何て言った?
「あぁ。そっちの方か…。」
彼はまた、煙草に火を点けて煙を燻らせる。
クネクネと白い煙は天井へと立ち上っていった。
「そっち?こういった話にそっちもこっちもあるのか?」
「あるよ。その話は元となった話ではないね。その話は創作だったであろう話に更に創作を加えて創られた物語だね。元となった話の方がシンプルで怖いと思うけども…。」
彼は陰鬱そうな表情でー。そう言った。
「元となった話?何それ?」
「語り手の弟の友達の話だよ。仮にA君としようか…。田んぼが緑に染められている頃の話だ。A君が彼の兄と一緒に母の田舎に遊びに行った。A君の兄が窓から外を見ていると真っ白な服を来た人に気付く、それは人間とは思えないような動き方でくねくね踊り始めた。A君も兄も、最初はそれが何なのかわからなかったのだが、兄だけがその真相を理解してしまう。A君が「お兄ちゃん、あれは何なの。わかったなら教えて」と聞くと「わかった。でもわからない方がいい」と、答えてくれなかったのだそうだ。その詳細は、現在でもA君には理解出来ていない。」
彼は、また煙を口から吐き出す。
それからー。
「語り手である私は「お兄さんにもう一度聞けばいいじゃない」と弟に言ったんだ。その言葉に対する弟の返答は「A君のお兄さん、今、知的障害になっちゃってるんだよ」の一言だった。」
と続けた。
彼は煙草の煙で遊び始めている。唇で形を作り、無風の空間に煙を輪の様にしているみたいだった。そしてー。
煙ってさ、ある程度は形を創れるんだよ。と呟く。
「確かに少し違うな。」
「その少しの違いが現実と創作の境界線かな…。」
「はぁ?どっちも創作だと言ったのは、お前だろ?」
「ん?最初に言っただろ?創作だったモノだって…。過去形だよ。過去形。創作であった筈の物語は、過去へ遡って現実になったんだよ。」
彼は、理解しづらい言葉を並べた。
「ん?どういうこと?」
私は想った事を思った儘に口にする。
「想像が創造へと至ったんだよ。そしてそれはー。虚構を解体して、真実へと創り変えた。って事だ。」
また彼は、理解しづらい言葉を放ったのだった…。