第3話:やっぱり此処は異世界なのね
綺麗に舗装された道を歩く集団がある。
鎧を身に纏った集団が隊列を作り前を歩き、その後ろ、馬に跨る男と綺麗な馬車がある。
最後尾は前と同じように鎧を着た集団が歩いていた。
ここはアルメリア大陸の南東部に位置するライオネル王国と北東部に位置するハンバル大国の国境付近である。
集団の中、唯一馬車に乗っている女性は悲しげな表情で外の景色を眺めていた。
彼女の名前は フィアレスリーン=シュペルノーヴァ=キティ=クレメンテス=ライオネル。
・・・物凄く長い名前であるため、一度で覚えることは中々難しいであろう。
綺麗な金色をした長くストレートな髪。そして誰もが絶世の美女と認めるであろう愛らしい顔立ち。彼女とすれ違えば、老若男女すべての人々が振り返ってしまうほどの美貌だ。
彼女は国境を越えた先にあるライオネル王国の第一王女である。
現在、病気のため床に臥している現国王の代わりに、21歳という若さで政務を受け持ち、隣国であるハンバル大国に会談のため赴いていたのであった。
「姫。もう数刻もすれば国境を越え、我が国へと辿り着くことでしょう」
馬に跨っている男は馬車の中にいるフィアに声を掛ける。
彼の名前は アークレイル=ノイア=シュリンゲル。近衛騎士団の若き団長である。若干22歳という若さで近衛の団長にまで抜擢されることは異例中の異例なのだが、彼の実力、家名、共に優れていたために成しえたことなのだ。
事実、彼に一対一で勝てる騎士などライオネル王国には一人もいないのである。
いや・・・騎士という部分を除けば彼に勝てる可能性がある人物もいるが、それはまた別の話。
「えぇ、ありがとう、アーク。皆さんにもあと少し頑張って欲しいと伝えて貰えますか?」
護衛のために行動を共にしている騎士団に労いの言葉を忘れない、心優しきフィア。
慈愛に満ちたフィアは民からは聖女とまで称され、愛されている。何故聖女と呼ばれているか、理由としては他にもあるのだが、それはいずれ分かることである。
長かった政務の旅も自国の国境に差し掛かることで終わりを告げるためか、緊張が張り詰めていた騎士団の間に油断が生じ始めていた。
ガサガサという音と共に現れた全長4メートル程のモンスター。
馬車を引いていた馬は恐怖のあまりか、突如暴れだし馬車を横転させてしまった。
急にくる浮遊感にフィアは大きな悲鳴を上げてたのだ。
「きゃーーーっ」
突然の出来事に行動することが出来たのはアークのみ。馬車が横転する直前にフィアを馬車から下ろし、自らの後ろへと隠れさせる。
叫び声を聞いたモンスターは獲物を見つけた喜びのためか雄叫びを上げるのであった。
次第に団員が集まってくる。アークは全員が集まったのを見計らって的確な指示を出し始めた。
「剣術隊!槍術隊!前に出ろ!弓隊は後方待機!剣術隊は前面、槍術隊は側面から攻めろ!」
慌しい状況の中で指示通りに迅速に動けるのは、近衛騎士団の日頃の訓練の成せる技であろう。
状況が整ったのか開戦の合図が出た。
「弓隊、撃てっ!」
後方から弓隊の矢がモンスターに向かって放たれる。
しかし、その矢に当たるほど愚かではなく、後ろに飛び退り矢を避ける。
「剣術隊!槍術隊!突撃!」
場は一気に乱戦となる。一対多数という状況だが相手は4メートルもあるモンスター。一筋縄でいく相手でないことは団員全員が承知していた。
だが退く事はできない。一度退こうとすれば一気に襲われ全滅は免れないであろう。
一人、また一人とモンスターに倒され、状況は次第に悪化していく。
アークは苦虫を噛み潰したような表情になり、戦法を変えた。
「私が相手になる!姫は頼んだぞ!」
アークがモンスターの前に立ち、互いに睨み合いながら距離を縮めていく。お互いの間合いに入ったのか緊張感が一気に高まる。
モンスターが襲いかかろうとしたその時
「ちょっとまったぁーーーーー」
場違いな声と鋭い一閃がアークの前を横切った。
アークの前には見たこともない服装をした黒髪の少年が立っていた。
「なっ・・・」
あまりの突然な出来事に冷静沈着なアークですら動きが固まっていた。
「世のため!人のため!悪を滅ぼし、咎人を捕らえる!ピンチの時に助けにくるぜ!正義の使者!かな・・・・」
「長いんじゃボケェーーーーー!!!」
後ろから大和の突っ込みが入る。
緊張感のカケラもありはしない。
折角の見せ場を邪魔されたので文句を言うため大和のいる方へ振り返る。
「大和ーーー!俺の登場シーン邪魔すんじゃねぇーーー!」
なんと場違いなやり取りであろう。
アークは目の前の光景にただ絶句した。
モンスターを前にして背を向けるなど死と同義だからである。
もちろん背を向けた要をモンスターが見逃すはずがない。獰猛な爪を振り上げ、要に向かって一気に振り下ろす。
アークも、遠目に見ていた騎士達も、モンスター自身さえも要の死は決定的であると思っていた。
しかし要に爪が当たると思われた刹那、要が消えたのだ。そう文字通り「消えた」のである。
それでは一体どこに消えたのだろうか?自らの爪に獲物の手応えのなかったモンスターは辺りを見回した。しかし、要の姿は見当たらない。
だが、アークだけは上を見上げていた。
突如、モンスターの上から声が聞こえた。
「ったく、お前もせっかち過ぎるんだよ子猫ちゃん」
なんと要は爪が当たる瞬間に上に飛び上がっていたのだ。頂点に達したのか槍を真下に構え、重力の赴くまま、下へと落下する。人の重さ、槍の重さが相まってかなりの速度で落ちる。
声が聞こえたため、モンスターは上を見上げようとした、が、時既に遅し、要の突き出した槍に頭を貫かれ絶命したのであった。
ドスンと大きな音を立て、倒れたモンスター相手に落胆の言葉を掛けた要。
「ったくデカイ図体してこんなもんかよ、期待して損したじゃん」
あまりの信じられない出来事にフィア、アーク、騎士団員達は言葉を失っていた。
すると後ろから大和の叫び声が聞こえた。
「このバカナメ!もうちょっと考えてから行動しろ!」
「まぁ、なんとかなったんだし、いいじゃんかよ」
「要、前々から馬鹿だとは思ってたけど、ここまでだったなんて・・・」
上から大和、要、朗の順である。
意識を取り戻したアークは後ろへ振り返り、モンスターを倒した少年の仲間と思われる人物を見た。目の前の少年もそうであったが、後ろから来た2人もまだ子供である。
信じられない光景であったが気を取り直してアークが3人に話し掛ける。
「此度は危ないところを助けて頂いて誠に感謝する。私はライオネル王国近衛騎士団団長のアークレイルと申す」と頭を下げる。
ライオネル王国ね、と頭にインプットした朗。
怪しまれないようにするため、丁寧に頭を下げ言葉を返し始めた。
「いえ、僕達もお力添えになれてよかったです。それよりも・・・怪我をされた方も多いと思いますけど、治療はいいんですか?」
ちらっと怪我人のいる方向を見る。
「あぁ、姫様がいるからな、時期に目を覚ますだろう」
と言い残し、怪我人の元へ近寄る。
どういう意味か分からずハテナ顔になる。
怪我人を見ると、姫様と呼ばれた女性が近くにおり、手を握って祈るような格好をしていた。直後、彼女の手が光り、呼吸が荒かった怪我人の顔色が良くなり落ち着き始めた。
怪我人の目が覚めるとまた次へ、と繰り返し、程なくして全員が起きたのだ。
あまりの光景に唖然とした2人。何故2人なのかと言うと・・・要だけは「アレ魔法だ魔法!」と一人騒いでいたからだ。
怪我人の安否が確認でき再度大和達の所に戻ってきたアーク。
「助けてもらってなんだが、君達はこの辺の人間ではないな?その服装は一度も見たことがないからな。何故このような場所にいるのか聞かせてもらえないか?」
やべぇ!という顔をした大和と要。しかし、朗だけは表情を変えずにしれっと答えた。
「僕達は世界中を旅しながら回っているんです。この服は僕達の住んでいた村の民族衣装でしてね。ここにいる理由なんですが、本来なら地図もあったんですけど、道中落としてしまいまして・・・この森の中を彷徨っていたら悲鳴が聞こえたものでして、急いで駆けつけた、という訳なんです」
なんと素晴らしい嘘なのだろうか。アークも完全に信用した訳ではないが一応は納得したようだ。
「そうだったのか。それは大変だったな」
「えぇ、それでお願いがあるのですが、僕達は地図もないため、行き先に困っているんです。もしよろしければ近くの街まで道中ご一緒させては頂けませんか?」
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さすが朗。次から次へとよく口が回るもんだ。
ってあれ?またコレ?
え?同じネタは2度も使うな?それは俺に言われてもどうしようもないんだよな。
さて、今度は朗について教えとこうか。
何?俺についてはどうなのかって?だってよ、自分のこと話すのって何か恥ずかしくね?だから俺のことは置いといてだな、朗ってかなり頭が良いんだよな。
「サード・アイ」って呼ばれることもあってだな・・・え?コレも知ってるの?なんか、俺って必要なし?え?もっと詳しく?OK任せとけ。
サード・アイって呼ばれる由縁な、朗の自慢のデータベース、ようは記憶力だな、による物事の予測。
朗の話によると、どんなことも計算をすればパターンが見えてくるんだとさ。
俺には難しすぎてよく分からんが、自分が予想した未来にするためにはどう動けばいいか、ってことらしい。
今も色々と話し込んでるみたいだけど、朗に任せとけば悪い結果には間違いなくならないし、俺達がアレコレいっても返って邪魔みたいだしな。
え?俺って必要ないんじゃないかって?ふっ・・・そんなこと言われなくても分かってるさ!ああ、そうですよ、俺はいらない子なんですよ!文句あります!?俺だってさ・・・・・
※注 大和が落ち着くまでお待ち下さい。※
はぁはぁ・・・、すまんかった・・・熱くなりすぎた・・・。
ま、まぁ、それでだな、朗は"全てを見通す"んじゃなくて"全てを予測する"って訳なんだな。
実際朗に助けられたことは何度も・・・・・・って、おい!またか!だからまだ話はおわ・・・・・・・・・・・
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「大和」
呼ばれてはっと気付き前を見る。
「話は終わったよ、なんかお礼もしたいから王都まで連れてってくれるってさ。あれ?どうしたの?」
何ともいえない表情をしている大和を見て首を傾げる。
「いや・・・何かもうどうでもいいや・・・」
結局、悟ってしまう大和であった。