炎天
「それなら…。高野、君が知っている【くねくね】って、どんな話なんだ?」
そう彼は訊いた。
「あぁ。都会から母方の田舎、確か秋田の方へ盆に帰省した兄弟の話かな。弟が語り手だったよ。」
私が、そう言うと。
彼は私の瞳を覗き込みー。それで?と訊いた。
「あぁ。年に1度の田舎に来た兄弟は、はしゃいで田んぼの周りを駆け回っていた。爽やかな風が吹いていたのだが、日が登りきり、真昼に差し掛かった頃、その爽やかな風がピタリと止む。ピタリと止んだと思ったら、気持ち悪い生暖かい風が吹き始めたんだよ。」
部屋の外は炎天だ。この部屋には冷房機はない。
扇風機が1台あるだけだ。開けてある窓からもー。
生暖かい風が吹き込んでくる。私は団扇を片手に話を続けた。
何故か彼は団扇を見て、何かを考えている。
「すると、兄が、別な方向を見ている事に気付く。その視線の先には案山子があったんだ。でも、よくよく話を聞いてみると、兄はその先を見ている事が解り、弟も目を凝らして、その方向を見たんだよ。」
部屋の外は炎天だ。
風は、いつの間にか止んでいる。
陽炎だ。
アスファルトの照り返しでユラユラと景色が歪んでいく。
「人程の大きさの白い物体が、【くねくね】と動いていたんだ。余りにも遠いから、その詳細は解らない。だから、兄は1度家へ戻り、双眼鏡を片手に戻ってくる…。」
そうだ。この話も暑い夏の昼過ぎだ…。