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第8話:ミッション開始!

国境都市ボサノバは夜まで活気のある街だが、深夜となると人々の喧騒も静まり返り静寂の空間となる。一日が終わりを告げ、人々が休まるとき、暗がりを疾走する人影があった。


「ここがローガの屋敷だ」


ユミルは目的地に辿り着いたことを告げ、これから行われる作戦の最終確認する。

作戦内容は至ってシンプル。ユミルの仲間達が玄関から大規模な襲撃を掛ける。その隙を突いてユミル、要、大和が裏から屋敷内に侵入し、証拠品を探す、といったものだ。

一番の懸念材料は大規模な襲撃なため、衛兵が異変に気付き、直ぐに駆けつけて来るのではないかという事だったが、朗に何か策でもあったのか「それは僕に任せて下さい」と言ってきた。ユミルは任せてもいいものかと考えたのだが、彼の仲間の危険もある以上、任せても大丈夫だろうと思い、朗に一任した。


「お前ら、ヤバくなったら直ぐに逃げろよ。ヘマして捕まったりするんじゃねぇぞ」


ローガは莫大な資産を用いて私兵部隊を設立しているため、玄関での襲撃は激しい戦闘になると予想される。侵入する彼女達も危険に違いないのだが、相手は金に物を言わせて寄せ集めた私兵部隊なのだ。武器一つにしても彼らが使っている物よりランクが高い物を使っているため、実力だけでは勝てる相手でもないのであった。


「心配しなさんなお頭、俺らだって何度も修羅場越えてきたんだぜ、寄せ集めの馬鹿共に負けてたまるかってんだ。お頭こそ捕まったりしないでくだせぇよ」


心配したはずが逆に心配されてしまったユミル。頼もしい仲間達がいることに安心し、作戦決行の合図を出す。


「いくぜ!やろうども!!!」


おおーー!!という掛け声と共に玄関より襲撃を掛ける。


「それじゃあ俺達も行くぞ」


作戦通り裏手から侵入するため別行動を取る。ユミルが先に行き、後を追いかけようとした時、声が掛けられた。


「坊主・・・カナメっつったな、お頭のこと、頼んだぜ」


やはり別行動のユミルのことが心配なのだろう、先程やり取りしていた男が要を真剣な眼差しで見ている。


「はん、任せとけ。銀髪美女なツンデレを失うことは世界の損失と同じこと!世界のために!俺が守ってやる!」


シリアスムード台無しな言葉に大和は頭を掻きながら要を呼ぶ。


「要、早く行かねぇと置いてかれるぞ」


おう、分かったと言いユミルの後を追う2人。その2人の後ろ姿を見ていた男は最後に一言呟いた。


「ジェシス・・・出てくるんじゃねぇぞ」


そう言って戦火の中に飛び込んで行ったのだ。












屋敷のある一室。2人の男が向かい合わせに座っていた。一人の男は見るからに金持ちといった服装をしており、装飾品も光り輝く物が多かった。向かいに座っている男は、全身黒尽くめの格好で、傍には2本の剣が置かれていた。


「鼠が騒ぎ出した様ですね」


落ち着き払った態度で話すのは、この屋敷の主、ローガ=オーキスだ。向かいに座る男はローガが雇っている専属護衛である。


「随分落ち着いてるな、大した問題でも無いっていうのか」


雇い主に聞く口とは思えない喋り方。しかし、ローガは気にも留めないのか、笑ったまま言葉を繋げる。


「えぇ、鼠がいくら騒ごうとも、決して人の脅威にはならないんですよ。それに今頃あの部隊が向かっているでしょうし、静かになるのも時間の問題ですよ」


「アンタご自慢の私兵部隊か。まぁ確かに鼠相手なら直ぐに片が付くだろうな。だが、注意はしたほうがいいだろう、鼠といえばどこから入ってくるか分からんからな」


男の言葉に感心したローガは笑みを崩さぬまま賞賛の辞を述べる。


「流石ですね、腕が立つだけではなく頭も回る。私は本当に良き人に巡り会えましたよ。頼りにしていますよ、ジェシスさん」


あぁ、と頷いた男の名前はジェシス=リッター。ユミル達の元仲間であり、突如消息を絶ったジェシスその人なのであった。











ユミル達は作戦通り裏に回り侵入出来そうな場所がないか丹念に探していた。ここで見つかってしまっては作戦の意味が無くなってしまうので慎重に探していたのだ。


「ちっ、入れそうな場所なんてねぇな」


そう簡単に侵入出来る場所など存在する訳もなく、ただ時間が過ぎてゆく。表からは人の叫び声や剣が交じり合う音が聞こえる。早くしなければと、ユミルは焦りを隠せなかった。そんな中、要が服の中から何かを取り出した。


「ガム・・・テープ?」


「おう、これを使って中に侵入するんだってよ」


そう言うと要はガムテープを窓にペタペタ貼り付けた。何重にも貼り付けられたガムテープ、要はその部分に肘鉄を打った。直後、バキッという小さな音がなり、要はガムテープを剥がしていく。するとガラスはガムテープに付いていて、大きな音も立てることなく窓ガラスに穴が開いたのだ。穴から手を入れ鍵を開け、窓を開けた。その一連の行動を見ていた大和は突っ込みをせずにいられなかった。


「お前は泥棒にでもなりたかったのか?」


「いや、朗にガムテープとこの方法を教えてもらってさ、入れそうな場所がなかったら窓から入れって言われた」


なぜ朗はそのような事を知っているのだろうか?天才少年とは世界が違うような知識ではあるが、今はその知識に感謝し中に入る3人。ふと疑問に思った事があったのか、大和は要に質問した。


「何で朗はガムテープなんて持ってたんだ?」


途端、顔色が青くなった要。不思議に思った大和であったが、要からの返事を待っていた。


「いや・・・あのさ、俺が暴れたときに縛る用に持ってきたガムテープだって・・・笑いながら渡されたよ」


笑顔が余計に恐怖を増長したのだろう、大和もその光景を思い浮かばせブルッと震えた。最弱でありながら、ある意味最強な朗は2人にとって恐怖の象徴となってゆくのであった。







屋敷の中を足早に移動する3人。目的地はローガの政務室、場所は事前に調べていたので迷うこともなく一直線に向かった。表にはまだ剣戟が鳴り響いている。急いで片を付けて引き上げねばと考えて角を曲がろうとしていた矢先、要の叫び声が響いた。


「あぶねぇ!」


その声と共にユミルに飛び掛り2人共倒れる。そのまま進めばユミルが居たであろう場所に一筋の閃光が奔る。即座に起き上がり臨戦態勢に入る要。目の前には2本の剣を持ち、構える男の姿があった。


「おいおい、不意打ちとは随分と卑怯な真似してくれるじゃねぇか」


相手の殺気を一身に受け、槍を構える要。一歩遅れてユミルが起き上がり、その光景に悲痛な叫び声を上げた。


「ジェシス!」


その名を聞いた大和は驚きを隠せなかった。ジェシスと言えば、ユミル達の元仲間であり、ローガの屋敷に出入りしていると聞かされた相手だった。先程の攻撃は確実に殺意のある一撃。素人目に見ても当たれば即死は免れなかったであろう。元とはいえ、仲間であった人の対して容赦のない一撃。仲間を、友を大切にする大和にとって、その光景は酷く苛立たせるのであった。




「ユミル、か。何故お前がこんな場所にいる・・・なんて聞くまでもないな。ここを通すことはできん。逃げるなら追いはしない。さぁ、どうする?」


双剣を構え直し、大和、要を警戒する。


「ったく、いきなり出てきて何仕切ってやがる。俺ら急いでるんだよ、ヤル気だってんなら手加減しねぇぜ」


何時に無く好戦的な要。不意打ちをされた事に対する怒りか、ユミルを殺そうとした事に対する怒りかは本人しか知る由もないが、・・・・・・要のことだからきっと後者なのだろう。


完全に要へと向くジェシス。立ち振る舞いから要を強敵と認識し、大和は素人と判断した。


「ふっ、威勢がいいな小僧、相手になってやる」


その言葉が終わると同時に2人の戦士はぶつかり合った。




2人の戦いはまさに熾烈極まりなかった。お互い一歩も退かず、攻撃の手を緩めず激しい音が鳴り響く。


一旦距離を取り、2人の姿を見た大和は目の前の光景が信じられなかった。


「嘘だろ・・・」


ジェシスには傷一つ付いていないが、要には多少の切り傷がある。現実世界にいた頃から要の規格外の強さを見てきた大和は異世界でも通用すると思っていた。事実、近衛隊員が束になっても敵わなかったモンスターを一撃で倒したことから、この世界でも要の強さは規格外、と思っていたのだ。しかし、目の前の光景はどうであろうか。2本の剣をまるで生き物のように扱うジェシス相手に要は苦戦を強いられている。まさか・・・と不安が過ぎるが、大和にジェシスと戦う力はない。ただ、見ている事しか出来ないのであった。




(ちっ、まさか2刀流がここまでやりずれぇなんて・・・)


現実世界にも、剣術は存在する。剣術、槍術、弓術、薙刀術など様々な武術が存在する。要は剣術家との一対多数の仕合も経験があるのだが、2刀流の使い手など現実では居らず、仕合をした経験などなかった。生まれて初めて戦うことが出来た2刀流の使い手に要は歓喜していたが、刃を交える度、己の浅はかさを痛感していたのだ。


「どうした小僧?その程度か?」


対してジェシスは余裕があり、2本の剣を滑らかに動かしながら挑発的な態度をとっている。まるで生きているかのように思える剣の動き。実は「生きているようである」というのは強ち誇張ではない。ジェシスの持つ双剣は僅かながらに意思を持つ「法剣」。


法剣とは「法器」の一種で、法器とは法石が埋め込まれた武器の事である。純度の高い法石を更に濃縮させ武器に埋め込むのである。濃縮された法石は「マテリア」と名付けられ、マテリアが埋め込まれる場所は武器によって多種多様。刃に埋め込まれることもあれば、柄に埋め込まれることもある。法器によっては目に見えない部分にマテリアが埋め込まれている場合もあり、ジェシスの持つ法剣は目には見えない部分に隠されていた。


法器は数多く存在し、古くは古代遺跡から発掘される場合もあり、新しくは現代の鍛冶師によって生み出される。しかし、数多く存在する法器であるが、意思を持つ法器は決して多くはない。法器に意思があると考えられたのは50年ほど前からで、持ち主の危機に反応し、切れ味が鋭くなったり、持ち主の意思とは別の動きをする、等のことから「法器には意思があるのでは?」と考えられるようになったのだ。意思の強さもそれぞれ違い、大陸創世記から存在していると伝えられている法器に至っては、人と同じように言語を理解し、己の意思で動き回ることも出来ると考えられている。ジェシスの持つ法剣は意思を持っているのだが、作られたのは最近であり、まだ生まれてたての赤子同然であったため、僅かながらの意思なのだ。


「今退くならば命までは奪いはせん。大人しく退け」


余裕たっぷりのジェシスの態度が気に入らなかったのか、要は声を荒げ戦闘の継続を告げる。


「ふざけんじゃねぇ!ここまで来て退けるかってんだ!てめぇをボコって先に行くんだよ!」


別にボコにする必要はないのだが、負けず嫌いの要はとことんやらねば気が済まぬのだろう。


「そうか・・・ならば行くぞ!」


再び激しい戦闘が再開された。




(あの2本を気にするから面倒な訳で・・・ヤロウを直接ぶっ叩くか)


先程の攻防もそうであったが、要にジェシスを殺す気は一切ない。ジェシスを狙うも急所は避け、武器を弾き、相手の無効化を図っていたのだ。しかし、同じ事をやっていては先程の戦闘の二の舞になるため戦法を変えることにした。


ジェシスは一気に片を付けるために要に駆け寄り攻撃を始めた。右と左、別の角度から振り下ろす。要は先に自分に到達する右の剣を槍で受け止め、回り込むことで左の剣を回避する。そのまま槍の柄でジェシスの頭を狙おうとしたのだが、直後、受け止めた右の剣が槍の柄を滑り込むように奔り、横薙ぎの斬撃が襲い掛かる。身を屈むことで回避を試みたが、今度は振り下ろされた左の剣がV字を書くように振り上げられた。寸での所で後ろに飛び退り、危機は回避され、一定の距離が生まれた。


(こいつ・・・マジでつえぇ・・・)


いくら刃を使っての攻撃ができないとはいえ、ここまで一方的な防戦になるとは思っていなかった。どうしようか考えていると、ジェシスが再び駆け走ってきた。


(ヤロウ!一か八か!)


ジェシスは先程と同様に2本の剣を振り下ろす。今度は先の剣をいなすように受け流す、直後槍を引きもう片方の剣も同様に受け流す。片手だけを受け流されたならば体勢も立て直せるのだが、両手共受け流されたとなると確実に体勢を崩され、隙が生まれた。


(もらったぜ!!!)


勝利を確信した要。体勢を崩され、前のめりになったジェシスの顔に鋭い一撃を叩き込んだ。


ガキン!!!


要は目の前の光景に驚いた。確実に捉えたであろう一撃がジェシスの双剣によって防がれていたのだ。双剣を交差させ、顔に当たるはずだった柄を挟みこむ様に抑えている。


「なっ・・・!」


驚きの声を上げた直後、要の顎に強烈な衝撃が襲い掛かった。ジェシスの前蹴りが要の顎を捉えたのである。回避行動すら取れなかった要は意識を手放し地に伏してしまったのだ。

要の様子を見て、もう戦える状態ではないと悟ったジェシスはユミルの方へと振り向き最終警告をする。


「ユミル、小僧を連れて退け。お前だって無駄に命を落としたくないだろう?」


2人の戦闘を一時も放さず見ていたユミル。自分ではジェシスに勝つことは不可能だろうと思い、退くことを考えていた。

自分に向かってくる様子のないユミルを見て、退くことを決めたと認識し、再度警告する。


「さぁ、急げ。他の奴らに見つかる前に・・・・」


ガキン!!!!


最後まで言い終わる前に激しい音が辺りを包んだ。


音の発生源を見ると、要の持っていた槍がジェシスの顔のすぐ傍で双剣により受け止められていた。一体誰が槍を振るったのだろうか、ジェシスは顔を後ろへ振り向ける。するとそこには気絶したと思われた要が俯いたまま立っていて、槍を振るっていたのだ。


その光景を見て、大和は胸騒ぎが治まらなかった。


(ヤバいヤバいヤバいヤバい)


心の中で同じ言葉を連呼している。何がそこまでヤバいのだろうか。要が起き上がったことにより、最悪の事態は避けられたように思えるのだが。


(ヤバいヤバいヤバいヤバい、絶対ヤバい!)


心なしか、顔色が青白くなった様に思える。大和の表情だけを見れば相当に切羽詰った状況と判断できるだろう。


(暴走モード・・・突入だ!)




要は相変わらず俯いたまま微動だにしない。何か異質な雰囲気を感じ取ったジェシスは一旦後ろに飛び退り、要をじっと見ている。すると要は顔を上げ、ニヤリと笑う。その顔には狂気が宿っており、楽しそうに叫び声を上げる。


「殺す!てめぇは殺す!ぜってぇ殺す!ぶっ殺す!」


響き渡る殺すの言葉。普段の冗談交じりの殺すとは違い、要は本心からそう叫んでいた。   そう、要はキレていたのだ。



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