Origin
「まぁ。くねくねについては様々な考察がされているね。例えば、反物の付喪神や、蛇神と云った農村部における土着信仰だったり、ドッペルゲンガーであったりする。熱中症による幻覚とするのもあったりするね。」
そう言ってから、彼は温くなった水を1口飲む。
「そして派生された話が幾つか存在している。さっきの話もその1つだね。他にも白ではなく黒い物体のバージョンなんかもあるな…。でも…。」
彼は其所で言葉を1区切りした。
そして私を覗き込み、人差し指を立て緩やかに反時計回りで円を数回描いていった。
「発端とされる話にこそ真実がある…。」
彼の瞳は薄暗い部屋の湿度を写している様に陰鬱だ。
現在の彼が、偽りの無い彼な気がしてならない…。
彼は陰鬱そうな口調で続ける。
「例え、其れが創作だとしても…。その創作が創られる事となった出来事、若しくは思想が確実に存在する。そして、その出来事、思想こそが真実へと導くモノであるに違いない…。」
また彼の唇からタメ息は零れる。
「それを踏まえて、オリジナルである話を考えてみる。」
彼は艶のない黒い瞳で私を見ている。その瞳に映る私の顔は、生気が感じられなかった。彼の艶のない瞳に私は囚われていく。
「兄と弟は同じ場所から同じ条件で白い物体を目撃している…
。でもその白い物体が何であるか気付いたのは兄だけだ…。そして、その兄は白い物体を見て知的障害になってしまった…。」
彼は、また煙草に火を点けた。
そして、煙草を吸う。肺に送り込まずにー。
空間へと白い煙を吐き出す。
「その物体は白い色で、黒い色ではなかったんだよ…。白い色でなければならなかったんだ…。では何故、白い色でなければならなかったのか…。」
彼は窓の外を指差した。
私はその指を目で追う。
隣接した団地の棟。
その棟の、ある部屋の前に、喪服に身を包んだ人が数人いた。
ゾクリとした感覚が身体を震わせる。
「何だ?あれは…。」
私は幻覚でも見ているのだろうか?