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第7話:モエる定義は人それぞれ

人気の無い道をひたすら歩き続ける4人。右に左に進路を変えながら進んでいく。仮に今から戻ろうにも、来た道を引き返すことすらできないだろう。奥に進むにつれてさらに暗がりが増え、ちょっとでも目を離そうものなら、前を歩いている忍者さえ見失ってしまう程の暗さになってきた。


「ここだぜ」


ついに目的地についたのか、忍者は立ち止まりなにやら合言葉のようなことを言っている。

すると扉が開き、明かりが急に強くなった。

暗がりに目が慣れてしまっていたため、急な光りに軽く眩暈を起こしてしまった大和と朗。要は相変わらず普通だったのはご愛嬌と言うべきか。


カンカンカンと階段を下りる音が響く。やがて扉が見え、忍者が扉を開けると異質な空間が漂っていた。


「んなっ・・・」


驚きの声を上げたのは大和。そのあまりに異質な光景とは?


「全員忍び装束かよ・・・」


見渡す限り、忍者、忍者、忍者。これでもかと言いたくなるほど忍者が溢れていたのだ。


「うわっ・・・これきっつ」


異世界大好きっ子な要もこの空間に圧倒されたのか、顔が引き攣っている。

すると一人の忍者がこちらを見て声を上げた。


「お頭!戻ってきたんですか!ところでその後ろのガキ共は誰なんでぇ?」


お頭と呼ばれた3人を連れてきた忍者。


「おう、こいつらは今日の作戦を手伝ってくれる連中だぜ、腕は確かだ、協力な助っ人だぜ」


忍者のお頭の中では手伝うことが決定しているのだろうか、3人の紹介をした。


「僕らはまだ手伝うとは一言もいってないんだけどね」


冷静に反論する朗。それを聞いた忍者のお頭は「そういや、そうだったな」と本気で忘れていたのだろうか頬を掻きながら言ってきた。


「それじゃあ話そうか、適当に座ってくれや」


3人に椅子に座るように指示する。


「お前ら名前はなんつーんだ?」


名前かよ!と突っ込みを入れたくなった大和だが、要相手ではないのでとりあえず黙っていた。

すると朗が反撃を仕掛けたのだ。


「人に名を尋ねる時はまずは自分から、っていうのが常識じゃないですか?」


現代社会の常識論を出す朗。通じるかどうかは不明だが相手は納得したのか「たしかにな」と言い自分の名前を言った。


「俺の名前はユミル。まぁさっきのやり取り聞いて分かってると思うが、ここの頭やってんだよ」


そう言って顔を隠していた被り物とマスクを外した。

直後3人は石のように固まったのだ。

被り物を取った後に見えたのは、室内であるのにも関わらず光り輝く銀色の髪。気の強そうなつり上がった目元。マスクを外せばまさに美を追求した乙女達が憧れるような整った顔立ち。大和と朗はあまりの光景に唖然とし、同時に叫んだのだ。


「「お・・・・女ぁぁ?!?!?!?!」」


それでは要は何をしているのだろうか?要を見るとユミルの手を取り、真剣に顔を見ている。あまりの速さにユミルは驚き、反応することができなかった。


「俺と結婚してく・・あぶしっ」


スパコーーーンと大きな音が響き机に顔を打つ要。


「いきなり求愛行動してんじゃねぇアホが!」


要のボケ(しつこいようだが自覚無し)には神懸り的な反応速度を見せる大和の突っ込み。

舌を噛んだのか地面をのた打ち回る。


「ほひっ、はひふんらよ!ははほ!」


「ちゃんとした日本語喋れバカナメ!!!」


最早人語を話すことすら出来ぬ要。先程の戦闘を見ていたユミルは要の強さを分かっていたつもりであったが、2人のやり取りを見ていると一抹の不安が過ぎる。

舌の痛みが和らいできたのか、人語を話せるようになった要が要理論を語りだす。


「馬鹿かお前!銀髪、つり目、しかもどう考えてもツンデレタイプだぞ!ここで萌えなきゃいつ萌える!」


「てめぇは萌える前に燃えて死ね!」


「萌えて死ねるなら本望だ!」


「字がちげぇボケェェェェェェ!!!」


ユミルを他所にヒートアップする2人。

銀髪、つり目は理解できるがツンデレ、萌えといった謎の言語が飛び交い中々口を挟むことができないユミル。そんなユミルを見かねて朗が仲裁に入る。


「はいはい、2人共、そこまでにしなよ。ユミルさんが困ってるだろ」









「ゴホン、さてとお前らに詳しい話をする約束だったな。」


先程までのやり取りが後を引いているのか、何とも言い難い雰囲気である。


「詳しい話をする前に、今この街の状況を説明する必要がある」


急に真面目な面持になるユミル。そんなユミルを見て3人は真剣に話を聞くことにした。


「この街は主にハンバルとの交易で経済が成り立っている。だから商人連中が山ほどいてな、表通りは見たか?かなりの賑わいだっただろ?」


ここに来る前は表通りを歩いていたため、頷く3人。


「ほとんどの奴らは真面目に商売してるさ。だがな、中にはヤバイ物を扱ってる連中もいやがる」


相手への嫌悪感が強いせいか、目がきつくなるユミル。


「そいつらは交易禁止品の物を扱っててな、パラムっつーんだが、知ってるか?」


異世界の物の名前など知る由もないため首を横に振る。


「パラムっつーのはな、精神興奮剤の一種だ。服用すれば一気に快楽の絶頂が味わえるっつー物なんだ。だが、当然副作用もあって、幻覚が見えたり、幻聴が聞こえたりするみたいでな」


「ふむ、覚せい剤みたいな物ですか」


カクセイザイ?と聞きなれない単語が気になり聞き返したのだが「いえ、こちらの話ですよ」と言い続きを促した。


「1年ぐらい前からかな、この街にパラムが出回りやがった。パラムは禁止品だからな、手を出す連中は多くはなかった。だが奴らはある方法でパラムをばら撒きやがった」


「初めは何も知らん連中にアレコレ言って使わせる。一度使ったが最後さ、快楽に負けた連中はまたパラムを欲しがる。パラムはたけぇからな、金のない連中はパラム欲しさに犯罪を犯す。使った物がパラムだと気付いたときにはもう引き返せねぇ所まで行っちまってるのさ」


まさに現実世界の某国の手法と同じ方法を取っているな、と感心半分嫌悪感半分といった朗。


「パラムに手を出した連中の中には俺達の仲間もいた。だけど・・・あいつは自分から進んでパラムに手を出すような奴じゃなかったよ」


その男のことを思い出しているのか、目を瞑っている。


「結局そいつは俺達の前から姿を消した。俺達は落とし前をつけるためにパラムを出回しやがった連中を探し、襲撃を掛けた。だが、そいつらはパラムを売り捌いてるだけで、パラムを自分達で街に運んできてる訳じゃなかった。俺達は黒幕の存在を確信して探し続けた。そしてようやく、黒幕を探し当てた」


ユミルの目に力が篭る。相手が憎いのか吐き捨てるようにその名前を呼び上げた。


「そいつの名前はローガ=オーキス。この街を管理しているナンバー3に位置する男だ」


事態の深刻性を感じ取ったのか、朗は静かに口を開く。


「なるほど、街の管理者が手を加えているとなれば、一筋縄ではいかないですね。ですが、そこまでして探し当てたということは、証拠があるんですよね?ここはライオネル王国の領内、王都まで証拠を持って行けば解決するんじゃないですか?」


朗の正論に首を振る。


「証拠は・・・ないんだ。ローガは自分に辿り着くための証拠は一切残していなかった。襲撃した連中も誰がパラムを街に運んでるかは知らなかったようだしな」


「だったら何故?」


「ジェシスがいたんだ・・・。夜遅く、ローガの屋敷に入っていくジェシスを見た」


ジェシス?と聞かない名前が出たので誰であるのか尋ねた。


「あぁ、ジェシスはさっき話した俺達の前から姿を消した男だ。俺達が最後にジェシスを見たときは、パラムを執拗に欲しがっていた。そんなジェシスが数ヶ月経って何故ローガの屋敷に入っていったのだろうか、と考えれば答えは一つしかなかった」


「ローガという男がパラムの黒幕、という訳ですか」


「その通りだ、俺達はその後慎重に調べてきたが、やはり証拠は見つからなかった。だが、その間もパラムは街にばら撒かれている。これ以上パラムを広げる訳にはいかんからな、俺達は襲撃を掛けて、証拠を見つけ出そうと考えている」


「それが今日、という訳ですね」


概ね話を理解した朗は間違いなく理解していないだろう2人に確認するため、ユミルに席を外してもらった。


「大和、要、話は分かったよ、それでどうするか・・・って」


「どうした?」


大和が言葉を途中で詰まらせた朗を見て不思議そうに尋ねる。


「この男はほんとに・・・」


冷静沈着な朗に怒りのオーラが纏っている。要を見ると真面目な顔をしたまま微動だにしていない。要が真面目な顔をするなど珍しいため、大和が心配そうに声を掛けようとしたその時


ぐぅ〜ぐぅ〜


・・・要は目を開けたまま寝ていたのだ。寝息が聞こえた瞬間、心配そうな顔は固まり次第に鬼へと変わっていく。


「大和、アレまだある?」


「おう、あるぜ」


2人は要を挟むように立ち、右手を後ろに引く。


「この・・・・」


「「バカナメがぁーーー!!!」」


ダブルハリセンアタックが要の顔と後頭部を捉え、要は椅子から滑り落ちた。










「い・・・いたいっす・・・」


いつもより強力だったのか、顔が真っ赤に腫れている要。そんな要を心配する様子もなく、むしろ咎めている大和と朗。


「いくらオツムの中身が足りないからって、人が真剣に話してる最中に寝ることはないんじゃない?」


普段怒らない人がキレたら怖いと言うが、まさにその通りであろう。顔は笑っているが目が笑っていない。淡々と語る朗の姿と見て、大和は「般若だ」と心の中で呟いていた。


「わ、わりぃ、訳分からんくて気付いたら寝ちまってた」


「・・・まぁ、要に理解しろなんて酷な話だしね。僕が要にも分かるように説明するから、どうするか決めようか」


要の馬鹿、阿呆、間抜けと遠回しに言っているのだが、怒る様子は一切ない。何せ本人は貶されていることに気付いてないからだ。・・・馬鹿っていいね。


「いや、どうせ手伝うことになるんだろ?だったら説明なんていらねぇよ」


「何故手伝うと?」


「ふっ。銀髪美人の頼み事だぞ、ここで断ったら男が廃る。むしろ手伝うのは決定だ、いや手伝わせて下さい!俺にフラグを立てさせて!」


プライドの欠片も無いのか土下座をする要。突っ込みを入れたい大和であったが、隣にいる朗の怒りのオーラに怖くて何も出来なかったのは本人しか知らぬ事実である。


「・・・どうせ手伝うのは要なんだし、本人にやる気があるならいっか。要が嫌だって言ってたら断るしかなかった訳だしね」


「お!まじで!?さすが朗、話が分かる〜♪」


顔を上げ、嬉しそうな顔をする要。自分の希望が通ったことによる喜びか、襲撃後の出来事の妄想かは定かではないが。


「あ、そうそう、大和にも行ってもらうから、頑張ってね」


予想だにしていなかったスルーパス。大和は驚き声をあげる。


「ちょ、俺も行くって?死んじまうっつーの!」


大和は朗ほど最弱ではないが決して戦闘能力は高くない。現代人の平均的な力しか持ち合わせていないのだ。そんな自分が襲撃に参加するなど、死地に飛び込むことと同義である。納得のいかない大和はアレコレ騒いでいる。

しかし、朗は静かに大和に呟いた。


「もし・・・要が「キレたら」止めれるのは今は大和しかいないんだよ?」


その言葉に途端に静かになる。朗の言いたい事が分かるために、一人はしゃいでいる要を見る。


「大和の言いたい事も分かるよ、でも手遅れになってからじゃ駄目なんだ」


重苦しい雰囲気が2人の間に漂う。そんな2人の様子がおかしいと感じたのか要が近寄り、元気な声をだす。


「どうしたお前ら?もっと明るくワッショイしようぜ!」


まったく空気が読めない要はいつも通りの調子であった。そんな要を見て大和は一人頷いた。


「ったく、わかったよ、俺も行くさ」


「あん?行くってどこに?」


先程の会話を聞いていない要は何のことか分からず、不思議そうな顔をする。


「大和も手伝うってことだよ。要、大和を頼んだよ?」


「お?大和もするのか!よっしゃぁ!なんか燃えてきたぜ!」


一人闘志を燃やす要。


「そういやさ」


疑問に思っていたことがあるのだろう要が2人に尋ねる。


「手伝うって何すんの?」


爆弾発言が飛び交った。





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