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十二体目のゴーレム

 新年を迎え、アイナたち四人は転移門をくぐって、ゴショにやってきました。ライヴォークも一緒です。

 あの成績発表の日からというもの、アイナの落ち着きの無さといったらありませんでした。目的を達成できて、まさに夢心地といったようすでした。

 ヒイデキ親方とミホウさんはそんな様子に、最初はアイナが首席を取ったと勘違いしたくらい。もちろんおふたりともアイナの目的は分かっていますから、次席であろうと、ゴショに行けるようになったことを一緒に喜んでくれました。

 そしておふたりは今日も転移門までアイナを見送りに来てくれたのですが、ちょっと様子が違って見えました。どこか寂しそう。このゴショの見学がどういう結果に終わろうとも、アイナが二人のもとから離れていくことになるのを感じていたからでしょう。


「定規を引いたような街ね」

 グループを引率するユートくんと並んだり追い越したりしながら歩くアイナが、(はず)んだ声でゴショを表現します。

 どの通りも同じ道幅で、直角、等間隔に交差している様子を指しての感想でしょう。建屋を囲む壁の高さや色も、似たり寄ったりです。

「どいつもこいつも、お高くとまった奴らばかりだなあ」

 とはカノンちゃんの弁。

 歩く人々は右側通行、ゴーレム荷車は左側通行を守って移動し、交差点でかち合ったら左方が優先して渡っていきます。淀みがありません。シノサカの雑多な人の行き交いとは大違いです。

「それは偏見だ」

 と、ユートくんは抗議したものの、

「程式工房が集まっている区画に近い転移門を使ったから、理知的な人が多いというのはあるかもしれない」

 などと、カノンちゃんの指摘も一理あると続けます。

 通常、転移門は万が一の事故を考慮して、周囲に障害物が無い場所に設けられます。さらに周辺の各街との往来を考慮して、結果、どの街からも離れた場所に用意されます。

 しかし今回アイナたちは、ゴショの人々の移動を優先にした、ゴショの間近にある、特別料金が必要な転移門を利用しました。これは別に、ユートくんがいるから優遇されたのではありません。実業学校側からすると、ゴショの程式工房見学という報償は、同じ役所内の調整だけで済むお手軽な内容なので、別の面で便宜を図ってくれたのです。

「シノサカと違って、俺の顔をイヤそうに見る奴は随分と少ないぜ。俺はこっちの街のほうが好きだ」

 そう街を見回して言う、コタロウくん。カノンちゃんは「それは見習わねえとな」と素直に認めます。

 コタロウくんはシノサカの転移門で集合した際、帽子をかぶり、マスクを付けた()()ちで現れ、みんなをびっくりさせました。ゴショで嫌な思いをしないようにとご両親が配慮されてのことでした。それに対してユートくんは、そんな必要は無いとコタロウくんとご両親にきっぱりと説明したものです。ゴショなら内心はともかく、嫌悪感を表に出すような人はいないでしょう。程式工房なら良くも悪くも、なおのことです。たいていの魔術程式書家はそのようなことに興味はなく、何の関心も示さないからです。

「次の角を右に曲がって、三つ目の区画、左側だ」

 ユートくんが前方の交差点を指差しながら、みんなに案内します。

「ライヴォーク、行くわよ」

 するとアイナはライヴォークの左腕を掴み、身体強化魔術程式まで使って、駆け出しました。

「こら、危ないだろ!」

 ユートくんが大声を上げて、アイナを追いかけます。

 そんなことを言ってもね。

 転移門を抜けてゴショに着いた早々、ユートくんはこう案内しました。

「最初に訪問するのは、規模こそ中堅ながら高級ゴーレムを専門に手がけている程式工房だ。ライヴォークの手がかりが得られるとしたら、ここが本命だと考えている」

 そのような場所に向かっているのです。少しでも早くにと、アイナが走るのは当然です。


 結局みんなも小走りして、目的の程式工房に到着しました。

 ユートくんが受付で見学に来た旨を告げると、年の頃は四十手前でしょうか、白衣を着た、ひょろっとした青白い顔色の男性が出てきました。

「初めまして。シノサカ北部の実業学校から見学に来ました。本日は――」

 ユートくんが挨拶を始めると、その男性は手を上げ、

「いいから、そういうの。こっちも忙しい」

 と、かったるそうに(さえぎ)ります。思わず口をへの字に曲げるユートくん。

「あー、モチベーションを上げるために首席の報償を本人に申告させるって制度は悪くないと思ってる。ただ、ね。こうして、自分が相手をする身になってみると――」

 白衣の男性、早口で一方的に喋り始めたと思ったら、いきなりアイナを指差し、

「おい、きみ。そこの背の低い、そう、きみだ。そのマナ玉はなんだ、一体?」

 と、興奮気味に問いただします。どこまでも自分本位。成績発表の場でアイナが協調性が足りないと(なじ)られましたが、ゴショの程式工房なんて研究色が濃いこともあるのでしょうが、こういう人ばかりです。

「わたしのゴーレムのマナ玉です。呼んでもいいですか?」

 アイナがそう聞くと、男性は「すぐ呼びなさい」と即答です。

 アイナは一旦、程式工房の入り口に戻ります。

 入り口にゴーレム置き場があって、勝手が分からないので、ライヴォークはそこに待たせていたのです。その際にアイナは、ライヴォークにマナ玉を付けられて文句を言っていましたが、結果として関心を持ってもらうことができました。

 アイナがその腕を引っ張ると、ライヴォークはマナ玉を回収して追随します。

「どうしてこの型が?」

 アイナに続いてライヴォークが姿を見せると、男は驚きの声を上げます。

「いや、この型がさっきのマナ玉をつくれるものか。いや、歩行姿勢もあまりに滑らかだ。いや、いやいや――」

 四人を置いてきぼりにして、自問自答を重ねます。

「そうだ、きみはこれをどうやって手に入れたのだ?」

 しばし黙考したかと思えば、ようやくアイナに質問をしました。

 長くなりますとアイナが断りを入れると、男は無言で頷きます。

 さっそくアイナは、自分とライヴォークの経緯を話し始めます。


 十二年前に赤子の自分を連れて、突然アワジマに現れたこと。

 転移門に目撃者は無く、実行記録(ログ)はアワジマ以降から残り始めたこと。

 管理者権限は誰にも解けず、使用権限はアイナにだけ認められていたこと。

 人間にできる動作は一通りこなすこと。学習能力もあること。

 魔術程式も多種多様にこなせること。

 マナ玉はアイナの状況に応じて、勝手に付けたり付けなかったりすること。

 命令を受け付けないので、マナ能力は測定できないこと。

 などなど――。

 これまで何人にこの説明をしてきたことでしょう。

 アイナももうすっかり慣れていて、流れるように話をします。

 でもいつも、その一言一言にしっかりと思いを込めて話をします。

 そうして最後に、自分もライヴォークのことを知りたい、両親のことを知りたいと訴えて、話を終えました。


「ふむ。にわかに信じがたい話だが、キミの説明は理解した」

 白衣の男は、アイナの話を吟味するように聞き入っていました。つい先ほど、ユートくんの挨拶を遮った人と同じ人には思えません。

「外観は、うちの程式工房のゴーレムの型にしか見えない」

 そう言いながら白衣の男性は、ライヴォークの周囲をぐるりと回ります。

「ちょっと調べるぞ」

 続いてアイナの許可も得ずに、魔術程式をライヴォークに実行します。

「ほとんどの情報が隠されている」

 また別の魔術程式を実行します。

「これはだめか」

 アイナは白衣の男の行動を止めず、じっと見守ります。

「これもだめなのか」

 そうは言っていますが、成功することを期待しておらず、失敗することを確認しているように見えます。

「ふん、何も受け付けん」

 ようやく一通り試し終えたようです。四人に振り返りました。

「このゴーレムの保守は、どうしている?」

 男の質問に、

「何もしていません」

 と、アイナはすぐに応じます。

「それでこの動きを保っているというのか。あり得ん」

 ゴーレムは木製であろうと石製であろうと、稼働しているうちに部材が劣化し、それに合わせて魔術程式の調整が必要になります。別に十年放置しても動きはしますが、その動きは見てすぐ分かるほどギクシャクとしたものになります。

「あの、それで何か分かったことはあるでしょうか?」

 どこか恐る恐る、アイナは尋ねます。

 無理もありません。その答えによって、アイナのこれからが大きく変わるのです。

「まずこのゴーレムの外観は、この程式工房がゴショ御三家に納めてきた最高機種十二体と似ている。いや同じといってよい」

 男はそう言って、改めてライヴォークを見つめます。

「しかし、よそが作ったゴーレムのようだ。うちのものなら管理者権限を取得できるはずの魔術程式を実行しても、取得できなかった」

 あら、この方、そうとう偉い人のようね。管理者権限取得なんて、使用者の意向にかかわらずゴーレムを扱うことができてしまう魔術程式です。どの程式工房でも、一握りの人しか知らないはずです。

「おじさんの腕が悪いんじゃないの?」

 カノンちゃんが、思わずか故意か分かりませんが、突っ込みます。ユートくんに睨みつけられ「しまった」とか言っていますが、悪びれているようには見えません。

「私はここの筆頭書家だ。親方、副親方と同等の魔術程式を使用できる」

 特に気分を害した様子も見せず、白衣の男――、筆頭書家さんはカノンちゃんに答えました。この程式工房で、三番目に偉い人のようです。

「どこの工房が作ったのか、分かりませんか?」

 アイナが知りたいのはライヴォークのこと。その表情はただただ困惑しているように見えます。情報は得られたものの、このままでは先に進めないものね。

「ふん、どこにも作れるものか」

 筆頭書家さん、アイナの質問には心外のご様子。先のカノンちゃんの時と違って、今度は額に皺を寄せて、不快感をあらわにしました。

「材料的には、このゴーレムを製作できるのはシガアの民しかあり得ない」

 でもアイナに答えるというか、自分の考えをまとめるかのように話を続けます。

「だが彼らのゴーレム作りは雑だ。もう随分と前から、ゴショは彼らから完成体ではなく、部品を調達するようにしている。いわんや程式などは、このゴーレムの水準のものを書けるわけがない」

「よその程式工房は?」

 アイナが重ねて聞くと、筆頭書家さんはまた顔をしかめますが、ため息を吐いて独り言のように考察を続けてくれます。十三の女の子に(すが)るように見上げられて、邪険に扱うような冷酷な性格ではないようです。

「ゴショのどの程式工房にも、これほどの魔術程式を書ける書家はいない。断言する。――というか、こんな程式を書ける書家が存在するというのが信じられない。まだ、人間がこのゴーレムに擬態しているという話のほうが、信じられるというものだ」

 アイナは筆頭書家さんの言葉に(うつむ)いてしまいます。たとえ(せい)(こく)を射る考察であっても、これでは手がかりになりません。


「あの、私からもよろしいでしょうか」

 アイナの様子に居たたまれなくなったのか、ユートくんが切り出します。

「どうぞ」

「さきほど御三家に納めているゴーレムの話がありましたが、どうして十二体目は『マルベリー』とMから始まるのでしょうか?」

「ん?」

 その問いに筆頭書家さんはじっとユートくんを見つめます。ユートくんは「私は西(にし)()の者です」と付け足します。

「そう言えばそんな連絡もあったな。すっかり失念していた。キミの(ちち)(ぎみ)も大変だな」

 筆頭書家さん、そう言いながらも、ユートくんに(かしこ)まったりはしません。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 なぜか謝るユートくん。

「いや、そのようなつもりで言ったのではない。先代がバケモノ過ぎた。誰があの方のあとを継いでも、苦労するというものだ」

「ありがとうございます」

 筆頭書家さんとユートくん、ふたりだけの会話が続きます。アイナたち三人は黙って聞いているしかありません。もっとも、その内容は当代が力不足で苦労しているというだけのこと、大した話ではありません。それにしてもバケモノは無いでしょ、バケモノは。失礼しちゃうわ。

「それで『マルベリー』の話だったか。十二体目は、あるところから私的用途での発注があって、別途納品してるからだ。『マルベリー』はうちの工房内では十三体目にあたる」

 その説明にユートくんは、「なるほど、ありがとうございます」と礼を言います。

 しかし筆頭書家さん、どこか(ほう)けたようにまたライヴォークを見つめます。

「『ライヴォーク』、L始まりか。まさかな」

 これ見よがしな独り言。

「十二体目は、どこに納品したんですか?」

 当然アイナは、垂らされた餌に食い付きます。

「顧客情報は教えられん。ただ、そのゴーレムは十二体目を真似て製作された可能性はありそうだ。それくらいなら、シガアの程式工房でもできるだろう」

 そう答えてくれる筆頭書家さん。カノンちゃんが「どうしてシガアなんだ?」と小声でつっこみますが、ユートくんが「しっ」と口を閉じさせます。それを苦笑いして見ている筆頭書家さん。それとなく顧客情報を漏らしたのですものね。この人、私がシガアに向かったのを知っている。

「シガア……」

 アイナが取り憑かれたように(つぶや)きます。

 カノンちゃん、ユートくん、コタロウくんの三人は、きっとアイナの考えが手に取るように分かっているでしょう。

「ただ、誰が魔術程式を書いたのかはまるで見当が付かん。まあ、シガアにまともな程式工房は大してないだろう。行ったことはないが、ナガアマあたりには少しはマシな工房があると聞く」

 そう言ったかと思うと筆頭書家さんは、「そろそろ時間だ」と有無を言わさず奥の部屋に戻ろうとします。どこまでもマイペースな方です。

 ユートくんが慌てて「ありがとうございました」とお辞儀をし、三人も続きます。

「何か分かったら、私にも教えてくれるとありがたい」

 最後にそんなことを言い、案外と融通が利いて人情家だった筆頭書家さんは、仕事場へと戻っていかれました。

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