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夢の勉強法  作者: 鉄面
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 夢の勉強法と呼ばれたものがかつてあった。

 漫画雑誌の裏に記載されている胡散臭いものだった。

 この器具を使えば、身長が5センチ伸びる。

 この石を買えば、モテモテになる。

 そんな漫画雑誌裏の広告欄にその勉強法も載っていた。

 うたい文句は「偉人と呼ばれてきた人がしてきた勉強法」であった。

 広告には具体的な勉強の仕方は書いていなかった。

 うたい文句と値段と、アインシュタインが実践していたなどという実践者の紹介であった。

 雑誌の広告欄に夢の勉強法が載っていた時期がちょうど、私が中学三年生になったときだったので、クラスではこの勉強法がどんなものかを想像して盛り上がったりしていた。

 まだ中学生だった私にも胡散臭さを感じさせたこの勉強法は、2万円という中学生には高額の値段だったので、誰も試せずにいたのである。

 みんな詐欺だと思っていた。

 4月頃に掲載されていたその広告も5月頃にはもう掲載されなくなった。

 売れなかったんだろうというのが皆の見解であった。

 そしてクラスのみんなも6月には既にそんな勉強法があったことなど忘れていた。

 私も、夢の勉強法のことなど忘れて、現実の勉強にきりきり舞いになっていった。

 夏休みに入り、部活を引退し本格的に勉強を始める者もいた。

 そんな中、毎日のように私の家に遊びの誘いに来る同級生がいた。

 幼馴染の片山茂(かたやましげる)という、日に焼けて真っ黒でいつも遊ぶことを考えている活発な少年であった。

 春休みの時は毎日彼と遊んでいたが、受験生であるこの夏休みは塾の夏期講習を取っていたので、中々遊べなかった。

 彼に夏休み明けに話を聞いたらどうやら毎日遊んでたようである。

 片山はクラスでも1、2を争うくらいに、成績が悪かったので。

「片山、お前そんなに遊んでて高校どうするの」

 と尋ねた。

「いや盆終わってから一応勉強始めたから大丈夫大丈夫」

 あっけらかんとした返事が返ってきた。

 私は付け焼刃の勉強で高校受験をするんだろうと思っていた。

 クラスのみんなも片山に関しては、最底辺の高校を受けるんだろうと思っていた。

 頭は悪いが能天気で憎めない、そんな評価を片山受けていた。

 だが10月中旬に行われた中間テストでその評価が覆された。

 片山がクラスどころか学年でトップの成績だったのだ。

 まず始めに片山のカンニングが疑われた。

 勉強を始めたと言っていた片山であったが、それでも毎日夕方まで遊んでいたようなのである。

 それで学年トップなのである。

 カンニングを疑われないわけがなかった。

 しかしカンニングをしていたという証拠はなかった。

 だが。

「おい片山カンニングするなよ」

「見損なったぞ」

「頭は悪くてもそういうことをする奴じゃないと思ってたのにな」

 片山の人間性の評価は一気に落ちた。

「勉強したんだよ」

 と片山は半泣きの状態で言った

 誰も信用しなかった。

 毎日遊んでいる者の台詞など信用できるわけもなかった。

 片山はクラスで孤立した。

 幼馴染である私も声をかけづらい雰囲気になった。

 暴言は浴びせなかったが、内心私もカンニングしたんだろうという疑いを持っていたので、片山を無視するようになってしまった。

 その後クラスから孤立した片山が放課後1人で壁を相手にキャッチボールをしている姿など見たので、相変わらず勉強はしていないみたいだった。

 それでも片山は二学期の学期末試験も学年トップであった。

 クラスには白けた空気が流れていた。

 片山とは中間テスト以来会話をしないまま冬休みに入った。


 冬休みに入った次の日、片山が私の家に来た。

 玄関のドアを少し開けた。

「…久しぶり」

「…久しぶり」

 ぎこちない挨拶だった。

 次の言葉がなかなか出なかった。

「…あのさ、俺さ…カンニングなんかしてないから…」

「じゃあ何をどうやって勉強してんだよ!毎日遊んでさ!」

 自分の勉強がうまくいかない苛立ちもあったのだろう。

 私は怒鳴ってしまった。

「ゆ、夢の勉強法を」

 片山のその言葉を聞いたとき、嘘をつかれたという怒りと友人に裏切られたという悲しみが同時に来た。

 なぜそんな嘘を言うのか。

 自分は本当のことを言うには足らない友達なのか。

「カンニングの言い訳がそれか!バカにすんなよ!」 

 怒鳴り散らしドアを閉めた。

 何度かインターホンが鳴ったが、じきに鳴り止んだ。


 その後片山は学区のトップ高校を受験し合格した。

 学年末試験も学年トップであった。

 皆、そのときには片山がカンニングしていないということがわかり始めたが、無視していた期間が長かったために、声をかけることが出来なかった。

 私も声をかけることはなかった。

 そのまま卒業式を迎え、片山とは疎遠のまま別れた。

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