表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/32

第6話:長い夜の始まり

「今日はこの街で宿泊することになる。出発は朝早くになるから早めに休んでおくようにな」


アークは3人にそう告げると警護のためフィアの滞在している要人宿泊施設へと行ってしまった。


姫様ご一行が街に辿り着いた時はもう夕刻。街の名は北部国境都市「ボサノバ」。国境都市と言っても、国境を越え、半日掛けて着くような位置にあるのだが。

名前の通り、ライオネル領の北側に位置し、主にハンバル大国との貿易が盛んな都市である。異世界に来て初めて街を見ることが出来た3人は驚きと興奮で胸一杯だった。

襲撃やモンスターを懸念しての作りなのだろう、外は高さ10メートル程の塀で囲まれており、出入り口には門番が立っていた。姫様ご一行ということで、審査も検査も特になく、すんなり中に入れたのだが、普段は荷物の検査やら、訪問理由など色々と面倒があるのだ。

街に入ってすぐに色々と見て回りたかったのだが、自分達は道中一緒に連れてもらっている立場なので好き勝手は出来ないと、大人しくしていたのだ。しかし、アークの話を聞く限り、出発は明日の朝というだけで、その間については何も言われていない。つまりは・・・


「なぁ、街の中見て回らねぇ?」


興奮が抑えられないのかニヤニヤ笑いながら提案してくる要。


「だよなぁ?アークさんにも出歩くな、なんて言われてねぇし」


大和も楽しみなのか頬が緩んでいる。


「まぁ僕達は王都に着くまでは文無しな訳だから、情報収集なんて出来ないだろうし」


やるべき事はあるのだが、今はそれも出来ないと朗からの冷静な分析。


「それじゃあ・・・・」


「「「探検だーーーーー!!!」」」


3人の楽しそうな声が部屋に響き渡った。



グゥ〜


謎の音まで響き渡る。


「そういやさ・・・俺朝飯すら食ってねぇんだった」


謎の音は要の腹の虫。腕時計を見ると時刻は6時。宿で一旦腹ごしらえをしてから出掛ける3人であった。





食事が終わった頃には、日が完全に落ちていた。


「日も落ちてるのに活気がある街だね〜」


異世界の生活事情は分からないが、夜まで活気があるということは、この街は経済的に活気に溢れているんだな、と予想する。


「つーか意外と明るいんだな」


街は全体的に明るさが残っている。人々の母屋から漏れる明かり。夜遅くまで店を開けている店内の光り。露天売りの隣にある松明。現代社会のように街灯は存在しないのだが、原始的な明かりが多数あるため、明るく感じてしまうのだ。


「しっかし、気分は異世界っつーよりロープレの世界にいる感じだな」


あちこち歩き回った感想を大和が話す。2人も同じことを思ったのか頷いた。

彼らは当てもなく散策しながら、店などを見て回ったのだが、武器屋、防具屋、道具屋など一般的なRPGの世界観がこの街にはあった。


どれほど歩いただろうか、彼らは奥へ奥へと進み、次第に明かりが薄くなっていく道に入っていった。先程の道とは変わって人気が無くなり、心成しか辺りがボロボロに見えてしまう。


「ねぇ要、なんかここヤバそうな気がするんだけど・・・」


「ん?気のせいだろ?たしかに急に人がいなくなったなぁって思ったけど」


危な気な雰囲気を感じ取っている朗に比べて、かなり平然としている要。

その時3人を集団が囲みだした。


「へっへっへ、兄ちゃん達、ちょっといいか?」


お約束なチンピラ集団の登場である。


「ん?面倒だから却下。んじゃな」


あまりにストレートな返答に唖然とする集団。その集団を割って前に進もうとする要。しかし彼らもチンピラ、ここで逃がしてはチンピラの名折れだ。一人の男が要を止めようと声を荒げ手を伸ばす。


「なめんじぇねぇガキがっ!命がおしけ・・がふぉっ」


謎の声と共に吹き飛ぶチンピラ。要の裏拳が炸裂したのだ。


「なっ、てめぇ!やっちまえ!」


その叫び声と共にチンピラ共が一斉に襲い掛かってきた。


バキッ ドゴッ グキッ スパコーーーーーン


時間にして凡そ10秒であろうか、チンピラ達は瞬く間に全滅したのだ。

最後の謎の音なのだが・・・


「バカナメ!勝手に暴れたら俺らが危ねぇだろうが!」


チンピラを全滅させた直後に大和のハリセンが要の後頭部を捉えた音だった。


「いてぇじゃねぇか!文句言うならこのチンピラ共に言えよ!」


「文句言う前にてめぇが全滅させたんだろがボケェ!!!」


これがつい先程までチンピラに囲まれていた人のやり取りだろうか。いつも通り朗が仲裁に入ろうとしたその時


パチパチパチ


手を叩く音が聞こえ、要は瞬間的に音の発生源に目を向けた。


「お前強いじゃねぇか、気に入ったぜ、ちょっと俺に手を貸さねぇか?」


少し甲高いがハスキーな声。暗がりにいたため姿までは確認できなかったが、声の主はゆっくりと3人の方向へと歩み寄ってきた。明かりが灯る場所へと着いたとき姿がはっきりと見えたのだが、その時3人の心は同じことを思っていた。


(((あ・・・あやしすぎる・・・)))


声の主の格好は、一言でいうなら忍者である。何故この世界に忍者が?と3人は心の中で思うが声には出さない。要あたりならハシャギそうなのだが後に聞いたところ「忍者だったら日本にもいるじゃん」とのこと。・・・現代に忍者はいるのか?


忍者は一定距離になると立ち止まり、もう一度同じ事を言った。


「どうだ?俺に手を貸さねぇか?」


2度目の言葉に要が反応した。


「あん?いきなり襲ってきた相手に手を貸せって言われて貸す馬鹿がいると思ってんのか?」


いるんです、いるんですよその馬鹿が。と言いた気な目で要を見る大和。


「あぁ、この馬鹿共がお前達を襲ったことは謝る。こいつらもピリピリしてたんだ、ちょっと気が高ぶって馬鹿な真似をしたんだろう」


さらに要が反論しようとした時、朗が手で制して話始める。


「と、言われても、僕達だって、はいそうですか、なんて言えないですよ。どんな事情であれ僕らに襲い掛かってきたのは事実なんですから。そんな人達に手を貸すだなんて、悪事に手を染める気は一切ありませんので」


きっぱりと否定の意を込めて忍者に返す。


「悪事・・・か、もし俺が、お前達に手を貸して欲しいことは悪事じゃねぇ、っていったらどうする?」


マスクで顔が隠れているため表情は一切読み取れないが、試すような口調で意外な事を言ってくる。


「悪事じゃない?一体何を手伝えと言うんですか?」


少し疑問に感じたのだろう、話を続ける朗。


「お前らが俺を手伝うってんなら、もちろん話させてもらうぜ。手伝う気もない相手に話す内容じゃねぇしな」


それは本心であろう、真剣な口調で話し始める。


「もし僕らが手伝う、と言えばこの場で説明してもらえますか?」


手伝うのかよ!?という表情で朗を見る2人。しかし朗と忍者はそんな2人をお構いなしに話を進める。


「いや、それはできねぇな、鼠がどこにいるかわかったもんじゃねぇしな」


「そうですか・・・」


その言葉を最後に2人の会話は終わり、朗は考えるような仕草をした。しばしの沈黙、やがて朗が忍者に向かって答えた。


「わかりました、手伝いましょう」


横からは「なっ!」や「おい!」と言った声が聞こえるが朗は気にせず、さらに言葉を繋げる。


「ただし、あなたは悪事ではない、と言った。もし僕らが悪事と判断した場合はもちろん断らせてもらいますよ」


表情の見えない忍者であったがこの時ばかりはニヤリと笑ったように見えた。


「分かったぜ、それじゃあ移動しようか。こっちに来な」と言い、顎でこれから向かう方向を指した。


もちろん大和と要は納得していない。いくら冷静な判断のできる朗だからといっても容認できないことだってある。そんな2人に朗は引き受けた理由を説明した。


「僕が引き受けたのはちゃんとした理由があるよ。一つ、あの人は悪事ではないと言った、そして最後に鼠って単語を使ったよね?鼠ってのは今回手伝うにあたって障害になる相手のことだと思う。ついでに言えば鼠ってのは隠れて動向を探るスパイみたいなものだね。さて問題、彼らが悪事を働く集団だとすれば、彼らを捕らえる人は誰?」


馬鹿な要にはさっぱりな内容で、大和が一人考える。


「妥当な所で言えば、衛兵ってところか」


「そう、彼らを捕まえるのは衛兵だよね、じゃあさ、衛兵が鼠みたいな行動をするかな?彼らを捕まえたいのであれば正面から堂々と集団で捕まえればいい話。いちいち隠れる必要なんてないのさ。だったら鼠ってどんな人がするのかな?」


答えが見えてきたのだろう大和は核心に迫る。


「あいつらを快く思わない連中、又は秘密裏に処理したいと思ってる連中」


「大和も頭良くなってきたね。じゃあその人達は良い人?悪い人?」


明らかにお前は馬鹿だと言われているようなもの、だが否定はできないので悔しいが話しを続けた。


「んなもん悪い連中に決まってるな。相変わらず天才少年だことで」


馬鹿にされたので皮肉たっぷりで言葉を返す。


「褒めても何もでないよ。それにね、理由は他にもあるんだ」


朗に皮肉は一切効かないのだろう。平然と話し続けた。


「今日見に行った武器屋さんでさ、気になる話を聞いてたんだ」


「ん?何かあったっけ?」


記憶にない大和は不思議そうに尋ねる。


「店を潰す悪徳業者とその悪徳業者を退治する義賊の話」


指を立てて左右に振りながらニヤっと笑う朗。


「まさか・・・!」


「そのまさかだよ、彼らがその義賊なんだろうね」


「なんでそんなことが分かるんだ?」


当然の疑問をぶつける。


「理由としてはさっき話した通りなんだけど、もう一つ、その義賊の服装ってのがね・・・「見たこともない怪しい格好」らしいんだ」


2人は即座に忍者の方を向き、数秒見た後、再び朗へと顔を向けた。


「まぁたしかに・・・」


「アレはなぁ・・・」


2人とも同じ事を思っているのだろう、次の言葉が重なる。


「「怪しすぎる格好だな」」


2人共納得したのか先程まであった険悪ムードは一切無くなっていた。


中々動こうとしない3人に痺れを切らしたのか忍者が声を掛ける。


「おい、お前ら、早く来いよ」


その声に反応し、3人は忍者の後を付いて行った。













一方その頃


フィアの部屋で向かい合わせに座る一人の男性がいた。男の名はノシュタイン=カルケード。国境都市ボサノバを取りまとめる管理役である。


「王女様、此度の政務お疲れ様でした。して、如何でしたかな?」


フィアは俯いたまま首を横に振った。


「やはり状況は思わしくないようですわ。バルト陛下も警戒を強めているようですが、有力な情報は何一つ得られていないそうですわ」


「そうですか・・・」


重苦しい雰囲気が辺りを包む。

その空気を打開するかのようにアーサーがノシュタインに尋ねる。


「カルケード殿、この街の状況は如何かな?」


「特段、変わったことはありませんよ」


そういえば、と思い出したように呟く。


「ここ数ヶ月、貴族や商家が何者かに襲われている、といった事が起きているようですな」


「どういうことですか?」


貴族や商家が襲われるなど滅多に起こることでもないのでフィアが詳細を求める。


「街に潜む集団の犯行のようです。金銭目当てなのか恨みなのかは定かではありませんが、実際に被害が出ている訳ですからな。しかし・・・」

と先を言いづらいのか、目を瞑り顔を伏せ、口篭る。やがて意を決したように顔を上げ、言葉を繋げた。


「その襲われたという貴族や商家なのですが、あまり良い噂を聞かない者達でしてね」


「どのような噂が流れているのかね?」


人の噂も侮れない情報源となるため、しかも良くない噂とあれば裏に何かあるかもしれない、と考えたアーサーは噂の内容を確認したのだ。


「そうですな・・・交易禁止指定品を扱っている、盗品を扱っている、酷い噂になると人買いまでやっている、などですな」


自国内でそのような違法行為が成されているなど、考えたこともなかったフィアは驚きのあまり口を手で押さえた。


「もちろん噂とは言え、黙っている訳にもいきませんからな。調査団を派遣して真相の解明にあたった訳ですが、結果は無実。違法行為に関わりがありそうなことは何一つございませんでした」


ノシュタイン自身も疑問に思うことがあるのか更に言葉を続ける。


「中には急成長を遂げた商家などもありましてな。私としても些か不信を感じていた訳なのですが、調査結果に何も無しと出てしまうと、最早疑いようもありませんからな」


納得は出来ないのだが、疑う材料がなければ納得するしかないのであろう。アーサーも考えがまとまったのかノシュタインに指示を出した。


「調査は引き続き頼めるかね?今は領内も不穏な影が漂っておる。用心するに越したことはないだろう」


「えぇ、わかりましたシュリンゲル卿。しかし一度調査した者を再び、となると反発が予想されますからな、大掛かりな調査はできませんが、注意して見ておくことにしましょう」


「それだけでも十分だよ。陛下が病に臥している今、我々が王女様達と共に国を守らねばならぬ。頼りにしているぞ、カルケード殿」


フィアも2人の会話を聞きながら落ち着きを取り戻したのかカルケードに自らの意志を告げる。


「宜しくお願い致しますわ、カルケード殿。私もお父様の代わりに国を、民を守るため尽くしてまいりますわ」


その姿はまさに国を背負う者の風貌。すべては国のため、民のため。心優しき聖女は更なる誓いを立てるのであった。


こうして3人の密かな会談は終わりを告げた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ