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第30話:ステージクリア

「それじゃあ、作戦は説明したから大丈夫だよね?」


 朗の問いかけに頷く二人。人命の掛かった作戦に緊張しているのか少し表情が硬い。

 二人の緊張を解すように、昔のある出来事を口にする。

 ―あの時だって大丈夫だったんだ。僕達なら出来るよ―

 朗の言葉に二人の表情は生き返る。朗の想いが伝わったのか互いに顔を見合わせ、自然と笑顔になる。

 時は深夜、ファリアを救助するための作戦を実行する。






「あ〜かったりぃなぁ。警備を強化する必要なんてあるんかね」

 

 ドラグーン家衛兵の青年は門の前でもう一人の衛兵に話しかける。

 本日の舞踏会で起こった事件が発端で警備の強化を言い渡され、非番であった彼は強制的に召致されたのだ。

 折角の休みを台無しにされ、幾分不機嫌な口調になるも逆らえば後が怖いので大人しく応じたのだ。

 隣の衛兵も自分と同じく突如召致されたので気持ちを分かってくれると思い言葉を掛けたが彼は全くの無反応でずっと前を見ている。

 せめて反応ぐらいは示して欲しいのが人の性。むっとしながら再度声を掛けようとした矢先、前から人影がこちらに向かってきた。


「あん?ありゃ人だよな?」


 確認のため声を掛けるがまた無反応。

 こいつは石像か?と思いながらもこの時間に来訪する客など普通ではありえないため、目を凝らしながら前の人影を逃さぬようにする。

 次第に人影もはっきりとし、黒髪が印象に残る男が足早に向かってくる。

 青年は槍を構えながら男に向かって警告を発す。

 だが黒髪の男は止まる気配もなく、距離が縮まってくる。

 あぁ、なんで俺ってツイてないんだろ。

 不幸に巻き込まれる体質の青年は己の人生を恨みながら不審人物との対面を果たした。


「この先はドラグーン様の屋敷だ。早々に立ち去れ」


「・・・やかましいわ三下ぁ!あのクソ女を出しやがれっ!!!」


 要の腹の底からの絶叫が辺りに響き渡った。

 あまりの爆音に何事かと他の衛兵が駆け寄る。

 すると門番の青年が要にアッパーカットを食らい宙を舞う姿が目撃された。

 不幸に巻き込まれる体質の青年・ロジャー=バールの意識はここで絶たれたのだ。


 突然の来訪者に衛兵達は隊列を執り次に備える。

 ギャーギャー騒ぐ要に警戒しながらも、遠くから走っている二人の人影が確認出来た。

 新手か!?と警戒が強まるが、二人が要に駆け寄ると思いがけない行動に出た。


「この・・・ど阿呆がぁーー!!」


 朗による渾身のドロップキックだ。

 グエッと奇妙な声を上げながら前に吹き飛ぶ。

 そして戦闘スキルのない朗も着地に失敗し自爆していた。

 あまりの不可思議な出来事に衛兵達の時は止まり、次の行動に移せない。

 すると先に朗が立ち上がり、衛兵達に向かって謝罪の言葉を述べる。

 だが攻撃を受けた衛兵達はもちろん納得せず、三人を取り囲み矛先を向けている。

 いつの間にか要も立ち上がっていて、責任者出さんかー!と叫んでいた。

 衛兵達も遭遇した経験のない珍場に少し戸惑っていたが、突如天の声が舞い降りてきた。


「おやおや、このような夜更けにどうしたのですか?」


 ドラグーンの側近であり、衛兵の指揮を執っている男・ジーンが門の奥に立っていた。

 指揮官の登場により、衛兵のリーダー的存在が指示を仰ぐため目で合図を送る。

 するとジーンは彼に向かって手で散れと指示を出した。

 納得のいかない彼であったが、指揮官の指令である以上逆らえずに、取り囲んでいた衛兵達は本来の持ち場へと戻っていった。


「それで、どうしたのですか?」


 先ほどと同じ質問を今度は面と向かって投げ掛ける。

 朗は一度謝罪した後、今回の訪問理由を述べた。

 宿に戻ると自分達が持っていた家宝が無くなっている事に気が付いた。

 肌身離さず持ち歩いているため舞踏会にて紛失した可能性が高いと考え、一度尋ねようと考えたのだが、要がファリアが盗ったに違いないと怒りを爆発させ一人で先走ってしまったのだと。

 そして自分達が駆けつけた頃には既に遅かったのだと説明をした。

 家宝の形状、サイズを説明しジーンに見かけなかったかと尋ねても首を横に振るだけ。

 ならば一度自分達でも探させてもらえませんか?と尋ねるとジーンは深く考える仕草を見せた。


「明日以降では駄目でしょうか?私達も立て込んでいるものでして」


「そちらの事情はもちろん理解しています。ですが―」


 ここで言葉が止まる。

 後ろで要が大和の名を叫んでいるからだ。

 突然の声に後ろへ振り返ると大和が苦しそうに表情が歪んでいる。

 朗は急いで大和に駆け寄り大和の体調を確かめる。

 そしてジーンへと振り返り声を荒げた。


「ジーンさん!医者とどこか横になれる場所を!」


 朗の声に反応したジーンは大和へと駆け寄り、手馴れた動きで大和を探る。

 症状を察したのか険しい顔つきになり早急に医師と部屋の手配をかけた。

 大和は要に担がれ、屋敷に中へと入ったのだ。






「ふむ、変な病気ではなさそうじゃな。だが、油断は禁物じゃわい。安静にするのが一番じゃな」


 医師の言葉に安堵の表情を浮かべる二人。

 ありがとうございますと頭を下げ、医師の退室を見送った。


「ジーンさんもありがとうございました」


「いえ、私も多少医学に心得がありましてね。私でもヤマト様の状態は普通ではないと察せましたから。ご無事でなによりです」


 それではご安静に、と告げジーンも部屋を後にした。

 パタンと戸の閉まる音が消えると部屋の中は静まり返っていた。

 要と朗はゆっくりと大和が横たわっているベッドへと近寄る。

 そして一言、ポツリと漏らす。


「第一段階クリア、だね」


「・・・ったく、アレは洒落にならんぞ。どこがちょっとなんだか・・・」


 大和はベッドから体を起こし、要を睨みつける。

 だが、要は「ファリアちゃん、ごめんね」と天を仰ぎながら苦悶に満ちた表情をしている。

 要が門で見せた態度はファリアに不満も持っていると相手に伝えるための手法であり、自分達の目的はあくまで家宝の奪還だと感じてもらうための演技だった。

 だが演技とは言え、ファリアをクソ女と呼んだのだ。その謝罪を何度も繰り返していた。

 その姿を見て大和は溜息を漏らす。

 この男のおかげで第一段階、つまりは屋敷に中へ入れたのは何故か納得がいかなかった。

 今回の最初の難関はどうやって内部へ潜入するかだった。

 正攻法ではまず不可能に近い。だから、普通ではない方法を試みたのだ。

 それが今回の体調不良を訴える方法。

 屋敷の前で急な異常を見せれば安静に出来る場所を提供するしかない。

 なぜなら彼らは王国の英雄と謳われている存在なのだから。

 自分の置かれている立場を最大限に利用した手法。

 だが、ここでも問題が残る。それはどうやって異常を引き起こすかだ。

 嘘の体調不良など医師や医療班などが確認すればバレてしまう。

 そうなれば不信の色が濃くなり、屋敷に近づく事すら困難になるだろう。

 ここで要の特技(?)の一つである気を使った。

 集氣法と並ぶ気の技、発勁。

 発勁とは相手に気を送ることにより自己治癒能力を促すなどの作用を引き起こす技であるのだが、これには別の使い道があり、反対に相手の体調を乱す作用もある。

 一時的ではあるが効果は絶大、今回大和の名前を叫んだ瞬間、気を送り込んだのだ。

 途端に世界が反転するような錯覚に捉われ、本当に体調不良を起こしたのだ。

 要曰く、ちょっと気分が悪くなる、だったが実際には大分だった。

 しかし、そのため医学に知識のあったジーンや遅れてきた医師の目を欺けたのは僥倖だったのだろう。


「もう大丈夫なの?まだ少し休んでる?」


 大丈夫と告げベッドから降り立ち上がる。

 要を見るといつの間にやらこちらの世界に戻っていて、窓を開け辺りを窺っていた。

 にゃろう、と独り言を呟き、窓を閉める。


「こりゃ駄目だな。警備がうじゃうじゃいやがる」


 両手を広げながら肩を竦める。

 ざっと見ただけでも四、五人は目に入った。しっかりと探せばもっといるのだろう。

 あっちは?と入り口を指差した朗の問いに「二人」と簡単に答えた。

 意外と少ない見張りに裏を考えながらも、行動せねば何一つ変わらぬ状況であるため、第二段階へと進もうとしていた。

 朗が扉を開け、見張りの衛兵に声を掛ける。


「すみません。お水と氷と二つを入れる袋を貰えませんか?」


「ん?ちょっと待ってくれ」


 そう言って中年の衛兵はもう一人の衛兵に目をやる。

 若き衛兵は「はいっ!」と言って足早に行動を開始した。

 暫くするとコンコンと扉がノックされ頼んだ物が届く。

 すると朗は再び必要な物をお願いしたのだ。


「あの、薬を飲ませたいので白湯をいただきたのですが」


 若き衛兵は再び廊下を駆け抜ける破目となったのだ。

 再び控えめなノックとともに白湯を持ってきた若き衛兵がやってきた。

 顔にはちょっとした疲れが見える。

 そしてここで更に追い討ちをかける。


「度々すみません。氷がなくなってしまったのでもう一度貰えませんか?」


 はひぃ〜という声をあげ彼の苦難は続いた。

 コン、ココンと不思議な旋律をしたノックとともに疲労困憊の若き衛兵が戻ってきた。

 ここで中年衛兵を交え最後の一手を打った。


「ジーンさんと取次ぎ願えませんか?」


「指揮官と?何故だ?」


「本来急ぎの用があってここに来たのですが、用件を告げる前にこのような事態になってしまいましてね。早急に手を打ちたい内容ですからお願いできませんか?」


「・・・一応伝えはしておこう。おい、と流石に無理か」


 ぜぇぜぇ息を切らしている若き衛兵を見て哀れに思ったのか自分が行くと言い出した。

 しっかり警護しておけよと言葉を残し、はひぃ〜と情けない声を聞きながら、中年の衛兵はジーンの元へと向かった。

 第二段階クリアかな?と考えながら朗は本当の最後の一手に入った。


「あの、何度もありがとうございました。よかったらお水でも飲みませんか?」


 あ、ありがとうございまふ、と言いながら部屋の中へと入る。

 病人がいるからお静かにと指摘を受け、彼は朗から水の入ったコップを受け取る。

 グイッと一気に飲み、お代わりはどうですか?と尋ねられ是非!と視線で訴えた。

 朗は苦笑しながらコップに水を注ぎ、彼はまた一気に飲み干す。

 ありがとうございました!と小声でお礼を言い、彼は再び見張りに戻った。


「第二段階クリア。後は任せたよ」


 部屋の中には要と大和の姿はなかった。


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