表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

宿酔

作者: 横瀬 旭

 寝ゲロで目が覚めた。何故か浴室で寝ていた。起き上がって顔を便器に向ける気力もなかった。口の中に溜まった吐瀉物を「プップッ」と吐き出し、また眠った。


 目が覚めて、真っ暗な浴室を出てベッドで寝ようとしたが、酷い頭痛がして、それに伴い吐き気を催し、結局は猫背になりながら浴室へ戻った。


「今朝浴室で吐いたのは夢ではないのか。むしろそうであってほしい」


そう思いながら浴室の扉を開けたが、やはり吐瀉物はあった。それを見てえずいたが、もう出す物が無いのか、喉から排水口みたいな音が出るだけで、何も喉を超えてこなかった。


昨日飲んだビールの味を思い出してえずき、腕の傷の固まった醤油みたいな血を見てえずき、咳をして、つばを吐いた。


 頭痛をどうにかしようと思い、何か食べて薬を飲もうと思った。冷蔵庫からみかんの缶詰を取り出し、開け、おわんに移した。


缶詰は鹿児島に住んでいる祖母が二年前に送ってきた物で、いつもさつま揚げとかスーパーの総菜とか、消費期限が切れて食べられない物ばかり送ってくるため困っていたが、ここで祖母の送り物が役に立つとは思わなかった。


恐る恐る食べた。五つ食べた。えずかなかった。水道水で頭痛薬を流し込み、ベッドの横にバケツとティッシュを用意して眠った。


 目が覚めるとベッドの横に大人の男と女が立っていた。


なんだろうと思い起き上がると、彼らは僕の顔を叩いてきた。何度も何度も叩いてきた。


「何をするんだ、お酒を飲んで浴室を汚して、腕を切って具合が悪くなっていることを怒っているのだろうか。ごめん、ごめんなさい。もうお酒は飲みません」


そう思いながら叩かれていると、彼らは急に叩くのをやめ「僕らは君のお父さんとお母さんだ」と言った。


嘘だ。お父さんはいるけど、お母さんは幼い頃に死んでいる。


 唐突に吐き気がしてバケツに顔を付けてえずいた。喉が甘かった。みかんの味だ。恋人がいない私には、ゲロが甘いからゲロ甘なのだと思った。少し苦みもあったが、これは頭痛薬の苦みだろう。もう頭痛は治っている。だから出てもいい、そう思った。


 吐瀉物を掃除しようと思いティッシュを持って浴室へ向かった。ティッシュを七枚取って吐瀉物の上に乗せ、掴むように拭いた。ふにゃっとした。跡が残っていたため風呂用洗剤を吹いてスポンジで擦り、シャワーで排水口へ流した。初めてユニットバスで良かったと思った。


 結局。夕方まで具合が悪かった。左腕には痛々しい傷、SNSには痛々しいつぶやき、もう二度と、お酒は飲みたくないと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ