表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/38

席次発表

 ついにこの日が来ました。

 今年最後の登校日、年間通しての成績が発表される日、アイナが目標にしていた首席が発表される日です。

 学校はまだ残り三ヶ月ありますが、来年からは街各所の現場に出向いての実習が中心になります。ですので、全員が教室に揃う年末最後の今日が、発表の日になっています。

 普段騒がしい生徒たちも、今日ばかりは大人しく机に座っています。魔術程式科の発表は九時二十分からの予定。担任、副担任の先生も連絡事項の伝達を終えて、校長先生がこの教室にまわってくるのを待っていらっしゃいます。


 教室前側の引き戸が、ガラガラと()きます。

「お待たせした」

 校長先生が入ってきました。四十代くらいの男性、私のときはゴショから派遣された役人さんでしたが、この方もそうなのでしょう。続いて事務員さんが入室して、戸を閉めます。教壇上に並ぶ校長先生と先生おふたり。事務員さんが証書を揃えて、教卓に置きます。

「ではこれより年間成績発表を行う。名前を呼ばれたら、返事をして、教壇に上がりなさい」

 担任の先生がこれからの段取りを説明されます。生徒たちは不気味なほど静かに頷いています。

「はい、それでは発表します。普通は三位から発表するのですが、この科は一位からにします」

 校長先生がそう言うと、生徒たちがざわめくのはもちろんのこと、先生方も顔を見合わせています。

 おふたりは成績を付けた当事者ですから、結果は知っているはず。でもこの段取りは事前に連絡されていなかったようですね。それでも副担任の先生が「静かにしなさい」と生徒たちを注意します。

 教室がさあっと静まります。

「本年度、魔術程式科、年間総合成績、第一位――」

 少し間をとる校長先生。

 みんなの息を呑む音が、聞こえたような気がします。

「ユートくん」

「はいっ!」

 校長先生が名前を呼ぶや、ユートくんは元気よく返事をして立ち上がりました。

 少し顔を紅潮させて、教室を前へと進みます。

 ふたたび、ざわつく教室。

 アイナはうなだれてしまいました。かわいそうですが、私もこの結果は妥当だと思います。

 校長先生が証書を読み上げます。

 ユートくんは教壇上で胸を張って聞いています。

 一礼して校長先生から証書を受け取ると、教室が拍手に包まれました。アイナも顔を上げて拍手します。カノンちゃんもコタロウくんも拍手です。


「さて――」

 校長がそう口を開くと、みな拍手を止め、教室が再び静まります。みんな、次に続くであろうやり取りに、興味津々のようですね。

「各科の首席は、報償を申請することができます。何か希望はありますか」

 ゆっくりと説明を進める校長先生。

 教室が静かすぎて、正面の掛け時計の音が聞こえそうなくらいです。

「何もありません。私は首席をいただければ充分です」

 ユートくんの落ち着いた声が教室に広がります。

 今度は密やかに話し声が広がる教室。アイナは信じられないものを見るような目で、ユートくんを見ています。

「そうですか。さすがの結果ではありましたが、余裕というほどではなかったようですね」

 校長先生はまるでその答えを予想していたかのように応じます。ユートくんが私と同じお忍び入学なら、そうでしょうね。

「はい。このクラスは予想を遥かに超えた水準で、正直焦りました」

()(せい)にも優れた才能を持つ者はいるものです。これからも精進なさい」

「はい」

 そう校長先生と言葉を交わし、再び一礼して席に戻るユートくん。

 担任、副担任の先生がどういうことかと、校長先生に説明を求めます。

「ユートくんは、現在ゴショ代表を務めている西(にし)()当主のご子息です」

 この説明にはさすがに教室も大騒ぎになります。露骨に「(ひい)()じゃん」との声も上がりました。

 ユートくんはケントさんのお子さんなのね。言われてみると面影があるように見えます。

「静かにしなさい」

 そう校長先生がおっしゃっても、なかなか収まりません。校長先生は手を挙げてじっと待ちます。その様子を見て、ようやくひとりふたりと私語をとめていきます。

「ご覧の通り、このことは先生方も知りません」

 校長先生がそう言うと、担任の先生も副担任の先生も(から)()り仕掛けの人形のように、激しく首を縦に振ります。これは必死に潔白を主張せざるを得ません。

「成績は公平に付けられて――」

 校長先生が説明を続けようとすると、教室の戸の前に控えている事務員さんが「校長、お時間が」と注意を(うなが)します。

「コホン。続いて次席を発表します。報償を希望する権利は次席に移りますが、次席は同点でふたりいます。申請はふたりで協議してください」

 校長先生は話をしながら、教室がザワつくとその都度に手を上げて制します。


「魔術程式科、年間総合成績、第二位ふたり――」

 校長先生、また間をとって、もったいつけます。

「アイナくん、コタロウくん」

「あ、はいっ!」

「はいっ!」

 呼ばれたふたりが立ち上がって、教壇に向かいます。

 この結果は意外です。ひいき目があるかもしれませんが、アイナのほうがコタロウくんより明らかに優秀だと思うのです。

 証書を読み上げる校長先生。

 アイナとコタロウくん、それぞれに証書が渡されるたびに、教室が拍手で包まれます。

「先にも言いましたが、報償はふたりで相談して――」

「いいえ。わたしはコタロウくんにたくさん魔術程式を教えました。反対に教えられたことはありません。わたしの希望を優先してください」

 校長先生のお話を(さえぎ)って、アイナが大声で主張します。

 どよめく教室。

 でも先生方は表情を厳しくして、微動だにしません。

「ね、ユートくん。わたしの言っていること本当だよね」

 アイナも(ひる)みません。ユートくんに証言を求めました。

「私が見ていた範囲では、アイナくんの言っている通りです。しかしアイナくん、魔術程式開発はたくさんの人が集まって行う共同作業だ。こういう場でも協調性を示すべきだと思う」

 ユートくんはアイナの主張を認めるも、釘を刺してきました。

 なるほど、アイナのこうした態度が、大きく減点されている可能性はありそうです。そうでなければ、コタロウくんと同じ順位である説明がつかないと私は思います。

 それでもアイナは「これは程式開発ではないでしょ」と言い返します。この()なりに必死なのでしょう。だいたいアイナは、職として程式書家に就きたいなどと口にしたことはありません。

「校長先生、わたしはゴショで一番の魔術程式書家に会いたいです」

 キッと校長先生を見上げて、アイナは主張します。

 アイナはこのためだけに、シノサカに(とど)まっていたようなものです。

 校長先生はそのアイナの言葉を「そうですか」と受け止めながらも、

「コタロウくんは、何か希望はありますか」

 と、コタロウくんに視線を移して尋ねます。

「おれ――、私は有名な程式工房に弟子入りして、両親の生活を楽させたいです」

 コタロウくんも、アイナに負けじと校長先生を睨みつけるように言います。

「ふむ、それではふたりで、いやユートくんと三人で、ゴショの程式工房を見学して回るのはどうでしょう――」

 校長先生が提案を始めました。

「ユートくんがいれば、どの程式工房も優秀な程式書家が案内してくれるでしょう。また第一線の程式工房を見て回ることは、たとえシノサカの程式工房に入るにしても、きっと参考になるはずです」

 そう校長先生が話を終えると、生徒のひとりが立ち上がりました。

「校長センセ、わたしもその見学に参加したいです」

 カノンちゃんの大きな声が教室に響きます。そりゃ、みんなと一緒に行きたいわよね。

 担任の先生が慌てて教卓に向かい、資料をめくりながら校長先生に何やら話をしています。カノンちゃんの成績とか、グループ演習の状況とかを説明しているようです。

「カノンくんですね。あなたの成績は第四位で、かつ、第五位とは大きく差を付けています。問題ないでしょう」

「やりー」

 校長先生の回答にカノンちゃんは大喜び。指をパチンッと鳴らします。

「待ちなさい。三人はそれでいいですか?」

 校長先生が、事務的に問いかけます。

 アイナたち三人はもちろん、

「はいっ!」

 と、元気よく答えました。

「キンキイ地域編」はこれにて完結です。

 次話より新編に入ります。

 引き続きお楽しみいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ