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第28話:それぞれの決意

「ファリアちゃんが捕まったってどういうことだよ!」


 要は声を荒げ、大和も胸元を掴み乱暴に問いただす。

 大和は俯くだけで口を開かず、その姿が余計に要を苛立たせ更に力強く胸元を握り締めた。

 そんな要を見かねた朗は、落ち着いてと要の肩に手を置き、大和に視線を向ける。


「何かあったのは分かるよ。説明、してくれるよね?」


 優しく諭すように問いかける。俯いていただけの大和は朗の声に顔を上げ、事の顛末をゆっくりと話し始めた。

 大和もまだ落ち着きを取り戻していないため、断片的な会話になっているが概ね概要を理解した朗は不可解な部分を感じ取り、裏があると確信していた。

 詳しい事情を聞くために衛兵に声を掛けると横から別の男が現れ、朗と衛兵の前に立ちふさがった。


「詳しい事情は私から説明しましょう」


 その男はファリアの屋敷に侵入した男であり、捕らえた男。

 その二つの真実を知らない朗は、お願いしますと頼み、彼の口から事件の真相を聞くことにした。


「咎人ファリア=ロシャーヌはドラグーン家の秘宝である竜騎の魂塊を窃盗すべく計画を企て、実行に移した罪が科せられています」


 その物自体は聞いたことはないが、彼の物言いから推測すれば現在ファリアの状況はかなり危険な状況と判断できる。

 咎人とは犯罪を起こした者の中で最も重い刑に科せられた者の名称。

 通常犯罪を犯した者は、罪人と呼ばれるのだが、重大事件や要人暗殺など世界に与える影響が大きいと判断される罪を犯した者は咎人と呼ばれるようになる。

 竜騎の魂塊といわれる物がどれ程の重要品なのか分からなかったが、咎人と呼ばれた以上、良い結果になるとは思えなかった。

 良くて流刑、悪ければ死刑。何か手立てはないかと会話の中で解決の糸口を探ろうと確認事項をしていくことにした。


「話しは分かりました。ですが大和の話しでは何かを探る様子は一切無かったようですが、休息のために借りた部屋を間違えたということはないんですか?」


「それはありませんね。ロシャーヌは屋敷に何度も訪れていますから、お貸しした部屋の位置も把握しています。それにあの部屋が我が主の部屋であることは扉の作りを見れば一目瞭然ですから。何度も足を運ぶ内に思ったのでしょう。主の部屋に竜騎の魂塊があると」


「だからそんな物探して無かったって言ってるだろ!俺の調子が悪かったから、ずっと俺の傍に居たんだ!」


 ファリアを咎人と決め付ける彼の態度に苛立ち、大和は何度も同じ説明をする。

 だが、彼の態度は変わらず、哀れみの目で大和を見つめ淡々と語りかける。


「フシミ様、貴方のお心の痛みはお察しします。貴方とロシャーヌの関係が如何なものかは存じませんが、お三方はロシャーヌに利用されていただけなのですよ。

大切なお客様であるお三方を利用し誰もいない屋敷へと赴き、秘宝を奪う。実に単純明快な計略ではありますが実に効果的。私自身、もっと早く気付くべきだったと恥じています」


「だからそれはアンタの―」


「それにロシャーヌは既に自分で認めています。私が皆さんにお伝えしたのは本人の口から語られた内容です。残念ですが、これが真実なのですよ」


「嘘・・・だろ・・・?」


 彼の言葉に全身の力が抜けてしまう。

 彼は目を瞑り静かに首を横に振る。その姿を見て、これが真実なのだと痛感してしまった。

 最早一人で立つことすら間々ならぬ大和を要は支え、大和の身を案じていた。


「そうでしたか・・・。それではファリアさんに直接お話を伺いたいのですが、会わせてもらえませんか?」


「申し訳ありませんがそれは出来ません。仮にロシャーヌに皆さんを会わせたとなれば私が罪人となってしまいます。ライオネル国法で定められた規定ですから、私にはどうすることもできません」


 やはりそうくるかと納得する。ライオネル国法もある程度は覚えていた朗は駄目元で頼んだのだが、相手は衛兵を指揮する側の人間。国法も知っていて当然の相手だったため、これ以上の詮索は不可能と判断し、会話を終わらせようとした。


 彼は全ての話しが終えるとみると、心身の疲れを労い、宿泊部屋を貸すと提案してきた。

 しかし、朗は彼の提案に首を横に振り、きっぱりと言い放つ。


「ご好意には感謝しますがお断りします。大和も屋敷から逸早く出たいでしょうから今日は自分達の宿泊している宿へと戻る事にします」

 

 滅多に見せない不機嫌な声色。

 相手に悟られぬよう試みるが、それでも隠しきれない苛立ち。

 付き合いの長い大和と要であればその異変に直ぐ気付くのだが、現状が現状であるため二人が朗の異変に気づくことはなかった。


「そうですか。わかりました。宿までは馬車を手配させますので暫しお待ちいただけますか?」


「いえ、夜風に当たるのも気を落ち着けるのには良いと思いますので、ご遠慮させていただきますよ」


 そう言って朗は踵を返す。要も大和に肩を貸しながら朗の後を付いていった。


「それではお気を付けて」


 彼の最後の言葉を聞きながらも、返事をせずに歩みも止めない。

 彼は笑顔で三人を見送る。その笑顔に何が含まれているのか、それを知るのは彼のみだった。






 夜風を浴びながら三人はゆっくりと歩いている。

 大和は落ち着き一人で歩けるようになっていた。

 だが、三人の周りの空気は淀んでいて、重苦しい雰囲気が漂っている。

 そんな中、頃合を見計らっていた朗が大和に対して声を掛ける。


「大和、さっきの話しだけどさ、あれは嘘だよ」


「・・・は?」


 朗の第一声に動きが止まった。

 ファリアを信じたい気持ちと、裏切られたのかという想いが胸の中でせめぎ合っている最中の言葉に顔を顰める。


「話して思った。あの人は何かを隠してる。それも人には言えない何かを、ね」


「・・・本当か?」


「うん。僕がそんな冗談を言ったことがあるかな?」


「・・・ないけど、あいつはファリアさんが自分で話したって」


 ショックから完全には立ち直っていない大和は彼の言葉を鵜呑みにしていた。

 だがそれ以上にファリアの最後の言葉が忘れられなかった。

 ファリアは諦めの表情で自分を庇う必要はないと言った。その言葉があったからこそ、あの男の話した内容は真実味が増す。


「ねぇ大和。あの人と僕と、どっちが信じれる?」


 その言葉にはっと顔を上げ朗を見る。

 自信に溢れている朗を見て大和は自嘲気味に心の中で呟く。

 ―俺は・・・何を悩んでいるんだろう―

 頼れる親友があの男の言葉は嘘だと言い切った。自分とは違い、朗には何かが見えているはず。

 朗の言葉に希望が見え、自然と頬が緩んでしまった。


「そんなの決まってるさ。答える必要なんてねぇだろ?」


 ニヤリと笑う大和を見て、朗も口元を吊り上げる。

 互いの信頼感からいつもの空気が辺りに漂うと、朗は今後の予定を話し始めた。


「確信はまだないけどね。だから確信を得るためにこれからお城に向かおうと思うんだけど」


 大和と要はコクリと頷き、三人は城へと足早に向かったのだ。






 既に夜は更けており、城門は硬く閉ざされている。

 門の前には昨日と同じ門番が立っていて、朗の顔を見るなり敬礼する。

 苦笑しながらも中に用があるので城門を開けて欲しいと頼むとさすがに渋い顔をされ、時間外に開門は出来ませんと断られてしまった。

 どうにかして中へ入りたいと話すと、彼は兵士などが使う裏口に案内してくれた。


「このまま道なりに進んでもらえれば正門に辿り着きます。

・・・本来であればこの時間に中へ案内するのは禁則事項になりますので内緒にして下さいね?」


 おどおど話す彼に頷き、正門へと向かう。

 三人が中へ居る段階で彼が案内したことは明白であるため、内緒にする必要性は皆無なのだ。

 彼が上司に叱られる未来を予想して苦笑し、心の中で謝りながら進んでいった。


 受付が見えてくると、またもや昨日と同じ女性兵士が椅子に座っていた。

 この世界の勤務は交代制じゃないのだろうか?と本気で考えていると彼女は三人の訪問に気付き、驚いた表情をしていた。

 遅い時間ではあるがアルディスの謁見の許可を貰うため口を開こうとしたとき、先に彼女が口を開いた。


「驚きました。本当にこちらにいらっしゃるとは・・・」


 何のことか分からない三人は首を傾げ、代表して朗がどういう意味かを尋ねる。

 彼女はあっ、と小さく言葉を漏らし、事情を説明した。


「陛下からご通達があったのです。皆さんがご来訪されましたら案内せよと。

それでは陛下の元へご案内しますね」


 そうして彼女は席から立ち、足早に進んでいく。

 朗はまさか、と思いながら彼女の後ろを黙って付いていった。






「やっと来たか」


 アルディスは王座に座りながら、いつものふざけた態度は一切捨て、王らしい表情で佇んでいた。

 アルディスの態度と言葉を聞き、既に事情を知っていると判断した朗は早速疑問を確信に変えるための質問を投げ掛けようとした。

 だが、アルディスはそれを制止、先に自分の思いを三人に告げる。


「お主らがここに来た理由は分かっておる。して、どうするつもりだ?」


「話しが早くて助かります。どうするつもりと?決まっています」


 そして朗は大和と要を見る。

 二人は静かに頷き、その姿を見た朗はニッコリ笑う。


「徹底的に―「「「叩き潰す!!!」」」


 見事な三重奏を聴いたアルディスは目を丸くした。

 しかし、直ぐに厳しい顔つきを戻し、静かに、冷静に口を開く。


「出来ると思っているのか?一筋縄でいく相手ではないのだぞ?」


 アルディスは相手の強大さを知っているが故に否定的な感情をぶつける。

 朗は目を瞑りながら首を振り、然も当然のようにアルディスに思いを伝える。


「陛下。可能、不可能の問題ではないのですよ。やるかやらないか。それだけのことです」


「よくいるんだよなぁ。てめぇは何をしてもいいって思ってる奴。胸糞わりぃぜ」


「・・・ファリアさんは最後まで俺の心配をしてくれた。俺を庇ってくれた。

・・・そんな人が悪い人な訳がねぇ!ファリアさんはあいつらに騙されてるんだ。だから俺は・・・ファリアさんを助けたい!」


 三人の想いを聞き、アルディスは目を瞑る。

 ライオネル王国の国王である以上、確実に止めねばならぬ問題。

 アルディスは彼らの覚悟を知るために最後の質問を投げ掛けた。


「命に関わる問題だぞ?ロシャーヌのではない。お主らの命だ」


 若干の脅しも含めた物言いにも物怖じせず、三人はきっぱり言い放つ。


「上等だぜ、俺はマジでムカついてんだよ。全員病院送りにしてやらぁ」


「僕は謀に掛けられたまま大人しく引き下がるほど大人じゃありませんから。相手が悪かったと、後悔してもらわないといけませんね」


「ファリアさんが捕まったのは俺たちのせいなんだろ?だったら・・・俺たちは俺たちなりのケジメをつけるだけさ」


 三人の想いを一身に受けアルディスは頷く。

 無謀とも思える三人の決意に昔の血が騒ぎ、くつくつと笑い始めた。

 アルディスも覚悟を決め、決着をつけるための作戦を立てるため準備を始めることにした。


「場所を変えようかの。ついて参れ」


 彼らの夜は始まったばかりだ。



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