シュレーディンガーの猫
「それでだ…。シュレーディンガーの猫と云う思考実験があるんだよ。思考実験とは、その名の通り…。頭の中で想像するのみの実験だね。科学の基礎原理に反する事なく、極度に単純・理想化されている実験…。つまりは理論的に可能な限り、最も理想的な状況を想定し、理想的に行う実験って事だよ。」
彼の声は陰鬱だった。
不透明な箱を1つ用意する。
そうー。
彼は言葉を放射した。
そしてー。
続ける。
「それから、箱の内部を放射性物質のラジウムで充満させる。そして青酸ガス発生装置と放射線測定器を入れ、この2つを接続する…。要するにだ…。この放射線量測定器は、ラジウムがα崩壊を引き起こすと、其れに、反応して青酸ガス発生装置を起動させる状況な訳だよ。そしてー。1時間の間にラジウムが50%の確立でα崩壊を引き起こすとして、青酸ガスが適量で確実に死ぬとしたらー。1時間後には、50%の確立で猫が死亡する事になるよね…?」
彼の瞳は、艶がなく暗い。
まぁ。α崩壊とは…。放射線としてアルファ線(α線)を放出する放射性崩壊の事だよー。と言った。
「さて…。1時間後、その箱の中で猫はどうなっている?」
彼は視線を此方に向けた。
「死んでいるか…。生きているか…。って事だろ?そんなの開けてみないと解らないじゃないか…。」
「そうか?」
彼の声が耳に響く。
「思考実験の結果だとー。生きている状態と死んでいる状態が50%ずつで重なっているんだよ…。」
「はぁ?」
私の口からは言葉らしきモノは産まれなかった。




