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仲間といっしょの旅立ち

 アイナは泣き続けた。

 うしろで三人が見守ってくれている。

 いつまでも泣いているのは悪いと、何度も止めようとはしたのだ。

 でもすぐに昔のいろいろな出来事が思い返されてしまう。

 すると胸が苦しくなって、また涙が溢れてしまった。

 父がからだを失って、マナに還ったあとのこと。

 お節介さんといっしょになったかと思うと、何処へともなく消えてしまった。

 お節介さんは、母のアアヤだった。

 自分は父と母、ふたりをいっしょに失ったのだ。

 これで泣き止まれるはずがなかった。


 アイナが、それが友だちにはいないと気づいたのは義務学校に入る前だった。

 火にかけられた鍋に近付くと、青くなって慌てる気配。

 階段から転がり落ちて泣くと、紫になって慰めてくれる気配。

 新しい友だちができると、黄色くなっていっしょに喜んでくれる気配。

 自分にいて友だちにいないから、最初はライヴォークのこころだと思っていた。

 マナ玉がいないと気配もいないので、なおさらそうだと思っていた。

 でもやがて、それは違うとわかる。

 台風が過ぎ、ひょこひょこと砂浜に出かけて、遊んでいたときのこと。

 荒波にザブンとさらわれ、溺れそうになった。

 気づいて目を覚ますと、ライヴォークに助けられていた。

 そのとき気配は、真っ赤になってすごく怒っていた。

 砂浜で遊んでいたときは黄色く笑っていたのに、勝手だと思った。

 だけど分かった。

 この気配は自分には青くなって心配しているのだと。

 この気配はライヴォークに赤くなって怒っているのだと。

 だからこの気配は、ライヴォークのこころでは無いのだと。


 義務学校に入る頃には、この気配を疎ましく思うようにもなっていた。

 宿題を後回しにすると、赤くなって怒るのだ。

 程式を書いていると、青に赤にといちいち口を出してくるのだ。

 おかげで魔術程式の覚えは早くて、マコットさんには褒められたのだけど。

 でも友だちが親と遊んでいるのを見て泣いていると、紫になって慰めてくれた。

 いつしかアイナは、気配のことをお節介さんと呼ぶようになった。

 そしてお節介さんの色に従ったり、無視したりするようになった。

 アワジマを出るときも思った通り、お節介さんは色を次々変えて大騒ぎだった。

 島からついてくるか不安だったけど、お節介さんはお節介さんのままだった。

 シノサカに来て男たちに囲まれたときは、緑になってその様子を楽しんでいた。

 だからアイナは怖くなかった。

 席次発表のときは、自分がコタロウより上だと橙色になって認めてくれた。

 だからアイナはどうどうと報償を要求した。

 でもそんなお節介さんも、ライヴォークの状況を分かっていないようだった。

 ライヴォークについては自分ひとりで判断せねばならず、とても心細かった。

 そして父が最後の化粧魔術を停止させると、お節介さんは青くなっていた。

 やっぱりお節介さんは父のことを分かっていなかった。

 でも父がマナに還るとすぐにくっついて、黄金色になっていた。

 お節介さんが自分のことで色を変えたのは初めてだった。

 アイナにはそれが、とっても嬉しかった。

 まあ、そのいちゃつきぶりには、少しむっとさせられたのだけど。

 そしてふたつはアイナをまばゆい黄金色に包みこむと、消えていった。

 アイナは、父と母にずっと見守られていたと知って嬉しかった。

 アイナは、父と母にもう見守ってもらえないと知って悲しかった。


「ごめんなさい。もう大丈夫」

 アイナはようやく立ち上がると、カノンとユートとコタロウに謝った。

 もちろん、責める言葉など返りはしない。

 アイナはそんな三人に感謝し、土をかぶせて父の(ざん)()を埋め始めた。

 父からの最後の依頼だ。

 きちんとやり遂げなければならない。

 一回、一回、程式を実行して土をかぶせていると、また涙が込み上げる。

 でもアイナはぐっと我慢した。

 みなもやらせて欲しいと、土かぶせを手伝ってくれた。

 新しい盛り土が、となりの盛り土と寄り添うようにできあがる。

 四人はいっしょに手を合わせ、墓標をあとにした。

 アイナは、また来るねと父母に約束した。

 来た野道を通ってチクブの丘を出ると、門番は別の人に交代していた。

 このふたりは父を知らないのだと思うと、アイナはそれだけで悲しくなった。

 四人はふたたび人通りの少ない街道に戻る。

 そこはだいだい色の日射しに染まり、来たときとはすっかり別の場所に見えた。

 父にしがみつき続けた右腕には、もう誰もいない。

 母の気配は、もうどこにも感じられない。


「私、ちょっと考えてみたのだけど」

 アイナは努めて明るい声をつくり、みんなに切り出した。

 三人は黙って頷き、耳を傾けてくれる。

「シガアの民が見張りに使っているゴーレムたちを、ほかのことに使えないのかなって。キンキイの民の暮らしもフォクリックの民の暮らしも、ずっと楽になると思うのよね」

 シガアの地に来て丸五日、それだけでもいろいろ知らなかったことを知った。

「シガアの民なんか、ゴーレムの魔術程式を調整するだけで楽になるぜ」

 コタロウの応じに、アイナは「そうね」と思わず笑みがこぼれた。

「でも具体的にどうすればいいのか分からなくって。――だからあちこちを旅して、もっと勉強しなきゃって思うの」

 今歩いているシガア地域の長い街道。

 みどりに囲まれ、ただ森のなかを切り開いただけの素朴な砂利道。

 母もきっと同じことを考えて、本物のライヴォークとこの街道を歩いていたように思えた。

「そりゃいいな、アイナ。私も同行するぜ。金の匂いもするし」

 やっぱりカノンは乗ってくれたと、アイナは嬉しい。

 ニシシと笑って冗談のようで本音だと思いながら、「ありがと」と返す。

「カノンくんはそればかりだな」

 そこにもはや予定調和のユートの突っ込み。

「アイナくん。(あずま)()と連絡を取るなら私が取り次ごう。正直、アイナくんがゴショ代表に取り立てられてもおかしくないと思っている。アアヤ様も実業学校を出てすぐに就任されたと伝え聞いている」

 自分でもゴショの代表が勤まるなら、それもいいかなとアイナは思う。

 それでどの地域の民も幸せになれるなら、何も文句はない。

 でも父も母も心配していた。

 いいように利用されないためにも、いろいろな地域を巡っておきたい。

「俺も――僕も親に相談してからだけど、ついていきたい。いろんな地域で学んで、フォクリックの民のために役立ちたい」

 二個下なのに立派だなあと、アイナは感心する。一方で、できるものなら義務学校に通ってからのほうがいいとも思う。

 そのためには何をどうしたらいいのか分からない。

 それがどうにももどかしい。

 マナ能力がどれだけあっても、できないことが多すぎる。


「みんな、ありがとう。まずはシノサカの街に帰りましょう」

 シガア地域の旅では、みんなを振り回しすぎた。

 食事をまともにとっていない。宿にもまともに泊まっていない。

 きっと疲れがたまっているはずなのだ。

「それなら今日は近くの村で泊まりだな」

 父ライヴォークが運んでいたテント一式。今はユートが背負っている。

 そんなことに気づくだけでも、また胸が締め付けられる。

「ううん、すぐ帰れるよ」

 アイナはそう言って、コタロウとカノンの手を取る。

「今からではいくらアイナくんの力でも、夜遅くになるだろう」

 またしてもコタロウに断られて、カノンの手を取るユート。

 いちいち照れ隠しにもっともらしいことを言うのが、ユートらしい。

「それはどうかしら?」

 悪戯(いたずら)笑いを抑えられずにアイナは言うと、四人をまとめて浮上させる。

「これだけ?」

 間の抜けた声をカノンが上げるのも、無理はない。

 浮いたのは、背丈にも満たない高さ。

 でも四人の足元には、大きな黒い穴がぽっかりと空いている。

「まさか、アイナくん――」

 ユートが言い終わる前に、浮上魔術を停止。

 みんなで転移門に真っ逆さま。

「おわっ、大湖の真上かよ」

 次の瞬間、四人はずっと高い空に浮いていた。

 コタロウの言う通り、足元では風が水面(みなも)に小さな波を立てている。

「慣れてないから、見える範囲で移動したほうがいいかなと思って」

 なぜだかつい、みんなを不安にさせるような説明が口をつく。

 もちろん転送先の周囲は確認している。

 転移魔術程式も、その点はマナ玉と同じだ。

 危険などこれっぽっちもありはしない。

「アイナあ、これで旅するのかよ。移動しながらいろいろ見てまわりたいぜ」

「帰るだけだからこうしてるの。旅するときはまた考えるわ」

 カノンの文句はごもっとも。

 アイナももちろん、こんな味気ない旅はしたくない。

「是非考えて欲しい。この方法、私は嫌だ」

「私がつかまえているから、平気だって」

 ユートが文句を言うと、カノンがそんな(なぐさ)めをかける。

 ちょっと()けるなと、アイナは思う。

「じゃあ次はあそこの門までよ」

 みんなの目が届く空に、ぽっかりと浮かぶ黒い穴。

「もっと遠くでも、いいんじゃないか?」

「コタロウくん、余計なことを言わないでくれ」

「お前、そんなんでビビってたらアイナと旅できないぜ」

「ふふっ」

 みんな転移魔術程式に夢中になっている。

 だからつい、そんな様子に笑ってしまっただけなのだが。

「なあ、アイナくん。シガア地域の旅程は一週間、あと二日余っている」

「あ、私も同じこと考えてた」

「もしかしてアワジマか」

 なにやら話の雲行きが怪しい。

「ご両親のことを、アワジマでお世話になった方々に報告すべきだと思うのだが、どうだろうか?」

「信義を守るのは商売の基本だぜ」

「真っ先にすべきだろ」

「うっ」

 ユートに少しいじわるをしたのは確かだが、これはその仕返しなのか。

 父母が心配していた通り、ゴショの人間が油断ならぬことをアイナは実感する。

「私たちがいたほうが気が楽だろ。ちゃんと骨は拾ってやるって」

 カノンの言ってる(たと)えが、どこかおかしい。握り締める手が少し痛い。

「もう、分かったわよ。いっぺんに行くから覚悟してね」

 アイナは、せめてもの反撃を試みる。

「いや、そこは少しずつのほうがよくはないか」

「お前も小せえなあ」

「アワジマかあ。俺が行けるなんて思わなかったぜ」

 それに再び騒ぎ始める三人。


 アワジマになんて行ったら、きっと自分はまたわんわんと泣いてしまうだろう。

 でも、それでいいと思う。

 両親に会えたと報告することが、マコットさんとリーエさんへの恩返し。

 そうしてそこから、この三人といっしょに新しい旅をはじめよう。


「じゃあ、行っくよー!」

「おー!」

 苦楽をともにした、かけがえのない仲間たち。

 アイナは三人を故郷(ふるさと)へと(いざな)う。

 すてきな両親といっしょに暮らしていた故郷(ふるさと)へと。


 お終い




 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。




 一旦「完結済」としますが、期間をおいて「後書き」を数話追加する予定です。「後書き」は物語の続きでは無く、本作の執筆を振り返る内容となります。


 興味のある方は、ご覧いただけると幸いです。

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