幼い記憶 ~ゆいこのトライアングルレッスンTHE MOVIE~
放課後、委員会の仕事が終わり、教室に戻るゆいこ。
廊下に誰もいないのを良いことに、鼻歌を歌いながら歩く。教室の扉を開けると、中にはたくみが。
「わわっ! たくみ、いたの!?」
「お前を待ってたんだよ。ははっ、廊下に響いてたぞ、鼻歌」
「うぅ……」
まさか誰かに聞かれていたなんて思いも寄らず、恥ずかしくなる。しかも、よりによってたくみに聞かれるなんて……。
「私を待ってたって、何か用?」
恥ずかしさを誤魔化すように、ぶっきらぼうに訊く。すると、たくみは当然のことのように笑った。
「一緒に帰るんだよ。ほら、さっさと支度しろ」
言われて帰り支度をし、二人で教室を出る。他愛無い会話をしながら歩いていると、不意にたくみが立ち止まる。
どうしたのかと訊く前に、たくみは何故かこちらを見ないまま口を開いた。
「なあ、覚えてるか?」
「え、何を?」
「小さい頃、ひろしと三人でよくこの公園で遊んだよなって」
「あ、うん。そうだったね」
「それでさ……ひろしに用事があって、二人で遊んだことも……あったよな……」
「ああ、うん。あったね」
ゆいこがそう答えると、二人の間に沈黙が落ちる。
そして数秒後、たくみはまた急に歩き出した。
「さ、帰るぞ」
「何よ、もう」
たくみの後を追いかけながら、遠い日の記憶を思い出す。
ゆいことたくみが二人きりで公園で遊んだその日、たくみはシロツメクサで小さな輪を作った。それをゆいこの指に嵌めて言ったのだ。
『いつか、おまえにほんもののゆびわをかってやるからな!』
少し怒ったように言ったあの台詞は、気恥ずかしさを隠す為のものだったと、今なら解る。
後ろでゆいこがふふっと笑うと、たくみは不思議そうな顔をして振り返った。