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内から外へと物語を創りました

 再び執筆に取り組んだのは3月初旬、創作論Aを放り投げてから半月後でした。1作目、2作目で行き詰まったときは立ち直るのに数ヶ月を要したのですが、今作は予想外に早かったです。これは物語を書こうとする意欲も然ることながら、創作論の課題に再挑戦しようという意気込みもあったからだと思います。


 それでは以下、順に本作の執筆過程を振り返っていきます。

 なお創作論Aは翻訳本で700ページに渡る大著であり、その意図するところを紹介するのは困難です。また訳語はかなり工夫されていて、独自色が濃いです。そのまま引用するのも憚られ、改めて私なりに訳語を当て直しました。創作論AとB、原著と翻訳本を参考にしながら「私はこう理解した」という内容で言及していくのを、ご了承ください。



【課題1:「核となる一文」を定めました】

 最初の課題は、作品の核となる一文を創り出すことです。そのための10段階の手順も用意されています。具体的には、核となる一文の可能性や問題点を洗い出したり、特徴的な設定を考案したりします。

 この節では最初に本作の基となった最終回答を示し、続いてそこに至った思考過程を紹介していきます。


「魔術程式書き《マジック・コーダー》が、同僚/同級生たちとときにぶつかりながらも協力し、行方不明の両親を捜す」


 多くの創作論は、自分が関心を持っている分野、深く理解している分野を題材にするのが良いとしています。これは創作論AもBも同様です。

 課題をこなしていると、私はどうも「共同作業」や「集団行動」に興味があることが見えてきました。そうした作業で自分が専門性を持っている分野を考えたところ、かろうじて浮かび上がったのが「コンピューターシステム開発」です。といっても仕事で間接的に係わっているだけで、ソフト開発を趣味にしているわけでもありません。ストレートに小説の題材にできるほどシステム開発の見識はないので、コンピュータープログラミングのように魔術を書く「魔術程式」という設定を用意して、知見不足を補えるようにしました。「程式」というのは「プログラミング」の中国語から編み出した造語です。


 こうして分野を決めてみると、主人公が一流の技術者を目指す展開がまずパッと思い浮かびます。そこで今度はその理由を考えました。社会を豊かにするためというのは綺麗すぎる、お金を儲けるためというのは即物的過ぎる、等々。

 ここでふと「感動する小説ランキング」をネット検索。いやはや、この界隈は難病に苦しむ人々に溢れているようです。これはアアヤの設定に繋がりはしましたが、物語の核に据えるのはやめました。

 続いて足がかりにしたのが、創作論Bの分析結果。なんでもベストセラーの主人公は、「want」や「need」に突き動かされて行動しているのだそうです。ここで「生き別れた両親を探すため」という動機を想起し、正統派のヒューマンドラマにしたいという思いもあって、これに決定しました。そして「魔術程式の腕を上げて有名になることが、親を見つけ出すことに繋がる」という筋立てを見いだし、作品の核にしました。


 なおこの時点では、主人公を社会人にするのか、学生にするのかは決めていません。いずれにしても「仲間と価値観のぶつかり合いをさせる」としました。その争いを通して主人公に、「親を捜すことが第一優先」という利己的なものから、「皆のために力を使う」という公的なものへと、価値観のアークを描かせることを目論みました。


 創作論Aは、この課題1をこなすのに数週間はかかるはずだとしています。それを私は「大げさ過ぎる。せいぜい1週間だろ」と鼻で笑って読んでいたのですが、実際に1ヶ月を要しました。



【課題2:7つの段階を定めました】

 創作論Aは「物語なら必ず備えるべき7つの段階がある」としています。2月に挑戦したときは、これらを用意できず撤退しました。

 この課題2では、主人公の「弱点と窮乏(Weakness and need)」を設定し、そこから生じる「望み(Desire)」と「計画(Plan)」を定めて、「対抗者(Opponent)」や「戦い(Battle)」を通して「自己発見(Self-revelation)」を得て、「新たな均衡(New equilibrium)」に落ち着く、という7段階を創っていきます。

 この2回目は、たとえよくある話になろうとも、絶対に創りきると覚悟を決めて挑みました。


 まず、主人公は「親の愛を渇望している」という「弱点」を抱えているとしました。それ故に「手段を選ばない一面があり、他者と協調する姿勢を学ばなければならない」ところを「窮乏」とします。またこうした主人公の弱点や窮乏は、序盤早々に他人を傷つけるものなのだそう。この示唆は、アイナが家出する冒頭展開に繋げました。


「望み」は主人公が表面的に目指すゴールで、これについてはすんなりと「有名になること」としました。


「対抗者」は主人公と同じゴールを目指す者で、この段階では「王子」、「女友達」、「スパイ」を設定しました。詳細は次節で述べます。


「計画」は「有名になって親の手がかりを得る、もしくは親に見つけてもらう」としました。また、用意する計画の個数が物語の長さに比例するとのことで、これだけでは足りないと判断しました。そこで主人公は謎の護衛ゴーレムを所有していると設定して、「ゴーレムの制作者を捜し出す」ことも計画に加えました。

 ただこうして考案した一連の「計画」は、どれも対抗者と関わりがありません。対抗者たちと直接対決する展開は本作にそぐわないように思え、この問題点は最後まで克服できませんでした。


「戦い」は「スパイがエルフの国に仲間を引き入れ、侵略国との戦いがはじまる」としました。創作論Aの課題に沿うならば、ここは『対抗者との「有名になる」競い合いの最終決着』に相当するものを据えるべきでしょう。しかし「魔術程式コンテスト」などしか思いつきませんでした。これでは物語のクライマックスとしては地味過ぎるように思い、文字通りの武力による戦いを持ち込みました。

 ただこれにより、「物語前半で高めた技能を、物語後半で生かし切っていない」という作品としての問題を抱え込みます。結局アイナは、産まれ持った才能で問題を解決してしまいますから。

 先の「計画」やこの「戦い」あたりから、創作論Aの問いに、真正面からの回答を示せなくなっています……。


「自己発見」は2つ用意しました。1つは「自分は親に会いたいのではなく、褒められたかったのだ」と気づくこと。利己的な価値観を見直させます。もう1つは「スパイのしている行為が、自分のしてきた行為と同じ」と自覚すること。手段を選ばない行動を反省させます。


「新たな均衡」については、「高めてきた能力を治世のために役立てる」という無難なものにしました。


 なおこの課題2の段階では、両親と再会して暮らすのか、死に別れるのかといった類いの結末は決めていません。主人公の価値観の、物語範囲内での到達点を定めただけです。



【課題3:キャラクターを深めました】

 創作論Aは、キャラクターを物語上で果たす機能に応じて用意し、価値観などで互いに差異があるよう配置することを求めます。そしてキャラクターごとに弱点、窮乏、望み、価値基準などを、主人公と同等に掘り下げていきます。

 創作論Aで特徴的なのは、個性は登場人物たちの相対的な関係で生まれるものであるとし、それを追求させるところです。たしかにこの手順なら、似たようなキャラを登場させてかぶらせるような失敗は犯さないでしょう。しかし慣れない発想手順なので、考えるのは大変でした。


 この難題を解決するため、TRPGのキャラクター属性としてよく見かける「アライメント」を持ち込みました。ゲームによって差異はあるようですが、「秩序・中立・混沌」を(おおやけ)か個人の為かという対象の違いと捉え、「善・中庸・悪」を法に従う度合いと捉えて、導入します。アライメントをキャラクター差別化の基軸にしたわけです。

 主人公は「中立・悪」としました。彼女は親に会いたいだけです。その行動原理に、公のためとか自分のためとかいった観点は存在しません。ただ、会うためならば、悪いと分かっていることにも手を染めます。――えっと、家出するとか、点数稼ぎにこだわるとか、成績に影響しない宿題はサボる、という程度の悪です。

 この主人公の真逆の存在である対抗者「王子」は、「秩序・善」です。テンプレですが融通の利かない騎士を念頭にして造形しました。

 さらに2人を用意します。創作論Aは、キャラクターを四隅に配置するのが好ましいとしているのです。

「親友」は「混沌・中庸」です。金儲け第一主義で、商売の信義は形の上では守る、とします。ただこれでは読者の共感を得がたいので、思考がトロルの血の影響を受けているという、同情の余地がある設定にしました。

「スパイ」は、物語上は「難民」として振る舞うことにしました。他の三人を偽っているので、表面上は「中立・善」だが、実は「混沌・悪」の行動をしているとします。

 後の課題を経て、この4人は「エルフ国」、「王国」、「王国の下町」、「敵国」を象徴する存在にも位置づけます。

 またこの課題3と並行して、護衛ゴーレムは主人公の父が化けているという設定を思いつきました。そこでこの父についても設定します。この時点では、王国に恨みを持っているが結界に閉ざされたエルフ国に戻れなくなっている、「混沌・悪」の存在としました。これがアアヤと会う前の、やさぐれていたライヴォークの設定へと繋がっていきます。


 以上、長くなりましたが、実際はほかにも各キャラの弱点や窮乏などを一通り定めています。一方で名前や年齢は決めていません。また「エルフ」、「トロル」といったファンタジーでおなじみの種族が登場していますが、これらはイメージを固めるための喩えで、物語に最終的に使うつもりは全くありませんでした。



【課題4:道徳観の変遷を検討しました】

 まず前置きとして、この4つ目の課題は、私には理解して消化するのが困難でした。そのため不明瞭な記述があるかもしれませんが、ご容赦いただければと思います。


 さて課題4では「核となる一文」に沿った、「正しい行動についての、書き手の見地」を定めることを求められます。その理由はもちろん述べられているのですが、私にはどうにも腑に落ちませんでした。結果としては、「何を重視して事を為すかは、見聞を深めて自分で見極めなければならない」という見解を示します。これが「核となる一文」とどう結びついているのかと問われると、答えに窮します。ですが創作論Aに例示されている十数の作品の例示と照らし合わせて、これでも許されると判断しました。

 次は主人公の下す「道徳上の選択」です。ここは「武力介入により戦闘ゴーレムの製造を止めさせ、三陣営に痛みわけをさせつつ、浮いた生産力を生活向上のために使わせる」としました。主人公が物語を通して見聞を深めた結果、このような決断を下す結末になる、と定めたわけです。

 次は「主人公が直面する道徳上の問題」です。ここは「生い立ちによって、重視する価値観が異なっていること」としました。

 そして今度は、この「道徳上の問題」に対しての、各キャラクターの態度を定めていきます。必要に応じ、前回までの課題を遡ってキャラクター設定を練り直し、異なる地域の出自に立脚した価値観を定めていきました。

 最後はそうした態度の違いにより生じる、対立を検討します。4人いるので6通りの対立が存在します。その一つ一つの検討まではしませんでしたが、ここまでの課題を通して各キャラクターの価値観を明確に頭の中に描けるようになったので、書くに困らないだろうという自信は持っていました。実際に本編ではアイナ、カノン、ユート、コタロウの応酬を、彼らの価値観に基づいた確たるものとして、書ききれたと思っています。



【課題5:世界観を決めました】

 ここでも「核となる一文」に則って、物語と世界の関わりを一文で表現することを求められます。毎度ながら、この作業が辛い。「ゴーレムの使われ方が異なる街を移動していく」としました。


 続いて物語を展開する空間を定めていきます。先に決めた一文から自ずと、複数の街と、それぞれが重きを置く価値観(産業)とを設定することになります。この課題5の時点では、次のように考案しました。

 マナ流星群により文明が滅び、地形や気候も変わってしまった関西地区。淡路島(アワジイ)(観光)、淀川(ヨドガー)沿い(商業)、御所(ゴショウ)(武力)、琵琶湖(ビワッコ)(マナ)、敦賀(ツルガン)(漁業)。

 さらにそれぞれの地の視覚的な特徴、組織、気候などを定めました。これらの詳細については割愛します。


 時間軸についても定めるのですが、「春から始まって冬で終わる」としました。主人公がだんだんと厳しい状況に追い込まれていくのと関連付けた設定です。


 こうして最後は、物語展開に、場所と時間を結びつけていきます。

 主人公はその抱える「弱点、窮乏」が故に生まれ育った観光地を飛び出すとし、「望み」を追求し「対抗者」と競う場を商業都市の「学校」にしました。この場所の設定は、この時期に話題を呼んでいた「女子高生たちがアニメを制作する」アニメの影響も受けています。この決定に応じて、キャラクターの年齢も設定しました。

「戦い」の場は、漁業で生計を立てている寒村です。観光地という優しいイメージの地から、寒村という厳しいイメージの地へと舞台を変化させ、主人公の状況の変化を象徴します。



【課題6:シンボルを設けました】

 ここではいろいろな物語の要素について、「シンボル」を見定めていきます。理解するのが難しい概念なのですが、これにより、読者にひっそりと感情を引き起こすことができるのだそうです。そしてその各シンボルを一文で表現することまでが課題なのですが、そこまでするのは辛すぎて放棄しました……。

 まずストーリー全体のシンボルですが、これは「魔術程式」です。為政者によってその開発方針が定められており、人々の暮らしぶりにも影響を及ぼす、としました。

 キャラクターのシンボルと能力は次の通り。主人公は「標準民族に化けている植物系民族、護衛ゴーレム」、王子は「標準系民族、知力」、親友は「醜鬼、筋力」、スパイは「狼系民族、五覚力」です。

 次は「キャラクター変化」のシンボルで、これは「程式大臣」としました。作中のゴショ代表のことで、魔術程式の開発方針を定める存在です。主人公は物語前半はそれに盲目的に従う存在で、最後は自身がその地位に就く、と設定しました。

 以下のシンボルは、羅列するに留めます。

 作品テーマのシンボルは、「マナの有効活用」、「魔術程式の開発方針」。

 世界のシンボルは、「マナ木」、「マナ石」。

 行動のシンボルは、「ゴーレム開発」、「魔術程式を書くこと」。

 結果としてこれらの設定を作品に上手く活用できたのかどうかは、自分でも判断がつきません。今振り返ってみると、例えばキンキイは高度な程式、シガアは雑な程式、フォクリックは隷属程式といったように特徴を違えて描写しており、使えているようにも思えます。


 次の課題7からプロットの作成に入ります。


 創作論A、Bの書名等は、後日「活動報告」にて記載します。この「後書き」が宣伝行為と見なされるのを防ぐためです。書かないと書かないで、出典を明示しない引用になってしまいますし。

 どう表記するのが適切なのか、分かっていません……。

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