
ミシェルが深々とため息をつく。
「じゃあ、何スか?」
「ヌシは魔法の知識も充分に揃っとるし、今さら入る必要性は無い」
「なおさら入学おかしくないっスか?」
ベルソートが首筋を掻く。
「ヌシには人間として決定的に不足した物がある」
「美貌?」
「違う。……青春じゃ」
「……青春??」
「ヌシの才能を見込んで研究できる環境を与え、その力を伸ばす事に尽力した。ヌシがそれを喜んでくれたのもワシにとって幸いじゃった」
「え、なに急に?らしくないっスよ」
「じゃが、ワシは思った。ヌシには、同年代の子供と戯れ、切磋琢磨する時間……人が言う『青春時代』がまだ送れておらん」
またもベルソートが口にした『青春』を、ミシェルは鼻で笑う。
人間の精神や肉体が成熟するのは、概ね生きて二十年か三十年とされる。その大本を決定するのがベルソートが口にする『青春』と呼ばれる時代、十代などの若い頃の経験だ。
正直に言って、人の捨てた物と捨てられて人で溢れ返ったこの世のゴミ溜めで幼少期を過ごしたミシェルは、肉体面はともかくとして精神的には大人顔負けの度胸と経験がある。
今さら他人との交流など必要性が全く感じられない。
「別に要らないっス」
「何故じゃ」
「人間見ると、最近は全員が実験動物に見えちゃうんで気づかぬ内に臨床実験始めてるかも」
「そうなったらワシがヌシを始末するわぃ」
不穏な師弟の会話をサマレスは不安げに見守る。
ミシェルの過酷な生い立ちもそれによって損なわれた青春時代も悩むべき事柄だが、既に入学手続が完了しているミシェルが学校に通っていないことの方が今は問題だった。
歳の頃から、おそらく中等部一年になるはず。
そうなればサマレスの担当だ。
入学したならば、快適な生活が送れるよう教師の領分できっちり援護するだろう。
「でも師匠」
「何じゃ?」
「あたし、本当に困ってないっスよ」
「えー」
「それに、あたしの年齢からして……十二ってなると中等部とかでしょ。今さらガキに混じってお勉強とか」
「いや、ヌシは高等部じゃぞ」
「は??」
ミシェルが目を見開く。
「高等部って、たしか十五くらいからじゃないっスか?」
「うむ」
「いや、うむじゃなくてあたし歳的にアウトなんスけど」
「実はのぅ、魔法学会の方から『ミシェル殿にはさらなる成長や発展を期待し、改めて魔法学園できっちりと修学して貰ってみるのは如何か』と」
「何言ってんスか」
「だから、手っ取り早く卒業させるなら高等部にブチ込む」
ベルソートが苦々しげに答える。
現状、ミシェルは研究成果により異例ではあるが一人の研究者として地位を確立していた。
だが、若くして自身よりも目覚ましい活躍を見せる存在を快く思わない者たちもいる。ミシェルの才能への嫉妬、侮っていた催眠魔法の使い手など理由は多様だが、つまりは研究の妨害である。
学会に強い発言力を有するベルソートだが、流石に学会に在籍する過半数の研究者や権威に言われては跳ね返せない。
「――という訳で、入学は必至。書類上の年齢は詐称する。外見年齢については体の魔力障害で成長が遅れとる子どもの例も少なくない。そう言う事情がある、というのを誂えた」
「はァッ!?」
「不満かのぅ?」
「なに入学前から乙女の体を曰く付きにしてんスか、露見したときの責任持って下さいっス」
ミシェルがげんなりとした顔で責任を問う。
対して、ベルソートは口笛を吹いていた。
その状況になったら適当に誤魔化して逃げるつもりなのが一目瞭然の反応だった。
一方でサマレスは納得と疑問が半々。
高等部入学ならサマレスの管轄外、関与できることは無い。――のだが、何故ベルソートが自身を呼んだのか、そこについての言及は未だ無い。
「ヌシは高等部に入学しろ、これを師匠として言い渡す」
「…………」
「まあ、ワシも流石にヌシをずっとジメジメした空間に閉じ込めるのもどうかなーって思い始めてた頃じゃし」
「アンタみたいな人でなしが?」
あまりの弟子の言い様に、ベルソートもむっとして敬意のない態度を少し改めよ、と言い付けようとして――口が固まった。
意思との繋がりが断たれたように、口だけが動かない。
自分の異常事態に驚くベルソートの眼前で、ニンマリと弟子が下卑た笑みを浮かべた。
「はい、『催眠』完了っス」
その一言に、ベルソートは内心でしまったと己の不覚を恥じる。
ミシェルの『催眠魔法』は、ベルソートの知るそれとは格が違う。常識を覆した術理を識るミシェルの技が、大魔法使いとしての知識や実力があると根底に根差したベルソートの無自覚な慢心を突いた。
制御下に置かれて悔しそうなベルソートと、不敵な笑みで師の醜態を観察するミシェル。
その両者に、未だ状況が理解できないサマレスが眉を顰めた。
「な、何をした」
「催眠魔法は、一定の魔力と『仕草』で発動するっス。あたしの声に魔力を乗せて脳を冒し、唇や表情の動きで暗示をかけて『催眠』したっス」
「なっ……?」
ミシェルが自らの師に働いた犯行の種を明かす。
しかし、内容を聞いたサマレスには信じ難い事だった。
相手に繰り返したり大袈裟にしたりと自分の強調する動作や言葉に意識を向けさせ、その集中力などを逆手に取って刷り込んだ『認識』を鍵に支配するのが一般的な催眠魔法だ。
ミシェルの話し方や挙止は自然だった。
催眠魔法を仕掛けている気配は皆無だった。
「そんな馬鹿な……それに魔力は感じなかった」
「そりゃそうっスよ。貴方には先んじて同時に魔力感知をしないよう既に魔法を施してあるっス。師匠の魂胆を聞き出すのを妨害されたくなかったんで」
「なっ……そんなのいつ……あ」
自身が既にミシェルの術中にあると知って問い質そうとしたサマレスだが、すぐに気付いた。
催眠魔法をかける条件は、まず自分を意識させる事。
この部屋に入って、『こんな少女がベルソートの認める才能か疑わしい』とミシェルの様子を深く観察していたサマレスを対象にすれば、ベルソートよりも容易に魔法を施せる。
「いつも放任主義の師匠が訪ねて来るからロクな事が無いと思って。一緒に来た貴方もグルだと思って勘付かれないようにしといたんスよ」
「ぬ、抜け目ない……」
ミシェルは簡単に掌握できた情けない大人たちを鼻で笑った後、ベルソートを睨む。
「じゃ、質問っス」
「………!」
「あたしを入学させた真の理由を答えるっス」
質問――という名の命令。
「……………学園内で、事件が連続して起きとる」
「は?何スかそれ」
「校内で起きとる事件の大半に、催眠魔法の技術が使用されていたんじゃ」
「……………はあ?」
命令に応じたベルソートの話に、ミシェルは耳を疑った。
聴いていたサマレスもまた、ぎょっとしてベルソートを見る。
教員として、学園内の出来事もある程度は把握しているサマレスも、たしかに最近は事件が多いと感じていた。ところが、その真相は分からずじまいで調査が行われていると耳にするのみだったのだが、まさか催眠魔法だったとは知らなかった。
「催眠魔法で、誰かが悪事を働いてるって事っスか」
「そうじゃ。学会の連中は、ヌシを容疑者としとる……じゃから、監視も兼ねてヌシ自身に調査をさせる為に学園に入学させろという話じゃ」
「あたしはやってない」
「ワシもそう思うし、ヌシが本気なら今頃は現状ほどの被害では済んでおらん。……じゃが、使用されとる仕掛けが催眠魔法なのは間違いないんじゃが、高度な技術でワシらに解明できん」
ベルソートが苦々しく告げる。
「……まさか」
「ヌシ程でないと無理、というのが学会の見解じゃ」
「うそぉ」
ミシェルが弱々しい声を上げた。
つまり、ミシェルを容疑者とする考えは十二分に揃っている。
普段は研究室から出てこないのでアリバイも無いし、誰にも解析不可能とされる高度な催眠魔法の技術となれば最近はその分野で革命を起こしたミシェルが関連している可能性がある。
要するに、学会は『疑惑を自らの手で晴らせ』と言っているのだ。
「め、めんどくせー……」
本気で嫌そうな反応には、ベルソートもサマレスも何も言えない。
学会の総意にも等しい意見なら、所属するミシェル本人にはこれからも研究をしたいなら逆らえない命令のような強制力がある。
しかし、入学するのはミシェル本人で苦労するのもまた彼女だ。弱音や恨み言を吐いたって誰も責められはしない。
「何で、あたしがこんな目に」
「ヌシの肩書は、否が応でも注目を浴びる力が備わっとるんじゃよ。正直、事件云々は関係無く単にヌシへ私怨を抱く連中の研究妨害という意見が含まれるのも否めない」
「…………」
「じゃが、今回は避けられん……やるしかないぞぃ?」
ベルソートが諭すと、ミシェルはますます顔を険しくさせた。
「無視は無理なんスね?」
「こればかりは、ワシもお手上げじゃ」
「……はぁ」
嘆息しつつミシェルが指を鳴らすと、音と同時にベルソートは自身の口元を冒していた魔力的な縛めが解かれたのを感じて胸を撫で下ろす。
「最悪っスよ、マジで。師匠、そんな事情を聞かされて、益々あたしにまともな学生生活送れると思うっスか?」
「……………」
「ちょい待て。口を開いたら怒られるような事を考えてるからって黙るのは無しっスよ」
ミシェルの鋭い眼光から逃げるようにベルソートがサマレスの後ろへと回る。
再び魔法をかけられるのを恐れて、ミシェルの視覚から逃れようとしていた。
「と、取り敢えず頑張るんじゃぞ?」
ベルソートは穏やかな笑みを浮かべる。
ミシェルは露骨に嫌な顔を作った。
これまで、あどけなさが目立つ相貌には嫌悪と拒絶が浮かんでいたが、ここへ来て深刻なほどに表情は色濃さを増す。
視線には殺意すら含んでいた。
重い沈黙の中、おもむろに静観を決め込んでいたイグルが前に進み出る。
ミシェルの前に回り込むと腰を折って、その顔を至近距離から覗き込んだ。
「顔を洗って、制服を買わないと」
「ちょ、イグル?」
「鍋の火を消して、実験は中断だな。俺が購買とやらで制服を購入するから、君はそのひどいクマを消すために寝た方がいい」
「まだ考えてる途中なんだけど」
「断る理由をかい?」
「…………」
毒気のない笑顔で、意中をイグルに言い当てられる。
ミシェルはうぐ、と言葉に詰まった。
確かに、避けられる理由が見つからない。
自分は催眠魔法の研究はしたいが、開発した技術などが悪用されて幾人に被害が出ようとも特に気にしてはいない。
だが、研究自体が許されないとなれば話は別だ。
意固地になって入学を拒否しても、後で研究室を取り上げられて今までのように過ごせなくなる。
――退路無し、かぁ。
ミシェルは肩の力が抜ける。
「了解。 少し寝る」
「うん」
イグルが満足げに頷く。
何処からか取り出した布団を素早く敷く彼の行動に、特に労いの言葉をかけるでもなくミシェルは横になる。
その上に、そっと毛布がかけられた。
その様は端から見れば兄妹だ。
面倒見のいい兄と、変わり者の妹。
「さすがはイグルじゃのぅ」
「ミシェルは元からいい子だからね」
やや諧謔を含むベルソートの声にも、ほとんど条件反射でを口にするイグル。
「次いでにヌシも入学するか?」
「俺に魔法の素養が無いのは知っているだろう?それに、こういうのはミシェルの許可が無いと…………彼女が起きてからで」
「ヌシは義理堅いのぅ」
「それじゃ、俺は学園の購買部とやらに」
イグルが実験室を出ていく。
その足取りは、何処に罠があるかを把握して足場を選んでいた。ベルソートとサマレスは無言でそれを注視し、記憶に叩き込む。
……………うっかり、退室時にまた術式に嵌められないように。
「それにしても」
サマレスは視線を足下に落とす。
無防備に眠るミシェルの寝顔は、まだ幼い子供のままだ。
人の寝顔を見るのは不躾だが、特異すぎる少女をつい見つめてしまう。
術式や仕草、一度までならず二度までも大魔法使いを術中に陥れる少女の実力に、まだ理解が追いつかない。彼女の技術は、たしかにサマレスの知識を凌駕した未知の領域にある。
だが、外見は未だ齢十二ほどの少女だ。
まだ無邪気に野を駆けている方が年相応に思える。
「校長、事件の事ですが」
「ん?」
「私は聞かされてませんよ。催眠魔法の仕業なんて」
「当然じゃ。使われておるのがミシェルかそれに比肩する技術者の物ならば、容易に口外はできん」
いつになく真剣な顔のベルソート。
それだけでも事態が深刻であることがサマレスには分かった。
「だからといって……調査させるにしても、なぜ学会はそこまで彼女に圧力を?調査だけなら入学させずとも可能でしょう?」
「そう上手くいかんのが人の世じゃ。妬み嫉みがある」
「は?」
「ヌシは『至宝』、という称号が何たるかを知っておるかのぅ?」
「え、それはまぁ…………魔法使いからすれば伝説の人物ですから」
魔法使いにおける称号の一つ――『至宝』。
使う魔法の希少性、又は魔法文明の発展への貢献度、人格などを加味した上で呼び名がつく。
どれもが厳正に判断され、これらの条件を数々の魔法分野における重鎮たちが認めることで名告ることを許されるほど。
魔法文明が始まって、六千年以上は経つ。
その中でも、称号を得たのはわずか五名。
『最古の奇跡使い』アカル・ティシュトリヤ。
『影の国の女王』スカータハ・ダンスカー。
『大僧正』サトリ。
『王杖』ヤムー。
『石繰り』のトゥカリス。
神の使いたちを撃退した、余人には建造し得ない天を衝く塔を造った、世界を滅ぼしかねない古代兵器を封印した、異界と繋がる門の術式を開発した、一つの島を地域ごとに別の季節で半永久的に固定する、などの逸話の持ち主ばかり。
いずれも古代の偉人でありながら、今なお影響力が絶えない。
魔法使いにとっての比類なき伝説たちだ。
そして、彼らが得た『至宝』とは、世界を救った『大魔法使い』をしても得ることができない幻の称号なのだ。
「しかし、なぜ今その話を?」
「ふむ、ここだけの秘密じゃぞ?」
「…………?」
「二年前、新たな『至宝』が現れたんじゃ」
その内容にサマレスの顔が曇る。
「さすがに、それは嘘では………」
魔法使いたちにとって『至宝』とは、伝説でありながら同時に優れた者でも己に付くとは傲慢でも思うことが絶対にない、破格の肩書だ。
生きている間に現れることすら無い。
「本当じゃよ」
「そんな莫迦な」
案の定、サマレスの口からその言葉が漏れる。
だがベルソートは首を横に振った。
「たしかに、認められんじゃろうな…………目の前にいる小娘がそれだと言われたら、尚更に」
「えっ」
サマレスは思わずミシェルを二度見する。
会話がうるさいのか、少女が布団の中でもぞりと動いた。




