第4話:魔道国家
ライオネル王国。それはアルメリア大陸南東部に位置する国家。
西側には鉱石が豊富に取れる山々があり、東側は海に面していて漁業を盛んに営んでいる国家である。
産業としては主に採掘や漁業を中心としているのだが、ライオネル王国には別名が存在する。
魔道国家ライオネル
魔術は太古の昔から存在していた。しかし、その強大な威力、一度呪文を唱えれば軍隊は散り、山々は抉れ、緑豊かな大地は荒野へと変わっていった。あまりの危険性に世界の崩壊を危惧した太古の人々は魔術を禁術として位置づけ、魔術に関する文献はすべて消去し、後継者は一切取らず、表舞台から魔術は消え去っていったのだ。最早過去に魔術が存在していた証といえば、古代遺跡に描かれている、魔術を行使していると思われる壁画と、人々が持つ「法力」なのだ。
法力とは「誰もが持つちょっと便利な力」というのが一般的な考えだ。法力は人それぞれ違いがあり、例えば、紙に書いてある文字を記憶し、他の紙に写し出したり。現在の位置から北はどちらになるのか分かる、など現代科学であれば十分に対応できる、いやこの世界の科学力でも対応できる程度の力なのだ。
鉱山から取れる鉱石の中には「法石」という特殊な石が存在する。その法石を用いて数々の道具が作られるのだ。紙に書いてある文字を他の紙に写し出す、複写石(コピー機)。北の方角を示す、方位石(羅針盤)。
法力は誰しも持っていると言われているが実際に法力を覚醒する人は多くない。法力の覚醒方法は確立していないからだ。しかし、人々はそれで良いと思っている。法石から作られる「法具」があるため自ら持つ法力の必要性が薄れているためだ。
しかし、魔術の復活を願う人々は違っていた。魔術とはこの法力をさらに昇華させた術式である、と考えられてきた。だが、魔術が表舞台から消え去り、数多の法力士達が魔術の復活を懇願し研究を重ねてきたのにも関わらず、その方程式は解明されなかったのだ。
しかし、そこに一人の天才が現れた。
現ライオネル王国国王のアルディス=シュペルノーヴァ=ジェネス=クレメンテス=ライオネル。
彼は前王の第三王子としてこの世に生を受けた。彼は幼少の頃から魔術に憧れ、王国書物庫にて魔術に関する研究書を毎日読み漁っていた。第一王子、第二王子共に「賢の君」と呼ばれ、若いながら王国に数々貢献してきたのだ。跡継ぎは第一、第二王子のいずれかになるだろうと考えていた前王は、それならばと第三王子であるアルディスには好きなようにさせていたのだ。
彼が本格的に魔術の研究を始めたのはわずか10歳の頃であった。その姿はまさに彼の兄達と同じ「賢の君」と呼ぶに相応しかったであろう。
22歳の頃、ついに彼は独自の理論により、魔術の基盤となる術式の構築に成功したのだ。これからの未来を想像し、彼はより一層研究に励んでいた。
しかし、それも長くは続かなかった。
当時は隣国との紛争も絶えず起こり、常に戦火が飛び散っていた。そんな中での2人の兄の訃報。
第一王子は病に倒れ、第二王子は戦火の中で散っていった。前王は愛する息子を2人も亡くし、精神的に病んでしまい、病を発病し、帰らぬ人となった。
残されたのは第三王子のアルディスのみ。彼には魔術の研究があったのだが、王国の一大事に魔術の研究を諦め、国の安定化に努めたのだ。当時若干25歳、若き国王の誕生した時であった。
彼の初仕事は隣国との戦争だった。賢王なき今、ライオネル王国を我が物にせんと大軍を送ってきたのだ。その数およそ5万。対してライオネル軍は1万にも満たなかった。
誰しもライオネル軍の敗北を認めただろう。圧倒的に数が違うのだ、成す術もなく、国を明け渡すべきと打診する大臣達。しかしアルディスはそれを押し退け、僅か5千の兵で5万の大軍に向かったのだ。5千の兵はライオネル王国に忠誠を誓った貴族達。皆、ライオネル王国と共に滅ぶために戦地に赴いたのだ。
だが、アルディスは違った。幼少の時代、書物を読み漁った中にあった一文を思い出していた。
「本来の魔術の威力は一度呪文を唱えれば、万の軍勢も一瞬にして消し去ってしまう」
彼は自分の研究してきた魔術を信じていた。
ついに対峙する2つの軍勢。5万に対して5千の軍勢。勝敗は最早目に見えていた。相手は投降を促してきたが、その提案を振り払い、開戦の合図がなったのだ。
アルディスは兵にその場から動かぬよう指示をした。そして魔術の術式を練り始めたのだ。
アルディスの周りに術式が浮かび上がる。一つ、また一つ。途端、辺りが騒がしくなる。三つ、四つ。一体いくつの術式が浮かび上がるのだろう、兵士達はただ眺めているだけだった。五つ・・・・六つ!最後の術式が完成したのかアルディスは目を開ける。すると術式はアルディスを円状に囲んでいた。アルディスが一つの術式を見た。するとその術式が赤く光り始めたのだ。アルディスは大きく、力強く叫ぶ。
「王の煉獄!!!!」
その叫び声と共に赤く光っていた術式がさらに強く光りだし、5万の軍勢に向かって煉獄の炎を噴出した。
あまりの神秘的な光景にライオネル軍はただ見惚れているだけだった。
煉獄の炎が敵軍を飲み込み、炎が消えた後に残ったのは、ただの荒野だけであった。
こうしてライオネル王国と紛争が絶えなかった隣国は実質崩壊し、平和を手に入れたのだ。
これが、ライオネル王国が魔道国家と言われる由縁である。
魔術についての詳しい説明は別の話にて語らせて頂きます。
少し先の話になると思いますがご容赦下さい。
今回はライオネルの魔道国家の由来だけということで。