観測されるまでは決定されない
「観測者が箱を開けるまでは、猫の生死は決定していない」
彼は私の瞳を覗き込み、指を鳴らしー。
「原子つまり、量子が、何時崩壊するのかは量子力学的には確率的にしか説明出来ないんだよ。観測者が見るまでは、箱の中の原子が崩壊している事象と崩壊していない事象は重なり合って存在している。観測者が確認をした瞬間に事象が収縮して結果が定まる。其れが2重スリットの実験で証明された量子の特性なんだよ。」
と続けた。
ベランダには何時しか闇が這い寄ってきている。
彼の声が、自棄に耳に残る。
「シュレディンガーは、ミクロの世界の特殊性を、マクロの事象に当て嵌めた。「猫の生死」という事象をね。観測者が箱の中身を確認するまで、猫の生死は確定していない、観測者が蓋を開けて中を確認した時に、初めて事象が収縮して、それによって猫の生死が決まる。だから、箱を開けるまでは、生きている猫の状態と死んだ猫の状態が重なり合って存在しているというパラドックスが産み出されたんだよ。そう考えてみると、世界の、あらゆるものは量子で構成されている。」
彼は言葉を少し閉じる。
そしてー。
こう続けたのだった。
ーだったら、瞳を閉じた時の世界は、どうなっているのだろうね??
夜だ。
少しずつ夜が空間に入り込んでくる。
私は瞳を閉じてみた。
ーこの世界が観測された時に事象が収束されるのならー。
ー閉ざされた視界の向こうは…。
ー私が知っている世界とは限らないと云う事なのだろう…。
ゾクリと、何かが背骨を伝った。。。




